15 / 75
三:雉子の竹藪
充分すぎるお方
しおりを挟む
お二人に連れられ、雉子亭へ戻ったわたし達。
怪我とぬめり塗れの体と、傍らに携えた大きな雉喰いの抜け殻を見て、君影さまを始めとした雉の皆さまは言葉を失っていました。
「……驚きました。まさか本当に、雉喰いを退治されるなんて…」
驚きを隠せない君影さまに、義嵐さまが不服そうに言い返します。
「白々しいこと言うなよな。お前が焚き付けたんだぞ?」
次いで、仁雷さまが一歩前へ進み出ます。傍らの大きな殻に手で触れながら、
「望み通り、雉喰いの殻を持ち帰った。後始末はお前達に任せる。…これで文句は無いな。早苗さんは第一の試練を達成した」
落ち着いているけど、力強い声…。
君影さまはしばし言葉無く、仁雷さまを見つめていましたが、やがて深々と頭を下げられました。
「……早苗様、お使い様。私共は本当に敬服しているのです。雉喰いによって幾多の同胞を亡くしてきましたから。心より感謝申し上げます。そして、…おめでとうございます。早苗様が此度の試練を乗り越えられたこと、大変喜ばしく存じます」
君影さまに倣い、竜胆さまや…お姉さま方も深く頭を下げる…。
「…………し、試練、達成…」
わたし、試練とやらを乗り越えたのね…。
呆然とする頭の中に、じわじわと湧き上がる実感。恐怖もまだ濃く残っているけれど…それ以上に、これまで感じたことのない達成感に満たされていました。
ふと、わたしはこれだけは伝えなければと、仁雷さまの後ろから一歩前へ進み出ます。
「…あの、君影さま。お役に立てたのなら幸いです。…けれど本当は、竜胆さまにいただいたお塩のおかげなのです」
懐から、すっかり空っぽになってしまった小箱を取り出します。
「…これが無ければ、わたしも雉喰いに食べられていたかもしれません。だから、お礼を言うのはわたしのほうなのです。ありがとうございます」
君影さまは小箱と、わたしの顔を交互に見つめます。彼の表情はひたすら驚きの色に満ちていて、やがてその目をゆっくり閉じました。
「言葉もありません。早苗様は充分すぎるお方だ。…お使い様方、どうか早苗様を“最後まで”お護りくださいませ」
「…元よりそのつもりだ」
君影さまの託すようなお言葉に答えたのは、芒色の髪の仁雷さまでした。
怪我とぬめり塗れの体と、傍らに携えた大きな雉喰いの抜け殻を見て、君影さまを始めとした雉の皆さまは言葉を失っていました。
「……驚きました。まさか本当に、雉喰いを退治されるなんて…」
驚きを隠せない君影さまに、義嵐さまが不服そうに言い返します。
「白々しいこと言うなよな。お前が焚き付けたんだぞ?」
次いで、仁雷さまが一歩前へ進み出ます。傍らの大きな殻に手で触れながら、
「望み通り、雉喰いの殻を持ち帰った。後始末はお前達に任せる。…これで文句は無いな。早苗さんは第一の試練を達成した」
落ち着いているけど、力強い声…。
君影さまはしばし言葉無く、仁雷さまを見つめていましたが、やがて深々と頭を下げられました。
「……早苗様、お使い様。私共は本当に敬服しているのです。雉喰いによって幾多の同胞を亡くしてきましたから。心より感謝申し上げます。そして、…おめでとうございます。早苗様が此度の試練を乗り越えられたこと、大変喜ばしく存じます」
君影さまに倣い、竜胆さまや…お姉さま方も深く頭を下げる…。
「…………し、試練、達成…」
わたし、試練とやらを乗り越えたのね…。
呆然とする頭の中に、じわじわと湧き上がる実感。恐怖もまだ濃く残っているけれど…それ以上に、これまで感じたことのない達成感に満たされていました。
ふと、わたしはこれだけは伝えなければと、仁雷さまの後ろから一歩前へ進み出ます。
「…あの、君影さま。お役に立てたのなら幸いです。…けれど本当は、竜胆さまにいただいたお塩のおかげなのです」
懐から、すっかり空っぽになってしまった小箱を取り出します。
「…これが無ければ、わたしも雉喰いに食べられていたかもしれません。だから、お礼を言うのはわたしのほうなのです。ありがとうございます」
