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1章 入部
7話 部室と先輩
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放課後、陽子と伊緒は部室棟に訪れていた。
クラス棟に匹敵する大きさの3階建ての建物には、まるでマンションのように扉が並んでいる。
運動部の部室は1階を中心にあり、器具を出しやすいようになっていた。
逆に文化部の部室は上層にあり、クラス棟から直接渡り廊下で繋がれている。
運動部の部室前は、ストレッチをする者、練習で使用する器具を並べる者など騒がしい。
対して文化部の部室前は半分屋内なこともあり、きれいに掃除がなされており、のんびりと階下を眺める生徒もいる。
対照的なそれぞれだが、共通する点としては勧誘のビラが所狭しと貼られていること。
そして新入生を自分達の部活へ引きずり込もうと、ギラギラと目を光らせている上級生達の存在である。
「ここみたいだね」
「先輩達、怖くないといいけど……」
陸上部の表札がかかった部室の扉には「来たれ! 限界へ挑戦する者よ!」と熱いメッセージが書かれたビラが貼られている。
正直なところ、この手の暑苦しいキャッチコピーは女子高生にはウケが悪いのではないか……と陽子は苦笑いする。
「お邪魔します……体験入部をしに来ました」
後ろに隠れている伊緒に代わり、陽子はおそるおそる扉を開くと中を覗く。
部室の中は想像よりも小奇麗で、16畳ほどの広さだった。
コンクリートブロックで作られた土台の上に畳が敷かれ、6畳分は着替えの為のスペースになっているようだ。
あとの10畳にはベンチプレスなどのトレーニング器具が置かれ、天井には槍や棒高跳び用のポールが吊るされている。
「おおっ体験入部! はじめましてー!」
畳の上で陸上雑誌を広げていた上級生が陽子達に気付き、慌ただしく靴を履くと走り寄る。
「初めまして、水野伊緒です! マネージャー志望です! 入部届はもう書いてきました!」
「日向陽子です。私はまずは体験で……」
「もう入部届持ってきたの!? ともかく二人とも来てくれてありがとう。私は3年の文月麻矢。よろしく!」
伊緒の勢いに押され、麻矢は驚いた顔をするがすぐに笑顔で迎え入れてくれる。
ヘアピンを使って髪を雑にアップにした、ワイルドで気の良さそうな雰囲気の先輩だ。
「生の文月先輩……お会いできて光栄です! あの、去年の新人戦100m、東京ベスト8おめでとうございます! 夏の森勢として5年ぶりの決勝進出、現場で観戦していて感動しました!」
伊緒はいつになく笑顔で、憧れの先輩に会えたことで興奮しているようだ。
「えっ本当!? 嬉しいねー。結局、決勝では8位だったけどさ、そう言ってもらえると嬉しいよ。まぁ二人ともこっちに荷物置いて着替えてどうぞー」
某北欧家具メーカーで買ってきたのだろう、空間に溶け込まない真っ白なオープンラックが壁際に鎮座している。
チョイスは女子高らしいが、ここは普通のロッカーでよかったのではないだろうかと陽子はツッコミを入れる。
「あぁそれ、ロリ先生が前にロッカー壊れたときに買ってきたんだよね。私達は普通のロッカーでよかったんだけど、女子の部屋には女子力が必要だって言ってさー。」
元凶は顧問だったようだ。
「おはようございまーす。あっ体験入部ですか! ようこそ陸上部へ!」
「おつかれさまー。私達も2人連れてきたよー」
陽子達が運動着に着替えていると、ぞろぞろと他の部員達も集まり始める。
連れられてきた新入生の一人は瑠那だった。
陽子を見て、軽く手を挙げる。
無表情のまま「よっ」と言っているようなポーズがシュールだが、陽子も軽く手を挙げて返す。
「陽子、待ってたぞ」
「瑠那さんこんにちは! 私は水野伊緒。ほら陽子、やっぱりさっきの、そういう意味だったのよ!」
「お前はさっき一緒にいた……伊緒か。よろしく」
先に部室に着いたのは私達だぞ、と思いつつ、やれやれと二人に答える。
「まだ入部は決めてないからな! 決めてないぞ!」
「なんだ、走らないのか?」
「いや走るけど、ひとまず今日は走りますけども!」
「ん? よく分からない奴だな」
「瑠那さん、陽子のこれは多分ツンデレというやつだから大丈夫よ」
