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pinkie4
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「水色と恋」の「ディスコ」のサイドストーリーです。
*************
「これ、間違って僕のところに入ってた」
顔を上げると、水出が赤いチェックの紙袋をおれに突き付けていた。
今日はバレンタインデーなので、こういうものが飛び交う日だ。
「これ、お前のじゃねぇの」
「まさか」
押し付けられる形で手渡された。何でおれ?と思ったけど、そういや水出の下駄箱、おれの隣だったっけ。
絶対に水出のだと思うけど、自分のものじゃないと頑なな態度だったので、とりあえず受け取っておくことにした。
ちなみに水出と喋ったのはこれが初めて。
きょとんとした顔の山田がおれの手元を見て言う。
「もてるなー、お前」
「いらねーよ、こんなもん」
これは正直な感想だった。あんまり甘いもの好きじゃねぇし。というか女はイベントに浮かれすぎなんだよ。クールぶってるつもりはない。本気でそう思っている。
授業が終わって部活に入る。部室ではチョコを何個もらっただのとはしゃぐ同級生、先輩、下級生で溢れていた。
どうせ義理の義理だろうに。山田がぽつりと、貰うなら本命一個だよなー。ほしいな、と呟いた。これには賛同した。結局そんなもんなのだ。量より質。
「あの、橋本先輩、これ・・・」
和知が声をかけてきた。そういや和知からもらってなかった。今ここでくれるのか?大した度胸と勇気だなと思ったら、そこそこの大きさの紙袋が差し出された。
「・・・ あ?」
「あの、1年生の女子から・・・渡しておいてってたくさん預かりまして・・・。あ、これは山田先輩で・・・こっちが・・・」
「なんだよ和知、お前はもらえなかったのか?もしかして」
「うう・・・これみーんな預かりものです・・・。こっちが足立くん・・はい・・」
ぼんやりした表情で受け取った足立は、和知と同い年の男だった。いや、同い年なんだし直接渡してやれよ。和知を使うな。
和知は若干しょんぼりしながら、預かったチョコを律儀に配った。
「わー、橋本多いな。これ手作りかな」
「やるよ」
「え?食わねぇの?」
「手作りなんか食えるか。気持ちわりぃ」
「まぁ、たまに、うーん?って思うものあるもんなー。でもちゃんと持って帰ってやれよ」
ロッカーに紙袋を押し込んでグラウンドに向かう。和知が後ろからちょこちょこついてきた。真面目にマネージャーに専念していた。
*************
「じゃあ、失礼します」
「んー」
おれの家の前で和知と別れた。
部屋に入って制服を脱ぐ。何もなかったな。
まぁ、男同士だしそういう話したことなかったからな。何もないのは当たり前だ。
だけど、なんかしっくりこねー。
貰ったチョコレートたちを乱暴に冷蔵庫に突っ込む。お返しなんかしたことがなかった。売り場に行ったことすらない。
毎年もらうだけもらって終了。そして食うのは親父。
今年は和知がくれると思っていたから拍子抜けした。あいつイベント大好きだから絶対あると思ってたのに。
別に用事なんかないのに、携帯を取り出して耳に当てる。なんか、なんかな。
『はい』
「あー・・うちくるか聞くの忘れてたから、電話した」
『え、あ、ありがとうございます。えーっと・・・もうおうちついちゃって・・・』
「じゃあそっち行っていいか」
『・・・は、はい。どうぞ』
なんかあんまり嬉しそうな感じじゃねえな。嫌だったのか?まぁ、いいや。
着替えは和知の家に置きっぱなしなのでエナメルバッグを担ぎ直して外に出る。風が冷たかった。歩いてマンションへ向かいインターホンを押すと、短い応答があってすぐに自動ドアが開いた。エレベーターに乗って和知の部屋へ行くと、いつも通りにこにこしながら迎えてくれた。
