86 / 114
※セーター
しおりを挟む「ふっ、ぐじょっ、」
ギョッとして隣に座る真喜雄を見ると、目を閉じて鼻を擦っていた。
動きを止め、口を開いてまた叫ぶ。
「はぐじゅっ、」
吹き出しそうになるのを必死に堪え、持っていたペットボトルを強く握る。
今のって、もしかしなくてもくしゃみだよね?
「か、花粉症?」
「ちがぅ・・・ちょっと寒いなと思ったら・・・。ティッシュティッシュ・・・。はぶしゅっ!」
「あははっ!」
不器用なくしゃみについ声を出して笑うと、キョトンとした顔がこちらに向いた。
鼻をかみ、擦って、ゴミ箱に紙屑を投げる。
「なんか面白かった?」
「ごめん、くしゃみが面白かった」
「えー。そうか?兄貴と姉貴なんか、もっとすごいけど」
「意外だね」
「父さんなんか、こんちくしょーめって叫ぶしさ」
「うちは澄人だけだな、声が大きいの。ちょっとくしゃみとか咳が出ると病人ぶってうるさいし」
「そっちの方がいいと思う。兄貴は無言でぶっ倒れるタイプ」
それは真喜雄も同じじゃないかな。
予兆も何もなく突然熱を出すし。
今も寒いって言っていたし。カバンに押し込んでいたカーディガンを引っ張り出して肩にかけてあげると、鼻を寄せた。
「くさい?」
「ううん。いい匂い。ありがとう」
「薄着すぎない?上着ないの?」
「うん。部室に忘れたみたいだ」
いくら袖があると言っても、シャツ一枚じゃまだまだ寒いだろう。
さっきまで動いてたから余計。
「それ、着て帰ってね」
「・・・ありがとう。透吾は色々常備してるな」
「この上着だと室内じゃ暑いからね。かと言ってシャツ一枚だと寒いし、適当に羽織ろうと思って持ってたんだ。・・・あの、匂い嗅ぎすぎじゃない?」
ハッとした顔で僕を見て、バツか悪そうに苦笑いをした。
ちらちらと辺りを見ると、そっと距離を詰めて首筋に鼻先を擦り付けてきた。
「わ!」
「いい匂い」
「くすぐったいよ。・・・あまりこういうことされると、押し倒したくなるよ」
「んー・・・おれも押し倒す」
「真喜雄、もうだめだよ」
「嫌だ」
「・・・もうっ」
肩を掴んでベンチの上に押し倒す。ちょうど、カバンが枕になった。
びっくりした顔が見えたけど、すぐに自分の影で隠れてしまう。
がぶっと唇に噛みつくと、体が一瞬こわばったがすぐに腕に手が添えられた。
歯列を割って無理やり舌を絡める。唾液を流し込んで、舌をたっぷり味わって、顔を離す。
少し呼吸の乱れた姿が艶やかだった。
唇を親指で拭ってみると、かぷっと甘噛みされた。
「・・・もー」
「・・・もっとしたい」
「・・・だめ。もう遅いから帰ろう」
「・・・じゃぁトイレ行ってくる」
「・・・君、わざと言ってるでしょ」
「・・・だって前苦しいし」
「もう!」
勢いよく立ち上がり、腕を引っ張る。
この間と立場が逆だ。
真喜雄がカバンを持ったのを確認して園内の小道に入る。暗い道にポツポツと小さな明かりがあるだけ。ひっそりと眠るようにそこにいるベンチの裏の茂みに体を押し込んで、覆いかぶさる。
「ここでする」
「うん、へへっ」
「君、たちが悪い」
「透吾も。すげーやらしい顔、してる」
シャツをめくって腰を浮かせ、そっと背中を撫でる。
カクンと腰が跳ね、くすぐったそうに口元を緩めた。
ジャージを下ろして、僕も前を寛げる。立ち上がったペニスが空気の冷たさに触れて少し震える。
ペトリと真喜雄のペニスに重ねると、目を細めた。
「透吾・・・」
「あったかいね」
「うん・・・うっ?!」
シャツの上から乳首をつまむ。
胸がそった。
ぐしゃりと草を掴み、快感に耐える姿が綺麗だった。
指の腹で擦ったり、つまんでこねくり回したり、爪を立ててみる。
声を殺して、何度も首を左右に振って快楽に耐えていた。
「真喜雄、可愛いね」
「んくっ・・・!も、それやだ、」
「僕にもしたじゃないか」
「ん、むっ・・・!透吾、」
「・・・気持ちいい?」
