アンダーサイカ -旧南岸線斎珂駅地下街-

唄うたい

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第4章 囈【たわごと】

4-1

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 ――ピピピピピ……

「ん…、うぅ…。」

 枕に顔をぐりぐりこすりつけ、私は襲い来る眠気と必死に闘う。
 重い瞼を持ち上げれば、そこは、

「………もう朝…?」

 私の部屋のベッドの上。目覚まし時計がいつものように、朝の7時を告げていた。

 ベッドから体を起こして、うーんとひとつ伸び。
 寝癖でくしゃくしゃの髪を一緒に整える。
 ふと体に目を落とすと、

「…私、いつパジャマ着たっけ…。」

 昨晩アンダーサイカに行ったことは覚えてる。
 私服で夜中に、廃駅の目の前に行くのはなかなか怖かった。

 怖い思いをして、更には薬屋の手伝いをして、オバケに囲まれて…。あんなにいろいろなことがあったのに、なぜか私は少しも疲れてなかった。

 まるで今までのすべてが夢の出来事だったみたいに、私の体はピンピンしてた。

「…………。」

 疲れてないのはありがたい……けど、

 ―――なんだろう、この不安…。


「豊花ー、起きてるー?
 潤子ちゃんから電話ー。」

「!!」

 お母さんの声だ。
 しかも潤ちゃんから…って。こんな朝早くに電話なんて、珍しいこともあるんだな。

 いつまでも不安と睨めっこするのはごめんだから、私はピョンとベッドから飛び降りて、潤ちゃん(の電話)が待つリビングへ走る。

「もしもし、潤ちゃ………」

 《豊花っ!!
 今日何か用事ある!?》

「ん」まで言い終わらないうちに、潤ちゃんの物凄い大声が受話器から飛び出してきた。
 耳がキーンとする。
 いつもここまで怒鳴ることがないから、今日は機嫌が悪いのかと思ったけど、

「…え、何もないけど…。」

 《あ、ホント?良かった!
 あたし考えたんだけどね、
 ほら、アンダーサイカのグループ研究、ダメになっちゃったじゃない?》

「…………。」

 そっか、拓くんと潤ちゃんはアンダーサイカのこと知らないんだ。
 正しくは記憶が書き換えられてる。
 私たちの間では、アンダーサイカの都市伝説は嘘八百として決定されたんだよね。

「うん、そうだね。それが?」

 《だから早く次の研究テーマ決めようと思ってさ、こんなのどう?
 今までにこの町で起こった奇妙な事件を調べて、まとめるっていうのは!?》

 私たち3人の中で、最初の提案をしてくれるのは拓くん。
 そしてその尻拭い的な役目を負ってくれるのが潤ちゃんだった。
 私はテーマ決めたりするのは苦手だから、正直ありがたい。
 でも、

「…事件って…、都市伝説よりえぐそうじゃない?
 もっと明るい話題にしようよぉ…。」

 こちとら2日連続でオバケの巣窟に入ってきたんだ。
 刺激はもうたくさんだよ。

 すると案の定、受話器の向こうから潤ちゃんのブーイングが聞こえた。

 《都市伝説はたかが噂だけど、事件っていうのは本当に起こったから事件なのよ!?
 とにかくあたしは、他のグループみたいに良い子良い子した研究は絶対イヤ!》

「めんどくさいなぁ…。」

 拓くんも潤ちゃんも「自分は子供じゃない」と主張するくせに、変なとこで子供みたいな意地張るんだから。
 …あ、私もか。

 こうまで言われちゃ、同意しないのは意地悪だよね。

「分かった。それでいいよ。
 どこで集まるの?」

 《きゃ!ありがとう豊花!!
 とりあえず9時に中央図書館の前で待ち合わせしましょ。
 拓哉にも伝えておくから!》

「9時ね。りょうかーい。」

 持ち物とかその他もろもろの話を軽くしてから、私は通話を切った。

「…事件かぁ…。」

 そういえば、駅前のお巡りさんもそんな話してたな。

『飛び込み自殺だよ。』

 まだ運行していた斎珂駅で起こった事件。
 自殺者がそんなにいたなんて知らなかったけど、この町の事件を特集するなら、これはきっと外せない。

 それに、斎珂駅というだけで、私が関心を持つには充分な要素だった。
 ずっと気になってたアンダーサイカの正体が、…ヨシヤの正体が、少しでも分かるかも。
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