上 下
20 / 25

十六話

しおりを挟む
 私はメイド達に流れるように違う部屋に連れられて行った。そして、かなりの距離を進みある部屋に入れられた。中は衣裳部屋なのか多くのドレスが所狭しと飾られていた。

(誰の衣装部屋でしょう? なんで私がここに連れられて来たのかしら?)

 私は頭の上にたくさんのハテナを浮かべていた。すると私をここに連れて来た四人のメイドたちが一列に並び、その真ん中にいた中年のメイドが一歩前に出て

「ご挨拶が遅れました。私はノートン家に使えております。マリアと申します。よろしくお願い致します」

 と言って礼をした。そして、続いて他のメイド達も名乗り礼をした。メイド達はマリアを除いて左からアビー、カーラ、ケイシーと言った。アビーは背が低く子供のような可愛さがある金髪の娘で、カーラは長い赤髪を後ろで結んでおり気が強そうな風貌をした娘だった。そして、ケイシーはセミロングの茶髪でおっとりとした感じのお姉さんだった。

「えぇ、よろしく。それでここは?」

 私は思っていた疑問をマリア達に聞いた。アビーが手を大きく広げてニコニコして

「ここは今回リシャール公で開かれる夜会のために、ベルラント様がアデリナ様ために急遽用意したドレスです」

 そう言ったのだ。

「えぇ?」

 私はアビーの発言がすんなりと頭に入ってこなかった。少し呆然としてると、

「ですから、ベルラント様が全て貴方様のためにご用意したものです」

 カーラは私に現実を見ろと言わんばかりの物言いでそう言った。

「……でも、昨日の今日ですよ? それに私がここまでされる理由がありません」

「そうです~。昨日アーレンス家の使いが帰ってすぐに、旦那様が帝都中の仕立て屋を呼び用意させたのです。それにしても時間に余裕があれば、オーダーメイド品をご用意できたのですが~。既製品のみご用意になってしまいました」

 ケイシーは残念だわ~といった感じで頬に手を当てた。

「そうですよ!! アデリナ様は本当にベルラント様に愛されおられますね! 一回の夜会のためにこれだけのドレスをご用意されるのですから。それにしても女性との浮ついた話を一つも聞いたことのなかった旦那様に本命がいたとは知りませんでした。それに……」

 そして、アビーはさらに話し続けてカーラやケイシーも混ざりベルラント様と私の恋物語を話し始めた。そのような事実は一切ないのだが、と思いながら私はドレスをもう一度見た。パッと見た感じ少なくとも50着以上はあるだろう。どれも最近の流行を取り入れたながら、しっかりとした気品を感じさせる素晴らしい作品達であった。さぞかし高名なデザイナー達がデザインしたのだろう。手で素材を確認してみると手触りがよく生地も良いものであった。するとマリアはそろそろ本題に入ろうと言った感じで手を叩いた。

「さて、貴方達おしゃべりばかりしていないで、手伝ってちょうだい。アデリナ様に試着してもらいますから。アデリナ様はこちらへ」

 マリアにされるがままに私は試着室に入ったのだった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

愛する婚約者の君へ。

水垣するめ
恋愛
 私エレナ・スコット男爵令嬢には婚約者がいる。  名前はレイ・ライランス。この国の騎士団長の息子で、次期騎士団長だ。  金髪を後ろで一束にまとめていて、表情と物腰は柔らかく、とても武人には見えないような端正な顔立ちをしている。  彼は今、戦場にいる。  国の最北端で、恐ろしい魔物と戦っているのだ。  魔物との戦いは長い年月に及び、この国の兵士は二年、最北端で魔物と戦う義務がある。  レイは今、その義務を果たしているところだ。  婚約者としては心配なことこの上ないが、次期騎士団長ということもあり、比較的安全な後方に置かれているらしい。  そんな私の愛する婚約者からは、毎日手紙が届く。

【完結】彼と私と幼なじみ

Ringo
恋愛
私には婚約者がいて、十八歳を迎えたら結婚する。 ある意味で政略ともとれる婚約者とはうまくやっているし、夫婦として始まる生活も楽しみ…なのだが、周囲はそう思っていない。 私を憐れむか馬鹿にする。 愛されていないお飾りなのだと言って。 その理由は私にも分かっていた。 だって彼には大切な幼なじみがいて、その子を屋敷に住まわせているんだもの。 そんなの、誰が見たってそう思うわよね。 ※本編三話+番外編四話 (執筆&公開予約設定済みです) ※シリアスも好物ですが、たまには頭を空っぽにしたくなる。 ※タグで大筋のネタバレ三昧。 ※R18命の作者にしては珍しく抑え気味♡ ※念のためにR15はしておきます。

【完結】婚約解消、致しましょう。

❄️冬は つとめて
恋愛
政略的婚約を、二人は解消する。

旦那様、私は全てを知っているのですよ?

