Evergreen

和栗

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「おれ、飯作るよ」
「え?あぁ、大丈夫だよ。おれのほうが時間あるし」
「いや、でも、作りたいから・・・洗濯とかもするし、掃除も、」
「涼くん、2人でやろう」
「え、」
「2人でやったほうが早いし、楽しいじゃん。あとは臨機応変にやろう」
この家に転がり込んで初めて話したのは、家事の話。
にこっと笑った和多流くんに、少しだけ泣きそうになった。

************


前に付き合っていた人にフラれて半年、ずっと友達だった和多流くんと付き合うことになった。
おれが住んでいた部屋は和多流くんの家から遠く、契約更新の日も近かったので、なんとなく同棲することになって、今日引っ越しが終わった。
といっても、少ない荷物を運びこんだだけだから、荷解きが残ってるんだけど。
前の人にフラれた理由は、おれが重かったから。
おれの気持ちが重すぎて嫌われてしまった。でもこれは今に始まったことじゃなかったし、あー、またかーって感じだった。
何があっても許しちゃうし、文句言わないし、わがままも言わないから、相手が飽きるのは当たり前だった。
おれは周りから見たらダメンズ製造機らしくて、それでよくゲイバーのママやら友達なんかにたしなめられていた。
でも、仕方ないじゃないか。ほかにどうやって恋愛をすればいいのか分からない。
和多流くんはおれの過去の恋愛や恋愛観を知っている人なので、付き合うときにまず先に、遠慮しないでねと言ってくれた。
が、しかし。いきなり性格を変えられるわけもなく、ついついあぁやって言ってしまうわけだ。
「今日はさ、ピザ頼もう。おれチーズたっぷりが好きなんだけど、涼くんは和風のが好きって言ってたよねハーフでいいかな」
「・・・よく覚えてるね。ピザの話なんてそんないっぱいしてないのに」
「ん?うん。人の話を聞くのは好きだし、そういうことに関しての記憶力はいい方なんだ」
和多流くんはすごい。
いつもニコニコして話を聞いてくれるし、怒った姿なんて見たことない。
前に酔っ払いにビールをかけられた時もおれの心配をしてくれたし(若干かかったけど和多流くんに比べたら全然)、嫌味を言われても、はいはいってかわして終わっちゃうし。
おれだったら絶対怒ってることで、まったく怒らない人だった。
大人だなぁって、毎度感心していた。
タブレットを開いてピザを注文して、届くまで荷解きをした。
「本当にこの部屋使っていいの?」
「うん、もちろん。空いてるのこの部屋だけだし」
「・・・そっか」
この部屋、前に住んでる人いたのかな。
気になるけど聞けなかった。うざがられたら怖いし。
黙って荷物を出していると、見慣れないスウェットが出てきた。
げ、元カレのかな。
「あ、やっと見つけてくれた」
「え?」
「プレゼント。ほら、くつろぐときの服って大事じゃない?涼くん、基本的にずっとスーツ着たままでしょ。面倒くさがって」
「あ、うん・・・」
「だからね、ここではそれを着てほしいなって。引っ越し祝いだよ」
「・・・ありがとう。・・・・あ、き、着るね」
あっぶねぇ・・・お揃い?って聞こうとしちゃった。
おれは結構ベタなことが好きなのだ。
恥ずかしいから言ったことはないけど、ペアのマグカップだってお皿だってすっげーあこがれてる。気持ち悪いって言われたらいやだから、元カレとかにも言ったことないけど。
「あのね、涼くん」
「何?」
「夜のことなんだけど」
バクっと心臓が跳ねる。ベッド、一応、自分のも持ってきたけど、そういえば、どうするんだろう。
「おれ仕事でどうしても完徹の時とかあるから、気にしないで先に寝てね。たまに叫ぶときとかあるかもしれないけど・・・」
