審判を覆し怪異を絶つ

ゆめめの枕

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第二章 わたし、めりーさん

13.自分にできることを

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「お早う、黒川くん」

 昇降口に入ると、沢村が上履きを履こうとしていたところだった。

「ああ、お早う」
「黒川くんと登校時間が被るなんてね」
「珍しいな」

 すぐ傍の廊下の壁に立てかけられた時計を見れば、八時になる五分前だった。沢村がソワソワと俺の方を何度も見る。その様子からして、メリーのことが気になっているんだろう。
 教室に辿り着くのも我慢できずに、廊下の途中で沢村が「それでさ……メリーさんの正体、分かった?」と静かに切り出した。

「現時点では不明だ。だが、及川でないことは確かだ」
「及川さん? そっか……」

 沢村が俯く。

「ウーン、中々メリーさんが誰なのか分からないわね」
「一先ず、人狼ゲームを模しているのは確実だ。それだけでも収穫は大きいだろうな。何故、人狼ゲームを模しているのか。それが分かれば、より良いんだが」

 そもメリーと人狼ゲームがどの時点で融合したのか疑問だ。あいつなら嬉々として実行しそうだが、それにしてもメリーと言う怪異は雑な印象を受ける。急ぐ理由でもあったのだろうか。正面から問い詰めてやろうと思ったが、昨夜は本部に顔を出さなかった。俺のことを避けていやがるな。

「なるほどぉ、全然分からん。まあ、でも現代っぽいよね」
「何がだ?」
「人狼ゲームの話よ。あれってカードゲームでしょ? 今じゃ私も千堂くんもスマホのアプリでやっているもの。メリーさんだってカードを使わずに、メールで仕切っているじゃない。なんて言うか、現代版ロミオとジュリエットならぬ、現代版メリーさん?」
「ほお」

 現代版ロミオとジュリエットは関係ないんじゃないか? 仄かな疑問を嗅ぎ取ったのか、沢村が唇を突き出す。

「黒川くんの方はどうなの? メリーさんについて何か分かった?」
「悪いが収穫はない」

 文献も探ってみたが、あまり参考にならないだろう。今回のケースはあくまでレアだ。あいつが勝手に行動し、勝手に産み落とした半端物。それを偶然あいつらが拾って来た。

「そう。――じゃあ、メリーさんを止めるには正攻法では無理ってことね」
「まあな」
「でも、どうするのよ。鏡の怪異とは違って、メリーさんが何処にいるのかも不明だし」
「黒川くん、沢村さん」

 階段を上り切る前に、立川が立ちはだかった。

「あら、立川くん。早いわね」

 沢村はそう言いつつ、半歩下がった。月島は動物的勘が働くが、沢村に関しては第六感が中々鋭そうだ。

「どうかしたのか」

 そう問うと、立川は顔を曇らせたまま「ええ、まあ」と口ごもる。

「その、占いの件なんですが、ちょっと」

 迷うように瞳が揺れる。葛藤の色が見えたので、俺は沢村の肩を押す。

「ここで話もなんだから、教室に向かおう」

 立川も大きく頷いた。階段を上り切り、俺たちは教室へと歩みを進めた。立川も沢村も黙り込んだままだ。俺も普段から話題を提供することもないので、あっという間に教室に着いた。

「それで、占いがどうかしたのか」
「……ええ、その、メリーさんが、誰なのか分かったんです」
「え!?」

 沢村が驚愕する。

「それって凄いじゃん! だって四十人もいてさ、まだ占って二回目でしょ? 立川くんってば凄すぎ」

 きゃっきゃ、と明るい悲鳴を上げる沢村。

「誰がメリーだったんだ?」
「それが……一条くんだったんです」
「一条か」

 一条の顔がぼんやりと浮かぶ。目と目と鼻はあった。

「それを伝えるために、普段より早く登校したのか?」
「ええ、まあ……だって情報が必要なんでしょう?」
「それはそうなんだが」
「……何が問題なんですか」

 俺の曇った声を聞き留め、立川が苛立ちを抑えるようにして訊いてきた。

「いや、別にない」
「そういう言い方じゃないですよね」
「立川くん、私たちは別に疑ってる訳じゃ……」

 助け船を出してきた沢村に対しても、「疑っているニュアンスでしたけどね」と不満げに呟いた。

「僕はただ僕に出来ることをしたまでです」

 そう言って、立川は自分の席に戻った。
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