充実した人生の送り方 ~妹よ、俺は今異世界に居ます~

中畑 道

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第六章 生徒編

第十七話 妹よ、俺は今「魔王」と「勇者」の会話を聞いています。

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「何の問題も無い」

 そう言い放ったノーランとガイアソーサの視線がぶつかる。

「問題はあるんだ、ノーラン。魔族国側の者が「勇者」スキル保持者がまだ子供だと知れば、力を得る前の君を亡き者にしようとする可能性がある。君にとって、僕は危険人物なんだ」

 レベルが上がったばかりのノーランにこんな会話をさせるべきでないのはわかっている。だが、落ち着き払った表情を見せるノーランを見て、口を挟む気にはなれなかった。

「脅そうとしても無駄だよ。ガイアさんが危険人物な訳ない」

「ノーラン、僕は「魔王」スキル保持者だ。魔族の中でも「勇者」スキルの凄さを一番知っている。君が「勇者」スキル保持者だと最も知られてはいけないのが僕なんだよ」

 事の重大さを知らせる為とはいえ、あっさりと自らの秘密を暴露するガイアソーサ。ノーランがガイアソーサを危険人物ではないと言い張るのも当然だ。ここに居る誰もがノーランの行く末を心配している優しい「魔王」スキル保持者を危険人物などと思っていない。

「そっか、どおりで強い筈だ。まあ、マーカスさんやサンセラ先生と稽古している時点で只者じゃないとは思っていたけどね」

「そんなことを話しているんじゃない。君が「勇者」スキル保持者だと最も知られてはいけないのが僕だと言っているんだ。君の命を狙う可能性が最も高いのが僕なんだよ!」

「無いよ、そんなこと。だって、ガイアさんと俺達は友達だもん」

「・・・・・・・・・」

 どれだけ危険を知らせようとしても一切取り合おうとしないノーラン。挙句には、あまりにも子供らしい言い分にガイアソーサも毒気を抜かれる。そもそも、危険人物だと言い張るガイアソーサ自らが必死でそれを伝えようとしている時点でこの口論は破綻していることに気付いていないのはガイアソーサだけだ。

「「魔王」スキル保持者とか関係ないよ、俺はガイアさんがどんな人か知っているもん」

「僕を、知っている・・・」

「そうさ、偏屈者のミルや人見知りのター坊が懐くほど接しやすくて、ラーラさんのご飯を「おいしい、おいしい」って食べているのを知っている。宿題を頑張っている子に「えらいねー」って声を掛けてあげているのも知っている。小さい子と一緒にお風呂に入った後、寝間着を着せてあげているのも知っている。トキオ先生やサンセラ先生から多くのことを学ぼうと毎日努力していることも知っている」

「それは・・・」

 種族や身分なんて子供達には関係ない。普段のガイアソーサを見ている孤児院の子供達にとって、ガイアソーサは心優しいお兄さん以外の何者でもない。

「それにさ、「魔王」とか「勇者」とか、そんなに大したことじゃないんだよ。だって、俺の知っている最強の冒険者は「魔王」でも「勇者」でもないんだからさ」

「大したことない・・・」

「そうだよ。ガイアさんは「魔王」スキルを持っていればトキオ先生に勝てると思う?」

「絶対に無理!」

「でしょっ!」

 ハハハッと笑い飛ばすノーランにガイアソーサは何も言い返せない。そこにアルバとキャロも加わり、「魔王」は「勇者」パーティーに囲まれる。

「やっぱりね、わたしは前からそうじゃないかと思っていたんだ」

「嘘つけ!」

「嘘じゃないわよ。アルバだってそう思っていたでしょ?」

「いやー、マーカスさんやサンセラ先生と組手が出来るくらいだから只者ではないと思ってはいたけれど、さすがに「魔王」スキルを持っているとは思わなかったよ。でも、言われてみると納得だね、将棋も強いし」

「将棋は関係ないだろ」

「関係あるわよ。基本ステータスが高ければ、当然知能も上がるんだから。どこかのお馬鹿勇者と違って」

「うるせぇ、俺はこれからなんだよ!」

「知っている、ノーラン。0には何を掛けても0なんだよ」

「誰が知能0だ!」

 先程までの雰囲気が嘘のように一変し、ノーランとキャロの掛け合いにいつの間にかガイアソーサも笑っている。「勇者」パーティーに囲まれた「魔王」が一緒になって笑っているなんて、俺が読んでいた前世の小説には無かった。

「みんな、少しいいかな?僕がここへ来た理由を君達にも知ってほしい」

 どこまでもお人好しな「魔王」だ。「勇者」パーティーの秘密を知った以上、自分の事も話しておかなければ気が済まないのだろう。ノーランがどれだけ説明されてもガイアソーサを危険人物だと認めないのも当然だな・・・

「僕はね、魔王になるつもりなんだ。スキルの「魔王」じゃなくて魔族国の王、本物の魔王だ。実は今魔族国は大きな問題を抱えていて、その問題を解決する為にトキオ先生の下で学んでいる」

 ガイアソーサは何一つ包み隠すことなく、俺との出会いから今後の目的までをノーラン達に語った。魔族国の失敗や今後人族の国にも起こりうる問題を子供達にもわかりやすく話すその姿は、俺の目には教師のように映った。