「・・・・・あ、あ、!うん!え、さ、叫ぶの?」
あっぶねぇ・・!そっちだったか・・・。
でも、叫ぶってなんだろう。
うまくいかない時とか、かな。意外だな。
「お客さんからいきなり指示変更が入ってきて、それが納期ギリギリの時とか叫ぶかも」
「・・・えー、ちょっと見てみたいかも。おれも叫ぶかもしれないけど」
「あ、涼くんの仕事部屋か・・・ごめん、おれの仕事部屋一緒に使う?」
「ううん。おれここで十分。だって広いもん。それに、おれ、先輩と違って人気講師とかじゃないから、やることも少ないんだ」
「あぁ、いつも話してた人?」
成瀬先輩はめちゃくちゃ仕事ができる。生徒に慕われてるし、同じ講師たちにも一目置かれてるし、そりゃ、最初はめっちゃ怖かったし厳しかったけど、今じゃおれの目標だ。同期が2人いたけど、成瀬先輩が怖くてすぐ辞めていった。
「うん。おれのあこがれなんだ。掛け持ちしないでずーっと今のところにいるんだって。あ、前はそりゃしてたみたいだけど、ヘッドハンティングされて今のところにきて・・・一回テレビのオファーも来たんだ!でも断ってたけど、それもまたかっこよくて、」
「そっか。はい、これ」
話をさえぎられて、箱に残った服を渡される。
やっぱ、仕事の話って好きじゃないのかな。
受け取ってラックにしまう。
反省していると、ぐいっと肩を寄せられた。
「わぁ、」
「来るまで少し、キスしててもいい?」
「え!?あ、あ、」
「ダメかな」
がっしりした体に抱きかかえられ、顔が寄せられる。
どうしよう、全然タイプじゃないのに、すっげー、かっこいい・・・。この前まで、友達だったのに、もう、すっげー好き、かも・・・。
おれって惚れっぽいなぁって、つくづく思った。
「初めてキスするのは、おれの家がいいなって思ってたんだ」
「・・・う、うん・・」
「他のことはしないから、いい?」
優しく手を握られる。断る理由なんてどこにもなかったので、目を閉じた。


************


家出をしたのは、一緒に暮らし始めて3か月くらいたったころ。
和多流くんが優しすぎたのと、ずっとずっと言いたいことを言わないで我慢していたら苦しくなった。
こんなこと初めてだった。
「涼くんいつまでいるの?」
いとこの直哉がおれを見た。
サッカーの練習の後とおれの仕事終わりが大体一緒なので、受験勉強に付き合っている。といっても、担当科目しか教えられないけど。
「え・・・ごめん、迷惑かな」
「いや、違う。いきなり家帰るって言われたら勉強、聞けないじゃん」
「あ、そういうことか」
「和泉のも見てやってよ」
「うん、見てるよ。に、してもあの子、すっげー美人になったなー。びっくりした」
「やらねーよ」
「いらねーよ」
バシッと頭をたたいてやる。
直哉のお父さん(おれから見たらおじさん)は、とある親子と再婚した。
だが、親族は大反対したらしい。再婚相手の子供が、ぱっと見は普通の男の子だったが気持ちは女の子だったから。
おじさんはほぼ駆け落ち状態で再婚して、今に至る。
おれはもうその時家を出ていたので、久々に直哉に連絡をした時にその話を聞いてびっくりした。
そしてついでに、戸籍上は義理の弟にあたる和泉に一目惚れしたと聞かされた。
おれはすでに直哉にゲイバレしていたので、言いやすかったのだろう。
「ほんっと面食いだよね、お前」
「いやー、めっちゃ可愛いじゃん」
「他のやつに取られる前に、さっさと掻っ攫っとけよ」
「涼くんも気をつけなよ。彼氏、他に男作ってたらどーすんの」
少し、そんな予感がした。
だって、和多流くんはモテるから。
ガッチりした体格に、柔らかな表情、穏やかな性格。
声も、生活音も、全てが、優しい。
おれなんか、釣り合ってない。そう思うのに自分から手放すことが出来ない。
