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ランチ
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「そろそろ倉庫で食べないか」
朝晩は冷えるけど日中は暖かいのでそうすることにした。
埃っぽい倉庫に入りカギをかける。そっとマットに腰を下ろしてお弁当をつつくと、いつものように卵焼きをねだってきた。今日は入っていなかったのでちくわをあげると、少ししゅんとした顔で、それでも口に入れた。
「真喜雄のお弁当って、大きいのに中身少ないね」
「・・んー・・・母さんが料理苦手なんだ。それに、体調悪い時も多いし」
「・・・え、そうなんだ」
「ん、昔から得意じゃなくて、おれがやるから結婚してほしいって父さんにプロポーズされて結婚したんだってよく話してたけど、父さんあんま家にいなくてそんなに家で料理できないんだ」
「へー。前に自分で作るって言ってたけど、たまに作ったりするの?」
「暇なときとかは。あとは姉貴だったり・・・。兄貴も今繁忙期だからあんま家にいないんだ」
「大変だね」
「でもいつも冷蔵庫パンパンだからそこまで不便ではない・・・」
意外と大変なんだな。僕なんて渡されたものそのまま普通にもってきてるだけだ。特に感謝もせず。
母さんが元気だし専業主婦だから余計にそうなのかもしれない。
授業が終わって帰宅すると、いつも通り母さんがいた。澄人の宿題を見ながら笑っている。お弁当箱を水につけると、おやつあるわよ、と言われた。
ふと気になって聞いてみる。
「真喜雄のお母さんが体調良くないって知ってる?」
「うん、知ってるわよ。でも元気な時の方が多くなってきたって言ってた。この間一緒にランチ食べに行ったのよ」
「・・・何してんの、息子の友達の母親と・・」
「だってあんたのお友達のお母さんだもん。お母さんだって仲良くしたいからたまに連絡取り合ってお食事したりしてるのよ」
「初耳だよ」
「初めて言ったもん」
「・・・真喜雄のお母さん、病気なの?」
「生まれつき体がそんなに強くないみたいね。でも大丈夫よきっと。だって母親だもん」
「・・料理が苦手だって言ってた、真喜雄が」
「本人も言ってたなー。お弁当がいつも同じ内容になっちゃって申し訳ないって。ちょっと教えたりしたけど・・・私も大したもの作れないからなぁ」
「ふーん・・・」
「持っていく?」
顔を上げると、母さんが首をかしげていた。持っていくって?
「多めに持っていく?」
「・・・いいの?母さん大変じゃないの」
「別に?毎日は無理だけど、揚げ物する日とか一気に揚げた方が楽だから、持って行ったら?真喜雄くんなら余裕で食べられるでしょ。あんたと
澄人だけじゃ母さんも物足りないし。真喜雄くんのお母さんには私から連絡するから」
「・・・悪かったね小食で」
「お父さんそっくりよね。顔は私に似て美形だけど」
「自分で言わないでよ」
「できたー!母ちゃんできたできたー!丸付けして!」
今まで大人しくしていた澄人が叫んだ。はいはいと軽く返事をして丸を付け始める。バツの方が多かったけど。
お節介かなと思ったけど、一度持っていってみよう。喜ぶかな。
************
「これ食べない?」
「・・・食べるっ」
タッパーの蓋を外して中身を見せると、勢いよく返事が返ってきた。中身は一口サイズのチキンカツ。昨日たまたまおかずがこれだった。
保冷バックからソースを出すと、さらに目が輝く。
「あ、ケチャップないんだけど・・・」
「おれソース派」
「よかった。はい」
「ありがとう。いただきます。嬉しい」
パンを袋にしまうと、ソースをかけてばくばくと食べ始めた。僕のお弁当にももちろん入っていたのでタッパーの方は食べなかった。
おにぎりが3つ入っていたので1つ食べるか差し出してみると、嬉しそうに食べた。うん、なんかうれしいな。
「急にどうしたの」
「余ったから持っていけって母さんが」
「・・・そっかぁ。いいのかな」
「うん。僕と澄人だけじゃつまらないらしいよ、真喜雄くらい食べてほしいって言われた」
「透吾、小食だもんな」
「あ、そういえば知ってた?僕の母親と君のお母さん、ランチに行くらしいよ」
「うん。知ってる。母さん嬉しそうだった。友達少ないから、でかけるといつも嬉しそうに話してた」
「・・・結構頻繁に行ってる?」
「飯以外もお茶とかするらしいからな・・・。詳しくはあんまり知らないな。そういう話は姉貴としてるし」
「なんだかおかしなことになってきたな・・・」
「そう?おれ透吾の母さんに認識されてよかったーって思うけど」
「なんで」
「おれだったら安心して家空けられるだろ。そしたらほら、こういうことたくさんできる」
するっと服の中に手が入ってきた。口の端にソースをつけたままやらしく笑うけど、全然興奮しない。可愛くてたまらないけど。
「逆パターンもまた然り」
「・・・君の家はお兄さんとかお姉さんがいるけどね」
「そこなんだよなー」
残念そうに言うので笑ってしまった。
空になったタッパーを受け取ってバッグにしまう。満腹になったのお腹をさすると、ころんと横になった。
膝に頭を乗せて見上げてくる。
「ごちそうさまでしたって、伝えて」
「うん、喜ぶよ」
「塩コショウきいてて美味しかった。また食べたいな」
ソースのついた口元を拭うと、ぐっと頭を押さえられた。そのままキスをする。