「すみません、冷蔵庫に大したもの入ってなくて、簡単なものしか作れないんですけど・・・」
「あー・・うん、別に・・、なんか買いに行くか」
「あ、じゃあスーパー・・・」
スーパーへ行くと、バレンタインコーナーがまだおいてあった。
和知はそこを素通りして野菜や肉を物色する。もしかしてバレンタインだけ、淡泊なのか?女が男に渡すイベントだと思ってるから、自分には関係ないと思ってるのか?いや、まぁ、おれだってそう思ってるけどさ。
バレンタインでこんなにいろいろ考えたの、初めてだ。
相当和知からのを期待していたんだと気付いた。ちょっとがっかりした。本当にちょっと。
まぁおれも準備なんかしてなかったから、和知のこととやかく言えないけど。
買い物を済ませて家に戻り、2人でキッチンに立って適当に夕飯を作った。和知はニコニコしていた。おれはもやもやしていたけど。
風呂に入ってリビングへ戻ると、和知は食洗器へ皿を並べていた。あー、もやもやする。もやもやしっぱなし、どんだけ期待してたんだ、おれは。
「ッチ」
「え!?あ・・・あの、何かありました・・?」
「別に」
「・・・な、なんか怒ってますか・・?」
「怒ってねぇ」
「・・・そうですか・・」
「・・・怒ってねぇけど・・・イラついてる。やっぱ帰るわ」
「えぇ!?」
そう告げると、和知は素っ頓狂な声を出した。大慌てで近づいてくると、何で何でと半べそで袖を掴んだ。
「僕が何かしたならちゃんと謝りますから!ご飯おいしくなかったですか?苦手なもの入ってましたか?味変でしたか?」
「ちげーって・・・。離せって」
「・・・そんな・・・先輩・・・嫌です・・・一緒にいたいです・・・」
「・・・明日また来るから」
「・・・明日も来てほしいけど今日もいてほしいんです・・・せっかく、バレンタインですし・・・」
「だから帰るんだっつの」
つい本音を漏らすと、和知は悲しそうに目を見開いた。
ゆっくり手を離すと、俯いてぽつっと言った。
「・・・チョコ、くれた子の中に、可愛い子いたんですか・・・?」
「・・・は?」
「その子のところに行くんですか・・・?」
「おっまえ、バカじゃねぇの?」
「だって不安なんですもん!先輩がモテるのは知ってたけど、あんなにモテるなんて思わなかったんですもん!僕、僕なんかじゃ、僕なんかじゃ太刀打ちできないくらい可愛い子から預かったんですから!ていうかみんなすごく可愛かったんですから!僕なんか毛虫以下です!」
「うるせー!可愛いかどうかなんか知るか!興味ねぇし世界で一番下らねーことだろ!おれは目が腐ってるから毛虫以下がいっちばん可愛いんだよ!次疑ってみろ、ぶっ飛ばすぞ!」
ついつい感情的になって拳を振り上げると、和知はびくついて縮こまった。あっぶね・・・何やってんだ、おれ。軽く小突いたり叩いたりからかうのは好きだけど、これは違う。ただの暴力だ。たかだかチョコの1つや2つで何を感情的になってるんだ。初めて和知に疑われてちょっと驚いたっていうのは、言い訳にならない気がする。
「・・・わり」
「・・・ぼ、僕も、ごめんなさい・・・。ごめんなさい・・・」
「・・・殴らねぇから、顔あげろ」
「・・・疑って、ごめんなさい・・・」
「・・・別に、本心じゃねぇだろ」
顔が上がった。くしゃくしゃにして何度もうなずいて、顔を拭った。
帰らないで、と消えそうな声で言われて、帰れるはずもなかった。
体が冷えたので、今度は和知と風呂に入ってそのままベッドへ移動した。
ガキくせぇ・・・。何やってんだか。
チョコねぇのって聞いてみればいいのに、普段かっこつけてるからこういう時に素直になれない。バカみてぇ。
「先輩、」
「ん・・・」
「・・・あの、あの・・・」
「んだよ・・・」