やぎや
恋愛
私の愛しい旦那様が、一緒にお茶をしようと誘ってくださいました。 普段食事も一緒にしないような仲ですのに、珍しいこと。 私はそれに応じました。 テラスへと行き、旦那様が引いてくださった椅子に座って、ティーセットを誰かが持ってきてくれるのを待ちました。 旦那がお話しするのは、日常のたわいもないこと。 ………でも、旦那様? 脂汗をかいていましてよ……? それに、可笑しな表情をしていらっしゃるわ。 私は侍女がティーセットを運んできた時、なぜ旦那様が可笑しな様子なのか、全てに気がつきました。 その侍女は、私が嫁入りする際についてきてもらった侍女。 ーーー旦那様と恋仲だと、噂されている、私の専属侍女。 旦那様はいつも菓子に手を付けませんので、大方私の好きな甘い菓子に毒でも入ってあるのでしょう。 …………それほどまでに、この子に入れ込んでいるのね。 馬鹿な旦那様。 でも、もう、いいわ……。 私は旦那様を愛しているから、騙されてあげる。 そうして私は菓子を口に入れた。 R15は保険です。 小説家になろう様にも投稿しております。

すべてが嫌になったので死んだふりをしたら、いつの間にか全部解決していました

小倉みち
恋愛
 公爵令嬢へテーゼは、苦労人だった。  周囲の人々は、なぜか彼女にひたすら迷惑をかけまくる。  婚約者の第二王子は数々の問題を引き起こし、挙句の果てに彼女の妹のフィリアと浮気をする。  家族は家族で、せっかく祖父の遺してくれた遺産を湯水のように使い、豪遊する。  どう考えても彼らが悪いのに、へテーゼの味方はゼロ。  代わりに、彼らの味方をする者は大勢。  へテーゼは、彼らの尻拭いをするために毎日奔走していた。  そんなある日、ふと思った。  もう嫌だ。  すべてが嫌になった。  何もかも投げ出したくなった彼女は、仲の良い妖精たちの力を使って、身体から魂を抜き取ってもらう。  表向き、へテーゼが「死んだ」ことにしようと考えたのだ。  当然そんなことは露知らず、完全にへテーゼが死んでしまったと慌てる人々。  誰が悪い、これからどうするのか揉めるうちに、自爆していく連中もいれば、人知れず彼女を想っていた者の復讐によって失脚していく連中も現れる。  こうして彼女が手を出すまでもなく、すべての問題は綺麗さっぱり解決していき――。  

もううんざりですので、実家に帰らせていただきます

ルイス
恋愛
「あなたの浮気には耐えられなくなりましたので、婚約中の身ですが実家の屋敷に帰らせていただきます」 伯爵令嬢のシルファ・ウォークライは耐えられなくなって、リーガス・ドルアット侯爵令息の元から姿を消した。リーガスは反省し二度と浮気をしないとばかりに彼女を追いかけて行くが……。

【完結】私の愛する人は、あなただけなのだから

よどら文鳥
恋愛
 私ヒマリ=ファールドとレン=ジェイムスは、小さい頃から仲が良かった。  五年前からは恋仲になり、その後両親をなんとか説得して婚約まで発展した。  私たちは相思相愛で理想のカップルと言えるほど良い関係だと思っていた。  だが、レンからいきなり婚約破棄して欲しいと言われてしまう。 「俺には最愛の女性がいる。その人の幸せを第一に考えている」  この言葉を聞いて涙を流しながらその場を去る。  あれほど酷いことを言われってしまったのに、私はそれでもレンのことばかり考えてしまっている。  婚約破棄された当日、ギャレット=メルトラ第二王子殿下から縁談の話が来ていることをお父様から聞く。  両親は恋人ごっこなど終わりにして王子と結婚しろと強く言われてしまう。  だが、それでも私の心の中には……。 ※冒頭はざまぁっぽいですが、ざまぁがメインではありません。 ※第一話投稿の段階で完結まで全て書き終えていますので、途中で更新が止まることはありませんのでご安心ください。

もうすぐ、お別れの時間です

夕立悠理
恋愛
──期限つきの恋だった。そんなの、わかってた、はずだったのに。  親友の代わりに、王太子の婚約者となった、レオーネ。けれど、親友の病は治り、婚約は解消される。その翌日、なぜか目覚めると、王太子が親友を見初めるパーティーの日まで、時間が巻き戻っていた。けれど、そのパーティーで、親友ではなくレオーネが見初められ──。王太子のことを信じたいけれど、信じられない。そんな想いにゆれるレオーネにずっと幼なじみだと思っていたアルロが告白し──!?

処理中です...