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プロローグ

第二話 妹よ、俺は今神様に会っています。

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「ごごごご、ごめんなさいぃぃぃ」

 まずい、まずい、まずい。死に際に捨て台詞なんて吐くんじゃなかった。きっと神様の逆鱗に触れたんだ。このままじゃ地獄に落とされる。何としてでも許しを請わねば。
 どうすればいい。土下座か、土下座すればいのか。

「落ち着いて下さい、世良登希雄さん。あと、土下座はしなくても大丈夫です」

 こころを読まれているぅぅぅぅ!

 終わった。地獄行きだ。地獄で悠久の時、鬼に責苦を負わされる。嫌だ、嫌だ、嫌だ。

「そんなことはしません。さあ、落ち着いて息を整えてください。一緒に、ヒィ、ヒィ、フー、ヒィ、ヒィ、フー」

「ヒィ、ヒィ、フー、ヒィ、ヒィ、フー」

 言われるがまま一緒に息を整えると、ようやく周りを見る余裕が生まれた。凄いな、ラマーズ法。

 床も壁も無い光に包まれた神殿のような空間。自分が何故その場に立っていられるかもわからない。目の前には男性にも女性にも見える神。
 神のようなものではない、間違いなく神だ。存在すら信じていなかった俺にも目の前の存在が神なのだと魂が訴えてくる。

「落ち着かれましたか、世良登希雄さん」

「は、はい。お手数をおかけしました・・・それで、俺は・・・」

「ええ、残念ながら前世のあなたは命を落としました」

「そうですか・・・」

 神様は残念と言ってくれたが俺はそれほど残念だと思っていない。あのまま妹の居ない世界で一人生きていく自信がなかった。生きる意味を見出せなかった。あの場で命を落とさなくても残りの人生ろくな生き方は出来なかっただろう。それならば、俺の命と引き換えにあの少女が・・・

「そうだ、あの子は。赤い風船の女の子は無事でしたか」

「はい。あなたに命を救われた少女はその後幸せに暮らし無事天寿を全う致しました」

「それは良かった・・・えっ、天寿を全うって・・・」

「ここはあなたが生きた世界とは別の世界、さらにはその神界です。当然、時間軸も異なります」

 なんですと。それって、つまり、俺は今・・・異世界に。

「その通りです。あなたからすると私は異世界の創造神にあたります」

「どうして俺が異世界に。元の世界には戻れないのですか」

「いいえ、あなたが望むのであれば元の世界で新しい生命として輪廻に戻ることは可能です」

 どういうことだ。俺はわざわざここに呼ばれたのか。や、やっぱり、死に際に神様の悪口を言ったから・・・

「安心してください。あなたの境遇を思えば神の存在に疑問を持つのは至極当然、あなたに神罰が与えられるようなことはありません。私の先輩であり、あなたの生まれ育った世界の創造神も、あなた達兄妹には過酷な人生を与えてしまったと深く悔いています」

「先輩ですか・・・」

「ええ、先輩です」

 なんだか部活みたいだな。だが、創造神様は勘違いしている。たしかに両親を早くに無くし苦労はしたが不幸だった訳ではない。妹の、知世の兄として生まれてこられたことは断じて不幸などではない。

「フフフッ、妹さんと同じことを言うのですね」

「妹を知っているのですか」

「ええ勿論。あなたの妹、世良知世さんは私に言いました。たとえ健康であったとしても兄の妹に生まれられないのならば、病気でも兄の妹に生まれる方を選ぶ。自分は不幸ではない。優しい兄の妹に生まれ、短いながらも共に過ごせた幸せ者だと」

「妹が・・・そんなことを・・・・・」

 妹が笑ってくれる、それだけで幸せだった。妹の、知世の兄になれた俺こそ世界一の幸せ者だ。涙が溢れてくる。俺が落ち着くまで創造神様は何も言わず待ってくれた。



「私の創造した世界はまだ歴史が浅く、人々が神と崇めるのは創造神である私のみ。そんな中、女神にふさわしい魂の持ち主が現れたと先輩から話がありました」

「それが・・・」

「ええ。あなたの妹、世良知世さんです。私も彼女と会い、その清廉な魂に惚れ込んで私の創造した世界の女神になってほしいと打診致しました。彼女は快く引き受けてくれましたが、女神になるということは人の輪廻から外れるということ。人の世に何か未練を残してはいないか尋ねたところ、あなただけが心残りだと」

「俺が妹の足を引っ張っているのですか。だったら今すぐ魂を消滅させてください」

 駄目だ。妹が女神になればきっと沢山の人を救える。俺のせいで妹は勿論、沢山の救われる人達の邪魔をするなんて絶対に駄目だ。

「彼女はそんなことを望んでいません」

「でも、折角妹が女神様になれるのに、沢山の人が救えるのに、俺が邪魔なら・・・」

「落ち着いてください。彼女が望んでいるのは、あなたに充実した人生を送ってもらうことです」

「充実した・・・人生」

「ええ、前世で自分のことは二の次で妹の世話ばかりさせてしまった。今度は兄に、自分自身の為に人生を送ってもらいたい。世界は素晴らしいことで溢れている。そんな世界を思う存分堪能し、人生を謳歌してもらいたい。それが彼女の唯一の願いです」

 わからない。自分自身の人生とは何だ。何をもって人生を謳歌したと、充実した人生を送れたと言えるのだ。妹の居ない世界で。

「それはあなた自身が見つけるものです。どうか、今は女神となる為修行している私の最初の弟子、彼女の願いを叶えてあげてください。私が創造した剣と魔法の世界で」

「剣と魔法の世界・・・」

「そうです。あなたが妹と楽しんでいた書き物のような世界で、充実した人生を送ってください。あなたの妹は消えていません。ずっとあなたを見ています。あなたの幸せは、彼女の幸せでもあるのです」

 そうか、この世界は妹が女神になる世界。

 だったら、見てみたい。

 充実した人生がどんなものかはわからない。もしかしたらとんでもなく不幸になるかもしれない。だけど、目の前の優しい創造神様が、女神になる妹が、どんな世界を造るのか知りたいじゃないか。

 妹が俺を見てくれているなら、新しい物語の主人公に俺がなればいい。

「俺、行きます。異世界へ」
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