手放したら、全部終わってしまうから。
「そうなったら、身を引くよ」
心にもないことを言ってつい、大人ぶってしまう。
右手が、じん、と痺れた。
「大人の恋愛って、子供の恋愛より難しいんだな」
「そりゃ、そうだろ。いろんな可能性が見えてきちゃうからさ。それに、傷つくのが怖いんだ」
「・・・そっかぁ」
「・・・ウダウダしてるとみーんな、離れて行っちゃうから、しっかりやれよ」
「・・・うん」
思い詰めた顔をして、直哉は頷いた。



******************



あー・・・自己嫌悪・・・。
無機質な扉の前で、鞄を強く握りしめる。
自分の心が弱ってるからって、自分と同じような人はいないかなって探して、つい、深入りしようとした。
よりによって、成瀬さんに。
前から思っていたが、まさか本当に彼氏がいるなんて思わなかった。絶対にはぐらかされると思ったのに。
でも、包み隠さず話してくれた。それがすごく嬉しくて、安心させた。
全然タイプじゃないけど、ちょっとグラついた。
こんな自分が嫌いで逃げ出したのに、帰ってきてしまった。和多流くんは、どう思うだろう。
鍵、かわってないといいな・・・。
和多流くん、1人だといいな・・・。
おれのこと、待っていてくれたら・・・。
すっごい調子と都合のいいこと考えちゃってるけどさ・・・。
「涼くん?」
顔を上げると、コンビニの袋を持った和多流くんが立っていた。小走りで近づいてくると、肩を掴んで体を何度も見てから顔を見た。
「怪我とか、ないよね?」
「・・・え、あ、うんっ。ない、」
「・・・よかった。心配した・・・。よかったぁ・・・」
本当に安心したように、和多流くんは大きな手で顔を覆った。
胸がキツく締め付けられる。
どうして、怒らないの。勝手に出ていって、連絡も無視して、勝手に帰ってきたのに。
「ほら、中入ろう」
「・・・入っていいの?」
「どうしてそんなこと聞くの。涼くんの家だよ?」
「違うよ。ここは、和多流くんの家だよ」
「そっか」
あ。
かわされた。
和多流くんに、初めて、かわされた。
右手が、痛い。痛い。痛い!
「わた、」
「ご飯食べた?」
「・・・食べてない、」
「じゃぁ、食べよう。カレーなんだ。好きだよね」
「・・・うん」
なにも、言えなかった。
怖かった。
怒らないのって、怒っていいんだって、怒られたくて言ったんだって、言いたいのに、言えなかった。
優しさが苦しくて、辛くて、胸が痛い。
どうして、何も聞いてこないんだろう。
おれのこと、本当は、どう思ってるの。
聞けばいいのに、答えが怖くて聞けなかった。
この日はなぁなぁで終わってしまって、それからずっと、何となくお互いに気を遣った日々を過ごした。
当たり障りのない会話。生活。
窮屈ではないけど、気が張っている。
でも、一度だけ成瀬さんたちカップルに会った。
彼氏だと紹介した日、和多流くんは嬉しそうだった。
少しだけ、わだかまりが解けた気がした。
だけど、また別の問題が浮上する。
和多流くんはおれを抱かなかった。付き合ってから一度も。
それがまた、おれの心を締め付けて、虚しくさせた。振り出しに戻る、だ。
和多流くんは、同情でおれをここに呼んでくれたんだろうと思い始めた頃、それならそれで、もう、いいやと思った。
別れることになっても、もう会えなくなっても、同情で一緒にいてくれるよりマシだった。
もらったスウェットを着て部屋を出る。
キッチンでコーヒーを入れて仕事部屋のドアをそっと開けると、パソコンを見つめる和多流くんがいた。
「あ、あの・・・」
「へっ!?あ、わ、」
ばたん、とノートパソコンを閉じた。
あ・・・おれに、見られたくないこと、してた。
いつもはこんなことしないのに。
「ごめん。起こしちゃった?」
「・・・起きてた」