「か、可愛いって、言ってくれて、ありがとうございます・・・」
「・・・あー・・・忘れろ、ボケ」
恥ずかしくなってべちんっと小さな額を叩く。えへへ、と鼻声で笑うと、もそもそと近づいてきた。
セックスしてすっきりして寝るかな。ちんこ勃つかな。和知のこと触ってれば勃つか。
尻を撫でると大きく体が跳ねた。顔を隠そうとしたので無理やり髪を引っ張る。
「いたっ・・」
「あ・・わり」
ちょっと力が入りすぎたようだった。あー、ダメだ、調子狂ってる。萎えた。
「先輩・・・」
「何」
「・・・チョコ、その、何個もらったんですか・・・?」
「知らねー。興味ねぇ」
「え?手紙、入れてた子もいて・・読みました・・・?」
「紙袋ごと冷蔵庫」
「・・・ほ、本命っぽかったので、ちゃんとお返事とかしてあげないと・・・」
「うるっせーな。本命だろうがなんだろうが、自分の本命からもらってねぇのになんで気にかけなきゃならねーんだ」
うっわ、やっべ・・・。ガキくさ・・・。
和知を見ると、目をくりくりに大きく開いておれを見ていた。起き上がってスウェットを脱ぐ。
「やっぱ帰る」
「えぇえ!?せ、先輩・・!待って・・!」
「離せ。帰るったら帰る」
「嫌です!嫌・・!先輩、僕、僕、用意してたんです・・・!」
動きを止めて和知を見る。すがるようにおれを見上げ、すんっと鼻を鳴らして鍵付きの引き出しを開けた。小さな紙袋を差し出してくる。受け取って中を見ると、カップケーキが2つ入っていた。
「今日、朝練なくて、渡せなくて・・・放課後渡そうと思ったら、先輩、たくさんもらってるし・・あと、あの、」
「・・・あと、 何」
「・・・て、手作り、き、き、気持ちわりーって・・・言ってたから、躊躇してしまって・・・ご、ごめんなさい、手作りで・・・」
「・・・お前、バカか?手作りって・・・お前の飯食ってんじゃん、おれ・・・」
「・・・え?あ?」
「あのさ、知らねーやつが作ったものってお前、食えるか?顔も名前も知らねーやつだぞ?惣菜とか弁当とかは別だぞ?おれらと同い年の、どっちかっつーと料理スキルのない女が作ったものだぞ?食えるか?」
和知は少し考えると、苦々しい顔をした。
一気に脱力した。深くため息をついてしまう。つまんねーこと気にしてたんだな・・・。ちょっと考えればわかるだろ・・・。普段から飯食ってんじゃん・・・。
イライラしてたのがバカらしくなってくる。
「ご、ごめんなさい・・すみません・・・」
「・・・お前マジで、バカだな・・・」
「・・・すみません・・・。も、もしかして、あの、・・・僕が渡さなかったから、イライラしてたんですか・・・?」
上目づかいでおれを見て、顔を真っ赤に染めていた。不自然に口元が緩んでいるのは、きっと嬉しいからなんだろう。ものすごくイラッとした。
「帰る」
「あ、いや、あの、嫌です、一緒に・・・」
「ニヤニヤすんじゃねぇ」
「だ、だって、だって・・・!ご、ごめんなさい・・・」
「・・てめぇ、覚悟できてんだろうな」
「ご、ごめんなさい!あの、ちが、その、だって、う、嬉しい・・じゃなくて!わぁ!」
細い肩をどついてベッドに転がす。紙袋は机に置いて、和知のスウェットを無理やり脱がせた。
「こ、怖いのは嫌ですう・・!」
「おれが怖いか?好きじゃなくて?」
「え・・!す、好き・・・!大好きです・・・!」
「じゃあできんだろ」
「何するんですか・・・?痛いのは嫌・・・!」
「あほ。痛くしたことなんかねーだろ。全部脱いでおれの顔にまたがれ」
「・・・は、恥ずかしいです!そんな失礼なことできませ、」
「やれ」
首を撫でながらキスをすると、すぐに体の力が抜けた。ふらふらしながらおれの顔にまたがると、小刻みに震えて腰を落とした。
支えてやり、和知の小さなペニスをつるんと口に含むと、恥ずかしそうに顔を隠した。
あー、なんか満足。
