14 / 39
第5章 吻【ちゅー】
5-1
しおりを挟む
「…ただいまぁ。」
誰もいない家に帰ってくるのは久しぶりな気がする。
暗くて、がらんとして、私一人が世界に取り残された気分だ。
それにしても、鍵を持ってて良かった。
いつもならお母さんが家にいるから必要ないんだけど、今日に限って私は鍵を持ち歩いていた。
まさか帰宅直前に親が出掛けるなんて思いもしなかったけど。
ひょっこりと台所を覗く。
ピカピカのシンク。綺麗なレンジ。静かな炊飯器。
…ご飯の用意は、残念ながらまだみたい。
すると余計に「くうぅう…」と私のお腹がSOSしてくる。そんなこと言ったって…。
お母さんは冷凍食品もインスタントも嫌い。だからこの家にあるのは野菜や肉なんかの材料だけ。
…不器用な私が作れるものといったら、いびつなおにぎりくらい。
万事休すとはまさにこのこと。
時計に目をやる。午後6時15分…。さっきの二人の様子だと1、2時間じゃ帰って来られないだろう。
それまで大人しくしていよう。それがいい。腹の虫をなんとかなだめて、お母さんが帰ってくるその時まで……。
「………あれ?」
めぼしいものは無いかと無意識に部屋中を見回していた私の目に、あるものが映った。
いつもご飯を食べるテーブルの上。
そこに、何やら大量のパンフレットが広げてあるんだ。
「変だな…。お母さんが散らかしっぱなしにするなんて。」
何となく嫌な予感を覚えて、私はパンフレットの一枚を手に取り眺めてみた。
そこにあったのは、
「…………お寺?」
厳格な字。そして大きめの写真つきで、県内にある様々なお寺が紹介されていた。
まさか2人して、こんな時間から寺社巡りしに行ったとか…?
いやいやまさかまさか。両親は二人とも真面目な人だ。
思いつきで行動するわけない。
―――でも、それじゃあこれは何のために…?
お寺にそんなに興味はなかったからパラパラと流し読みをする。
参拝の手順。仏教に関すること。難しいことばっかり…。
でもその中でひとつだけ、私くらいの年の子には興味のある単語を見つけた。
「…お祓い……?」
厄除けみたいな生温いものじゃなくて、人に取り付いた悪い霊を丸ごと祓い去る。
魔法とか幽霊とかは、小学生から中学生まで皆が好きな話題だ。
でもやっぱり、お母さんたちが興味本位で行ったとは考えられなくて。
「…お祓い…。
どっちか、悪い霊でも憑いてるのかな。」
本当にそうだったら深刻な問題だけど、これを言う私自身、何も本気にしてるわけじゃなかった。
魔法や幽霊は好きだ。
でも好きなのと信じてるのとは違う。
それに今更我が家とお寺を繋ぐものなんてひとつしかない。
―――死んだ、稔兄ちゃんに関係あること…………?
胸がざわついて落ち着かない。
稔兄ちゃんがもし幽霊でも、
「…お母さんやお父さんを困らせたりしないでしょ…?」
また気分が沈み始めてきた頃だ。
「…?
何か聞こえた……?」
静かな部屋の中で耳をかすめた微かな音。
物音でも電子音でもない。
どこか聞き覚えのあるそれは、
【豊花ちゃん、お仕事ですよ。早く来てください。】
「!!」
―――ヨシヤだっ!
そう頭の中で叫んだ直後、またゴオッと強い風が吹きすさんだ。
室内で風が巻き起こるなんて普通ありえない。
風は家具や食器には目もくれず、バタバタと私の髪や服を踊らせている。
ギュッと目をつぶった私は頭の隅っこで、
―――なんでこんな時間に…!?
ヨシヤの理不尽な要請に、不満と不安を募らせた。
誰もいない家に帰ってくるのは久しぶりな気がする。
暗くて、がらんとして、私一人が世界に取り残された気分だ。
それにしても、鍵を持ってて良かった。
いつもならお母さんが家にいるから必要ないんだけど、今日に限って私は鍵を持ち歩いていた。
まさか帰宅直前に親が出掛けるなんて思いもしなかったけど。
ひょっこりと台所を覗く。
ピカピカのシンク。綺麗なレンジ。静かな炊飯器。
…ご飯の用意は、残念ながらまだみたい。
すると余計に「くうぅう…」と私のお腹がSOSしてくる。そんなこと言ったって…。
お母さんは冷凍食品もインスタントも嫌い。だからこの家にあるのは野菜や肉なんかの材料だけ。
…不器用な私が作れるものといったら、いびつなおにぎりくらい。
万事休すとはまさにこのこと。
時計に目をやる。午後6時15分…。さっきの二人の様子だと1、2時間じゃ帰って来られないだろう。
それまで大人しくしていよう。それがいい。腹の虫をなんとかなだめて、お母さんが帰ってくるその時まで……。
「………あれ?」
めぼしいものは無いかと無意識に部屋中を見回していた私の目に、あるものが映った。
いつもご飯を食べるテーブルの上。
そこに、何やら大量のパンフレットが広げてあるんだ。
「変だな…。お母さんが散らかしっぱなしにするなんて。」
何となく嫌な予感を覚えて、私はパンフレットの一枚を手に取り眺めてみた。
そこにあったのは、
「…………お寺?」
厳格な字。そして大きめの写真つきで、県内にある様々なお寺が紹介されていた。
まさか2人して、こんな時間から寺社巡りしに行ったとか…?
いやいやまさかまさか。両親は二人とも真面目な人だ。
思いつきで行動するわけない。
―――でも、それじゃあこれは何のために…?
お寺にそんなに興味はなかったからパラパラと流し読みをする。
参拝の手順。仏教に関すること。難しいことばっかり…。
でもその中でひとつだけ、私くらいの年の子には興味のある単語を見つけた。
「…お祓い……?」
厄除けみたいな生温いものじゃなくて、人に取り付いた悪い霊を丸ごと祓い去る。
魔法とか幽霊とかは、小学生から中学生まで皆が好きな話題だ。
でもやっぱり、お母さんたちが興味本位で行ったとは考えられなくて。
「…お祓い…。
どっちか、悪い霊でも憑いてるのかな。」
本当にそうだったら深刻な問題だけど、これを言う私自身、何も本気にしてるわけじゃなかった。
魔法や幽霊は好きだ。
でも好きなのと信じてるのとは違う。
それに今更我が家とお寺を繋ぐものなんてひとつしかない。
―――死んだ、稔兄ちゃんに関係あること…………?
胸がざわついて落ち着かない。
稔兄ちゃんがもし幽霊でも、
「…お母さんやお父さんを困らせたりしないでしょ…?」
また気分が沈み始めてきた頃だ。
「…?
何か聞こえた……?」
静かな部屋の中で耳をかすめた微かな音。
物音でも電子音でもない。
どこか聞き覚えのあるそれは、
【豊花ちゃん、お仕事ですよ。早く来てください。】
「!!」
―――ヨシヤだっ!
そう頭の中で叫んだ直後、またゴオッと強い風が吹きすさんだ。
室内で風が巻き起こるなんて普通ありえない。
風は家具や食器には目もくれず、バタバタと私の髪や服を踊らせている。
ギュッと目をつぶった私は頭の隅っこで、
―――なんでこんな時間に…!?
ヨシヤの理不尽な要請に、不満と不安を募らせた。
0
お気に入りに追加
1
あなたにおすすめの小説

