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episode8【One emotion】
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3日目の朝。
アネリは珍しく、午前9時という遅めの起床をした。
ここ2、3日の心労のせいもあるが、理由はもうひとつあった。いつもなら7時を過ぎた時点で起こしてくれるパーシバルが、今日はぐったりと椅子にもたれていたのだ。
「……ねえパーシバル、どうかしたの……?」
目覚めた直後にそんな姿を見てしまい、アネリは戸惑い気味に声をかける。
パーシバルはぐったりしたまま、
「……おはようございます。時間通りにお声をかけず、申し訳ございません……」
やはり気迫のない声で、すまなさそうに謝るのだった。
顔色は変わらない。だが体に力が入らないようだ。
アネリはベッドから起き出すと、彼の額に手の平を乗せて熱が無いか確認した。
その優しい姿に感動を覚えつつ、パーシバルは心配させまいと穏やかな声を出す。
「ふふ……ご安心くださいませ、お嬢様。私は病気にはなりません」
「でも調子悪そうだわ……」
アネリ自身、パーシバルのこんな姿を見るのは初めてだった。
普段は銃で撃たれても大量出血してもピンピンしているため、原因不明ならなおさら心配になってしまう。
「先生の診察をサボっていたから、罰が当たってしまったのかもしれませんね」
パーシバルの心当たりはそれだ。
彼はいつも他の使用人より頻繁にオドワイヤーの検診を受けているのだが、ここしばらくはその検診もサボりがちになっている。
理由はもちろんアネリの警護に専念するためなのだが、本人に打ち明けるつもりはなかった。
ーーもし打ち明けてしまえば、お嬢様はご自分を責めてしまうかもしれない。
ただでさえ連日の事件で、幼い彼女にストレスになっているというのに。
パーシバルは「よし」と気合いを入れ、椅子から立ち上がる。少しふらついたが、すぐに姿勢良く持ち直した。
「診てもらわなくて大丈夫?」
「はい。私には自分の身より、お嬢様の身をお護りする義務がございますので」
「…………」
キッパリとした言葉には反論できず、アネリはぐっと押し黙る。
アネリはアネリで、パーシバルの不調に心当たりを覚えていた。
ーーあたしが休ませずに警護させたから……。
オドワイヤーにも、トレイシー警部にも言われたのに。“パーシバルにあまり無理をさせるな”と。
初めはそれを言われる理由がよく分からなかったが、今なら理解できる。いくら超人じみていても、やはり彼も皆と同じように疲労は溜まるのだ。
今日は3日目。予告殺人は今日を含めてまだ3日も続く。いつ狙われてもおかしくない状況であり、油断は許されない段階だ。
…だが、
「パーシバル、今日はお仕事休んで」
「……え?」
アネリのさらにキッパリとした声が、パーシバルの脳に響いた。
“仕事を休め”。今までそんなことを言われたことがなかった。
良い意味か悪い意味かの判別がつかず、黙って目の前のお嬢様を見つめる。
「ほら、そんなにフラフラじゃ、いざという時きちんと護れないでしょ。本当は嫌でも、オドワイヤーに診てもらって、ゆっくり療養して。あたしだって、そんな姿のパーシバル見るの嫌だわ」
語尾に続くにしたがって顔をムッとさせていくアネリだったが、パーシバルのことを深く心配しているのはよく伝わってくる。
パーシバルは涙を堪えるように拳をフルフルと震わせた。
「………でっ、ですが私がいない間、お嬢様にもしものことがあったら…」
「ならその間警護をつけてもらうか、トレイシー警部のところにいるわ」
「…お嬢様の髪を誰がお結いすれば…」
「大丈夫、自分でやる」
「…お嬢様、夜中はおひとりで…寂しくはありませんか…?」
パーシバルは今にも泣き出しそうだ。
アネリはなるべく不安を感じ取られないよう気をつけながら……精一杯の笑顔を見せる。
「あたし、もう13歳よ。ひとりで寝れる。心配しないで」
今度はパーシバルが押し黙る番だ。
旦那様から与えられた使命と、お嬢様のせっかくの心遣いの間でぐらぐらと揺れ動く心。
本当はずっと傍で彼女を護っていたい。だが今の不調のまま警護にあたって、もしもアネリを護りきれなかったら?
