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第10章 哩【とおいところ】
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雲が激しく流れ、空を覆っていった。
同時にぽつりぽつりと降り出す雨。
やがて雨はその量を増し、5分と経たないうちに豪雨へと変貌した。
夏の嵐は恐くて冷たい。
でもアンダーサイカでの恐怖に比べたらそんなもの…―――。
「……ッ、」
ガシャンと音を立てて、私はフェンスにしがみついた。
旧斎珂駅は相変わらず高いフェンスとシートに囲まれ、人が入り込む隙もない。
潤ちゃんたちと潜り込んだ穴も隠されたらしく見つからなくて、私はどうしようもないからフェンスを叩く。
「…だ、誰かっ、誰か中にいませんか…!?
お願いだから入れて!ちょっとでいいから…!!」
ガシャン、ガシャンと激しく音が鳴る。
雨のせいで周囲に人の姿はなく、誰に縋ることもできなかった。
小学生のひ弱な力じゃ歪ませることすらできない。今の私には、これが聳え建つ鋼の壁にしか見えなかった。
…それでも、そんな理由で諦めていいわけがなくて。
「…開けて!!開けて誰か!!
キョウくん!マサちゃん!!
……ヨシヤッ…――!」
ずきん。胸が痛む。
ヨシヤに声が届かないことなんて、分かりきってるのに。私のために…ヨシヤは消えたのに。
「………お願いっ…。開けてよぉ……!」
目の前がぼんやりする。
言わずもがな、私の目に涙が滲んできたためだ。
―――…泣いちゃダメ。6年生なんだから…。
子供ならわんわん泣いて、誰かに縋ってもいいのかもしれない。
でも、今の私はダメだ。
ヨシヤや稔兄ちゃんを助けるんだ。その私が、赤ちゃんみたいにビービー泣くなんて、ダメ。
「……泣かない。ヨシヤ助けるまで、私、絶対泣かない!」
滲んだ涙を袖で強く拭って、私はフェンスを睨みつける。
「…ヨシヤと稔兄ちゃんを返して…!!
私の大事な人たちを、理不尽なルールで取り上げないで…!
どんなに遠いところにやったって、私、絶対走ってって、取り返してやるから…っ!!」
誰に向けて言ったのかも分からない。
言うなればきっと“アンダーサイカ”に…だ。
…それに確信はなかったけど、なんとなく私の言葉は、“誰か”の耳に届いてる気がして…。
鋼の壁が、
「………え………?」
質素な、木の扉に変わった。
音もなく、気配もなく。
私が今さっき、手に血が滲むくらい叩いていたフェンスが、煉瓦色に塗られたこぢんまりとした木のドアに変わっていた。
ドアにはもちろんドアノブがついていて、それを捻ると、ドアは恐いくらいアッサリと入り口へと変化した。ドアの中には、
「……エレベーター……?」
稔兄ちゃんと乗った、ひどく寂れたあのエレベーターがあった。
「これに乗れ」と。そう言われてるのは明らかだ。
「………。」
罠かもしれない。
地上人を招き入れるための甘い罠かも…。
だけど、
「………っ。」
―――上等だよ。
私は力強い足取りでドアをくぐった。
望むところだ。
アンダーサイカに入れるなら、罠なんてちっとも恐くない。
生者の世界から、死者の狭間の世界への境界を跨ぐ。
――ギギイィ…
その直後、ドアはひとりでにゆっくりと、入り口を閉ざした。
後戻りはできない。そんな声が聞こえるようだった…――。
同時にぽつりぽつりと降り出す雨。
やがて雨はその量を増し、5分と経たないうちに豪雨へと変貌した。
夏の嵐は恐くて冷たい。
でもアンダーサイカでの恐怖に比べたらそんなもの…―――。
「……ッ、」
ガシャンと音を立てて、私はフェンスにしがみついた。
旧斎珂駅は相変わらず高いフェンスとシートに囲まれ、人が入り込む隙もない。
潤ちゃんたちと潜り込んだ穴も隠されたらしく見つからなくて、私はどうしようもないからフェンスを叩く。
「…だ、誰かっ、誰か中にいませんか…!?
お願いだから入れて!ちょっとでいいから…!!」
ガシャン、ガシャンと激しく音が鳴る。
雨のせいで周囲に人の姿はなく、誰に縋ることもできなかった。
小学生のひ弱な力じゃ歪ませることすらできない。今の私には、これが聳え建つ鋼の壁にしか見えなかった。
…それでも、そんな理由で諦めていいわけがなくて。
「…開けて!!開けて誰か!!
キョウくん!マサちゃん!!
……ヨシヤッ…――!」
ずきん。胸が痛む。
ヨシヤに声が届かないことなんて、分かりきってるのに。私のために…ヨシヤは消えたのに。
「………お願いっ…。開けてよぉ……!」
目の前がぼんやりする。
言わずもがな、私の目に涙が滲んできたためだ。
―――…泣いちゃダメ。6年生なんだから…。
子供ならわんわん泣いて、誰かに縋ってもいいのかもしれない。
でも、今の私はダメだ。
ヨシヤや稔兄ちゃんを助けるんだ。その私が、赤ちゃんみたいにビービー泣くなんて、ダメ。
「……泣かない。ヨシヤ助けるまで、私、絶対泣かない!」
滲んだ涙を袖で強く拭って、私はフェンスを睨みつける。
「…ヨシヤと稔兄ちゃんを返して…!!
私の大事な人たちを、理不尽なルールで取り上げないで…!
どんなに遠いところにやったって、私、絶対走ってって、取り返してやるから…っ!!」
誰に向けて言ったのかも分からない。
言うなればきっと“アンダーサイカ”に…だ。
…それに確信はなかったけど、なんとなく私の言葉は、“誰か”の耳に届いてる気がして…。
鋼の壁が、
「………え………?」
質素な、木の扉に変わった。
音もなく、気配もなく。
私が今さっき、手に血が滲むくらい叩いていたフェンスが、煉瓦色に塗られたこぢんまりとした木のドアに変わっていた。
ドアにはもちろんドアノブがついていて、それを捻ると、ドアは恐いくらいアッサリと入り口へと変化した。ドアの中には、
「……エレベーター……?」
稔兄ちゃんと乗った、ひどく寂れたあのエレベーターがあった。
「これに乗れ」と。そう言われてるのは明らかだ。
「………。」
罠かもしれない。
地上人を招き入れるための甘い罠かも…。
だけど、
「………っ。」
―――上等だよ。
私は力強い足取りでドアをくぐった。
望むところだ。
アンダーサイカに入れるなら、罠なんてちっとも恐くない。
生者の世界から、死者の狭間の世界への境界を跨ぐ。
――ギギイィ…
その直後、ドアはひとりでにゆっくりと、入り口を閉ざした。
後戻りはできない。そんな声が聞こえるようだった…――。
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