やっぱりソース味。
くすくす笑って頭をなでると、そっと目を閉じた。
朝晩は冷えるけど日中は暖かいのでそうすることにした。
埃っぽい倉庫に入りカギをかける。そっとマットに腰を下ろしてお弁当をつつくと、いつものように卵焼きをねだってきた。今日は入っていなかったのでちくわをあげると、少ししゅんとした顔で、それでも口に入れた。
「真喜雄のお弁当って、大きいのに中身少ないね」
「・・んー・・・母さんが料理苦手なんだ。それに、体調悪い時も多いし」
「・・・え、そうなんだ」
「ん、昔から得意じゃなくて、おれがやるから結婚してほしいって父さんにプロポーズされて結婚したんだってよく話してたけど、父さんあんま家にいなくてそんなに家で料理できないんだ」
「へー。前に自分で作るって言ってたけど、たまに作ったりするの?」
「暇なときとかは。あとは姉貴だったり・・・。兄貴も今繁忙期だからあんま家にいないんだ」
「大変だね」
「でもいつも冷蔵庫パンパンだからそこまで不便ではない・・・」
意外と大変なんだな。僕なんて渡されたものそのまま普通にもってきてるだけだ。特に感謝もせず。
母さんが元気だし専業主婦だから余計にそうなのかもしれない。
授業が終わって帰宅すると、いつも通り母さんがいた。澄人の宿題を見ながら笑っている。お弁当箱を水につけると、おやつあるわよ、と言われた。
ふと気になって聞いてみる。
「真喜雄のお母さんが体調良くないって知ってる?」
「うん、知ってるわよ。でも元気な時の方が多くなってきたって言ってた。この間一緒にランチ食べに行ったのよ」
「・・・何してんの、息子の友達の母親と・・」
「だってあんたのお友達のお母さんだもん。お母さんだって仲良くしたいからたまに連絡取り合ってお食事したりしてるのよ」
「初耳だよ」
「初めて言ったもん」
「・・・真喜雄のお母さん、病気なの?」
「生まれつき体がそんなに強くないみたいね。でも大丈夫よきっと。だって母親だもん」
「・・料理が苦手だって言ってた、真喜雄が」
「本人も言ってたなー。お弁当がいつも同じ内容になっちゃって申し訳ないって。ちょっと教えたりしたけど・・・私も大したもの作れないからなぁ」
「ふーん・・・」
「持っていく?」
顔を上げると、母さんが首をかしげていた。持っていくって?
「多めに持っていく?」
「・・・いいの?母さん大変じゃないの」
「別に?毎日は無理だけど、揚げ物する日とか一気に揚げた方が楽だから、持って行ったら?真喜雄くんなら余裕で食べられるでしょ。あんたと
澄人だけじゃ母さんも物足りないし。真喜雄くんのお母さんには私から連絡するから」
「・・・悪かったね小食で」
「お父さんそっくりよね。顔は私に似て美形だけど」
「自分で言わないでよ」
「できたー!母ちゃんできたできたー!丸付けして!」
今まで大人しくしていた澄人が叫んだ。はいはいと軽く返事をして丸を付け始める。バツの方が多かったけど。
お節介かなと思ったけど、一度持っていってみよう。喜ぶかな。
************
「これ食べない?」
「・・・食べるっ」
タッパーの蓋を外して中身を見せると、勢いよく返事が返ってきた。中身は一口サイズのチキンカツ。昨日たまたまおかずがこれだった。
保冷バックからソースを出すと、さらに目が輝く。
「あ、ケチャップないんだけど・・・」
「おれソース派」
「よかった。はい」
「ありがとう。いただきます。嬉しい」
パンを袋にしまうと、ソースをかけてばくばくと食べ始めた。僕のお弁当にももちろん入っていたのでタッパーの方は食べなかった。
おにぎりが3つ入っていたので1つ食べるか差し出してみると、嬉しそうに食べた。うん、なんかうれしいな。
「急にどうしたの」
「余ったから持っていけって母さんが」
「・・・そっかぁ。いいのかな」
「うん。僕と澄人だけじゃつまらないらしいよ、真喜雄くらい食べてほしいって言われた」
「透吾、小食だもんな」
「あ、そういえば知ってた?僕の母親と君のお母さん、ランチに行くらしいよ」
「うん。知ってる。母さん嬉しそうだった。友達少ないから、でかけるといつも嬉しそうに話してた」
「・・・結構頻繁に行ってる?」
「飯以外もお茶とかするらしいからな・・・。詳しくはあんまり知らないな。そういう話は姉貴としてるし」
「なんだかおかしなことになってきたな・・・」
「そう?おれ透吾の母さんに認識されてよかったーって思うけど」
「なんで」
「おれだったら安心して家空けられるだろ。そしたらほら、こういうことたくさんできる」
するっと服の中に手が入ってきた。口の端にソースをつけたままやらしく笑うけど、全然興奮しない。可愛くてたまらないけど。
「逆パターンもまた然り」
「・・・君の家はお兄さんとかお姉さんがいるけどね」
「そこなんだよなー」
残念そうに言うので笑ってしまった。
空になったタッパーを受け取ってバッグにしまう。満腹になったのお腹をさすると、ころんと横になった。
膝に頭を乗せて見上げてくる。
「ごちそうさまでしたって、伝えて」
「うん、喜ぶよ」
「塩コショウきいてて美味しかった。また食べたいな」
ソースのついた口元を拭うと、ぐっと頭を押さえられた。そのままキスをする。
やっぱりソース味。
くすくす笑って頭をなでると、そっと目を閉じた。
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