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いたいのいたいのとんでいけ
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「うわぁ、」
階段を上っていたら情けない声が出て、そのまま背中から落ちそうになった。すんでのところで手すりに手をついた時、がしっと腕を掴まれた。前を歩いていた真喜雄だった。
ずるっと一段足が落ちて、ビンッと引っ張られる感触。びりびりとしびれた。
「ごめん、大丈夫か」
「だ、大丈夫大丈夫」
体勢を整えて足を上げようとしたとき、痛みが走った。つい顔を歪めると、いきなり背負われた。
「わぁあ!」
「ごめん、足痛めたよな」
「大丈夫だよ、わ、わ、」
おんぶされることなんて中々ないので、少し怖かった。改札のそばのベンチに腰を下ろすと、靴も靴下も脱がされて冷却スプレーをかけ、テーピングをぐるぐるに巻かれた。
「ごめん、鞄当たったの気づいて振り返ったら・・」
「混んでいたから仕方ないよ。僕もぼんやり歩いていたし。真喜雄が落ちなくてよかった」
「・・病院行こう」
「ゆっくり歩けば大丈夫だよ。あまり痛くないし、テーピングしてくれたからすごく楽だし。とりあえず保健室行って氷嚢とかも借りてくるよ」
「・・・ごめんな」
落ち込んでしまったようだった。何度も大丈夫を繰り返しても、しゅんとしていた。
のろのろ歩いて学校へ着くと、もうサッカー部の朝練が始まっていた。真喜雄は顧問に事情を説明して、部室から松葉づえを持ってきた。何であんなものが部室にあるんだろうか。
「ありがとう」
「保健室行こう」
「1人で大丈夫だよ。早く部活行って。教室で見てるから」
「・・・ん」
「本当に痛くないよ。テーピングありがとう」
「・・・なんかあったら、言ってな」
「うん。練習頑張って」
名残惜しそうに何度も振り返りながら、真喜雄は部室へ入って行った。慣れない松葉づえをついて保健室へ行くとすでに先生がいて診てくれた。腫れたら病院へと言われ、氷嚢をバンドで止めて終わり。教室へ入る時、カバンを担いだ宮田くんがやってきて驚いた顔をした。
「どうしたの?」
「階段踏み外しちゃって」
「わぁ、大丈夫?病院行った方がいいよ」
「うん。腫れてきたら行くよ。成瀬くんがテーピングがっちりしてくれたから平気だと思うんだけど」
宮田くんの顔がぼわっと赤くなり、恥ずかしそうに目を逸らした。
僕が真喜雄と付き合っているのを知っているので、僕から真喜雄の名前が出るとなんとなく恥ずかしいのだそうだ。照れたように頭をかくと、気を付けてねと言ってくれた。教室に入って窓際の席でぼんやりとグラウンドを
見る。元気だなぁと思った。
************
選択美術の時間、席に着いた途端真喜雄は突っ伏した。
「寝るの?」
「・・・」
「・・・おやすみ」
「・・・落ち込んでる」
突然言うもんだから、笑いそうになってしまった。落ち込んでる、なんて可愛いことを言うなんて。
小声で慰める。
「真喜雄のせいじゃないよ。混んでたからだよ。他の人じゃなくてよかったじゃないか」
「・・・うん。でも透吾が、」
「僕運動部じゃないし、家と塾と学校の往復だけだもん。家の中じゃ動かないし」
「・・・おれの怪我が、全部透吾にいってる気がする・・・」
「え?そう?僕昔から怪我が多い方だったからそんな風に考えたことなかったな。言ってないけど、僕、両腕骨折とかしてるからね」
「・・・・え、なんで?」
「小さなころに鉄棒に足だけでぶら下がっててそのまま落ちちゃって、両腕がぼきって。あと小学生のころ体育の授業でハンドボールやって突き指したと思ったら骨折だったり、自転車こいでてどぶにはまって一回転して背中か落ちたり、ほら、1年のころなんて自転車で転んで膝打って体育を見学したりさ。結構いろいろやってるから捻挫くらい別に・・本当に大丈夫なんだよ」
「・・・ご、ごめ、」
ぶはっと吹きだして、ぶるぶる肩を震わせて笑い始めた。うずくまってお腹を押さえている。
ひーひー言いながら僕を見る と、予想外だったと言われた。
「ごめん、両腕骨折が、ちょっと、」
「面白いよね。母親も父親も笑ってたけど折れてるって知って顔が青くなってたよ。本当に包帯ぐるぐる巻きにされたんだよ。今度写真見る?」
「ちょ、ほんと、やめろ・・・笑いが、」
「あとは、」
「やめろって、マジで、」
目に涙を浮かべながら、顔をくしゃくしゃにして笑った。周りの生徒が驚くくらいの笑顔。普段無表情だから余計注目を浴びている。ちょっと嫉妬しちゃうけど、元気になったならいいや。
「僕、自然治癒能力高いからすぐ治るよ」
「分かったから、もう分かったからら、」
「ちなみに澄人も同じようなことして怪我してる」
完全にツボにはまったようで、真喜雄はずっと笑いっぱなしだった。更にひーひー言いながら時折僕を見てまた笑う。落ち着いたかなと思ったら笑い疲れて眠っていた。子供みたいで、今度は僕が笑うのを堪える番だった。