「そっか。あ、コーヒー?ありがとう」
「・・・話し、しよう」
そう言うと、パリッと空気が変わった。
和多流くんの顔が無表情になる。
あ、終わる。全部。
終わるなら、話してから、終わろう。
「おれ、」
「好きな人でもできた?」
「え?」
「成瀬さん?でも、シロくんがいるよ?」
「・・・違う。成瀬先輩は、成瀬さんはそういう人じゃない。おれは、・・・おれ、」
「何?」
あ、怖い。
こんな和多流くん、知らない。
冷たい空気、低く、暗い声。
おれをまっすぐ見つめる表情。
ぼたぼたと、涙が溢れた。
「なんで、何も聞いてこないの」
「何の話?」
「おれが、家を出ても何も言わない。おれが、どこにいたのかも聞かないのは、なんでよ。なんでだよ」
「・・・」
「おれのこと、どう、思ってんの・・・何で、抱かないの・・・!どうして、成瀬さんが出てくんの・・・!おれは、和多流くんが、・・・和多流くんと、いるのに、」
「・・・ごめん。怖がらせてごめん。ちゃんと話そう。ごめんね」
「なんで、おれのこと、!」
ごとん、と音がした時、コーヒーが溢れた。
それと同時に、熱い体に抱きしめられていた。


******************


自分のことを話さないのに、和多流くんに話してほしいなんておかしな話だった。
でも、何をどう話したらいいのかも分からない。こんなふうに話を聞きたいとも、聞いてほしいとも、思ったことが初めてだから。
ダイニングに移動して改めてコーヒーを飲む。
「落ち着いた?」
黙って頷く。
優しい表情は、いつもの和多流くんだった。
「・・・不安にさせてごめんね」
「・・・あ、ううん。いい・・・。おれもごめん・・・」
少し沈黙したあと、和多流くんは言葉を選びながら言った。
「・・・昔から、涼くんは、すごく聞き分けがいい子だなって思ったんだ」
「・・・うん」
「・・・あはは、何を話したらいいか分からないや。でも、あぁやって言うってことは、おれが当たり障りのないことしか喋ってないのが分かってるからだよね。話していくね」
「・・おれも、そうだったから・・・ちゃんと、話す」
「うん。・・・初めて会った時にね、今言ったようなことを思ったんだ。相手の気分を害さないように、嫌われないようにしているんだなぁって。で、あぁ、もったいないなぁって思った」
「・・・ん」
「ステキな子なのに、どうして誰も気づかないのかなって」
カッと顔が熱くなる。
誤魔化すようにコーヒーを飲んだ。
「涼くんは尽くしてないと気が済まない子っていうのも、すぐ分かったよ。別れたくなくて、必死に尽くすのかなって・・・だからね、ここで一緒に暮らす時に家のことは2人でやろうって言ったんだ」
「・・・おれは、」
「きっと、戸惑っているだろうなと思ったけど、どうしても2人でやりたかった。2人で、築き上げて行きたかったんだ」
「・・・知らなかった。自分の部屋だから、自分でやりたいのかと、思ってた」
「違うよ。前も言いたかったけど、ここは2人の家だよ」
「・・・うん、」
「・・・えっと・・・何も聞かなかったのは、聞かれたら嫌かなって思ったんだ。涼くん、自分のこと、結構閉ざすから・・・嫌かなって。本当は聞きたかったよ。出ていった時心配したし、正直、寝られなかった」
「え!?あ、ご、ごめんなさい・・・」
「どうして、自分のこと低く見積もるのかなぁ・・・って、思ってたんだ」
「低く、」
「おれが心配してないと思ってたでしょ」
「・・・ぶっちゃけ、他に、男、できたかもって・・・」
「そんなわけないでしょ。おれがどれだけ涼くんを好きか、分からせてあげようか」
真っ直ぐ目を見つめ、しっかりした声で言われて、ボッと体が熱くなる。
成瀬さんに言われた、ずっと片想いをしてたらしい、という言葉を思い出した。