「ツンデレ……?」
瑠那と伊緒が成り立っているような成り立っていないような会話をしていると、麻矢に急かされる。
「後で皆集まってから自己紹介はやるけど、ひとまず今日の体験入部は4人だって。もうすぐロリ先生と部長来るらしいから、皆ちゃっちゃと着替えた着替えた!」
スミマセンと謝りつつ、慌ててそれぞれ着替えを始める。
オープンラック、一斉に着替えるときには扉が邪魔にならなくて合理的なのかもしれない……。と陽子は妙に感心してしまう。
着替え終えて軽く体をほぐそうかとしていると、ロリ先生と部長の蒼が現れた。
「みんなお待たせー」
「「おつかれさまですっ!」」
ロリ先生がのんびりした口調で声を掛けると、全員で元気よく挨拶をする。
先生はあれだが、部員の方は体育会系らしいようだ。
「今日は嬉しいことに体験入部が4人いまーす。うちは今、3年生4人、2年生2人の6人でやってる少数精鋭……と言うか今の3年生が引退したらいよいよリレー組めなくなっちゃう人数だから、リレー走りたいなら狙い目だぞ! ぜひ入部してなー!」
「先生……流石にその言い方は色々と本音過ぎますって」
「まぁでも事実だからなー。まぁ、そんじゃあとは蒼ちゃんよろしく!」
いつものことなのか上級生は特に動じていないが、蒼は苦笑いをしながら「分かりました」と言ってミーティングを始める。
「まずは新入生の4人、体験入部に来てくれてありがとうございます。分からないことは何でも上級生に聞いてもらって構わないので、遠慮しないでくださいね。まずは今日の体験入部を楽しんでいってください」
部長の蒼は、170cmを超えるだろう長身に、青いアンダーフレームの眼鏡が印象的だ。
姿勢よく堂々と、そして丁寧に敬語で話す様は部長としての貫禄を感じさせる。
(これが生の『蒼炎』……かっこいい……)
陽子はふと横を見ると、伊緒が恍惚とした表情をしていることに気付く。
どうやら陸上オタクというのは事実なようで、かつ重症のようだ。
「それではいつも通りウォーミングアップから。本練習はウォーミングアップ後に改めて説明します。練習開始!」
「「お願いします!」」
簡単にそれぞれ自己紹介を終え、陽子は必死に名前を覚えると、蒼の開始の合図とともに挨拶をし、ウォーミングアップへ移る。
クラス棟に匹敵する大きさの3階建ての建物には、まるでマンションのように扉が並んでいる。
運動部の部室は1階を中心にあり、器具を出しやすいようになっていた。
逆に文化部の部室は上層にあり、クラス棟から直接渡り廊下で繋がれている。
運動部の部室前は、ストレッチをする者、練習で使用する器具を並べる者など騒がしい。
対して文化部の部室前は半分屋内なこともあり、きれいに掃除がなされており、のんびりと階下を眺める生徒もいる。
対照的なそれぞれだが、共通する点としては勧誘のビラが所狭しと貼られていること。
そして新入生を自分達の部活へ引きずり込もうと、ギラギラと目を光らせている上級生達の存在である。
「ここみたいだね」
「先輩達、怖くないといいけど……」
陸上部の表札がかかった部室の扉には「来たれ! 限界へ挑戦する者よ!」と熱いメッセージが書かれたビラが貼られている。
正直なところ、この手の暑苦しいキャッチコピーは女子高生にはウケが悪いのではないか……と陽子は苦笑いする。
「お邪魔します……体験入部をしに来ました」
後ろに隠れている伊緒に代わり、陽子はおそるおそる扉を開くと中を覗く。
部室の中は想像よりも小奇麗で、16畳ほどの広さだった。
コンクリートブロックで作られた土台の上に畳が敷かれ、6畳分は着替えの為のスペースになっているようだ。
あとの10畳にはベンチプレスなどのトレーニング器具が置かれ、天井には槍や棒高跳び用のポールが吊るされている。
「おおっ体験入部! はじめましてー!」
畳の上で陸上雑誌を広げていた上級生が陽子達に気付き、慌ただしく靴を履くと走り寄る。
「初めまして、水野伊緒です! マネージャー志望です! 入部届はもう書いてきました!」
「日向陽子です。私はまずは体験で……」
「もう入部届持ってきたの!? ともかく二人とも来てくれてありがとう。私は3年の文月麻矢。よろしく!」
伊緒の勢いに押され、麻矢は驚いた顔をするがすぐに笑顔で迎え入れてくれる。