君影さまは小箱と、わたしの顔を交互に見つめます。彼の表情はひたすら驚きの色に満ちていて、やがてその目をゆっくり閉じました。
「言葉もありません。早苗様は充分すぎるお方だ。…お使い様方、どうか早苗様を“最後まで”お護りくださいませ」
「…元よりそのつもりだ」
君影さまの託すようなお言葉に答えたのは、芒色の髪の仁雷さまでした。
0
お気に入りに追加
3
あなたにおすすめの小説
みちのく銀山温泉
沖田弥子
キャラ文芸
高校生の花野優香は山形の銀山温泉へやってきた。親戚の営む温泉宿「花湯屋」でお手伝いをしながら地元の高校へ通うため。ところが駅に現れた圭史郎に花湯屋へ連れて行ってもらうと、子鬼たちを発見。花野家当主の直系である優香は、あやかし使いの末裔であると聞かされる。さらに若女将を任されて、神使の圭史郎と共に花湯屋であやかしのお客様を迎えることになった。高校生若女将があやかしたちと出会い、成長する物語。◆後半に優香が前の彼氏について語るエピソードがありますが、私の実体験を交えています。◆第2回キャラ文芸大賞にて、大賞を受賞いたしました。応援ありがとうございました!
2019年7月11日、書籍化されました。
後宮の胡蝶 ~皇帝陛下の秘密の妃~
菱沼あゆ
キャラ文芸
突然の譲位により、若き皇帝となった苑楊は封印されているはずの宮殿で女官らしき娘、洋蘭と出会う。
洋蘭はこの宮殿の牢に住む老人の世話をしているのだと言う。
天女のごとき外見と豊富な知識を持つ洋蘭に心惹かれはじめる苑楊だったが。
洋蘭はまったく思い通りにならないうえに、なにかが怪しい女だった――。
中華後宮ラブコメディ。
生贄巫女はあやかし旦那様を溺愛します
桜桃-サクランボ-
恋愛
人身御供(ひとみごくう)は、人間を神への生贄とすること。
天魔神社の跡取り巫女の私、天魔華鈴(てんまかりん)は、今年の人身御供の生贄に選ばれた。
昔から続く儀式を、どうせ、いない神に対して行う。
私で最後、そうなるだろう。
親戚達も信じていない、神のために、私は命をささげる。
人身御供と言う口実で、厄介払いをされる。そのために。
親に捨てられ、親戚に捨てられて。
もう、誰も私を求めてはいない。
そう思っていたのに――……
『ぬし、一つ、我の願いを叶えてはくれぬか?』
『え、九尾の狐の、願い?』
『そうだ。ぬし、我の嫁となれ』
もう、全てを諦めた私目の前に現れたのは、顔を黒く、四角い布で顔を隠した、一人の九尾の狐でした。
※カクヨム・なろうでも公開中!
※表紙、挿絵:あニキさん
貴族家三男の成り上がりライフ 生まれてすぐに人外認定された少年は異世界を満喫する
美原風香
ファンタジー
「残念ながらあなたはお亡くなりになりました」
御山聖夜はトラックに轢かれそうになった少女を助け、代わりに死んでしまう。しかし、聖夜の心の内の一言を聴いた女神から気に入られ、多くの能力を貰って異世界へ転生した。
ーけれども、彼は知らなかった。数多の神から愛された彼は生まれた時点で人外の能力を持っていたことを。表では貴族として、裏では神々の使徒として、異世界のヒエラルキーを駆け上っていく!これは生まれてすぐに人外認定された少年の最強に無双していく、そんなお話。
✳︎不定期更新です。
21/12/17 1巻発売!
22/05/25 2巻発売!
コミカライズ決定!
20/11/19 HOTランキング1位
ありがとうございます!
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
今日はパンティー日和♡
ピュア
ライト文芸
いろんなシュチュエーションのパンチラやパンモロが楽しめる短編集✨
おまけではパンティー評論家となった世界線の崇道鳴志(*聖女戦士ピュアレディーに登場するキャラ)による、今日のパンティーのコーナーもあるよ💕
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる