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イエロー・ハッピー5
しおりを挟む「あの、ユニフォームって、その、・・・着させてもらえる?」
「・・・は?」
やっぱりダメかな・・・。大事なものだもんね・・・。
一度でいいから着てみたかったんだ、野球のユニフォーム。
いつも遠くから眺めているだけだったけど、どうしても袖を通してみたかった。
背番号4番の蓮ちゃんのユニフォームを着たいなんて、少しおこがましいお願いだったかな。
「着てみたくて・・・」
「・・・えっと、ごめん、無理」
あ、やっぱり。
少し落ち込むけど、仕方ない。無理を言ったのは僕だし。
神聖なユニフォームを、そうやすやすと他人には渡せないよね。ハンガーにかかったユニフォームは光り輝いて見えた。綺麗だなって、かっこいいなって思う。
「ごめんね、無理言って・・・」
「・・・もう遅いから、送る」
なんだか、最近の蓮ちゃんは少し変だ。
早めに僕を帰そうとするし、口数も少ない。もうすぐ春の大会の予選が始まるから、緊張しているのかな。自主練をしているのかも。
ボールを拾ったりトスするくらいならできるんだけどなぁ。手伝いたいなって思う反面、邪魔かなって考えてしまう。
バイクに跨って、黙って帰り道を走る。
もう少し一緒にいたいなぁ。
「あの、蓮ちゃん。もう少し一緒にいられないかな・・・」
「あー・・・いいよ。公園でいい?」
西側の大きな公園に入る。駐輪場に自転車が2台停められていた。
「最近暖かくなってきたよね」
「うん」
「・・・あの、手、繋いでもいいかな」
恐る恐る手を出すと、動きが止まった。誤魔化すように顔を手のひらでこすると、くるっと体をこちらに向けた。
「あのさ、しばらく、こーゆーのやめないか」
「・・・え?」
「・・・佑、勉強頑張らないといけないだろ。おれも大会頑張らなきゃならないから・・・」
「・・・それ、理由になってない気がする・・・」
心臓が鈍く音を立てる。
なんか、もっと、他に理由があるはず。こんなことで僕と距離を置きたがるなんておかしいもん。
蓮ちゃんは目を逸らした。
足が重たい。体が動かない。指先が冷たい。
足音が聞こえた。そちらに顔を向けると、水出くんと成瀬くんがいた。
「あれ、宮田くん?」
「あ・・・」
「ごめん佑、おれ帰るわ」
「えっ!?あの、」
引き留めようとすると、背中を向けた。今離れたら追いつけない、と思ったとき、成瀬くんが立ちふさがった。
「なんだよ、成瀬」
「・・・分からん。今帰したらダメだと思った」
「・・・」
「・・・喧嘩は、長引かせない方がいいと思う」
「喧嘩じゃねぇよ・・・」
「じゃぁどうした」
「どうもしねぇよ」
「宮田、泣きそうな顔してるけど」
勢いよく顔がこちらに向いた。
え、泣きそうな顔、してたかな・・・?
そのとき、成瀬くんが思い切り蓮ちゃんの背中を突き飛ばした。転びはしなかったけど、足がもつれ、僕へ突進してきた。踏ん張って抱きとめる。背中に手が添えられた。水出くんだった。
「真喜雄、危ないよ」
「た、佑!大丈夫か!?」
「大丈夫だよ。僕、蓮ちゃんに教わってからずっと筋トレしてるから、腕の力強くなったかも」
「そ、そうか・・・。成瀬!何すんだ!」
「・・・なんか、イラついた」
「はぁ!?」
「君が逃げようとしたから腹が立ったんじゃない?」
水出くんがサラッと毒を吐いた。蓮ちゃんの顔が険しくなったけど、深く息を吐いて、ニット帽を取り、ガリガリと頭をかいた。
「あー、もう・・・。ちょっと、2人とも付き合ってくれ。多分佑と2人じゃダメだから」
「・・・僕のこと、嫌いになったの・・・?」
「はぁ!!???な、なんでそうなるんだよ!」
「最近口数少ないし、すぐ家に帰そうとするし、しばらくこういうのやめようって言うからだよ。大会とか試験とか理由にされても納得できないよ。2人じゃダメって、どういうこと?僕は蓮ちゃんと2人がいいのに、」
「だ・・・!か、ら!!・・・いや、ごめん、おれが悪い・・・その、・・・」
「嫌いなら嫌いって言えばいいのに・・・!」
「馬鹿!ちげーよ!2人でいると、我慢できないんだよ!!分かれよ!」
我慢・・・我慢って、もしかして、前に言ってたことかな・・・?