――そんな最悪の事態になるよりは……。
あまり信用ならなくても、数の多い警察に任せたほうがいくらかは心強いか。
パーシバルは自分に無理矢理言い聞かせ、無理矢理納得させ、
「……お嬢様、くれぐれも無茶なことはなさらないでくださいね。私との約束です。守ってくださいますね…?」
そう言いながら、小指を差し出す。約束の証だ。
アネリは自分の小指をパーシバルの小指と絡めて、
「ええ、約束する」
そっと、指切りをした。
***
アネリのお願い通り、パーシバルは1日療養のために医務室で休むことになった。必然的にオドワイヤーと一緒に。
その間アネリはと言うと、
「こちとら何かと忙しい身だからお嬢さんに付きっきりってわけにゃぁいかないんだ。監視室にいる間は、なるべく静かにひとりで遊んでてもらっていいか?」
トレイシー警部のいる監視室にお邪魔することにした。
パーシバルの心境からしたら“預ける”のほうが正しいか。
アネリの腕には分厚い本が3冊ほど抱えられている。相手をしてもらえないことは重々分かっていたから、ひとり遊びの道具をあらかじめ持って来ていたのだ。
「ええ、お仕事の邪魔はしないわ。ひとりで大人しくしてる。その代わり、危なくなったらあたしのこと護ってね。パーシバルとの約束なの」
トレイシー警部は部屋の隅に椅子と小さめのテーブルを用意し、アネリの読書場所を作ってあげた。
そこは通路の邪魔にもならず、なおかつトレイシー警部の席に一番近い位置。パーシバルが傍にいない間、彼女が寂しくないように配慮した場所だった。
再び席に着いてモニターを確認し始めると、アネリもすぐに椅子に座り読書を始める。
「…………」
トレイシー警部は、画面越しに反射して写るアネリを見つめた。今は挿絵のない難しそうな本を読んでいる。
13歳なんて一番わんぱく盛りな年齢だろうに、画面に写り込む彼女は恐いくらい落ち着き払っている。
ひとりで何かをすることも同年代の友達と遊びに出ることも許されなくて、罪もないのに大人達に命を狙われる。幼い頃からずっとだ。想像を絶する苦しみだったろう。子どもらしい性格を失ってしまうくらいの。
今回の事件は、もしかすると一種のターニングポイントなのかもしれないと、トレイシー警部は考えた。
使用人の死というショックとストレスを抱えながらも、これを乗り越えた時アネリは、自分を縛り付ける枷から逃れられるかもしれない。
だから、この子だけは……
「死なせねぇからな……」
「トレイシー警部、今あたしに何か言った?」
「…………。いいや?気のせいだろうな」
***
医務室にいるのはパーシバルとオドワイヤーのふたりだけ。診察する側と診察される側だ。
頭や胸や腕など、至るところに電極を付けられたパーシバルはサイボーグか何かのようだ。
「…………」
落ち着きなく何度も何度も時計に目をやる。アネリはどうしているかと不安で不安でたまらないのだ。
そんな彼を見かねて、
「……お前さんなぁ、少しは落ち着いちゃくれんか? 脈拍が変動しすぎてちゃんとしたデータが取れん」
オドワイヤーはとうとう噤んでいた口を開いた。
「落ち着いてなどいられるものですか! お嬢様がおひとりでどれだけ寂しい想いをされているか……。お嬢様はお優しい方です。きっと寂しさを押し隠して私を送り出してくださったのです。あぁ、お許しくださいお嬢様…! 体調などすぐに回復し、一刻も早くお迎えに上がりますからね…!!」
「あぁほらまた針が狂った」
検診は難航していた。
そもそも、パーシバルが行っているのは何のための検診なのだろう。
熱を測ったり心音を調べたり、または筋肉の様子から眼球運動まで、ありとあらゆる体の調子を調べられている。病気持ちの人間でもここまでの精密検査はされないだろう。
それでも普段から健康なパーシバルは定期的にこの不可解な検査を受けている。それも病院ではなくオドワイヤーの医務室でだ。
その意味を重々分かっているオドワイヤーは、紙上に波線を描いていく針を見つめながら難しい顔をする。
「ふぅむう……不思議だのぉ。お前さんの体調不良の原因がハッキリせん」
それは本当に珍しいことらしい。オドワイヤーが軽口も叩かず、なぜだなぜだと頭を抱えているのだから。
パーシバルにしてみればたまったものではない。医師に分からないことは彼自身もお手上げだ。
