群青色の約束

和栗

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pinkie7

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和知と付き合い始めて少し経った頃、ふと気になったことを聞いてみた。
「お前、誕生日いつ?」
「え?6月です。すっごく大雨の日に生まれたらしいです」
なんかしっくりくるな。
家に帰る途中、我慢できなくて買ったアメリカンドッグを口に突っ込み、携帯を確認する。
丸一日練習がない日が、たまたまあった。この日にどこか行くかと聞いてみると、目をくりくりさせて頬を高揚させて何度もうなずいた。
そういやデートなんて初めてだなと思った。
来る当日、和知は淡いピンクのパーカーを着てリュックを背負ってやってきた。完全に小学生。会えて何も言わずに街をぶらついた。
「なんか欲しいもんねぇの?買ってやるよ」
「えぇ!?な、なにもいりません!!こうやってお出かけできるのが一番うれしいんです!!」
「欲のないやつだな」
「え・・そうですか・・?あの、先輩と、こうやってできるだけで、僕、もう本当に幸せで・・・」
超絶ピュア。その言葉しかしっくりこない。
幸せなんて言葉、日常生活で聞いたのは初めてだ。
ぽんっと頭に手を置くと、顔を真っ赤にしてうつむいた。
「最初は拒んでたくせにな」
「えぇ!?ち、違います!!だって・・!あの、・・どういう関係なのか分かってなくって・・・」
「鈍感だな」
「・・・す、すみません・・・」
「まぁ、いいけど。どこか行きたいところとか、ねぇのか」
「うーんと・・あはは、今結構、いっぱいいっぱいで・・」
ちらっと手先を見る。少しだけ震えていた。そんなに緊張するもんかね。
和知はおれに憧れて同じ高校に来たと言っていた。中学の時に勇猛果敢にも試合終わりのおれに声をかけ(全く覚えてない)、進学先を聞いて(何でおれも答えたのか、いまだに思い出せない)追いかけてきたのだ。
おれが和知にちょっかいを出し始めてから知って、ちょっと引いたけどからかいがいのありそうなやつだなと思って今に至る。
緊張をほぐそうと適当に本屋に入り雑誌をめくる。落ち着いてきたのか、和知は隣に並んでこそこそと話しかけてきた。
「これ、先輩に似合いそうです・・」
「あー、色が微妙」
「そうですか・・」
「それよりもこっちが欲しい」
「・・・た、高い・・・。今使ってるのもこのくらいですか?」
「馬鹿言うな。もっと安物に決まってるだろ。買えねぇって」
ばちっと額を叩くと、ふにゃりと笑う。
本屋を出てファストフード店に入ると、キョロキョロと店内を見渡した。興味津々。
「なんだよ、お前初めてなの?」
「あ、あまり入ったことはないです・・。なんか、怖いイメージ・・・」
「お坊ちゃんかお前は。もう適当に頼むぞ。何でもいいだろ」
「辛くなければ・・」
「これと、これのセットで」
「あれ?これ辛いやつじゃ・・・」
「飲み物はお茶でいいだろ」
「先輩、先輩?これ、辛いやつ・・」
無視して注文を終え、トレーを受け取る。
差し出すと恐る恐る口に入れ、やっぱり辛いやつ・・と目をウルウルさせた。ぶはっと吹き出して、もう一つの方を渡してやる。安心したように、おいしそうに食べ始めた。
「うまいか」
「はい。最初のは辛かったけど・・・」
「おかしいな。辛くないと思ったんだけど」
「い、意地悪しないでください・・・!」
「生き甲斐だから無理」
和知は顔を真っ赤に染めてもそもそとポテトを口に運んだ。口が小さいからなのか、小動物みたいな食べ方をする。必死に口を動かして飲み込む姿が面白かった。
「あの・・先輩のお誕生日って、いつですか・・?」
「・・お前、知らないのか」
知らないことに驚いた。和知は若干ストーカーが入っているので何でも知っていると思っていたのだ。
申し訳なさそうな顔をすると、生年月日だけがどうしても・・と小声でつぶやいた。つーかほかのことは調べたのか。まぁそうだろうとは思ったけどさ。
「9月だよ」
「・・・9月なんですか・・・。えへへへ!」
「なんだよ」
「あ・・うふふ・・・!だって、3か月も同い年になれるんだなって思ったら・・嬉しくて・・・」
「あーそー。まぁ、誕生日おめでとう」
テーブルの下で足を絡めると、とろけるような笑顔を見せた。あ、この顔好きだわ。