ヘアピンを使って髪を雑にアップにした、ワイルドで気の良さそうな雰囲気の先輩だ。
「生の文月先輩……お会いできて光栄です! あの、去年の新人戦100m、東京ベスト8おめでとうございます! 夏の森勢として5年ぶりの決勝進出、現場で観戦していて感動しました!」
伊緒はいつになく笑顔で、憧れの先輩に会えたことで興奮しているようだ。
「えっ本当!? 嬉しいねー。結局、決勝では8位だったけどさ、そう言ってもらえると嬉しいよ。まぁ二人ともこっちに荷物置いて着替えてどうぞー」
某北欧家具メーカーで買ってきたのだろう、空間に溶け込まない真っ白なオープンラックが壁際に鎮座している。
チョイスは女子高らしいが、ここは普通のロッカーでよかったのではないだろうかと陽子はツッコミを入れる。
「あぁそれ、ロリ先生が前にロッカー壊れたときに買ってきたんだよね。私達は普通のロッカーでよかったんだけど、女子の部屋には女子力が必要だって言ってさー。」
元凶は顧問だったようだ。
「おはようございまーす。あっ体験入部ですか! ようこそ陸上部へ!」
「おつかれさまー。私達も2人連れてきたよー」
陽子達が運動着に着替えていると、ぞろぞろと他の部員達も集まり始める。
連れられてきた新入生の一人は瑠那だった。
陽子を見て、軽く手を挙げる。
無表情のまま「よっ」と言っているようなポーズがシュールだが、陽子も軽く手を挙げて返す。
「陽子、待ってたぞ」
「瑠那さんこんにちは! 私は水野伊緒。ほら陽子、やっぱりさっきの、そういう意味だったのよ!」
「お前はさっき一緒にいた……伊緒か。よろしく」
先に部室に着いたのは私達だぞ、と思いつつ、やれやれと二人に答える。
「まだ入部は決めてないからな! 決めてないぞ!」
「なんだ、走らないのか?」
「いや走るけど、ひとまず今日は走りますけども!」
「ん? よく分からない奴だな」
「瑠那さん、陽子のこれは多分ツンデレというやつだから大丈夫よ」
「ツンデレ……?」
瑠那と伊緒が成り立っているような成り立っていないような会話をしていると、麻矢に急かされる。
「後で皆集まってから自己紹介はやるけど、ひとまず今日の体験入部は4人だって。もうすぐロリ先生と部長来るらしいから、皆ちゃっちゃと着替えた着替えた!」
スミマセンと謝りつつ、慌ててそれぞれ着替えを始める。
オープンラック、一斉に着替えるときには扉が邪魔にならなくて合理的なのかもしれない……。と陽子は妙に感心してしまう。
着替え終えて軽く体をほぐそうかとしていると、ロリ先生と部長の蒼が現れた。
「みんなお待たせー」
「「おつかれさまですっ!」」
ロリ先生がのんびりした口調で声を掛けると、全員で元気よく挨拶をする。
先生はあれだが、部員の方は体育会系らしいようだ。
「今日は嬉しいことに体験入部が4人いまーす。うちは今、3年生4人、2年生2人の6人でやってる少数精鋭……と言うか今の3年生が引退したらいよいよリレー組めなくなっちゃう人数だから、リレー走りたいなら狙い目だぞ! ぜひ入部してなー!」
「先生……流石にその言い方は色々と本音過ぎますって」
「まぁでも事実だからなー。まぁ、そんじゃあとは蒼ちゃんよろしく!」
いつものことなのか上級生は特に動じていないが、蒼は苦笑いをしながら「分かりました」と言ってミーティングを始める。
「まずは新入生の4人、体験入部に来てくれてありがとうございます。分からないことは何でも上級生に聞いてもらって構わないので、遠慮しないでくださいね。まずは今日の体験入部を楽しんでいってください」
部長の蒼は、170cmを超えるだろう長身に、青いアンダーフレームの眼鏡が印象的だ。
姿勢よく堂々と、そして丁寧に敬語で話す様は部長としての貫禄を感じさせる。
(これが生の『蒼炎』……かっこいい……)
陽子はふと横を見ると、伊緒が恍惚とした表情をしていることに気付く。
どうやら陸上オタクというのは事実なようで、かつ重症のようだ。
「それではいつも通りウォーミングアップから。本練習はウォーミングアップ後に改めて説明します。練習開始!」
「「お願いします!」」
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