「へぇー、やるじゃん、オスカー先生」

 残念ながら子供達に国際情勢の話は少し難しかったのか、食い付きはいまいち。だが、話しがアトルの武闘大会に入ると実技指導をしてくれているオスカーの活躍が嬉しかったのか、キャロを筆頭に目を輝かせる。

「魔法職なのに一対一でガイアさんと戦うなんて凄いよ」

「でも、勝ったのはガイアさんなんだろ?」

 うーん・・・今思うとオスカーの戦い方は勉強になることが多かったなぁ。冒険者希望組に見せてあげられなかったのが残念だ。

「いや、オスカー先輩は全力じゃなかった。全てを出されていたら、僕は負けていたよ」

「マジで!?」

「マジだよ」

「なんでオスカー先生は全力で戦わなかったんだよ。ガイアさんに失礼じゃないか!」

 子供達に怒りの眼差しを向けられるオスカー。慌ててガイアソーサが理由を説明する。

「アトルの街の武闘大会は人気があるから新聞記事にもなる。そこで全力を出すと奥の手がバレてしまう。オスカー先輩は言ったよ、自分は子供達を、セラ学園を守る為にトキオ先生から魔法を学んでいる。武闘大会の優勝より、君達の安全を守ることの方が遥かに重要だって」

 怒りの眼差しが尊敬の眼差しへ、オスカーの株が急上昇して本人も照れ臭そうだ。

「君達はそういう先生方から学んでいるんだ。それは凄く幸せなことなんだよ」

 大きく頷く三人。その素直さを大人になっても忘れずにいて欲しい。


 話もひと段落ついたところで行動再開だ。まずは歩くところから始めるためノーランに近づくとその空気を察したのか、ノーランは最後に自分の考えをガイアソーサに語る。

「ガイアさんと出会えて良かった。これで、魔族国と人族の国が戦争することはなくなったね」

「どうして、そう言い切れるんだい?」

「だって、多少のいざこざはあっても、「魔王」と「勇者」が全力で止めに入れば戦争なんて起きないでしょ。俺は戦争で活躍する「勇者」より、戦争を止める「勇者」になりたい。そっちの方が断然かっこいい!」

「ノーラン・・・」

 ガイアソーサだけでなく、この場に居る大人全員が言葉を失う。

 同時に強く思う、この少年が強くなるため全力でサポートしたいと。「勇者」スキルは「勇者」の称号に相応しい少年の手に渡ったのだと。

「もし、今後国が揉めるような事態になっても、戦争にならないよう僕も全力を尽くすことを約束するよ。かっこいい「魔王」になりたいからね」

 固い握手を交わす二人。このシーンを写真に収めておきたい気分だ。よし、今度カメラを作ろう。

「同盟成立、「魔王」「勇者」同盟だ!」

「なにが「魔王」「勇者」同盟よ。ノーランは勿論だけど、ガイアさんだって毎日サンセラ先生にボコボコにされているんだから、「へっぽこ魔王」「へっぽこ勇者」同盟の間違いじゃない」

「キャロ、お前はいつも一言多いんだよ!」

「ハハハッ、違いない、僕も君達もまだまだ学ぶことだらけだ。いつか本物の魔王と勇者になってもう一度同盟を結ぼう。それまでは「へっぽこ魔王」「へっぽこ勇者」同盟がお似合いだ」

 いつの日か、その時は必ず来る。きっと、そう遠くない未来に。



 その後は、オスカーがキャロ、マーカスがアルバの試運転に付き合っている間にノーランの体を慣らした。ゆっくりと歩くことから始め、軽いランニング。優しい「魔王」ガイアソーサは俺と一緒にノーランの傍を離れず、心配そうに「勇者」の成長を見守る。

「ガイアソーサ、何故今日お前を連れてきたのかわかるか?」

「はい。今後、僕の次の世代以降、魔族国で「魔王」スキル保持者が力を求めたとき、正しく成長を促せるよう見せてくださったのですね」

「そうだ。この方法は俺の師匠から受け継いだものだから間違いない。なんらかの方法で魔族国でも後世に引き継いでほしい」

「ありがとうございます。僕が責任を持って後世に引き継ぎます」

 理解が早くて助かる。カミリッカさんから教えてもらった遺産をこの世界に引き継げて俺も嬉しい。

「トキオ先生にも師匠って居るんだ」

「そりゃそうさ、さっきも言ったけれど、俺も昔は弱かったし魔法も使えなかったぞ」

「それ、まったく想像できないなぁ・・・トキオ先生の師匠って、どんな人だったの?」

「優しくて、賢くて、強い人だった。今でも全然勝てる気がしない」

「ひぇー、そんな人いるんだ!」

 今はもう、人じゃなくて女神様ですけど。

「ガイアさん、やっぱり「魔王」も「勇者」も大したことないよ・・・」

「だね・・・」

 そんなことはない。俺は一代限りだが、「魔王」と「勇者」はこの世界が続く限り現れ続ける。創造神様は意味のないことなんてしない。俺ではなく、この世界には「魔王」と「勇者」が必要なんだ。

 妹よ、この時代の魔王と勇者は素晴らしい人物です。今はまだ、へっぽこだけど。

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