初めて見る笑顔だった。好きだなんて、素直にそう思ったことに自分でもびっくりした。
すげー興奮する。抱きつぶしたい。んなことしたらまた泣くんだろうけどな。もう少し様子見だ。
「ありがとうございます。嬉しい・・・」
「飯奢るくらいしかしてやれねーけどな。もっと気の利いたところ連れてってやればよかったんだろうけど」
「え!ここすごくおいしくて楽しかったです!」
「ふーん。また来るか」
「はい!あの、ごちそうさまでした」
店を出て、またぶらつく。ゲームセンター、服屋、靴屋、スポーツショップ。おれにとっちゃ普段の休日と変わらないけど、和知はひどく楽しそうだった。
「なんか腹減ってきた」
「あ、もう15時・・・。あ、あそこのドーナツ屋さんおいしかったです。学校の近くにもあるんですよ。友達と行きました」
「あの女2人?」
「そうです。僕、友達ってなかなかできなくて・・パシりになることの方が多くて・・・。でも2人が仲良くしてくれるので、嬉しいんです」
「ふーん。じゃぁケーキ代わりにドーナツ食うか」
何とも言えないファンシーさを醸し出す店に入る。カップルと女のグループばかり。でも和知は嬉しそうに注文した。財布を出そうとしたので手を弾いて自分の財布を出す。
テーブルに着くとぺこぺこと何度も頭を下げたが、誕生日なのだ。これぐらいはしてやりたかった。
「うわ、あめーな」
「・・・あ!す、すみません!先輩、甘い物・・・!」
「いーって。自分で選んだし。食えるし。ただ、ダークチョコにしては甘いなと思っただけ。謝ることじゃねーだろ」
「・・・先輩は、お誕生日・・なにがいいですか?」
「んー?あぁ、生姜焼き」
「え?」
「生姜焼き食いてぇ。店だと量が決まってるし、自分で作るとあんま美味しくないし、市販のたれはいちいち買うのが面倒くさいし金かかるし。和知のはうまいから生姜焼きがいい。キャベツたっぷりな」
「は、はい・・・!あの、あとは・・?」
「ポテサラ。マカロニでもいい」
「そうじゃなくて、プレゼント的な・・欲しい物とか・・」
「なんもいらん」
「えぇ!?」
「飯作ってくれたらそれで十分」
人が作ってくれる飯ほどうまい物はないからな。しかもそれが好きな奴ならなおさら。
和知は慌てたように手帳を取り出すと、素早く何かをメモした。多分おれの誕生日のところに色々書いているのだろう。可愛いやつ。
書き終えると生クリームがたっぷり詰まったドーナツを頬張った。和知の舌はおこちゃまだ。
ドーナツ屋から出ると、雨が降っていた。そういや、天気予報なんて見ないで外に出たな。今日は雨が降る予定だったのか。
「あの、僕、傘あります」
「おー、さすが和知。って、1本か」
「見つからなくて・・・。あの、使ってください」
「一緒に入ればいいだろ。ほら」
傘を広げて軽く腰を引き寄せ、並んで歩く。もう帰った方が正解なのだろうか。これからもっと強くなるのだろう。
駅へ向かおうとすると、和知がぽつりと言った。
「それ、かっこいいですね」
「あ?・・・あぁ、これ?」
シルバーのブレスレットを見る。鎖がぐるっと一蹴したようなシンプルなデザイン。いつ買ったのか、もうすっかり忘れた。結構長い事使っている気がする。
「シンプルで先輩に似合ってます」
「どうも」
「アクセサリーとか、好きなんですか?」
「いや、別に。・・・あぁ、これやるよ」
「え・・?」
「誕生日プレゼント。お古で悪いけど」
腕から外して和知の細い手首に通す。すっぽ抜けそうだったけど、ぎりぎりセーフ。目を輝かせ、和知はブレスレットを見つめた。
何度も細い指で撫でると、またとろけそうな笑顔になった。あー、ムラムラする。なんだこの顔。
「いいんですか?」
「うん」
「どうしよう、死にそうなくらい、幸せです・・・」
「死ぬなよ。大げさだな」
「だって、本当に嬉しいんです!」
「・・あのさ」
「はい?」
「うちくるか?」
「・・え、いいんですか?初めてです!わぁあ!楽しみです!」
あ、こいつ、この後のこと何もわかってねぇな。
最後まではしないけど、ちょっとお触りはさせてもらうぞ。
おれの考えてることなんて全く分かってないようで、和知は子供みたいにはしゃいでいた。
この顔がどう崩れるのか楽しみだなーなんて思いながら、駅に向かって歩き続けた。





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