耳元で尋ねると、少ししてから、こくんと頷いた。
唇を重ねながらペニスを包んでスライドさせる。
熱い。体が熱っている。真喜雄の手も添えられ、興奮が昂まった。
「真喜雄・・・今度、部屋でするとき、もっとたくさんしようね・・・」
「うん、んっ・・・!おれが、する・・・!」
「だめ。僕だよ」
このやりとりが好きだった。真喜雄もそうなのだろうか。ふにゃりと笑い、おれだってば、と小さく言った。
つられて笑い、もう一度がぶりと唇に噛み付いて手の動きを早める。
僕と真喜雄の呼吸が荒くなって、そして静かに射精した。
************
「・・・はー、僕、こんなに堪え性なかったっけなぁ・・・」
駐輪場でつい、うなだれてしまう。
心は満たされているのに頭の中が罪悪感でいっぱいになる。
真喜雄はすっきりした顔で僕の頭を撫でると、頬を擦り付けてきた。
「おれは嬉しいけど」
「・・・何が嬉しいの。君の体に無理させたのに」
「なんともないよ。それよりカーディガン汚してごめん。ちゃんと洗濯して返すから」
「いや、そんなこと・・・。なんか、外でするとか、動物じゃないしもっと君のこと大事にしたいのに・・・」
「え。おれ大事にされてなかったのか・・・?」
本気で驚いたような声に、つい顔をあげる。
「や、だって、外でって・・・」
「でもおれもしたかったし・・・。ちょっと野性味あって、いいと思う・・・」
「・・・君でもそんなこと言うんだね」
「ん・・・。それくらい我慢の限界だったってことかな・・・。変なの。この前もしたのにな」
「・・・いくらでもしたいよ、僕は」
「へへっ。おれも」
「でももう外はやめよう。ちゃんとベッドでしたいよ」
「・・・外もいいんだけどな、透吾が必死で可愛いから」
脇腹を突くと、それはやめて、と困ったように笑いながらぐしゃぐしゃと頭を撫でられた。立ち上がってぶにっと頬をつねる。
嬉しそうな顔をして、いきなり抱き寄せられた。
少しだけ戯れて自転車にまたがる。
公園から出て僕は駅の方へ、真喜雄は家の方へ向かうため交差点で止まった。じゃぁね、と手を振る。真喜雄は悪戯っ子のように笑うと、実は上着持ってるんだ、と言った。
そしてそのまま、軽快にペダルを漕いで振り返り、大きく手を振った。
あー、もー、可愛いな。
0
お気に入りに追加
23
あなたにおすすめの小説
学院のモブ役だったはずの青年溺愛物語
紅林
BL
『桜田門学院高等学校』
日本中の超金持ちの子息子女が通うこの学校は東京都内に位置する野球ドーム五個分の土地が学院としてなる巨大学園だ
しかし生徒数は300人程の少人数の学院だ
そんな学院でモブとして役割を果たすはずだった青年の物語である
日本一のイケメン俳優に惚れられてしまったんですが
五右衛門
BL
月井晴彦は過去のトラウマから自信を失い、人と距離を置きながら高校生活を送っていた。ある日、帰り道で少女が複数の男子からナンパされている場面に遭遇する。普段は関わりを避ける晴彦だが、僅かばかりの勇気を出して、手が震えながらも必死に少女を助けた。
しかし、その少女は実は美男子俳優の白銀玲央だった。彼は日本一有名な高校生俳優で、高い演技力と美しすぎる美貌も相まって多くの賞を受賞している天才である。玲央は何かお礼がしたいと言うも、晴彦は動揺してしまい逃げるように立ち去る。しかし数日後、体育館に集まった全校生徒の前で現れたのは、あの時の青年だった──
モテる兄貴を持つと……(三人称改訂版)
夏目碧央
BL
兄、海斗(かいと)と同じ高校に入学した城崎岳斗(きのさきやまと)は、兄がモテるがゆえに様々な苦難に遭う。だが、カッコよくて優しい兄を実は自慢に思っている。兄は弟が大好きで、少々過保護気味。
ある日、岳斗は両親の血液型と自分の血液型がおかしい事に気づく。海斗は「覚えてないのか?」と驚いた様子。岳斗は何を忘れているのか?一体どんな秘密が?
家事代行サービスにdomの溺愛は必要ありません!
灯璃
BL
家事代行サービスで働く鏑木(かぶらぎ) 慧(けい)はある日、高級マンションの一室に仕事に向かった。だが、住人の男性は入る事すら拒否し、何故かなかなか中に入れてくれない。
何度かの押し問答の後、なんとか慧は中に入れてもらえる事になった。だが、男性からは冷たくオレの部屋には入るなと言われてしまう。
仕方ないと気にせず仕事をし、気が重いまま次の日も訪れると、昨日とは打って変わって男性、秋水(しゅうすい) 龍士郎(りゅうしろう)は慧の料理を褒めた。
思ったより悪い人ではないのかもと慧が思った時、彼がdom、支配する側の人間だという事に気づいてしまう。subである慧は彼と一定の距離を置こうとするがーー。
みたいな、ゆるいdom/subユニバース。ふんわり過ぎてdom/subユニバースにする必要あったのかとか疑問に思ってはいけない。
※完結しました!ありがとうございました!
学園と夜の街での鬼ごっこ――標的は白の皇帝――
天海みつき
BL
族の総長と副総長の恋の話。
アルビノの主人公――聖月はかつて黒いキャップを被って目元を隠しつつ、夜の街を駆け喧嘩に明け暮れ、いつしか"皇帝"と呼ばれるように。しかし、ある日突然、姿を晦ました。
その後、街では聖月は死んだという噂が蔓延していた。しかし、彼の族――Nukesは実際に遺体を見ていないと、その捜索を止めていなかった。
「どうしようかなぁ。……そぉだ。俺を見つけて御覧。そしたら捕まってあげる。これはゲームだよ。俺と君たちとの、ね」
学園と夜の街を巻き込んだ、追いかけっこが始まった。
族、学園、などと言っていますが全く知識がないため完全に想像です。何でも許せる方のみご覧下さい。
何とか完結までこぎつけました……!番外編を投稿完了しました。楽しんでいただけたら幸いです。
逃げられない罠のように捕まえたい
アキナヌカ
BL
僕は岩崎裕介(いわさき ゆうすけ)には親友がいる、ちょっと特殊な遊びもする親友で西村鈴(にしむら りん)という名前だ。僕はまた鈴が頬を赤く腫らせているので、いつものことだなと思って、そんな鈴から誘われて僕は二人だけで楽しい遊びをする。
★★★このお話はBLです 裕介×鈴です ノンケ攻め 襲い受け リバなし 不定期更新です★★★
小説家になろう、pixiv、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ、fujossyにも掲載しています。
拝啓お父様。私は野良魔王を拾いました。ちゃんとお世話するので飼ってよいでしょうか?
ミクリ21
BL
ある日、ルーゼンは野良魔王を拾った。
ルーゼンはある理由から、領地で家族とは離れて暮らしているのだ。
そして、父親に手紙で野良魔王を飼っていいかを伺うのだった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる