群青色の約束

和栗

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pinkie2

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※時期としては「水色と恋」の「笑顔」のずっと前の話です。


************


クリスマスって、した方がいいのか?
部活の予定はない。冬休みだし、1日空いてる。
声かけた方がいいのか?まぁ、一応かけておくか。和知、結構イベント好きそうだもんな。
「す、すみません、塾で・・・」
クリスマス3日前の部活終わり。和知に予定を聞くと、申し訳なさそうに視線を落とした。
あー、なるほど。塾ね。ふーん。
「あそ」
「あ、で、でも!15時には終わります!その後とか!」
「え、店とか一番混む時間じゃん。やだよ」
ついいつもの調子で答えると、悲しそうな顔をした。いやいや、でも、事実だし。
「・・・ごめんなさい、あの、すみません・・・」
「いいって」
「・・・ごめんなさい、先輩、イベントとか、嫌いかと思って、その・・・」
「・・・あー、そう。おれはお前が好きだと思ったから声かけたけどな」
「えっ、」
「まぁ、いいや。じゃぁ」
「す、好きです、イベントとか、大好きです・・・。本当は、一緒にいたいです・・・」
「塾行け。成績落ちたらやべーんだろ」
「終わったら・・・」
「だから、嫌だって」
「・・・ごめんなさい、」
「このやりとり無駄だから、帰るわ」
和知を置いて帰る。
いや、普通に、塾が終わったら会えばいいじゃん。
別に混んでないところ行けばいいじゃん。
和知の家とかで過ごせばいいじゃん。
そう思ったけど、断られるとは思ってなかったので意地を張ってしまった。
おれもまだまだガキだな。
つーか、おれイベント嫌いって言ったっけ?そういうイメージ?まぁ、間違っちゃいないけど。
部屋に入ってジャージを脱ぐ。なんかイライラするなー。

************

結局何もないまま、クリスマスになってしまった。
部屋でボーッとしていると、階段を上る音がした。ガラッとふすまが開く。山田だった。
「お前本当に勝手なやつだな」
「おじさんには声かけたぞ」
「おれがオナニーしてると思わなかったのか?」
「思わなかった。してても別に。彼女とも会わないって言ってたし、いいやーって。珍しいよな、イベント興味ない女って」
まぁ女じゃないけどな。
雑誌をめくりながら山田の無駄話を聞く。
「年明けたら、佑に声かけてみようと思う」
「去年も言ってたな」
「・・・いや、そうだけど、なんかもー、どう声をかけていいのやら・・・」
「・・・無理しなくていいんじゃねぇの」
小学生の頃離れ離れになった幼馴染みが、同じ高校にいた。ちょっと色々あったので割愛するけど、知りたかったら別の話を読んでほしい。まぁ、置いといて。山田の顔を見ると、真剣な顔をしていた。
「・・・水出、いるじゃん。あの小綺麗な顔した」
「・・・あー。水出な。うん」
「佑と中学が一緒だったみたいだ。なんか話してるときに聞こえたんだけど・・・」
「あいつ最近サッカー部といるよな。つるむタイプじゃないのに」
「え?あー・・・確かに・・・」
「で、水出がどーしたって?」
「水出にちょっと、聞いてみようかなって・・・。いつから杖、ついてるのか・・・」
「・・・ふーん」
あの事故で足が動かなくなったのだろうか。それとも別なことで?
小学生の頃は、一緒に走り回っていたから、確かに気にはなるな。
「つか、なんで来たの。それ言うために来たのか?」
「いや、暇だし・・・キャッチボールでもしないかなって」
「おれはこれからオナニーするから無理」
「じゃぁ待ってるわ」
いや、遠回しに断ってるんだけどな。こいつ、そういうところが疎いんだよな。
バカっていうか、自分優先っていうか。
諦めて雑誌を投げ、グローブを持つ。
「分かったよ。どこ」
「公園にしようぜ。どーせ誰もいねぇよ」
ジャージを着て公園に向かう。携帯は置いてきた。煩わしいだけだ。