まさか、と思ったけど、まさかのことも、あるのかもしれない。
カップを持つ手に力が入った。
「涼くん、ついでに言うけど、正直、成瀬さんの話をされるのがたまらなく嫌だった」
「え!?どうして?!」
「どうしてって・・・そりゃそうでしょ。他の男のこと褒めて、キラキラした目で語られたら、妬くよ」
「え、え、・・・何で妬くの?だって、」
「妬くよ。好きだから」
「すっ!?あ、は、はいっ、ごめん、なさい・・・でも、成瀬さんは、」
「分かってるよ。本人にお会いして、いい人だったし、シロくんの恋人だっていうのも知ったし。でも、ムカついてた。がっかりした?これが、涼くんが知りたがったおれだよ」
「・・・や、ヤキモチ、妬かれたの、初めてで・・・。て、いうか、おれなんて、」
「そうやって自分のこと卑下するの、やめてよ」
強く言われて、体が少し跳ねる。
本当に少しだけ、怒った顔をしていた。
こんな顔、初めて見た。
「・・・ごめん、」
「涼くんは可愛いし、賢いし、ちょっと抜けてて危なっかしくて、守ってあげたくて、そばにいたくて・・・おれのことを惹きつけてやまない人なんだよ。分かってほしい」
「・・・う、うん・・・」
こんなふうに、気持ちをぶつけられたことは、今までにあっただろうか。
ストレートな言葉に体がふわふわと浮き上がり、ずっと、この言葉たちの中で生きていきたいとさえ思った。
心臓がバクバク音を立てている。
「・・・さっき、本当に別れ話されるかと思って怖かったな。まだドキドキしてる」
「・・・違うよ。別れ話じゃなくて・・・あ、ん、と・・・」
「ゆっくりでいいよ」
「・・・おれ、和多流くんと、ずっと友達だったから、結構、色々話したんだけど・・・」
「うん、そうだね。うさぎが好きとか」
「ちょ、からかわないでよ。好きだけどさ・・・。まだ話してないことたくさん、あって、それも、なんか、元カレとかにも話したことないから、まとめ方とか分からないから、すっごい長くなるんだけど、話していい・・・?」
「うん。聞きたかった、ずっと」
「え?」
「全部、聞きたかった」
「・・・嫌いになるかも」
「ならないよ」
「・・・重いかも」
「重いの?じゃぁ、おれの方が重いよ。だって、ずーっと、知りたいなって思って話聞いてたんだから」
泣きそうになりながら、本当は右利きだったこと、初めて付き合った人に突き飛ばされて腕が壊れたこと、それがきっかけでゲイだとバレたこと、親に勘当同然で家を出されたこと、冷めた気持ちのまま過ごしていた頃に和多流くんと出会ったこと、今まで話したことがなかったことを、全て話した。
和多流くんは黙って聞いてくれて、嗚咽を漏らして泣き始める頃にようやく、「全部聞けてよかった」と笑った。
「いつもね、外で会って帰る頃にいっぱい話せてスッキリしたーって言うのに、寂しそうっていうか、苦しそうな顔することがあって・・・気になってたんだ、ずっと。でも、話しづらいこととかあるから聞けなくてね。それに、友達だったから」
「・・・ありがと、聞いてくれて・・・」
「他にもある?なんか、言いたいこと」
「・・・引かないでね」
「うん」
「・・・お、お揃いとか、すっごい憧れてる・・・」
和多流くんの目が見開かれた。
すぐに吹き出して笑うと、テーブルに突っ伏した。
「わ、笑わないでよ・・・!」
「ごめん、可愛すぎて・・・!やばっ、ほんっと可愛い・・・!」
「・・・結構、くっついてたいタイプだから、ウザイかもしれない・・・あと、その・・・夜、も、結構、すんの、好き・・・」
「はぁ、・・・それ、元カレには言ったことあるの?」
「ないよ!ウザイじゃん!嫌われたく、なかったし・・・!」
「おれには嫌われていいの?」
「えっ・・・だって、嫌いにならないって、」
あれ、やば、話しすぎた・・・?