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「これ、間違って僕のところに入ってた」
顔を上げると、水出が赤いチェックの紙袋をおれに突き付けていた。
今日はバレンタインデーなので、こういうものが飛び交う日だ。
「これ、お前のじゃねぇの」
「まさか」
押し付けられる形で手渡された。何でおれ?と思ったけど、そういや水出の下駄箱、おれの隣だったっけ。
絶対に水出のだと思うけど、自分のものじゃないと頑なな態度だったので、とりあえず受け取っておくことにした。
ちなみに水出と喋ったのはこれが初めて。
きょとんとした顔の山田がおれの手元を見て言う。
「もてるなー、お前」
「いらねーよ、こんなもん」
これは正直な感想だった。あんまり甘いもの好きじゃねぇし。というか女はイベントに浮かれすぎなんだよ。クールぶってるつもりはない。本気でそう思っている。
授業が終わって部活に入る。部室ではチョコを何個もらっただのとはしゃぐ同級生、先輩、下級生で溢れていた。
どうせ義理の義理だろうに。山田がぽつりと、貰うなら本命一個だよなー。ほしいな、と呟いた。これには賛同した。結局そんなもんなのだ。量より質。
「あの、橋本先輩、これ・・・」
和知が声をかけてきた。そういや和知からもらってなかった。今ここでくれるのか?大した度胸と勇気だなと思ったら、そこそこの大きさの紙袋が差し出された。
「・・・ あ?」
「あの、1年生の女子から・・・渡しておいてってたくさん預かりまして・・・。あ、これは山田先輩で・・・こっちが・・・」
「なんだよ和知、お前はもらえなかったのか?もしかして」
「うう・・・これみーんな預かりものです・・・。こっちが足立くん・・はい・・」
ぼんやりした表情で受け取った足立は、和知と同い年の男だった。いや、同い年なんだし直接渡してやれよ。和知を使うな。
和知は若干しょんぼりしながら、預かったチョコを律儀に配った。
「わー、橋本多いな。これ手作りかな」
「やるよ」
「え?食わねぇの?」
「手作りなんか食えるか。気持ちわりぃ」
「まぁ、たまに、うーん?って思うものあるもんなー。でもちゃんと持って帰ってやれよ」
ロッカーに紙袋を押し込んでグラウンドに向かう。和知が後ろからちょこちょこついてきた。真面目にマネージャーに専念していた。
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「じゃあ、失礼します」
「んー」
おれの家の前で和知と別れた。
部屋に入って制服を脱ぐ。何もなかったな。
まぁ、男同士だしそういう話したことなかったからな。何もないのは当たり前だ。
だけど、なんかしっくりこねー。
貰ったチョコレートたちを乱暴に冷蔵庫に突っ込む。お返しなんかしたことがなかった。売り場に行ったことすらない。
毎年もらうだけもらって終了。そして食うのは親父。
今年は和知がくれると思っていたから拍子抜けした。あいつイベント大好きだから絶対あると思ってたのに。
別に用事なんかないのに、携帯を取り出して耳に当てる。なんか、なんかな。
『はい』
「あー・・うちくるか聞くの忘れてたから、電話した」
『え、あ、ありがとうございます。えーっと・・・もうおうちついちゃって・・・』
「じゃあそっち行っていいか」
『・・・は、はい。どうぞ』
なんかあんまり嬉しそうな感じじゃねえな。嫌だったのか?まぁ、いいや。
着替えは和知の家に置きっぱなしなのでエナメルバッグを担ぎ直して外に出る。風が冷たかった。歩いてマンションへ向かいインターホンを押すと、短い応答があってすぐに自動ドアが開いた。エレベーターに乗って和知の部屋へ行くと、いつも通りにこにこしながら迎えてくれた。