「そんな、冗談じゃありません先生、お願いします。私は早くお嬢様の元へ行って差し上げなければ。お嬢様は寂しがっていらっしゃるのですから……」
早く、早くと急かすパーシバル。
今朝検査を始めてからずっとそれを言われていたため、オドワイヤーは苛立ちを込めてこう言い返す。
「寂しいのはお嬢様じゃなく、お前さんのほうだろう?」
「……どういう意味です?」
パーシバルが声を低くし、唸るように訊ねた。
オドワイヤーは答える。
「いつもいつもお前さんは自分ばかりがお嬢様を護ってやってると思ってる。……けどわしの目には、お前さん自身が寂しいから、どこへ行くにもお嬢様の近くに引っ付いてるようにしか見えん。子どもかペットみたいになぁ。お嬢様が安心を与えられてんじゃあないよ。お前さんが、お嬢様に安心を貰ってるのさ」
パーシバルは黙り込む。
――私自身が、寂しいから?
そんなこと、考えたこともなかった。
ただ自分が護ることで、アネリに絶対の安心を与えていると信じていた。
けれど…、
「……私が寂しがるだなんて…、有り得ません……」
ふるふると、弱く頭を横に振るパーシバル。
「…まぁ、そうだろうのぉ。……いや、そう“だった”。“初めの頃”は…」
パーシバルの否定に対して、無意識にそうつぶやき返したオドワイヤーは、ハッとした。
「……そうか、あぁ、そうか! そういうことだったか!」
長年挑み続けたパズルを解いたように、オドワイヤーは発見の喜びに満ち溢れた。
「…?」
首を傾げるパーシバルの前で、オドワイヤーは検査結果を一字一句丁寧にカルテに写していく。
「先生、何が“そう”なのですか?」
パーシバルの質問に、オドワイヤーはとても嬉しそうに質問で返してきた。
「パーシバル、お前はお嬢様に会えなくて“寂しい”か?」
「…? ええ、とても。胸が張り裂けそうなほどです……」
そう答えると、体がまたあのけだるさに襲われた。
「そうか、そうか。ではお嬢様がもし、お前ではない別の誰かを護衛にしたいと言ったらどう思う? どう感じるかね?」
意地悪な質問だ。考えるまでもない。
「……決まっています。私はまた“嫉妬”するでしょう。得体の知れない人間にお嬢様を任せるわけにはいきません。
……なので当然“殺意”も湧きます」
得体の知れないという意味ではパーシバルが上位だと思われるが。
とにかく仮にアネリが自分ではない別の誰かに信頼を置くなら、きっと自分は激しい嫉妬と殺意を感じるだろう。
――マドック刑事の時も…。
アネリがマドック刑事を気にかけた時も、今まで感じたことのないひどく苦しい気持ちになった。あれが嫉妬だということは自分でもハッキリと気付いた。
「………先生。あの時、私は確かに嫉妬していたのです…。図らずもお嬢様のお心を奪おうとしたマドック刑事に」
なんて不純な…と自分を恥じるパーシバルに対して、オドワイヤーは喜びを抑え切れなかった。
「何が不純なものかね! おかげで不調の原因が分かったぞ!」
オドワイヤーは部屋中散乱している、身体データの印刷紙をかき集め意気揚々と語る。
「不眠不休は正直何の問題もない。問題なのは気持ちだ! 寂しさだの嫉妬だの、普段感じ慣れない気持ちを抱えすぎて、体の機能にまで影響をきたした。これは非常に稀なことだが、生命活動に支障はない!」
ついにはパーシバルの頭を撫で、そして叫んだ。
「パーシバル、よくやった! お前さんは獲得したんだ! 本物の、“感情と個性”を!」
「感情と…、個性……」
パーシバルは譫言のようにつぶやく。
まるで意識していなかった。だって、自分にはそんな感情は芽生えないと思っていたから。
感情なんてないと、今まで信じていたから。
『ご安心下さいませ、お嬢様。私は病気にはなりません』
『あんたの体が人より丈夫なのは知ってるが……』
『たった5日間、一睡もせずにいればいいのですから』
それらが可能な自分には芽生えるはずがないと、信じきっていたから…。
だが、その確信は良い意味で裏切られた。
パーシバルは高鳴り始めた胸に手を乗せる。一度意識してしまうと、もう興奮は隠せない。
「あぁ……、お嬢様…っ」
――お嬢様は本当に素晴らしい方です…。
バンッ
その時、乾いた音がした。
聞き覚えのあるそれが、銃声であることは明らかだった。
こんな、昼間から?
