水色と恋

和栗

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キス

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「・・・あの、ごめん」
つい笑いそうになってしまった。
隣を見ると、様子を伺うようにこちらを見る顔があった。
「隠してたわけじゃなくて、その、・・・」
先ほどの授業が自習になってしまい、なぜか真喜雄たちのグループ(と、一応呼んでいる。真喜雄自身はグループに属している気はないようだけど)に誘われてサッカー部の部室で時間を潰した。僕にとっては大した授業ではなかったので予習も復習も無用だったし、普段サッカー部の部室なんて見ることがまったくなかったから興味があった。部室は非常に汚かった。座る場所もないのに、彼らは当然のように適当に布切れ(多分Tシャツやタオル)をかき集めて座布団を作った。
男子が数人集まればその類の話になる。クラスの誰が可愛いだの、胸が大きいだの、セックスしたいだの、なんだの。僕と真喜雄は相槌役に徹していたが、真喜雄の隣に座るキツネ顔の人(名前なんかすっかり記憶の彼方)がポロリと、成瀬は彼女いたじゃん。と言った。
途端にざわつき、どんな子だったのか根掘り葉掘り質問された真喜雄はたじたじだった。
助けに行くことはできないので、興味があるフリをして話を聞く体制をとった。
嫌そうに、聞かれたことにきちんと答えていた。
中学3年の頃に学年で1番と言われていた可愛い同級生と、1ヶ月ほど。別れた理由は好きになれなかったからだそうだ。手を繋ぎ始めて、違和感があったらしい。なんか、どこにでもありふれた話だなぁと思いながら聞いていた。最終学年あるあるだとでもいうのだろうか。まぁ、僕はそんなことと無縁なところにいたのだけど。
話していてだんだん俯き始めた真喜雄を見て、みんな次の話に移った。教室にいる時も思っていたけど、真喜雄は結構甘やかされてる。多分他の人がこの手の話をしていたら、もっと色々聞かれていたに違いない。
「・・・告白されて、周りに、付き合ってみたらって言われて、なんとなく、・・・」
「怒ってないよ。むしろ、健全だと思うけど」
「・・・でも、その、おれは、・・・」
「うん」
「・・・・・・キスしていいか」
タイミングがめちゃくちゃで、つい吹き出す。うん、と頷くと、パンを袋に戻して顔を寄せた。
アンパン味のキス。
指を繋いで、何度も角度を変えて唇を重ねる。離れたと思ったらまたくっつく。真喜雄は目を細めて僕を見ていた。その表情の、なんと艶やかなことか。
「・・・興味本位で人と付き合ってしまって、ちょっと罪悪感があったんだね」
「・・・なんで分かるの」
「真喜雄ならそう思うかなって」
「・・・透吾のこと好きになって、おれ、あの人に失礼なことしたんだなって、思った・・・。だから、家まで謝りに行ったんだけど、気にしてないよって言われて、・・・でも、申し訳なかったなって・・・」
「真面目だね。でも、多分本当に気にしてないんじゃないかな」
「どうして」
「だって学年で1番可愛い人だったんでしょ?だったらもう彼氏の1人や2人いるんじゃない?過去のことなんて、いい思い出にしてるはずだよ」
キョトンとした顔になった。少し考えて、そうかも、と短く言う。素直に納得する姿がおかしかった。
少し厚い唇を撫でてやると、パクッとくわえられた。
「透吾って、そーゆーのなかった?」
「僕は透明人間だからね、ないよ」
「密かにモテてたとかないの」
「ないんじゃない?僕友達もいないし、そういう話は聞かなかったな」
「・・・透吾、結構モテるよ。おれ焦ったもん」
それは知らなかった。そう、と流して抱き寄せる。
「もう真喜雄に捕まってしまったから、関係ない話だよ」
「・・・ん」
「僕も真喜雄を捕まえたけどね」
肩を揺らして2人で笑う。もう一度顔を寄せ、唇を重ねた。やっぱりアンパンの味がした。





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