水色と恋

和栗

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いっぱい食べる君が好き2

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「・・・なんか、透吾、おれに餌付けしてないか?」
差し出したパンを引っ込める。
今日はカスタードクリーム入りのメロンパン。
真喜雄はコロッケパンを頬張りながらじっと僕を見つめた。
「お腹空いてるかと思って」
「もう平気だけど・・・」
「・・・そう?」
袋に戻してもう一度箸を持つ。
一緒に晩御飯を食べてから、あの頬袋と必死な手付きが頭から離れない。可愛かった。今思い出してもほのぼのする。
その姿を何度も見たくて、ここ最近真喜雄にパンやおにぎりを渡していた。だけど、昼は意外と淡々と食べていてあの必死さが見受けられないので、少し意地になってしまった部分があった。
美味しいと評判のパン屋で買ってみたり、好きそうなクリームパンを調べてみたり、なんかもう、今までの自分からじゃ考えられないくらい必死だった。
「・・・でもそれ、貰っていい?」
「うん」
渡すと、非常食と言って袋にしまった。
やっぱり、あの姿は夜じゃないと見られないのだろうか。
でも毎度毎度外食に誘うのはお財布も厳しい。なにせ、ごくごく一般的なお小遣い制なのだ。真喜雄も気を遣うだろうし。
なので。
「いらっしゃいませー」
家の近所のスーパーで、バイトをしてみることにした。
もちろん勉強に支障をきたさない程度。今サッカー部は絶賛予選中で、真喜雄も練習で20時、21時頃までサッカーをしていることもあるので内緒で始めてみた。僕には熱中できるスポーツも、趣味もないから。
最初こそ緊張したものの、結構面白いものだった。
普段見慣れたものを黙々と陳列していくのだ。割と楽しい。
時給はやはり、ごくごく一般的。あまりお金を持ちすぎるとろくなことにならないから、ちょうどいいと思う。
17時から21時までの時間も魅力的だった。土日はあまり出られないことは伝えてある。でも朝一に入ってみたり、昼間のタイムセールに入ってみたり、お客さんに嫌な顔されたり感謝されたり、なるほど、いい社会勉強だなと思っていた。
「すいません」
閉店時間ぎりぎり。変なところに商品が置かれていないか、片付けをしながら最終チェックをしていた時声をかけられた。
「はい。・・・あ、」
大きなエナメルバッグを担いだ、シャツもズボンも泥だらけに汚した真喜雄が立っていた。それはもう不機嫌そうな顔で。
「・・・バイトしてたの、知らなかった」
「・・・あ、うん、・・・」
「・・・隠し事、嫌いだ」
「ごめん。その、真喜雄は予選中だし、余計な話したくなくて・・・」
まさか、真喜雄にたっぷりご飯を食べさせるために始めたなんて言えなかった。
眉間のシワが深くなり、ぷいっとそっぽを向いてお菓子のコーナーに消えた。
締めの終わってないレジに入る。真喜雄がやってきて、ビスケットとスポーツドリンクを置いた。
無言でレジに通して袋に入れると、外にいると呟かれた。頷くと、閉店の音楽が鳴る店内から出て行った。
記録的なスピードで片付けを終えて外に出ると、駐輪場にあるベンチに座っていた。
「ごめん、おまたせ」
「・・・・・・透吾の気遣い、余計だ」
「言ったら、来てくれるだろうなと思って・・・ここ、遠いから無理して欲しくないし・・・」
そっぽを向く。あ、不機嫌。
真喜雄の自宅と僕の自宅は、駅を境に東と西で分かれている。なのでお互いの家がとても遠いのだ。同じ市内なのに。
ここのスーパーは真喜雄が学校帰りにふらっと寄れる距離じゃない。僕がここにいるのを知っててきたのだ。いつバレたのだろうか。