「…………ッ……!!!」
その直後。
パーシバルの目の前で、オドワイヤーがうめき声と共に床に倒れ伏した。
彼の左胸からは、銃弾に撃ち抜かれたことによって真っ赤な血が溢れ出ている。
色鮮やかで、錆びた鉄のにおいを発する大量の血液が。
パーシバルは一瞬反応が遅れた。あまりに唐突なことだったから。
「……っ、…誰だッ!!!」
銃弾の飛んできた正確な方角に目を向ける。獣並の視力を誇るパーシバルの目が捉えたのは、
「………ッ!!」
狙撃銃を構え、ジャンパーのフードを目深に被って顔を隠す、奇妙な人物の姿だった。
その謎の人物によって、オドワイヤーが撃たれた。
…だが、パーシバルは犯人を捕まえに行かなかった。電極なんて弱く張り付いているだけで拘束力はないのに。
本来ならば、お嬢様の前に現れた敵に対しては恐ろしいくらいの殺意が湧き、許しがあれば飛び出して行ってしまうのに。
「…………ッ、」
パーシバルはそれを躊躇った。
…その理由はなんとも単純で、なんとも哀れなもの。
『パーシバル、今日はお仕事休んで』
それは最後にアネリから下された命令。自分は1日仕事をせず、療養に励まなければいけない。それは大切なアネリと交わした約束だから。
――いけない…。お嬢様のお言葉を違えるわけにはいかない…!
目の前の人物は一連の犯人かもしれない。
しかしパーシバルは目先の犯人よりも、アネリとの約束を選んだ。
犯人は銃を下ろすと同時に、口元を隠していた布を少しだけ下ろし、ニィ…、と、不気味に微笑んだ。
パーシバルはその光景を目に焼き付けるも、動くことはできない。
「くッ…………!」
追い掛けてこないパーシバル。犯人はこれ幸いにと、銃を抱えて颯爽と木々の奥へ逃げて行ってしまった。
犯人のいなくなった草むらをなおも睨んで、パーシバルは唇を噛み締める。
しかしやがて、
「…オドワイヤー先生!」
狙撃されたオドワイヤーの元へ駆け寄った。
「……っ……ぐ、ぐぅ…!」
歯を食いしばり、苦しげに唸るオドワイヤー。心臓を撃ち抜かれたのだ。残念だが長くはもたないだろう。
「………先生、私は…、私はどうすればいいのですか…」
堪えきれなくなり、パーシバルはとうとう押し殺していた声を漏らした。
パーシバルは痛感する。お嬢様がいなくなった途端、彼は自分を見失ってしまった。変わりに溢れ出す、寂しさ。
オドワイヤーは震える唇を開き、
「…………お前、は……、おじょう様、の、ためにある…! 自分じしんを、ゆ、優先、するな…っ! 何があ、あっても…!お嬢様を、護る、ことを…第一に考えろォ…!!」
嗚咽と吐血混じりに、そう命じた。
「……先生………」
そして、最後に、
「……できる、とも……! そう、で、なければ…! お前は…、そう“つくられた”のだ、から……っ」
パーシバルの服を掴んでいた手は、やがて力無く床に下ろされた。
アネリは珍しく、午前9時という遅めの起床をした。
ここ2、3日の心労のせいもあるが、理由はもうひとつあった。いつもなら7時を過ぎた時点で起こしてくれるパーシバルが、今日はぐったりと椅子にもたれていたのだ。
「……ねえパーシバル、どうかしたの……?」
目覚めた直後にそんな姿を見てしまい、アネリは戸惑い気味に声をかける。
パーシバルはぐったりしたまま、
「……おはようございます。時間通りにお声をかけず、申し訳ございません……」
やはり気迫のない声で、すまなさそうに謝るのだった。
顔色は変わらない。だが体に力が入らないようだ。
アネリはベッドから起き出すと、彼の額に手の平を乗せて熱が無いか確認した。
その優しい姿に感動を覚えつつ、パーシバルは心配させまいと穏やかな声を出す。
「ふふ……ご安心くださいませ、お嬢様。私は病気にはなりません」
「でも調子悪そうだわ……」
アネリ自身、パーシバルのこんな姿を見るのは初めてだった。
普段は銃で撃たれても大量出血してもピンピンしているため、原因不明ならなおさら心配になってしまう。
「先生の診察をサボっていたから、罰が当たってしまったのかもしれませんね」
パーシバルの心当たりはそれだ。
彼はいつも他の使用人より頻繁にオドワイヤーの検診を受けているのだが、ここしばらくはその検診もサボりがちになっている。
理由はもちろんアネリの警護に専念するためなのだが、本人に打ち明けるつもりはなかった。
ーーもし打ち明けてしまえば、お嬢様はご自分を責めてしまうかもしれない。
ただでさえ連日の事件で、幼い彼女にストレスになっているというのに。
パーシバルは「よし」と気合いを入れ、椅子から立ち上がる。少しふらついたが、すぐに姿勢良く持ち直した。
「診てもらわなくて大丈夫?」
「はい。私には自分の身より、お嬢様の身をお護りする義務がございますので」
「…………」
キッパリとした言葉には反論できず、アネリはぐっと押し黙る。
アネリはアネリで、パーシバルの不調に心当たりを覚えていた。
ーーあたしが休ませずに警護させたから……。
オドワイヤーにも、トレイシー警部にも言われたのに。“パーシバルにあまり無理をさせるな”と。
初めはそれを言われる理由がよく分からなかったが、今なら理解できる。いくら超人じみていても、やはり彼も皆と同じように疲労は溜まるのだ。
今日は3日目。予告殺人は今日を含めてまだ3日も続く。いつ狙われてもおかしくない状況であり、油断は許されない段階だ。
…だが、
「パーシバル、今日はお仕事休んで」
「……え?」
アネリのさらにキッパリとした声が、パーシバルの脳に響いた。
“仕事を休め”。今までそんなことを言われたことがなかった。
良い意味か悪い意味かの判別がつかず、黙って目の前のお嬢様を見つめる。
「ほら、そんなにフラフラじゃ、いざという時きちんと護れないでしょ。本当は嫌でも、オドワイヤーに診てもらって、ゆっくり療養して。あたしだって、そんな姿のパーシバル見るの嫌だわ」
語尾に続くにしたがって顔をムッとさせていくアネリだったが、パーシバルのことを深く心配しているのはよく伝わってくる。
パーシバルは涙を堪えるように拳をフルフルと震わせた。
「………でっ、ですが私がいない間、お嬢様にもしものことがあったら…」
「ならその間警護をつけてもらうか、トレイシー警部のところにいるわ」
「…お嬢様の髪を誰がお結いすれば…」
「大丈夫、自分でやる」
「…お嬢様、夜中はおひとりで…寂しくはありませんか…?」
パーシバルは今にも泣き出しそうだ。
アネリはなるべく不安を感じ取られないよう気をつけながら……精一杯の笑顔を見せる。
「あたし、もう13歳よ。ひとりで寝れる。心配しないで」
今度はパーシバルが押し黙る番だ。
旦那様から与えられた使命と、お嬢様のせっかくの心遣いの間でぐらぐらと揺れ動く心。
本当はずっと傍で彼女を護っていたい。だが今の不調のまま警護にあたって、もしもアネリを護りきれなかったら?