カーッと顔が熱くなる。水出くんと成瀬くんはどう思っただろう、恥ずかしい。
「成瀬、お前おれの気持ちわかるよな?2人でいたら我慢できないよな?」
「・・・まぁ、そりゃー・・透吾は?」
「僕を巻き込まないでよ。まぁでも、そうだね」
「なんで佑は我慢できるんだよ、疑問通り越して尊敬するよ、おれは無理だ・・・」
蓮ちゃんが俯いてしまう。顔を覗き込むと逸らされた。
我慢してるつもりはない。僕にだって欲求はある。だけど、今じゃないんだ。今はもっと、話をしたり、手を繋いだり、キスをしたり、のんびり過ごせたらいいなって思うんだ。
蓮ちゃんと気持ちがすれ違っていて、少し驚いた。同じだと思っていたんだ。勝手なことなのかもしれない。
「・・・言われないと、分からない・・・急に冷たくなって、びっくりしたよ・・・」
「・・・前から言ってるだろ」
機嫌が悪そうな顔で、呟いた。
あ、そうだった。蓮ちゃん、ちゃんと伝えてくれてた。したいんだって。
いつかの未来の話なんだなって、僕が勝手に思ってたんだ。思いたかったんだ。勇気が出なくて、不安で。
「・・・僕は君のことよく知らないし、宮田くんの友達だから宮田くん寄りの意見になってしまうけど、言ってるだけじゃダメなんじゃない?」
「は?何急に・・・」
「君が僕らの立会いを望んだから意見を述べただけ。癇に障ったなら謝るよ。それで、この場からいなくなる。じゃぁ、さよなら。帰ろう真喜雄」
「ちょっ、と待った!ごめん!ちゃんと聞く!っと、言ってるだけじゃダメって、何、」
「話し合いをしなければならないんじゃないの」
「・・・これこれこうしたい、みたいな・・・?」
「そうだよ。他に何があるの?君はバカなの?」
「お前、口悪いな。ちょっとムカついたぞ」
「じゃぁ帰るよ。さよなら。宮田くん、何かあったら叫ぶんだよ」
「え!?」
「・・・山田、我慢しすぎは体に悪いぞ」
2人とも無表情で手を振って、自転車にまたがった。
恥ずかしい話に巻き込んでしまった。申し訳ない・・・。
でも今は、蓮ちゃんと向き合わなくちゃ。
ちらっと様子を伺うと、じっとこちらを見ていた。思わず目をそらす。
「佑」
「え、あ、はい・・・」
「・・・堪え性なくて、ごめん。もっとちゃんとお互い、ゆっくり過ごしてからって思ってたけど、我慢できない。佑を抱きたい。できれば、今すぐ」
「え・・・!?あ、今、って・・・!」
「そのくらい、佑を独占したい。全部見たい。知りたい」
ここまではっきり言われたのは初めてだった。
本気なんだ。僕をそういう対象で見ているんだ。
恥ずかしさよりも嬉しさが勝った。ドキドキと胸が強く鼓動を打つ。
「ユニフォーム、ごめん。佑がおれの服を着たら、絶対我慢できないと思った。嬉しそうに着るんだろうなって思ったら、さっき、たまらなく抱きたくなった。早く帰すのは、無理やりしてしまいそうになるからだ。そんなの、絶対いやだから。・・・試験と大会を理由に遠ざけようとしてごめん。他に理由が見当たらなかった」
「・・・蓮ちゃん、僕、あの・・・」
「・・・うん」
「・・・足、動かないよ・・・!何もしてあげられない・・・!僕は、何も、できないよ・・・!」
「・・・おれに腕がなくて、同じように言ったら、佑は悲しくならないのか」
顔を上げる。真剣な顔だった。
想像したら胸が苦しくなった。どうしていつまでたっても僕は劣等感から抜け出せないんだろう。
強くなりたいのに。胸を張って、堂々と隣に並びたいのに。
「おれが聞きたいのは、おれの肌に触れたいか、触れたくないかって、ことなんだ」
「・・・触れたいよ、」
「おれもだ」
「・・・怖いよ」
「おれもだよ。でも、ちゃんと勉強する」
「・・・がっかり、しない・・・?」
「しない」
「泣くかもしれないよ、」
「痛いの我慢して何も言われないよりずっといい」
「叩いちゃうかもしれない」
「気にしねぇよ」
「もうしたくないって思うかもしれないよ」
「・・・そ、それはちょっと悲しいけど・・・そう思わせないようにする」
「あ、違う、蓮ちゃんが、思うかも・・・」
「え、何で?」
「・・・変な声出すかも・・・変な顔とか、しちゃうかもしれないし・・・絶対するし・・・」
「・・・もしかして、そーゆーの気にしてた?ずっと」
小さく頷くと、ガシッと肩を掴まれた。
顔を上げると、じっと見つめられた。唇を噛んでいる。慌てて指先を伸ばすと、手を握られた。
「おれが怖いとかじゃないのか?」
「・・・蓮ちゃんじゃなくて、その、行為が・・・したことないから・・・」
「・・・おれが怖いんだと思ってたよ・・・。安心した・・・。よかったぁ・・」
ぎゅむーっと抱きしめられた。久しぶりにこんなに近づいた。両手で必死にしがみつく。杖が乾いた音を立てて倒れた。
目を閉じると、鼻がツンとした。涙がこぼれそうで、必死に鼻をすする。
「いい匂いだ、佑・・・」
「蓮ちゃんも・・・」
「・・・抱きたい。佑と1つになりたいなぁ・・・」
「・・・僕も、蓮ちゃんと1つなりたいよ」
「・・・なろ?」
そっと顔が近づいてきた。背伸びをして顔を押し付ける。柔らかい唇だった。ちょっとだけヒゲが当たる。
そっと唇を舌で撫でると、顔が離れた。
「え・・・佑、」
「・・・ぼ、僕もしたいなって思うとき、ある・・・」
「めちゃめちゃ嬉しい!佑!うわ、」
「わぁあっ、」
のしかかられて、踏ん張れなくて膝が少し折れる。
バランスが崩れると、慌てて支えてくれた。
2人で笑ってもう一度キスをする。
蓮ちゃんと1つなりたいな。
1つになったら、もっともっと笑えるのかな。蓮ちゃんのこと、もっともっと大好きになるのかな。僕のこと、好きになってくれるかな。
ぎゅーっと抱きしめながら少し乱暴にキスをする。ふふふって鼻から笑い声が漏れた。つられて笑って、また2人で大笑いした。
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