「すみません、冷蔵庫に大したもの入ってなくて、簡単なものしか作れないんですけど・・・」
「あー・・うん、別に・・、なんか買いに行くか」
「あ、じゃあスーパー・・・」
スーパーへ行くと、バレンタインコーナーがまだおいてあった。
和知はそこを素通りして野菜や肉を物色する。もしかしてバレンタインだけ、淡泊なのか?女が男に渡すイベントだと思ってるから、自分には関係ないと思ってるのか?いや、まぁ、おれだってそう思ってるけどさ。
バレンタインでこんなにいろいろ考えたの、初めてだ。
相当和知からのを期待していたんだと気付いた。ちょっとがっかりした。本当にちょっと。
まぁおれも準備なんかしてなかったから、和知のこととやかく言えないけど。
買い物を済ませて家に戻り、2人でキッチンに立って適当に夕飯を作った。和知はニコニコしていた。おれはもやもやしていたけど。
風呂に入ってリビングへ戻ると、和知は食洗器へ皿を並べていた。あー、もやもやする。もやもやしっぱなし、どんだけ期待してたんだ、おれは。
「ッチ」
「え!?あ・・・あの、何かありました・・?」
「別に」
「・・・な、なんか怒ってますか・・?」
「怒ってねぇ」
「・・・そうですか・・」
「・・・怒ってねぇけど・・・イラついてる。やっぱ帰るわ」
「えぇ!?」
そう告げると、和知は素っ頓狂な声を出した。大慌てで近づいてくると、何で何でと半べそで袖を掴んだ。
「僕が何かしたならちゃんと謝りますから!ご飯おいしくなかったですか?苦手なもの入ってましたか?味変でしたか?」
「ちげーって・・・。離せって」
「・・・そんな・・・先輩・・・嫌です・・・一緒にいたいです・・・」
「・・・明日また来るから」
「・・・明日も来てほしいけど今日もいてほしいんです・・・せっかく、バレンタインですし・・・」
「だから帰るんだっつの」
つい本音を漏らすと、和知は悲しそうに目を見開いた。
ゆっくり手を離すと、俯いてぽつっと言った。
「・・・チョコ、くれた子の中に、可愛い子いたんですか・・・?」
「・・・は?」
「その子のところに行くんですか・・・?」
「おっまえ、バカじゃねぇの?」
「だって不安なんですもん!先輩がモテるのは知ってたけど、あんなにモテるなんて思わなかったんですもん!僕、僕なんかじゃ、僕なんかじゃ太刀打ちできないくらい可愛い子から預かったんですから!ていうかみんなすごく可愛かったんですから!僕なんか毛虫以下です!」
「うるせー!可愛いかどうかなんか知るか!興味ねぇし世界で一番下らねーことだろ!おれは目が腐ってるから毛虫以下がいっちばん可愛いんだよ!次疑ってみろ、ぶっ飛ばすぞ!」
ついつい感情的になって拳を振り上げると、和知はびくついて縮こまった。あっぶね・・・何やってんだ、おれ。軽く小突いたり叩いたりからかうのは好きだけど、これは違う。ただの暴力だ。たかだかチョコの1つや2つで何を感情的になってるんだ。初めて和知に疑われてちょっと驚いたっていうのは、言い訳にならない気がする。
「・・・わり」
「・・・ぼ、僕も、ごめんなさい・・・。ごめんなさい・・・」
「・・・殴らねぇから、顔あげろ」
「・・・疑って、ごめんなさい・・・」
「・・・別に、本心じゃねぇだろ」
顔が上がった。くしゃくしゃにして何度もうなずいて、顔を拭った。
帰らないで、と消えそうな声で言われて、帰れるはずもなかった。
体が冷えたので、今度は和知と風呂に入ってそのままベッドへ移動した。
ガキくせぇ・・・。何やってんだか。
チョコねぇのって聞いてみればいいのに、普段かっこつけてるからこういう時に素直になれない。バカみてぇ。
「先輩、」
「ん・・・」
「・・・あの、あの・・・」
「んだよ・・・」
「か、可愛いって、言ってくれて、ありがとうございます・・・」
「・・・あー・・・忘れろ、ボケ」
