群青色の約束

和栗

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イエロー・ハッピー〜君は幼なじみ〜

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たまには飯いかね?といきなり声をかけられた。山田はなんとなく恥ずかしそうな顔をしていたので、これは何かあったなと察した。
商店街の定食屋に行くと会話が筒抜けになってしまうので、駅のファミレスに入る。端っこに陣取ると、突然顔を崩した。照れくさそうに頭をかく。
「なあ、おれさ、付き合ってるやついるんだけどさ」
驚いて開いた口が塞がらなかった。
チア部の女と付き合ってた時、あんなに面倒だ面倒だとグチグチ言っていたのに、また性感りもなく付き合うだの言ってるのか。
確かにあの女は面倒くさそうだなと思ったし、なんで入部したての山田に手を出したのかも理解不能だったし、そもそもほだされたこいつも意味不明だけど。
こいつも別に悪い奴じゃないけど、結構突っ走るし自分の好きなことに連れまわそうとするし、子供みたいに感情を表したり(逃げたり怒ったり)、幼なじみのおれでさえ少々面倒くさい奴だなと感じるのに、いったいどんな聖母がこいつと付き合うことにしたんだろうか。
「誰。またチア部?」
「あのさ、引くなよ?」
「・・・なんだよ。気になるな」
「絶対引くなよ。絶交とかするなよ」
何を子供じみたことを言ってるのか。今時子供でも言わないだろ、絶交とか。メニューを閉じてボタンを押す。
「引かねえよ。むしろチア部のあの女と付き合う時の方が引いたよ」
「・・絶対だからな。・・・あのな、佑と付き合ってる」
顔が固まった。というか、体。タスク?宮田と付き合ってるだって?別に性別なんてどうだっていい。だけど、だけど。
「お前、何、言ってんの?」
山田の顔がこわばった。しばらく沈黙が続いた。店員が来たけど無視した。氷の入ったグラスから、水滴が落ちていく。
「宮田って・・・なんで、宮田なの」 
「・・・なんでって、好きだから、」
「それは本当に、好きなのか?同情と罪滅ぼしじゃなくて?」
「・・・・お前が、何言ってんの」
「だって、お前・・・忘れたの?ガキの頃、お前、散々泣いてたじゃん。自分のせいだって、泣いたじゃないか」
宮田がトラックに吹っ飛ばされたのを、おれは10メートルほど後ろで見た。小さな交差点の見通しの悪い場所だった。クラスのいじめっ子が3人と、おれと山田と宮田。
宮田がノートを盗られたと泣いて、山田が怒って取り返しに走ったのを、べそをかきながら宮田が追いかけ、面倒だなと思ったおれは何もしないでそのままのペースで歩き続けた。そして事故が起きた。
跳ねられる直前、宮田は山田を突き飛ばした。逃げられなかった宮田がはねられ、そのまま壁にぶつかって落ちた。足が変な方向に曲がっているのを、小さな体が血を流してぐったり倒れる姿も、おれは一生忘れないと思った。
いじめっ子も、おれも、微動だにできなかった。山田が泣きながら近づいて体をゆすり、誰かが呼んだであろう救急車で2人は運ばれた。
いじめっ子は腰を抜かしてへたり込んで、おれは大人に頼んで学校に連絡して親に迎えに来てもらった。
宮田は入院してほどなく、突然引っ越していった。おれも山田も、なにもできることがなかった。
人前じゃ泣かなかったが、学校帰りにおれの家に来ては泣いていた。他によりどころがなかったのだ。それを知っているから、山田が言い出したことが理解できなかった。
「絶対後悔する。宮田も。やめとけ。今ならまだ戻れるから」
「何に」
「普通の友達だ。お前、久々に宮田と話せて浮かれて勘違いしてるだけだ。しっかりしろよ、あれはお前のせいじゃない、誰もお前を責めなかっただろ」
「・・・」
