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第一章 修行編
第二話 妹よ、俺は今異世界を学んでいます。
しおりを挟む「トキオ様、朝食の準備が整いました」
昨晩は夕食後入浴もせず寝てしまわれたようだ。復活したばかりで慣れぬ異世界、さぞお疲れになったご様子。
「トキオ様、おはようございます」
返事がない。朝は苦手なのだろうか。
「トキオ様、トキオ様」
おかしい。何かあったのか。
「トキオ様、トキオ様!」
ドアをノックしながら大声で呼びかけても反応がない。
「トキオ様、失礼します」
慌てて部屋に入ると、トキオ様は床に這い蹲っていた。
♢ ♢ ♢
「トキオ様、如何なさいました。トキオ様」
「うぅ・・・カミリッカさん・・あれ・・」
カミリッカさんが焦った様子で駆け寄ってくる。なんで俺、床で寝ていたんだっけ・・・
「トキオ様、大丈夫ですか」
「はい・・・あ、そっか・・・昨日、風呂に入る前に魔力を使おうと思って・・・」
思い出した。「創造」で割り箸を作ったら気絶したんだ・・・そのまま寝ちゃったのか。
「すみません。魔力枯渇で気を失ったまま寝ちゃったみたいです」
「無茶をなさらないでください。何を作られたのですか?」
「無茶なんてしていませんよ。ええっと・・・」
周りを見渡す。たしか、ちゃんと出来上がった筈・・・あった。
「ほら、これです。割り箸を作っただけです」
「なんという無茶を・・・」
「いやいや、ただの割り箸ですよ」
「今のトキオ様の魔力で作ることができるのは、せいぜい歪な形の泥団子くらいです」
「えっ、マジっすか?」
「マジです」
歪な形の泥団子って、手で作った方が早くないですか?大丈夫か「創造」さん・・・
「とりあえず朝食を・・・その前に入浴なされますか?」
「あ、はい・・・そうします」
恥ずかしい。カミリッカさんの顔をまともに見ることができない。どうしてこうなっちゃうかなぁ・・・幸運のステータスが低いからか?
あー、お風呂気持ちよかったー。
朝ごはんも激ウマ。シジミの味噌汁サイコー!
へへんだ。もう何も怖くないぞ。かける恥は全てかいたもんねーだ。
風呂に入る前まで気付かなかったが、前世で死んだとき葬式の帰りだったからずっと喪服を着ていた。そりゃ運にも見放されるよ。
カミリッカさんが用意してくれた真新しい異世界仕様の服にも着替えたし、靴もかっこいいブーツに履き替えた。
午前中は異世界の常識や習慣についてだったな。気分一新頑張るぞー!
「それではこの世界の常識を説明します。先ずは暦から」
国家や身分制度からと思っていたがもっと根本的なことからカミリッカさんの講義は始まった。自分がこの世界のことを何も知らない雛鳥同然の存在なのだと改めて思い知らされる。
小学一年生に戻ったつもりでしっかり学ぼう。足し算、引き算が出来るようになってから掛け算、割り算。掛け算、割り算が出来るようになってから一次方程式、二次方程式。いきなり微分積分は出来ないのだ。
今日の講義は暦と通貨がメインだった。
通貨に関してはすんなり受け入れられた。
一般に流通している通貨は銅貨、銀貨、金貨の三種類。銅貨十枚で銀貨一枚、銀貨十枚で金貨一枚。一般的な食堂での昼食代が平均で銀貨一枚とのことなので日本円にして千円くらい。銅貨が百円、金貨が一万円くらいの認識でよさそうだ。
他にも白金貨がありこちらは一枚で金貨百枚と同価値。日本円にして百万円だ。貴族や国家間の取引などで使われるらしい。
面倒だったのは暦の方。
一年は十二カ月で、一週間は七日。前世と同じだが偶然ではない。なんでも創造神様が先輩の世界、そう、俺が居た世界の創造神様を見本にしたらしい。
問題は曜日。前世の月火水木金土日がこちらでは火水風土光空時となる。魔法の属性からきているものだが闇は縁起が悪いので無い。
前世の月曜がここでは火曜、火曜が水曜、木曜が土曜になる。なんとも紛らわしいが曜日など大した問題ではないと軽んじてはいけない。
前世での俺が、異世界人が居るなんて考えた事が無いように、この世界の人達にも異世界人が居るなんて考えは無い。だが、転移、転生した人は居るのだ。
俺がこれから踏み出そうとしている時代に居るかはわからないが、居るものと考えて行動すべきであり、その場合曜日を頻繁に間違えるのは正体を晒しているのも同然だ。
異世界から来た者にはもれなく特典が付く。俺だけが特別ではない。
カミリッカさんが教えてくれることに無駄なんて無い。俺がこの世界で生き残るために必要なことだと気を引き締めて受講しなくては、生存確率は確実に落ちる。
お昼ご飯のきつねうどん美味しかったー。
午後からは戦闘訓練だ。やったるでー!