恥ずかしくなってべちんっと小さな額を叩く。えへへ、と鼻声で笑うと、もそもそと近づいてきた。
セックスしてすっきりして寝るかな。ちんこ勃つかな。和知のこと触ってれば勃つか。
尻を撫でると大きく体が跳ねた。顔を隠そうとしたので無理やり髪を引っ張る。
「いたっ・・」
「あ・・わり」
ちょっと力が入りすぎたようだった。あー、ダメだ、調子狂ってる。萎えた。
「先輩・・・」
「何」
「・・・チョコ、その、何個もらったんですか・・・?」
「知らねー。興味ねぇ」
「え?手紙、入れてた子もいて・・読みました・・・?」
「紙袋ごと冷蔵庫」
「・・・ほ、本命っぽかったので、ちゃんとお返事とかしてあげないと・・・」
「うるっせーな。本命だろうがなんだろうが、自分の本命からもらってねぇのになんで気にかけなきゃならねーんだ」
うっわ、やっべ・・・。ガキくさ・・・。
和知を見ると、目をくりくりに大きく開いておれを見ていた。起き上がってスウェットを脱ぐ。
「やっぱ帰る」
「えぇえ!?せ、先輩・・!待って・・!」
「離せ。帰るったら帰る」
「嫌です!嫌・・!先輩、僕、僕、用意してたんです・・・!」
動きを止めて和知を見る。すがるようにおれを見上げ、すんっと鼻を鳴らして鍵付きの引き出しを開けた。小さな紙袋を差し出してくる。受け取って中を見ると、カップケーキが2つ入っていた。
「今日、朝練なくて、渡せなくて・・・放課後渡そうと思ったら、先輩、たくさんもらってるし・・あと、あの、」
「・・・あと、 何」
「・・・て、手作り、き、き、気持ちわりーって・・・言ってたから、躊躇してしまって・・・ご、ごめんなさい、手作りで・・・」
「・・・お前、バカか?手作りって・・・お前の飯食ってんじゃん、おれ・・・」
「・・・え?あ?」
「あのさ、知らねーやつが作ったものってお前、食えるか?顔も名前も知らねーやつだぞ?惣菜とか弁当とかは別だぞ?おれらと同い年の、どっちかっつーと料理スキルのない女が作ったものだぞ?食えるか?」
和知は少し考えると、苦々しい顔をした。
一気に脱力した。深くため息をついてしまう。つまんねーこと気にしてたんだな・・・。ちょっと考えればわかるだろ・・・。普段から飯食ってんじゃん・・・。
イライラしてたのがバカらしくなってくる。
「ご、ごめんなさい・・すみません・・・」
「・・・お前マジで、バカだな・・・」
「・・・すみません・・・。も、もしかして、あの、・・・僕が渡さなかったから、イライラしてたんですか・・・?」
上目づかいでおれを見て、顔を真っ赤に染めていた。不自然に口元が緩んでいるのは、きっと嬉しいからなんだろう。ものすごくイラッとした。
「帰る」
「あ、いや、あの、嫌です、一緒に・・・」
「ニヤニヤすんじゃねぇ」
「だ、だって、だって・・・!ご、ごめんなさい・・・」
「・・てめぇ、覚悟できてんだろうな」
「ご、ごめんなさい!あの、ちが、その、だって、う、嬉しい・・じゃなくて!わぁ!」
細い肩をどついてベッドに転がす。紙袋は机に置いて、和知のスウェットを無理やり脱がせた。
「こ、怖いのは嫌ですう・・!」
「おれが怖いか?好きじゃなくて?」
「え・・!す、好き・・・!大好きです・・・!」
「じゃあできんだろ」
「何するんですか・・・?痛いのは嫌・・・!」
「あほ。痛くしたことなんかねーだろ。全部脱いでおれの顔にまたがれ」
「・・・は、恥ずかしいです!そんな失礼なことできませ、」
「やれ」
首を撫でながらキスをすると、すぐに体の力が抜けた。ふらふらしながらおれの顔にまたがると、小刻みに震えて腰を落とした。
支えてやり、和知の小さなペニスをつるんと口に含むと、恥ずかしそうに顔を隠した。
あー、なんか満足。
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