************

「あ!やべっ!忘れてた!」
ボールを投げた山田が叫んだ。
時計を見ると16時になっていた。
「どうした」
「スーパーのセール、16時からだから荷物持ちしろって母ちゃんに言われてたんだ。やっべ、超キレてるなこれ」
「・・・お前、すみれさん怒らせるの得意だよな」
「うちのババァをすみれさんとか呼ぶな。気色悪いな」
「みんな呼んでるじゃん」
「わけー男に呼ばれると調子乗るんだよ。ババァのくせに」
「だーれがババァだって?クソ坊主」
山田の後ろに立ったのは、線の細い女性だった。山田のお母さんだ。
指輪のついた拳で予備動作もなく高いところにある頭を殴る。
「いっ・・・!!ふざけんなババァ!」
「うるさい、お前を時間も約束も守れない男に育てた覚えはない!ババアが嫌なら帰ってこなくていい!」
「嫌なんて言ってねえだろ!」
「顔が言ってんのよ!もういい、母さん1人で買い物行くから!あんたは飯抜き!」
「今帰ろうと思ってたんだよ!行かないなんて一言も言ってねえだろ!」
相変わらずコントな親子だな。
やりとりを楽しんでいると、すみれさんが突然ニコッと笑っておれを見た。
「勇ちゃんいつもごめんね。このバカ相手にしてて疲れるでしょ」
「まぁ、時々」
「そんなことないって言えよ!」
「さっきたっちゃんと会ったから、唐揚げ渡しといたから食べてね」
たっちゃんはおれの父親だ。
山田の父親と仲が良いのだ。2人とも酒飲みだからな。
「ありがとう、すみれさん」
「いいのよ、こちらこそいつもありがとうね」
「んじゃ、また明日な。午後だからな」
「ん」
公園で別れて家に帰る。日が暮れて、一気に冷え込んだ。
晩飯、スーパーの残り物でも見に行こうかな。どうせ親父は飲みに行くだろうし。
財布に金あったっけ、と思いながら玄関を開ける。テレビの音と親父の笑い声が聞こえた。
のれんをくぐって顔を上げると、なぜか親父の隣に和知が座っていた。
びっくりしすぎてぼんやりと固まってしまう。
「お。おかえり。なんかこの子、外うろうろしてたから中入れちゃった。野球部の後輩なんだろ?」
「・・・あー、うん・・」
「こ、こんにちは・・・。お邪魔してます・・・」
「おれ飲んでくるけど、一緒にくるか?」
「居酒屋の飯、チマチマ出てきて面倒だからいい。金だけくれよ」
「ん。じゃぁ出るわ」
和知に、じゃーまたね、と言いながら肩を叩く。親父は口笛を吹きながら出て行った。バカみたいなテレビ番組の音が響いてうるさいので、電源を落とす。
「・・・部屋上がるか」
「は、はい!あの、いきなりきて、すみません・・・」
部屋に入って座布団の上に座る。和知はちょこんと正座をすると、カバンを漁って包みを出し、差し出してきた。
「これ、あの、・・・プレゼント・・・」
「・・・あー・・・どうも」
受け取ると、ほっとした顔。
放り投げておいた携帯を見ると、和知からの着信があった。
「連絡、何度かしたんです・・・」
「外いた」
「・・・えと、じゃぁ・・・あの、お暇します・・・すみませんでした、いきなり来て・・・」
「あー、うん」
「・・・」
「・・・」
「・・・お邪魔、しました・・・」
「・・・一緒にいたいんじゃねぇの」
「・・・い、一緒に、いたいですぅ・・・!」
目を潤ませ、和知はおれを見た。
手招きをすると、すっ飛んできた。抱きとめて髪を引っ張って顔を上げさせる。
「和知、ごめんなさいは?」
「ご、ごめんなさい・・・!」
「おれ、イベント嫌いって言ったっけ?」
「苦手って、聞いたことがあって・・・!だから、嫌かなって、」
「次からはちゃんと確認しろ」
返事をする前に唇を重ねると、腕をギュッと掴まれた。
「これ、何入ってんの?」
「・・・開けてください」
リボンを外して引っ張り出すと、深い赤色の手袋が入っていた。
「いつも軍手だから・・・寒いだろうなって思って・・・。前から買っておいたんです・・・」
「へー。ありがとう」
「・・・えへへっ、すごく、似合います」
「ん、そか。おれ何もないけど」
「いらないです。会えてよかったです。・・・あの、誰かと、いたんですか・・・?」
「あぁ、山田。暇だからキャッチボールしてた。和知、泊まって行くだろ。明日午後からだし」
「え!いいんですか?!う、嬉しいです!」
「飯食いに行くか。何がいい?」
「えーっと、・・・えへへ、何でもいいです。先輩とご飯食べれるなら、なんでも、どこでも」
冗談でもなく、和知はこういうことを本気で言う。
外食は混んでそうだから、スーパーに行くことにした。
スーパーも混んでるけど、買い物が終わればすぐに店から出られるから苦にならない。
「わ、このスーパー安いんですね」
「そーか?まぁ、惣菜の割引とかは結構してくれるからありがたいけど」
「チキン買いますか?」
「山田のお袋に唐揚げもらったけど、足りないから買う」
「あ、ケーキ・・・」
足を止めた和知を振り返る。ケーキが2つ入ったパックを見つめていた。50円引き。
「いーよ」
「えっ、いいんですか?」
「うん。入れろよ」
「お得ですね!こんなに安いのに50円引きですもん!」
心底嬉しそうに言うもんだから、ちょっと笑った。
和知の家は金持ちなのに、和知自身の金銭感覚は一般庶民だ。
「和知ぃ」
「はい」
「ここ、大晦日もすげーんだぞ。半額の嵐だ」
「えぇえ!すごい!そうなんですね!」
「来るか?」
「え・・・でも、ご家族と・・・」
「どうせろくなもん食わないし、親父は年明け直前に飲みに行くだろうし。和知、なんか作ってよ」
ぽわっと頬が赤くなる。ぶんぶんと首を縦に振り、嬉しそうに顔を崩した。
そのまま初詣な、と付け加えると目を輝かせる。
お正月料理調べてきます、と張り切っていたので、いつもどおりでいいよと答える。
和知の飯はなんだってうまいのだ。




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