――そんな最悪の事態になるよりは……。
あまり信用ならなくても、数の多い警察に任せたほうがいくらかは心強いか。
パーシバルは自分に無理矢理言い聞かせ、無理矢理納得させ、
「……お嬢様、くれぐれも無茶なことはなさらないでくださいね。私との約束です。守ってくださいますね…?」
そう言いながら、小指を差し出す。約束の証だ。
アネリは自分の小指をパーシバルの小指と絡めて、
「ええ、約束する」
そっと、指切りをした。
***
アネリのお願い通り、パーシバルは1日療養のために医務室で休むことになった。必然的にオドワイヤーと一緒に。
その間アネリはと言うと、
「こちとら何かと忙しい身だからお嬢さんに付きっきりってわけにゃぁいかないんだ。監視室にいる間は、なるべく静かにひとりで遊んでてもらっていいか?」
トレイシー警部のいる監視室にお邪魔することにした。
パーシバルの心境からしたら“預ける”のほうが正しいか。
アネリの腕には分厚い本が3冊ほど抱えられている。相手をしてもらえないことは重々分かっていたから、ひとり遊びの道具をあらかじめ持って来ていたのだ。
「ええ、お仕事の邪魔はしないわ。ひとりで大人しくしてる。その代わり、危なくなったらあたしのこと護ってね。パーシバルとの約束なの」
トレイシー警部は部屋の隅に椅子と小さめのテーブルを用意し、アネリの読書場所を作ってあげた。
そこは通路の邪魔にもならず、なおかつトレイシー警部の席に一番近い位置。パーシバルが傍にいない間、彼女が寂しくないように配慮した場所だった。
再び席に着いてモニターを確認し始めると、アネリもすぐに椅子に座り読書を始める。
「…………」
トレイシー警部は、画面越しに反射して写るアネリを見つめた。今は挿絵のない難しそうな本を読んでいる。
13歳なんて一番わんぱく盛りな年齢だろうに、画面に写り込む彼女は恐いくらい落ち着き払っている。
ひとりで何かをすることも同年代の友達と遊びに出ることも許されなくて、罪もないのに大人達に命を狙われる。幼い頃からずっとだ。想像を絶する苦しみだったろう。子どもらしい性格を失ってしまうくらいの。
今回の事件は、もしかすると一種のターニングポイントなのかもしれないと、トレイシー警部は考えた。
使用人の死というショックとストレスを抱えながらも、これを乗り越えた時アネリは、自分を縛り付ける枷から逃れられるかもしれない。
だから、この子だけは……
「死なせねぇからな……」
「トレイシー警部、今あたしに何か言った?」
「…………。いいや?気のせいだろうな」
***
医務室にいるのはパーシバルとオドワイヤーのふたりだけ。診察する側と診察される側だ。
頭や胸や腕など、至るところに電極を付けられたパーシバルはサイボーグか何かのようだ。
「…………」
落ち着きなく何度も何度も時計に目をやる。アネリはどうしているかと不安で不安でたまらないのだ。
そんな彼を見かねて、
「……お前さんなぁ、少しは落ち着いちゃくれんか? 脈拍が変動しすぎてちゃんとしたデータが取れん」
オドワイヤーはとうとう噤んでいた口を開いた。
「落ち着いてなどいられるものですか! お嬢様がおひとりでどれだけ寂しい想いをされているか……。お嬢様はお優しい方です。きっと寂しさを押し隠して私を送り出してくださったのです。あぁ、お許しくださいお嬢様…! 体調などすぐに回復し、一刻も早くお迎えに上がりますからね…!!」
「あぁほらまた針が狂った」
検診は難航していた。
そもそも、パーシバルが行っているのは何のための検診なのだろう。
熱を測ったり心音を調べたり、または筋肉の様子から眼球運動まで、ありとあらゆる体の調子を調べられている。病気持ちの人間でもここまでの精密検査はされないだろう。
それでも普段から健康なパーシバルは定期的にこの不可解な検査を受けている。それも病院ではなくオドワイヤーの医務室でだ。
その意味を重々分かっているオドワイヤーは、紙上に波線を描いていく針を見つめながら難しい顔をする。
「ふぅむう……不思議だのぉ。お前さんの体調不良の原因がハッキリせん」
それは本当に珍しいことらしい。オドワイヤーが軽口も叩かず、なぜだなぜだと頭を抱えているのだから。
パーシバルにしてみればたまったものではない。医師に分からないことは彼自身もお手上げだ。
「そんな、冗談じゃありません先生、お願いします。私は早くお嬢様の元へ行って差し上げなければ。お嬢様は寂しがっていらっしゃるのですから……」
早く、早くと急かすパーシバル。
今朝検査を始めてからずっとそれを言われていたため、オドワイヤーは苛立ちを込めてこう言い返す。
「寂しいのはお嬢様じゃなく、お前さんのほうだろう?」
「……どういう意味です?」
パーシバルが声を低くし、唸るように訊ねた。
オドワイヤーは答える。
「いつもいつもお前さんは自分ばかりがお嬢様を護ってやってると思ってる。……けどわしの目には、お前さん自身が寂しいから、どこへ行くにもお嬢様の近くに引っ付いてるようにしか見えん。子どもかペットみたいになぁ。お嬢様が安心を与えられてんじゃあないよ。お前さんが、お嬢様に安心を貰ってるのさ」
パーシバルは黙り込む。
――私自身が、寂しいから?
そんなこと、考えたこともなかった。
ただ自分が護ることで、アネリに絶対の安心を与えていると信じていた。
けれど…、
「……私が寂しがるだなんて…、有り得ません……」
ふるふると、弱く頭を横に振るパーシバル。
「…まぁ、そうだろうのぉ。……いや、そう“だった”。“初めの頃”は…」
パーシバルの否定に対して、無意識にそうつぶやき返したオドワイヤーは、ハッとした。
「……そうか、あぁ、そうか! そういうことだったか!」
長年挑み続けたパズルを解いたように、オドワイヤーは発見の喜びに満ち溢れた。
「…?」
首を傾げるパーシバルの前で、オドワイヤーは検査結果を一字一句丁寧にカルテに写していく。
「先生、何が“そう”なのですか?」
パーシバルの質問に、オドワイヤーはとても嬉しそうに質問で返してきた。
「パーシバル、お前はお嬢様に会えなくて“寂しい”か?」
「…? ええ、とても。胸が張り裂けそうなほどです……」
そう答えると、体がまたあのけだるさに襲われた。
「そうか、そうか。ではお嬢様がもし、お前ではない別の誰かを護衛にしたいと言ったらどう思う? どう感じるかね?」
意地悪な質問だ。考えるまでもない。
「……決まっています。私はまた“嫉妬”するでしょう。得体の知れない人間にお嬢様を任せるわけにはいきません。
……なので当然“殺意”も湧きます」
得体の知れないという意味ではパーシバルが上位だと思われるが。
とにかく仮にアネリが自分ではない別の誰かに信頼を置くなら、きっと自分は激しい嫉妬と殺意を感じるだろう。
――マドック刑事の時も…。
アネリがマドック刑事を気にかけた時も、今まで感じたことのないひどく苦しい気持ちになった。あれが嫉妬だということは自分でもハッキリと気付いた。
「………先生。あの時、私は確かに嫉妬していたのです…。図らずもお嬢様のお心を奪おうとしたマドック刑事に」
なんて不純な…と自分を恥じるパーシバルに対して、オドワイヤーは喜びを抑え切れなかった。
「何が不純なものかね! おかげで不調の原因が分かったぞ!」
オドワイヤーは部屋中散乱している、身体データの印刷紙をかき集め意気揚々と語る。
「不眠不休は正直何の問題もない。問題なのは気持ちだ! 寂しさだの嫉妬だの、普段感じ慣れない気持ちを抱えすぎて、体の機能にまで影響をきたした。これは非常に稀なことだが、生命活動に支障はない!」
ついにはパーシバルの頭を撫で、そして叫んだ。
「パーシバル、よくやった! お前さんは獲得したんだ! 本物の、“感情と個性”を!」
「感情と…、個性……」
パーシバルは譫言のようにつぶやく。
まるで意識していなかった。だって、自分にはそんな感情は芽生えないと思っていたから。
感情なんてないと、今まで信じていたから。
『ご安心下さいませ、お嬢様。私は病気にはなりません』
『あんたの体が人より丈夫なのは知ってるが……』
『たった5日間、一睡もせずにいればいいのですから』
それらが可能な自分には芽生えるはずがないと、信じきっていたから…。
だが、その確信は良い意味で裏切られた。
パーシバルは高鳴り始めた胸に手を乗せる。一度意識してしまうと、もう興奮は隠せない。
「あぁ……、お嬢様…っ」
――お嬢様は本当に素晴らしい方です…。
バンッ
その時、乾いた音がした。
聞き覚えのあるそれが、銃声であることは明らかだった。
こんな、昼間から?
「…………ッ……!!!」
その直後。
パーシバルの目の前で、オドワイヤーがうめき声と共に床に倒れ伏した。
彼の左胸からは、銃弾に撃ち抜かれたことによって真っ赤な血が溢れ出ている。
色鮮やかで、錆びた鉄のにおいを発する大量の血液が。
パーシバルは一瞬反応が遅れた。あまりに唐突なことだったから。
「……っ、…誰だッ!!!」
銃弾の飛んできた正確な方角に目を向ける。獣並の視力を誇るパーシバルの目が捉えたのは、
「………ッ!!」
狙撃銃を構え、ジャンパーのフードを目深に被って顔を隠す、奇妙な人物の姿だった。
その謎の人物によって、オドワイヤーが撃たれた。
…だが、パーシバルは犯人を捕まえに行かなかった。電極なんて弱く張り付いているだけで拘束力はないのに。
本来ならば、お嬢様の前に現れた敵に対しては恐ろしいくらいの殺意が湧き、許しがあれば飛び出して行ってしまうのに。
「…………ッ、」
パーシバルはそれを躊躇った。
…その理由はなんとも単純で、なんとも哀れなもの。
『パーシバル、今日はお仕事休んで』
それは最後にアネリから下された命令。自分は1日仕事をせず、療養に励まなければいけない。それは大切なアネリと交わした約束だから。
――いけない…。お嬢様のお言葉を違えるわけにはいかない…!
目の前の人物は一連の犯人かもしれない。
しかしパーシバルは目先の犯人よりも、アネリとの約束を選んだ。
犯人は銃を下ろすと同時に、口元を隠していた布を少しだけ下ろし、ニィ…、と、不気味に微笑んだ。
パーシバルはその光景を目に焼き付けるも、動くことはできない。
「くッ…………!」
追い掛けてこないパーシバル。犯人はこれ幸いにと、銃を抱えて颯爽と木々の奥へ逃げて行ってしまった。
犯人のいなくなった草むらをなおも睨んで、パーシバルは唇を噛み締める。
しかしやがて、
「…オドワイヤー先生!」
狙撃されたオドワイヤーの元へ駆け寄った。
「……っ……ぐ、ぐぅ…!」
歯を食いしばり、苦しげに唸るオドワイヤー。心臓を撃ち抜かれたのだ。残念だが長くはもたないだろう。
「………先生、私は…、私はどうすればいいのですか…」
堪えきれなくなり、パーシバルはとうとう押し殺していた声を漏らした。
パーシバルは痛感する。お嬢様がいなくなった途端、彼は自分を見失ってしまった。変わりに溢れ出す、寂しさ。
オドワイヤーは震える唇を開き、
「…………お前、は……、おじょう様、の、ためにある…! 自分じしんを、ゆ、優先、するな…っ! 何があ、あっても…!お嬢様を、護る、ことを…第一に考えろォ…!!」
嗚咽と吐血混じりに、そう命じた。
「……先生………」
そして、最後に、
「……できる、とも……! そう、で、なければ…! お前は…、そう“つくられた”のだ、から……っ」
パーシバルの服を掴んでいた手は、やがて力無く床に下ろされた。
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