セーラー服美人女子高生 ライバル同士の一騎討ち
ヒロワークス
ライト文芸
女子高の2年生まで校内一の美女でスポーツも万能だった立花美帆。しかし、3年生になってすぐ、同じ学年に、美帆と並ぶほどの美女でスポーツも万能な逢沢真凛が転校してきた。
クラスは、隣りだったが、春のスポーツ大会と夏の水泳大会でライバル関係が芽生える。
それに加えて、美帆と真凛は、隣りの男子校の俊介に恋をし、どちらが俊介と付き合えるかを競う恋敵でもあった。
そして、秋の体育祭では、美帆と真凛が走り高跳びや100メートル走、騎馬戦で対決!
その結果、放課後の体育館で一騎討ちをすることに。


ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

女豹の恩讐『死闘!兄と妹。禁断のシュートマッチ』
コバひろ
大衆娯楽
前作 “雌蛇の罠『異性異種格闘技戦』男と女、宿命のシュートマッチ”
(全20話)の続編。
https://www.alphapolis.co.jp/novel/329235482/129667563/episode/6150211
男子キックボクサーを倒したNOZOMIのその後は?
そんな女子格闘家NOZOMIに敗れ命まで落とした父の仇を討つべく、兄と娘の青春、家族愛。
格闘技を通して、ジェンダーフリー、ジェンダーレスとは?を描きたいと思います。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる