水色と恋

和栗

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※セーター

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「ふっ、ぐじょっ、」
ギョッとして隣に座る真喜雄を見ると、目を閉じて鼻を擦っていた。
動きを止め、口を開いてまた叫ぶ。
「はぐじゅっ、」
吹き出しそうになるのを必死に堪え、持っていたペットボトルを強く握る。
今のって、もしかしなくてもくしゃみだよね?
「か、花粉症?」
「ちがぅ・・・ちょっと寒いなと思ったら・・・。ティッシュティッシュ・・・。はぶしゅっ!」
「あははっ!」
不器用なくしゃみについ声を出して笑うと、キョトンとした顔がこちらに向いた。
鼻をかみ、擦って、ゴミ箱に紙屑を投げる。
「なんか面白かった?」
「ごめん、くしゃみが面白かった」
「えー。そうか?兄貴と姉貴なんか、もっとすごいけど」
「意外だね」
「父さんなんか、こんちくしょーめって叫ぶしさ」
「うちは澄人だけだな、声が大きいの。ちょっとくしゃみとか咳が出ると病人ぶってうるさいし」
「そっちの方がいいと思う。兄貴は無言でぶっ倒れるタイプ」
それは真喜雄も同じじゃないかな。
予兆も何もなく突然熱を出すし。
今も寒いって言っていたし。カバンに押し込んでいたカーディガンを引っ張り出して肩にかけてあげると、鼻を寄せた。
「くさい?」
「ううん。いい匂い。ありがとう」
「薄着すぎない?上着ないの?」
「うん。部室に忘れたみたいだ」
いくら袖があると言っても、シャツ一枚じゃまだまだ寒いだろう。
さっきまで動いてたから余計。
「それ、着て帰ってね」
「・・・ありがとう。透吾は色々常備してるな」
「この上着だと室内じゃ暑いからね。かと言ってシャツ一枚だと寒いし、適当に羽織ろうと思って持ってたんだ。・・・あの、匂い嗅ぎすぎじゃない?」
ハッとした顔で僕を見て、バツか悪そうに苦笑いをした。
ちらちらと辺りを見ると、そっと距離を詰めて首筋に鼻先を擦り付けてきた。
「わ!」
「いい匂い」
「くすぐったいよ。・・・あまりこういうことされると、押し倒したくなるよ」
「んー・・・おれも押し倒す」
「真喜雄、もうだめだよ」
「嫌だ」
「・・・もうっ」
肩を掴んでベンチの上に押し倒す。ちょうど、カバンが枕になった。
びっくりした顔が見えたけど、すぐに自分の影で隠れてしまう。
がぶっと唇に噛みつくと、体が一瞬こわばったがすぐに腕に手が添えられた。
歯列を割って無理やり舌を絡める。唾液を流し込んで、舌をたっぷり味わって、顔を離す。
少し呼吸の乱れた姿が艶やかだった。
唇を親指で拭ってみると、かぷっと甘噛みされた。
「・・・もー」
「・・・もっとしたい」
「・・・だめ。もう遅いから帰ろう」
「・・・じゃぁトイレ行ってくる」
「・・・君、わざと言ってるでしょ」
「・・・だって前苦しいし」
「もう!」
勢いよく立ち上がり、腕を引っ張る。
この間と立場が逆だ。
真喜雄がカバンを持ったのを確認して園内の小道に入る。暗い道にポツポツと小さな明かりがあるだけ。ひっそりと眠るようにそこにいるベンチの裏の茂みに体を押し込んで、覆いかぶさる。
「ここでする」
「うん、へへっ」
「君、たちが悪い」
「透吾も。すげーやらしい顔、してる」
シャツをめくって腰を浮かせ、そっと背中を撫でる。
カクンと腰が跳ね、くすぐったそうに口元を緩めた。
ジャージを下ろして、僕も前を寛げる。立ち上がったペニスが空気の冷たさに触れて少し震える。
ペトリと真喜雄のペニスに重ねると、目を細めた。
「透吾・・・」
「あったかいね」
「うん・・・うっ?!」
シャツの上から乳首をつまむ。
胸がそった。
ぐしゃりと草を掴み、快感に耐える姿が綺麗だった。
指の腹で擦ったり、つまんでこねくり回したり、爪を立ててみる。
声を殺して、何度も首を左右に振って快楽に耐えていた。
「真喜雄、可愛いね」
「んくっ・・・!も、それやだ、」
「僕にもしたじゃないか」
「ん、むっ・・・!透吾、」
「・・・気持ちいい?」
耳元で尋ねると、少ししてから、こくんと頷いた。
唇を重ねながらペニスを包んでスライドさせる。
熱い。体が熱っている。真喜雄の手も添えられ、興奮が昂まった。
「真喜雄・・・今度、部屋でするとき、もっとたくさんしようね・・・」
「うん、んっ・・・!おれが、する・・・!」
「だめ。僕だよ」
このやりとりが好きだった。真喜雄もそうなのだろうか。ふにゃりと笑い、おれだってば、と小さく言った。
つられて笑い、もう一度がぶりと唇に噛み付いて手の動きを早める。
僕と真喜雄の呼吸が荒くなって、そして静かに射精した。

************

「・・・はー、僕、こんなに堪え性なかったっけなぁ・・・」
駐輪場でつい、うなだれてしまう。
心は満たされているのに頭の中が罪悪感でいっぱいになる。
真喜雄はすっきりした顔で僕の頭を撫でると、頬を擦り付けてきた。
「おれは嬉しいけど」
「・・・何が嬉しいの。君の体に無理させたのに」
「なんともないよ。それよりカーディガン汚してごめん。ちゃんと洗濯して返すから」
「いや、そんなこと・・・。なんか、外でするとか、動物じゃないしもっと君のこと大事にしたいのに・・・」
「え。おれ大事にされてなかったのか・・・?」
本気で驚いたような声に、つい顔をあげる。
「や、だって、外でって・・・」
「でもおれもしたかったし・・・。ちょっと野性味あって、いいと思う・・・」
「・・・君でもそんなこと言うんだね」
「ん・・・。それくらい我慢の限界だったってことかな・・・。変なの。この前もしたのにな」
「・・・いくらでもしたいよ、僕は」
「へへっ。おれも」
「でももう外はやめよう。ちゃんとベッドでしたいよ」
「・・・外もいいんだけどな、透吾が必死で可愛いから」
脇腹を突くと、それはやめて、と困ったように笑いながらぐしゃぐしゃと頭を撫でられた。立ち上がってぶにっと頬をつねる。
嬉しそうな顔をして、いきなり抱き寄せられた。
少しだけ戯れて自転車にまたがる。
公園から出て僕は駅の方へ、真喜雄は家の方へ向かうため交差点で止まった。じゃぁね、と手を振る。真喜雄は悪戯っ子のように笑うと、実は上着持ってるんだ、と言った。
そしてそのまま、軽快にペダルを漕いで振り返り、大きく手を振った。
あー、もー、可愛いな。

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