上 下
98 / 118
第六章 生徒編

第一話 妹よ、俺は今自由課題の賞を選んでいます。

しおりを挟む
「へっくしょん!」

 おい、おい、新学期早々風邪なんて勘弁してくれよ・・・って、この世界に来てから風邪なんて引いたことないけど。もしかして、風邪をひかないのも創造神様の加護にある状態異常完全無効化のおかげなのかな?



「おはようございます」

「「「おはようございます!!!」」」

 おぉ、元気な挨拶だ。

 夏休みが開け、登校初日。真っ黒に日焼けした子供達からは、少しの緊張と大きな期待が感じ取れる。夏休み期間も同じ敷地内で暮らしている子供達とは毎日のように顔を合わせていたが、不思議なものでクラス全員と教室で顔を合わせるのはまったくの別物だ。俺も身が引き締まる。

「はい、はい、トキオ先生。聞いて、聞いて!」

 年中組の元気印、ミーコが早速自己主張。

「はい、ミーコ」

「あのね、ガイアさん凄いんだよ。みんなに将棋を教えてくれて、いっぺんに十人と指すの!」

 ほぉ、前世でプロ棋士がアマチュアのファン相手にやる十面指しか。流石は将棋が得意だと言うだけはある。フランの時もそうだったが、ミーコは新しく出来た友人の良いところを真っ先に俺に伝えようとする。それはとても素敵なことだが本人はまったく気付いていない。今のミーコを見て、ここへ来たばかりの時はラーラさんのうしろに隠れていたなんて誰も信じないだろうな。

「子供達に将棋を教えてくれてありがとう、ガイアソーサ」

「いいえ、僕も楽しいですから」

 現在、ガイアソーサは子供達と一緒に寮で生活している。修行は順調、「魔王」スキルで基本ステータスが高い為、魔法の理解も格段に速い。既に無詠唱魔法も使えるようになっている。その反面、格闘面の基礎は思いの他出来ておらず、圧倒的にステータスで上回っているマーカス相手にも体術で勝負すると勝てないのが現状。こちらは頭で理解するだけでなく、体で覚えなければならない部分も多いため少し時間が掛かりそうだ。

 朝の稽古と午後からの魔法の授業以外は自由に過ごしてもらうつもりだったが、ガイアソーサたっての希望で授業にも参加することになった。既に十分な学力を持っているため学校で学ぶ必要は無いが、俺が学校で何を教え、どの様な授業をおこなっているかを学びたいらしい。魔族国で学校を作る参考にしてもらえるなら俺も嬉しい。と、いうことで、今は前世でいう教育実習のような状態だ。

「ところで、将棋は難しいけれど、みんなルールは覚えたの?」

「すぐに覚えたよ。年少組の子も指せるよ」

 マジか!レベル高いなぁ・・・

「誰が強いの?」

「ミルちゃんとター坊!」

「ミルはわかるけど、ター坊?年少組のタティスのこと?」

「そう!ミルちゃん以外ではター坊だけが駒落ち無しでガイアさんと勝負しているの」

 おいおい、タティスはまだ七歳、前世でいうなら小学二年生だぞ。

「ミル、タティスは君から見ても強いかい?」

「うん、今はまだわたしの方が強いけど、多分もうすぐ勝てなくなる。将棋が楽しくて仕方がないみたいで、図書室で将棋の本を借りてきては読み込んでいる。ター坊は本物」

 ミルにここまで言わすとは・・・これは一度確認しておきたい。

「よし、ガイアソーサ、今晩俺と指そう。ガチで勝負だぞ。子供達に大人の真剣勝負を見せてやろうじゃないか」

「本当ですか、お願いします!」

 ガイアソーサの奴、もの凄く嬉しそう。もしかして、ずっと俺と将棋を指したかったのかなぁ?だったら、言ってくれればいいのに・・・

「これは見逃せない、頂上決戦だ!」

「「「うおぉぉぉぉぉ!」」」

 ミルの一言に子供達から歓声が沸く。今は将棋ブーム、鉄は熱いうちに打たないとね。




「じゃあみんな、宿題を提出してください。まずは問題集から」

 うん、うん。みんな怠けずちゃんとやってきたな、えらいぞー。

「はい、次は自由課題を机の上に出してください」

 いいね、いいね、色々出てきたぞ。自由研究のノート、絵や工作、これは楽しみだ。

「よし、一人ずつ発表だ。まずはガインから」

「はい」




 面白かった。みんな興味のあることを楽しくできたみたいだ。工夫も凝らしてあって飽きなかった。
 さて、問題はここから。自由課題には各クラス一位から三位、金賞、銀賞、銅賞を決めなくてはならない。本来順位など必要ないが、まあ、これもイベント。各賞の決定は担任に一任されているので責任は重大だ。