不安になると、ぎゅっと手を握られた。
「ならないよ。もっと好きになった」
「・・・びっくりした」
「ちょっといじめたくなった」
「・・・嫌われたくなかったのも、あるんだけど・・・言ったところでなんも変わらないと思ってたかも・・・。てか、そもそも聞いてくれるかどうかも怪しいし・・・話す以前の問題だったかもしれない。和多流くんは、聞いてくれるって思って・・・」
「うん。聞きたいよ。他にはある?」
「・・・一緒に寝たい」
「うん」
「たまには、お風呂とか、」
「うん」
「・・・嫌じゃない?」
「どうして?おれがずーっとしたかったこと、言ってくれてるのに」
「え!?でも、夜とか、何も言ってこないし、すっごい淡白なんだと思ってた」
「あー・・・いや、むしろ逆なんだよね。ちょっと、言えなくてさ・・・変に気負って頑張って欲しくなくて」
「えぇー・・・知らなかった。そういえば、バーとかでも他の人から聞いたことなかったかも。和多流くんの好みとか」
「うん、口止めしてたからね」
「な、なんで?」
「えー・・・それ聞く?」
困った顔をした和多流くんを初めて見た。
なんか、今日は初めてが多い。
難しい顔をしたり、困った顔に戻ったり、天井を仰いで唸ったり、少し忙しかった。
「そこまで鈍感かー・・・」
「おれのこと?鈍感かなぁ・・・」
「うん。まぁ、だからおれは長ーい間片想いをしてたんだけどね」
う、わぁ・・・!マジか・・・!
まさかのまさかのまさかだった・・・!
本当だったんだ。
先ほどよりも体が熱くなって、頭がくらくらした。
どうしよう、何て答えるのが正解なんだろう。今までこんなふうに求められたこともないし、告白されたのだって初めてだった。
本当にどうしたらいいのか分からない。
「変に他の人から話を聞いて、先入観持たれたくなかったんだ」
「そ、そう・・・なの・・・」
「それにさ、怖がらせたくないなーって・・・。涼くんの好みも分からなかったし」
「・・・あの、いつから、好きだったの・・・」
「・・・ゔーん」
「え!?悩むの?」
「・・・いや、これは内緒にしておきたい」
「なんで?」
「また今度ね」
「・・・ズルい」
「多分引くよ」
「そんな前から?」
「秘密」
「ケチ!」
2人で笑った。
久々に、心から笑ってる。
こんなおれのこと、ずーっと好きでいてくれたんだな。
なんで気づかなかったのかな。
「あ・・・その、夜のことなんだけど」
「え、あ、はい!」
「はっきり言うと、おれ絶倫なんだけど大丈夫?」
ぜつ・・・?
え・・・?
そんな人、本当にいるの・・・?
