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第一章 七不思議の欠片
話が通じない
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「聞いたことない? 七不思議のことだよ」
「ああ、最近学校自体が浮ついていた件ね。ええと、階段話とか?」
「ちょっとイントネーションが違うけど。うん、まあ、ああいうのが怪異だと思って」
投げやりに言えば、渡辺ちゃんからじとりと湿った視線を向けられてしまった。
「この学校だと二つだけなんだけど、最近になって出回ってる怪異は幾つかあって。ほら、階段に大きな鏡があったでしょ」
渡辺ちゃんが頷く。
「ある怪異が出現中に、あの大きな鏡に姿を映す。それが現在、彼らの命を狙っている怪異の出現条件なんだよ」
「ふうん。よく分からなくなってきたわね。そもそも怪異なんて存在するのかしら。霊現象とか、わたくし全く信じていないのだけれど」
「うーん、怪異と霊現象は違う存在なんだよ。僕は霊も信じるけどさ、存在証明は出来ないな。ああいうのは、自分の目で見ても確実に存在しているとは言い難いし。僕たちが今、見ている世界が現実だってことも説明できる?」
「そんなの当たり前じゃない。だってこのテーブルだって手に触れられるのよ」
「夢だって感触があるでしょ」
「わたくしには無いわ。夢だって見ないし」
確かに渡辺ちゃんは早寝早起き病知らずって感じがするかも。口調はともかくとして、礼儀正しさ、美しさが彼女の所作に表れているし、流石はお嬢様だよね。でも不器用だから、彼女の良さがあまり周囲に伝わっていない。
「そっか、それなら信じなくても良いよ」
「……どうして? わたくしの言の葉で拗ねたのかしら」
渡辺ちゃんが眉根を顰めた。瞳も揺れている。
「そんなことないよ。ただ、無理に信じる必要はないんだ。渡辺ちゃんは渡辺ちゃんの感性で物事を見極めていけば良いんだよ。僕は物心つく前から付喪神と接してきたから、こういった摩訶不思議な現象には慣れていると言うか。そこに存在しているのなら、そうであっても良いし、認めなくても良い。信じるってそう言うものなんじゃないの?」
「それは確かに。わたくし自身の目で確かめてからでも、遅くはないのかもしれないわね」
いや、実際は遅いけど。沢村さんの守護者なんだから、最初の一歩から後れを取っているようなものなんだけど。
「何か言ったかしら?」
「イエ、何も」
「……怪しいわ」
渡辺ちゃんが目を細めて僕をじっと見つめる。微笑みをもって返すと、渡辺ちゃんは溜息を吐いた。
「でもさ、渡辺ちゃんだって沢村さんの守護者じゃない。あれは神秘だけど、それは信じているの?」
「ええ、そうね。わたくしだけではなく、わたくしの先代と共に神秘を視たのよ。だから信じるわ」
「そうなんだね。僕も神秘には興味があるんだけど、またおいおい渡辺ちゃんから聞こうかな」
「お断りするわ」
「って言うだろうなって思ってたけど、聞かなかったことにするね。ま、とりあえず怪異があるのかもしれない、と仮定しようか」
「それに関しては、別に良いわよ」
渡辺ちゃんが認容してくれた。
実は、僕も怪異についてよく分かっていない。あの怪異はまだ形を成したばかりのものだし、これから変化するだろう。発展途上が故に、何が起こり得るか分からない存在。でもあれを形づくる力には、身に覚えのある香りがする。
――本当に。黒川くんってば、この世界に大変なモノを産み落としてくれたよね。嘆息してしまう。
あれは、呪いとはまた違って、無垢で善性なのに。
「前提はもう分かったわ。それで、その怪異はどうやって解決するのかしら」
それに関しては、ね……?