「じゃあ、各賞を発表するよ。銅賞は・・・ガイン!」

「はい、やったー!」

 珍しいな、ガインがこんなに喜びを表情に出すなんて。普段は学級委員として我慢させちゃっているのかも。

「ガインは建物に興味があるのか?」

「はい。初めて学校を見た時の感動が今も忘れられません。自分もいつかこんな建物を造る仕事につければと思っています」

 ガインが作ってきたのは学校のミニチュア。大柄のガインからは想像もつかない細かな作業がしてある。屋根を取ると室内も再現されている力作だ。

「そうか。この学校を建てたのは俺だから、設計にも興味があるのなら何でも聞きにこいよ。街で見学したい建物があるなら俺が交渉してやるからな」

「はい、お願いします!」

 いい笑顔だ。将来の目標もできたのなら、俺はいくらでもバックアップするぞ。



「銀賞は・・・シオン!」

「嘘・・・」

「嘘なものか。シオンの自由研究は良く書けていた。今後の飼育係の為にもなる素晴らしい出来だったよ」

 未だ信じられないといった表情のシオン。

「やったー!銀賞だよ、シオン!凄い、凄いよ!」

「う、うん!」

 シオンより先に仲良しのミーコが喜びを爆発させ、ようやくシオンも我に返ったのか、はにかみながらも嬉しそうだ。

 シオンの自由研究は学校で飼育している動物の生態や育て方。図書室の本で一生懸命調べたのだろう、鶏や山羊を飼育する上での注意事項から、実際に飼育して起こった出来事や対処した方法、餌をあまり食べなくなってしまった時にどうしたら食べるようになったかや、気性の荒い動物にどう触れ合えばいいかなどの経験談も踏まえ書かれている。

「動物への愛情が詰まっていて、内容もわかりやすく書かれた素晴らしい自由研究だ。おめでとう、シオン」

「うん。わたし、動物好きだから・・・」

 好きこそ物の上手なれ。シオンが将来どんな職業を目指すかはまだわからないが、飼育の経験はきっと役に立つと思う。



「さて、いよいよ金賞だ」

 子供達が息を呑む。

「金賞は・・・ミーコ!」

「えぇぇぇぇぇ、なんで、なんでわたしなの?ミルちゃんは凄く難しいをかいたんだよ。カルナちゃんは自分で物語を書いちゃったし、フーちゃんは領主様の仕事をわたし達にもわかるようにまとめてくれた。テオの絵も凄く上手に描けているし、チャップの工作も凄いよ。クワンの作った服は凄く可愛いし・・」

 フフフッ、友達のことは凄い、凄い、といつも言っているのに、自分が褒められると照れちゃうのかな。

「わたしも、ミーコのやつが一番いいと思う」

「ミルちゃん・・・」

 ミーコの作品は学校に通う全員の似顔絵。似顔絵といっても顔だけじゃなく、背の順に並んでいて、一人一人の身長といいところが書かれている。最初の予定より作品が大きくなってしまったのか、紙が継ぎ足し、継ぎ足しで横に長くなり巻物のようになってしまっているが、そこも手作り感が出ていていい。

 ミルの寸評も聞いてみよう。

「似顔絵だけなら金賞は無かったかもしれないけれど、背の順に並べてあるのが秀逸。きっと来年にはこの順番は変わっている。去年はこんなに小さかったのかって分かるところがいい。今の一瞬が切り抜かれていて、セラ学園の初年度金賞にふさわしい作品。似顔絵も・・・まあまあ似ている」

 そう、流石はミル。この作品の肝は背の順に並んでいるところ。絵はそれほど上手じゃないけれど、友達が大好きなのが伝わってくる。決定権は俺に有る。俺はこの愛に溢れた作品をどうしても金賞にしたかった。

「私もミーコの作品が一番好きです。ちゃんとガイアさんが入っているところも加点ポイントだと思います」

「フーちゃん・・・」

 フランが言うように、夏休みの途中から学校に来たガイアソーサも描かれていた。一番背の高いアルバよりもガイアソーサは背が高い為、一番左に一人分紙が継ぎ足されているのがなんとも微笑ましい。