「えっと、分かんない・・・」
「だよね・・・。んー・・・」
「あ、が、頑張るっていうか、おれ結構したい方だし・・・でも、あの・・・」
あ、やばい。
ちょっと、勃ちそう。
絶倫って・・・結構長いことするってことだよね。
ずーっと、くっついたまま、おれと、ずっと・・・。
「大丈夫そうかなぁ・・・その顔だと」
「うえっ!?か、顔!?」
「すっごく可愛い顔、してたよ」
「え!?うそだ!」
「嘘じゃない。・・・すっげー楽しみ・・・」
今まで見たことないくらい、やらしい笑顔だった。
もうダメだ、耐えきれない。ここから飛び出して部屋に入って、毛布にくるまりたい。
恥ずかしい。
「怖かったら、もちろんやめるから・・・」
「う、うんっ・・・」
「・・・あー・・・もう、どうしよう。嬉しすぎて死ねる」
「・・・ありがとう」
「え?」
「そ、そんなこと、言われたことなかったから・・・。今まで付き合ってた人ってちょっと冷たい感じの人が多くて、セックスとかもそこまでしなかったから・・・」
「そうなんだ。じゃぁ、これからおれとたくさんしよう」
指を絡めて、爪を撫でてくる。
甘く痺れて、動かせなかった。
あんなに痛かったはずの腕も、手も、もう、痛くない。
「おれに話してくれて、本当にありがとう」
「和多流くんのこと、知りたくて・・・おれも、話したくて・・・知ってもらいたくて、」
「知れて嬉しい。本当に、嬉しいよ。抱きしめていい?」
「・・・抱きしめて、離さないで」
小さくつぶやくと、ぐいっと引っ張られた。
テーブルに乗り上げて、引きずられるように和多流くんの元へ落ちる。
分厚い胸板に抱き止められ、心臓が止まるかと思った。
あ、やばい。おれ、勃ってんのに。
足を閉じたいのに、ぐっとお尻ごと掴まれて、離してくれなかった。
ぐりぐりと腰を押しつけられる。和多流くんもしっかり勃ち上がっていた。
「んっ、」
「可愛い・・・ずっと、こうしたかったよ」
「あ、あの、腰が、」
「今日はしないよ。大丈夫」
「・・・が、我慢強い方・・・?」
「うん。そうかもね」
「・・・ごめん、おれ、無理かも・・・トイレに、」
「ん?どうして?」
背中に手が滑り込んできた。
腰を反って反応してしまう。
慌てて体を離すけど、お尻にある手は力が緩むことはなく、更に力が加わった。
「わ、」
「涼くんの可愛い顔が見たい」
「ちょ、ちょっ、電気!場所!」
「え?あー・・・だめかな」
「おおおお、おれ!ベタな方が好きで!初めての時はちゃんと体綺麗にしてベッドで、」
「あー、もう。可愛い。ベタなの好きなんだ。おれも好きだよ」
「じゃぁ、ここじゃなくて、」
「我慢なんかできないよ?」
「今さっき我慢強いって、」
「自分は我慢できるけど、涼くんの我慢はさせたくないんだよなー・・・」
「こ、ここじゃ嫌だ!明るいし、ご飯食べる場所じゃん!」
つい叫ぶと、しー、と唇に指を当てられた。
それだけで、鳥肌が立つ。
切長の目に、じっと見つめられて、体が動かなくなった。
どちらかと言うと、薄い顔立ちがタイプだったのに、和多流くんは正反対。
しっかりしてて、若干濃いめの顔立ち。
好きになると、タイプってどうでも良くなるのかもしれない。
首筋に指が這う。
汗ばんだ肌に、熱い指が流れるように触れるだけで、感じてしまう。
「うんっ、」
「どっちの部屋がいい?」
「あ、や、」
「涼くんの部屋がいい?」
「うー・・・!」
「それとも、」
「2人の部屋がいい!」
「・・・じゃぁ、行こうか?」
和多流くんの目が、ぎらりと光る。
抱き抱えられ、和多流くんの寝室に向かっていく。
電気を緩いオレンジ色に変えると、そっとベッドに倒された。
布の擦れる音も、和多流くんの息遣いも、全部、大きく聞こえる。
「わ、和多流くん、」
「見せて」
「う、あっ、」
「涼くんの全てを見せて」
「和多流くんもっ、見せて・・・!」
「うん」
シャツを脱いで、床に落とす。
心臓が痛い。




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