「結界の外に出ないよう注意しながら、私がいいと言うまで走ってください」
「はい」
言われた通り整地された結界内を走る。ランニングは全てのスポーツで基本だ。
「何をしているのですか。全力で走ってください」
「全力疾走ですか。すぐにバテてしまいますよ」
「いいから言われたとおりにする!」
「は、はい!」
怖っ!戦闘訓練中のカミリッカさんは鬼教官モードになるのか・・・
陸上競技でも最初から最後まで全力疾走するのは200m走までだ。トラック一周の400m走でもペース配分をする。案の定三十秒ほどで限界が来た。
「ヒール」
「えっ、魔法?」
「休まず走る!」
「はい!」
その後も全力疾走は続く。バテそうになるたび魔法で回復され、結局一時間以上も全力疾走は続いた。
「次は腕立て伏せ」
「ちょっと休憩を・・・」
「かまいませんが、休めば休むだけ旅立つ日が遅くなりますよ」
「や、やります・・・」
鬼だ。鬼教官だ。やってやるさ。自分の為だ。
「いーち、にーい、さーん、よーん、ごーお、ろーく、しーち、はー・・・・」
「ヒール」
「・・・ち、きゅーう、じゅーう、じゅーいち、じゅーに、じゅーさん、じゅーよん、じゅーご、じゅーろ・・・」
「ヒール。数なんて数えなくてもいい、無心でやる!」
「は、はい!」
終始こんな感じで腕立て、腹筋、スクワット、それぞれ一時間。千回以上やったんじゃないか。
「今日は初日ですのでこれくらいにしましょう。当分は基礎体力の強化のみを行います」
「・・・はい」
限界が来る度、ヒールで回復するので肉体的に疲れはないが、精神的にもの凄く疲れた。
それにしても驚くべきはカミリッカさんの魔力量。ヒールを千回以上は使っている筈だが魔力枯渇する気配がまるでない。
「汗を流したいと思いますが、運動後の食事は体作りに効果的ですので先に夕食にしましょう」
「了解しました、教官」
「トキオ様、私のことはカミリッカとお呼びください」
「・・・はい」
晩御飯も美味しかったー。
カミリッカが作った野菜炒め、サイコー!
さてと、後はお風呂で汗を流して、「創造」で魔力使って寝るだけ。お風呂へレッツゴー!
「あのー・・・」
「いかがいたしましたかトキオ様」
カミリッカさんが隣で服を脱ごうとしているんですけど・・・
「カミリッカさんが入るなら、俺は後にします」
「いえ、トキオ様の御背中を流させていただこうと思いまして」
「け、け、け、結構です。そ、それに、背中を流すだけなら服を脱がなくてもいいでしょうが」
「こちらの方が、殿方は喜ぶのでは?」
「と、殿方って、な、な、何を言っているんですか。じょ、女性が簡単に肌を見せてはいけません」
「そうですか・・・では、夜伽の方はいかが致しましょう」
「よ、夜伽って・・・」
「そちらの処理もお任せください。なにぶん不慣れですのでご満足いただけるかはわかりませんが」
「だ、だ、だ、大丈夫です。自分で出来ますから」
「自分でなされるのですか・・・」
「だぁー、今の無し。今すぐ忘れてください」
「・・・かしこまりました。それでは失礼いたします」
「・・・・・・・・・」
妹よ、俺は今・・・恥の多い人生を送っています。
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