階段を上っていたら情けない声が出て、そのまま背中から落ちそうになった。すんでのところで手すりに手をついた時、がしっと腕を掴まれた。前を歩いていた真喜雄だった。
ずるっと一段足が落ちて、ビンッと引っ張られる感触。びりびりとしびれた。
「ごめん、大丈夫か」
「だ、大丈夫大丈夫」
体勢を整えて足を上げようとしたとき、痛みが走った。つい顔を歪めると、いきなり背負われた。
「わぁあ!」
「ごめん、足痛めたよな」
「大丈夫だよ、わ、わ、」
おんぶされることなんて中々ないので、少し怖かった。改札のそばのベンチに腰を下ろすと、靴も靴下も脱がされて冷却スプレーをかけ、テーピングをぐるぐるに巻かれた。
「ごめん、鞄当たったの気づいて振り返ったら・・」
「混んでいたから仕方ないよ。僕もぼんやり歩いていたし。真喜雄が落ちなくてよかった」
「・・病院行こう」
「ゆっくり歩けば大丈夫だよ。あまり痛くないし、テーピングしてくれたからすごく楽だし。とりあえず保健室行って氷嚢とかも借りてくるよ」
「・・・ごめんな」
落ち込んでしまったようだった。何度も大丈夫を繰り返しても、しゅんとしていた。
のろのろ歩いて学校へ着くと、もうサッカー部の朝練が始まっていた。真喜雄は顧問に事情を説明して、部室から松葉づえを持ってきた。何であんなものが部室にあるんだろうか。
「ありがとう」
「保健室行こう」
「1人で大丈夫だよ。早く部活行って。教室で見てるから」
「・・・ん」
「本当に痛くないよ。テーピングありがとう」
「・・・なんかあったら、言ってな」
「うん。練習頑張って」
名残惜しそうに何度も振り返りながら、真喜雄は部室へ入って行った。慣れない松葉づえをついて保健室へ行くとすでに先生がいて診てくれた。腫れたら病院へと言われ、氷嚢をバンドで止めて終わり。教室へ入る時、カバンを担いだ宮田くんがやってきて驚いた顔をした。
「どうしたの?」
「階段踏み外しちゃって」
「わぁ、大丈夫?病院行った方がいいよ」
「うん。腫れてきたら行くよ。成瀬くんがテーピングがっちりしてくれたから平気だと思うんだけど」
宮田くんの顔がぼわっと赤くなり、恥ずかしそうに目を逸らした。
僕が真喜雄と付き合っているのを知っているので、僕から真喜雄の名前が出るとなんとなく恥ずかしいのだそうだ。照れたように頭をかくと、気を付けてねと言ってくれた。教室に入って窓際の席でぼんやりとグラウンドを
見る。元気だなぁと思った。
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選択美術の時間、席に着いた途端真喜雄は突っ伏した。
「寝るの?」
「・・・」
「・・・おやすみ」
「・・・落ち込んでる」
突然言うもんだから、笑いそうになってしまった。落ち込んでる、なんて可愛いことを言うなんて。
小声で慰める。
「真喜雄のせいじゃないよ。混んでたからだよ。他の人じゃなくてよかったじゃないか」
「・・・うん。でも透吾が、」
「僕運動部じゃないし、家と塾と学校の往復だけだもん。家の中じゃ動かないし」
「・・・おれの怪我が、全部透吾にいってる気がする・・・」
「え?そう?僕昔から怪我が多い方だったからそんな風に考えたことなかったな。言ってないけど、僕、両腕骨折とかしてるからね」
「・・・・え、なんで?」
「小さなころに鉄棒に足だけでぶら下がっててそのまま落ちちゃって、両腕がぼきって。あと小学生のころ体育の授業でハンドボールやって突き指したと思ったら骨折だったり、自転車こいでてどぶにはまって一回転して背中か落ちたり、ほら、1年のころなんて自転車で転んで膝打って体育を見学したりさ。結構いろいろやってるから捻挫くらい別に・・本当に大丈夫なんだよ」
「・・・ご、ごめ、」
ぶはっと吹きだして、ぶるぶる肩を震わせて笑い始めた。うずくまってお腹を押さえている。
ひーひー言いながら僕を見る と、予想外だったと言われた。
「ごめん、両腕骨折が、ちょっと、」
「面白いよね。母親も父親も笑ってたけど折れてるって知って顔が青くなってたよ。本当に包帯ぐるぐる巻きにされたんだよ。今度写真見る?」
「ちょ、ほんと、やめろ・・・笑いが、」
「あとは、」
「やめろって、マジで、」
目に涙を浮かべながら、顔をくしゃくしゃにして笑った。周りの生徒が驚くくらいの笑顔。普段無表情だから余計注目を浴びている。ちょっと嫉妬しちゃうけど、元気になったならいいや。
「僕、自然治癒能力高いからすぐ治るよ」
「分かったから、もう分かったからら、」
「ちなみに澄人も同じようなことして怪我してる」
完全にツボにはまったようで、真喜雄はずっと笑いっぱなしだった。更にひーひー言いながら時折僕を見てまた笑う。落ち着いたかなと思ったら笑い疲れて眠っていた。子供みたいで、今度は僕が笑うのを堪える番だった。
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