思わず渡辺ちゃんから顔を背け、青い薔薇へと目を向ける。あ、先月植えたばかりなのに、もう咲き誇っているんだ。時期的にも不可能だと思っていたんだけど。
「ちょっと! 何よ、その明らかな視線逸らしは!」
技名みたいに言わないで欲しい。
「貴方でも対応不可能だと言いたいのかしら!?」
「うーん、どうかなあ」
「随分煮え切らない態度を取るわね」
渡辺ちゃんが眉を吊り上げる。
「正直のところ、厳しいとは思うよ。あの鏡の狙いは僕たちじゃなくて黒川くんたちだし、ターゲットがロックオンされている以上僕たちは手出し不可能かな」
「ああ、最近学校自体が浮ついていた件ね。ええと、階段話とか?」
「ちょっとイントネーションが違うけど。うん、まあ、ああいうのが怪異だと思って」
投げやりに言えば、渡辺ちゃんからじとりと湿った視線を向けられてしまった。
「この学校だと二つだけなんだけど、最近になって出回ってる怪異は幾つかあって。ほら、階段に大きな鏡があったでしょ」
渡辺ちゃんが頷く。
「ある怪異が出現中に、あの大きな鏡に姿を映す。それが現在、彼らの命を狙っている怪異の出現条件なんだよ」
「ふうん。よく分からなくなってきたわね。そもそも怪異なんて存在するのかしら。霊現象とか、わたくし全く信じていないのだけれど」
「うーん、怪異と霊現象は違う存在なんだよ。僕は霊も信じるけどさ、存在証明は出来ないな。ああいうのは、自分の目で見ても確実に存在しているとは言い難いし。僕たちが今、見ている世界が現実だってことも説明できる?」
「そんなの当たり前じゃない。だってこのテーブルだって手に触れられるのよ」
「夢だって感触があるでしょ」
「わたくしには無いわ。夢だって見ないし」
確かに渡辺ちゃんは早寝早起き病知らずって感じがするかも。口調はともかくとして、礼儀正しさ、美しさが彼女の所作に表れているし、流石はお嬢様だよね。でも不器用だから、彼女の良さがあまり周囲に伝わっていない。
「そっか、それなら信じなくても良いよ」
「……どうして? わたくしの言の葉で拗ねたのかしら」
渡辺ちゃんが眉根を顰めた。瞳も揺れている。
「そんなことないよ。ただ、無理に信じる必要はないんだ。渡辺ちゃんは渡辺ちゃんの感性で物事を見極めていけば良いんだよ。僕は物心つく前から付喪神と接してきたから、こういった摩訶不思議な現象には慣れていると言うか。そこに存在しているのなら、そうであっても良いし、認めなくても良い。信じるってそう言うものなんじゃないの?」
「それは確かに。わたくし自身の目で確かめてからでも、遅くはないのかもしれないわね」
いや、実際は遅いけど。沢村さんの守護者なんだから、最初の一歩から後れを取っているようなものなんだけど。
「何か言ったかしら?」
「イエ、何も」
「……怪しいわ」
渡辺ちゃんが目を細めて僕をじっと見つめる。微笑みをもって返すと、渡辺ちゃんは溜息を吐いた。
「でもさ、渡辺ちゃんだって沢村さんの守護者じゃない。あれは神秘だけど、それは信じているの?」
「ええ、そうね。わたくしだけではなく、わたくしの先代と共に神秘を視たのよ。だから信じるわ」
「そうなんだね。僕も神秘には興味があるんだけど、またおいおい渡辺ちゃんから聞こうかな」
「お断りするわ」
「って言うだろうなって思ってたけど、聞かなかったことにするね。ま、とりあえず怪異があるのかもしれない、と仮定しようか」
「それに関しては、別に良いわよ」
渡辺ちゃんが認容してくれた。
実は、僕も怪異についてよく分かっていない。あの怪異はまだ形を成したばかりのものだし、これから変化するだろう。発展途上が故に、何が起こり得るか分からない存在。でもあれを形づくる力には、身に覚えのある香りがする。
――本当に。黒川くんってば、この世界に大変なモノを産み落としてくれたよね。嘆息してしまう。
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「貴方でも対応不可能だと言いたいのかしら!?」
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「随分煮え切らない態度を取るわね」
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