「宮田だって困るだろ。お前が同情と罪悪感で付き合ってくれって言ってるの、分かってると思うぞ。それでも付き合うって了承したのは、宮田が宮田なりにお前に同情したからだ。同情で付き合うなよ」
「・・・同情って、足が動かないことに対してか」
「ほかに何があるんだ」
「・・・足が動かないのは、まぁ、事故が原因で・・・確かにそのきっかけを作ってしまったのはおれだけど・・・付き合うこととは別だと思う・・。それに、おれ、もう罪悪感、ないよ」
「根拠は」
「ちゃんとごめんって謝って、おれのせいじゃないって言ってもらったからかな。あとは・・おれが、おれ自身を許せたよ。やっぱりそれは、佑のおかげだけど」
許せた?あんなに泣いて落ち込んで、時々感情がコントロールできなくて家出して大騒ぎを起こしたくせに。何度、おれまで泣きそうになりながら探したことか。1人にしないように一緒に行動したことか。
中学で別れることになった時、心配でたまらなかった。でも、打ち込めるものがあった。山田を1人にしたくなくておれも始めた野球。きっと山田もおれも、忘れることなんてできないから、思い出さないようにのめりこんだ。
「・・佑が笑うと嬉しいんだ。それは幼稚園の時から変わってない。高校入って佑を見かけて声がかけられなかったのは、お前のせいだって言われるのが怖かったからだけど、そんなこと言われなかったし、どんどん自分を追い詰めるために事実に脚色してたんだって気づけたし、だから視野が広くなった。視野が広くなった途端、別に右の足が動かなくたってあんまり関係ないなって思った。動かなくてもできることなんてたくさんあるしな。佑、すげーチャレンジャーだよ、ピッチングとかするし、卓球だってするし、車のゲームだってやるし。この間ボーリングもしたし、テニスもしてきたしな。一緒にできること、たくさんあるんだ」
「・・・いつか、お前のせいだって言われる日が来るかもしれないぞ」
「んー・・・足が動かないからもどかしいってたまに言われるけど、でもおれのせいってニュアンスではないな。単純にいらだつみたいだ。おれとペースが合せられなくて。でもそんなの、おれが合せればいいんだよな。たまに失敗して喧嘩するけど、喧嘩してくれるってことは、ちゃんとおれに気持ちがあるってことかなって」
ああ、本当に、好きなんだなと思った。
宮田とのことを話す山田は穏やかだった。前までは刺々しかった雰囲気が、今は丸くなっている。あんなに嫌っていたサッカー部のやつとしゃべって笑うくらいなのだ。宮田と再会して何かを共有して、毒気を抜かれたようだった。
ふう、とため息をついてもう一度ボタンを押す。注文すると、山田も慌てて注文を済ませた。
「ありがとな、橋本」
「何が」
「今も昔もおれのこと心配してくれてさ。おれのこと思って、厳しいこと言ってくれたんだろ」
「・・・しらね」
ドリンクバーに行くふりをして熱を持った顔を隠す。超あちい。くそ、慣れないことするんじゃなかった。
席に戻ると、携帯をいじっていた。にやっと笑うと、大事そうにポケットへしまう。
「宮田?」
「ん?うん。土曜日練習終わった後遊びに行くんだ」
「ふーん、どこに」
「テニス。2人でできるから面白かった。車いすも面白かった」
「・・面白い?」
「おれも佑も下手くそだから、前に進まないでくるくる回るんだ」
想像して、大笑いした。動画を見せられた。宮田が撮ったのだろう、山田がテニス用の車いすに乗って大笑いしながらくるくる回っていた。
さらに笑うと、橋本も行く?と聞かれた。
「彼女連れてくれば」
「行かねぇよ。2人で遊んでこいよ」
「ちぇー。なぁ、彼女と会わせてよ。お前と付き合うなんてスゲー根性ある子なんだろうな」
「・・・多分見たら、びっくりすると思うぞ」
「へー、そんなに可愛いんだ」
「可愛いよ。小動物みたいで」
答えると、少し驚いた顔をした後に今度会わせろよーと満面の笑みで言った。


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