「おめでとう、ミーコ!金賞だよ!」

 今度はミーコより先にシオンが感情を爆発させ、ミーコに抱き付いて喜ぶ。すると、お調子者のテオが手を叩きながらミーココールを始めた。

「ミーコ!ミーコ!ミーコ!・・」

 みんなも一緒になってミーココールが教室中に広がる。

「「「ミーコ!ミーコ!ミーコ!・・」」」

 ガインがミーコを抱え上げる。パンツ丸見えだが誰もそんなことは気にしない。

「「「ミーコ!ミーコ!ミーコ!・・」」」

 クラスメイトのミーココールにガッツポーズで応えるミーコ。本当は教室で騒いでいるところを注意しないといけないのだろうけれど、これを止めるほど俺は空気の読めない教師じゃない。

「みんな、ありがとー!みんな、大好き―!学校も大好き―!」

「「「ミーコ!ミーコ!ミーコ!・・」」」

 さて、この後講堂で全校集会もあるし、そろそろ止めるか・・・

「「「ミーコ!ミーコ!ミーコ!・・」」」

 なんか、止めづらいなぁ・・・


 妹よ、手前味噌かもしれませんが、俺が担任するセラ学園年中組は良いクラスです。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

幸福の魔法使い〜ただの転生者が史上最高の魔法使いになるまで〜

霊鬼
ファンタジー
生まれつき魔力が見えるという特異体質を持つ現代日本の会社員、草薙真はある日死んでしまう。しかし何故か目を覚ませば自分が幼い子供に戻っていて……? 生まれ直した彼の目的は、ずっと憧れていた魔法を極めること。様々な地へ訪れ、様々な人と会い、平凡な彼はやがて英雄へと成り上がっていく。 これは、ただの転生者が、やがて史上最高の魔法使いになるまでの物語である。 (小説家になろう様、カクヨム様にも掲載をしています。)

せっかくのクラス転移だけども、俺はポテトチップスでも食べながらクラスメイトの冒険を見守りたいと思います

霖空
ファンタジー
クラス転移に巻き込まれてしまった主人公。 得た能力は悪くない……いや、むしろ、チートじみたものだった。 しかしながら、それ以上のデメリットもあり……。 傍観者にならざるをえない彼が傍観者するお話です。 基本的に、勇者や、影井くんを見守りつつ、ほのぼの?生活していきます。 が、そのうち、彼自身の物語も始まる予定です。

異世界でチート能力貰えるそうなので、のんびり牧場生活(+α)でも楽しみます

ユーリ
ファンタジー
仕事帰り。毎日のように続く多忙ぶりにフラフラしていたら突然訪れる衝撃。 何が起こったのか分からないうちに意識を失くし、聞き覚えのない声に起こされた。 生命を司るという女神に、自分が死んだことを聞かされ、別の世界での過ごし方を聞かれ、それに答える そして気がつけば、広大な牧場を経営していた ※不定期更新。1話ずつ完成したら更新して行きます。 7/5誤字脱字確認中。気づいた箇所あればお知らせください。 5/11 お気に入り登録100人!ありがとうございます! 8/1 お気に入り登録200人!ありがとうございます!

異世界サバイバルセットでダンジョン無双。精霊樹復活に貢献します。

karashima_s
ファンタジー
 地球にダンジョンが出来て10年。 その当時は、世界中が混乱したけれど、今ではすでに日常となっていたりする。  ダンジョンに巣くう魔物は、ダンジョン外にでる事はなく、浅い階層であれば、魔物を倒すと、魔石を手に入れる事が出来、その魔石は再生可能エネルギーとして利用できる事が解ると、各国は、こぞってダンジョン探索を行うようになった。 ダンジョンでは魔石だけでなく、傷や病気を癒す貴重なアイテム等をドロップしたり、また、稀に宝箱と呼ばれる箱から、後発的に付与できる様々な魔法やスキルを覚える事が出来る魔法書やスキルオーブと呼ばれる物等も手に入ったりする。  当時は、危険だとして制限されていたダンジョン探索も、今では門戸も広がり、適正があると判断された者は、ある程度の教習を受けた後、試験に合格すると認定を与えられ、探索者(シーカー)として認められるようになっていた。  運転免許のように、学校や教習所ができ、人気の職業の一つになっていたりするのだ。  新田 蓮(あらた れん)もその一人である。  高校を出て、別にやりたい事もなく、他人との関わりが嫌いだった事で会社勤めもきつそうだと判断、高校在学中からシーカー免許教習所に通い、卒業と同時にシーカーデビューをする。そして、浅い階層で、低級モンスターを狩って、安全第一で日々の糧を細々得ては、その収入で気楽に生きる生活を送っていた。 そんなある日、ダンジョン内でスキルオーブをゲットする。手に入れたオーブは『XXXサバイバルセット』。 ほんの0.00001パーセントの確実でユニークスキルがドロップする事がある。今回、それだったら、数億の価値だ。それを売り払えば、悠々自適に生きて行けるんじゃねぇー?と大喜びした蓮だったが、なんと難儀な連中に見られて絡まれてしまった。 必死で逃げる算段を考えていた時、爆音と共に、大きな揺れが襲ってきて、足元が崩れて。 落ちた。 落ちる!と思ったとたん、思わず、持っていたオーブを強く握ってしまったのだ。 落ちながら、蓮の頭の中に声が響く。 「XXXサバイバルセットが使用されました…。」 そして落ちた所が…。