場所を変えようと言うと、黙って立ち上がった。
いつも僕の家の方へ来るときに使う公園に入る。比較的駅に近くて広いので、よく利用していた。
野原の広がる平坦な広場が一望できるベンチに座ると、真喜雄は少し距離をとった。
「ごめん。伝えるだけでもすればよかったね」
「・・・サッカー部の、後輩が、見かけたって言うから・・・。人違いじゃないかって思ったけど、気になってきてみたら、本当にいるから・・・」
「うん・・・ちょっと、お金が欲しくて・・・」
「・・・透吾から直接聞きたかった。他の人がおれより先に知ってるの、嫌だ」
「ごめんね。大したことじゃないって勝手に決めつけて、話さなかったんだ」
「もう、やだから、しないでほしい・・・」
「うん。しない」
チラッとこちらを見る。少し考えてから距離を縮めてきた。嬉しくてつい、肩を抱き寄せてしまう。
「わ、」
「お疲れ様」
「・・・うん、・・・あのさ」
「何?」
「なんでお金、必要なの?」
やっぱり聞かれた。
本当のことを言うべきかかなり迷った。だってだいぶ気持ち悪いよ、真喜雄にご飯食べさせたいからバイトしてるなんて。でも適当なこと言うとバレたときが怖い。でも餌付けと思われるのも嫌だな。多分悩んだ時間は一瞬なんだけど、いきなり顎を掴まれて上に向けられた。
真喜雄の唇が突き出てる。
「言わないなら素っ裸にしてここでする」
「そ、そんな野蛮なこと言うんだね・・・」
「おれ怒ってる」
「・・・絶対笑わない?」
「・・・内容による」
「気持ち悪がらない?」
「・・・だから、」
「約束してよ」
「早く言えってば」
珍しくイライラしている。観念してポツポツと話すと、キョトンと目を開いた。次第に口元が震えてきて、顔を背けてむせこんだ。
顎から手を離し、顔を両手で覆うと肩を震わせる。珍しい笑い方のシーンだ。僕は恥ずかしくてたまらないけど。
「真喜雄なんか、素っ裸にして木に縛り付けてやる」
「・・・ごめっ、・・・くっ、くっく、」
「・・・真喜雄!」
大きな声を出すと、弾かれたように全身を使って大笑いし始めた。お腹を押さえて隠すことなく声を上げる。
僕は全身に熱がこもるのが分かった。走って逃げたい気分だ。
目元をぬぐいながら顔を上げて僕を見ると、強く抱きしめられた。ごつ、と額が重なる。
「いって!もー!」
「はぁ・・・透吾、面白い。少し前までおれのことなんて興味なかったのに」
「興味ないんじゃなくて、世界の違う人なんだと思ってたんだよ」
「今は同じだろ?」
「・・・だから、こんな理由でバイトしてるんだよ」
「・・・んふっ、ふ、」
「最悪だ、笑うなんて」
「嬉しかったし、透吾が可愛くて」
少し荒っぽく、唇が重なる。すぐに離れると思ったのに、ぐぐっと体重をかけてきた。肩を押しても動かない。
唇をペロリと舐めてみると、驚いたように顔を離した。
「・・・もっとしたかったんだけど」
「ここ、外だよ。しかも僕の家の近くだ」
「だってここ、夜人いないし・・・もう少し、」
求められることが嬉しくて、つい許してしまう。
真喜雄が満足するまでキスをして離れる。唇が腫れ上がるんじゃないかってくらい、たくさんキスをした。唇をくっつけるだけの行為なのに、どうしてここまで幸福になれるのだろう。
「・・・また行こうな」
「・・・バイト代、入ったらね」
「長期なのか?」
「いや、短期」
「ん・・・。何食べようかな」
「好きなもにしたらいいよ」
「んー、寿司?」
お肉じゃないんだ。少し笑って駅へ向かう。反対側のバスターミナルに向かうため、改札まで見送った。何度も振り返って手を振り、真喜雄は帰って行った。
明日もバイト、頑張ろう。真喜雄の喜ぶ顔を早く見たいから。

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