異世界に召喚されたが勇者ではなかったために放り出された夫婦は拾った赤ちゃんを守り育てる。そして3人の孤児を弟子にする。

お小遣い月3万
ファンタジー
 異世界に召喚された夫婦。だけど2人は勇者の資質を持っていなかった。ステータス画面を出現させることはできなかったのだ。ステータス画面が出現できない2人はレベルが上がらなかった。  夫の淳は初級魔法は使えるけど、それ以上の魔法は使えなかった。  妻の美子は魔法すら使えなかった。だけど、のちにユニークスキルを持っていることがわかる。彼女が作った料理を食べるとHPが回復するというユニークスキルである。  勇者になれなかった夫婦は城から放り出され、見知らぬ土地である異世界で暮らし始めた。  ある日、妻は川に洗濯に、夫はゴブリンの討伐に森に出かけた。  夫は竹のような植物が光っているのを見つける。光の正体を確認するために植物を切ると、そこに現れたのは赤ちゃんだった。  夫婦は赤ちゃんを育てることになった。赤ちゃんは女の子だった。  その子を大切に育てる。  女の子が5歳の時に、彼女がステータス画面を発現させることができるのに気づいてしまう。  2人は王様に子どもが奪われないようにステータス画面が発現することを隠した。  だけど子どもはどんどんと強くなって行く。    大切な我が子が魔王討伐に向かうまでの物語。世界で一番大切なモノを守るために夫婦は奮闘する。世界で一番愛しているモノの幸せのために夫婦は奮闘する。

異世界転生は、0歳からがいいよね

八時
ファンタジー
転生小説好きの少年が神様のおっちょこちょいで異世界転生してしまった。 神様からのギフト(チート能力)で無双します。 初めてなので誤字があったらすいません。 自由気ままに投稿していきます。

僕の家族は母様と母様の子供の弟妹達と使い魔達だけだよ?

闇夜の現し人(ヤミヨノウツシビト)
ファンタジー
ー 母さんは、「絶世の美女」と呼ばれるほど美しく、国の中で最も権力の強い貴族と呼ばれる公爵様の寵姫だった。 しかし、それをよく思わない正妻やその親戚たちに毒を盛られてしまった。 幸い発熱だけですんだがお腹に子が出来てしまった以上ここにいては危険だと判断し、仲の良かった侍女数名に「ここを離れる」と言い残し公爵家を後にした。 お母さん大好きっ子な主人公は、毒を盛られるという失態をおかした父親や毒を盛った親戚たちを嫌悪するがお母さんが日々、「家族で暮らしたい」と話していたため、ある出来事をきっかけに一緒に暮らし始めた。 しかし、自分が家族だと認めた者がいれば初めて見た者は跪くと言われる程の華の顔(カンバセ)を綻ばせ笑うが、家族がいなければ心底どうでもいいというような表情をしていて、人形の方がまだ表情があると言われていた。 『無能で無価値の稚拙な愚父共が僕の家族を名乗る資格なんて無いんだよ?』 さぁ、ここに超絶チートを持つ自分が認めた家族以外の生き物全てを嫌う主人公の物語が始まる。 〈念の為〉 稚拙→ちせつ 愚父→ぐふ ⚠︎注意⚠︎ 不定期更新です。作者の妄想をつぎ込んだ作品です。

魔力∞を魔力0と勘違いされて追放されました

紗南
ファンタジー
異世界に神の加護をもらって転生した。5歳で前世の記憶を取り戻して洗礼をしたら魔力が∞と記載されてた。異世界にはない記号のためか魔力0と判断され公爵家を追放される。 国2つ跨いだところで冒険者登録して成り上がっていくお話です 更新は1週間に1度くらいのペースになります。 何度か確認はしてますが誤字脱字があるかと思います。 自己満足作品ですので技量は全くありません。その辺り覚悟してお読みくださいm(*_ _)m

処理中です...