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六話 ケモノたちの宴で起きる婚約破棄 side カミラ 

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 森が茂り山がちな地形にぽっつんと建てられ、まさに森の要塞と呼ぶにふさわしい場所にエンツェンスベルガー城があった。いつもの夜なら、エンツェンスベルガー城周辺は静かで動物たちの鳴き声だけが響き渡る動物たちの領域であるが、今夜は多くの人がその城に出入りしており、今日に限れば人の領域のような賑わいようであった。

 私ことカミラも今日行われるエンツェンスベルガー家主催のパーティーに来ていた。本来なら、婚約者であるバルトロメウス様がエスコートをしてくれるのが普通であるが、迎えにすら来ないとのことなので私は父上と一緒に来ていた。

 エンツェンスベルガー家は元々武家であり力こそ至上であると唱える家であった。そんなエンツェンスベルガー家であったが、国境が隣り合う国が公国となってから一度も戦争は発生せず、力を発揮する機会は年々減り彼らの存在意義が失われていった。そんな彼らに残ったものは武家時代の悪しき風習『強き者は何をしても許される』といった考えであった。この考えは、戦争が頻発していた時代では国の守護者として許容されていたが、戦働きが減るとただの邪魔者となった。しかし、彼らはこのジャイアニズムとも言える主義を変えることはなかった。そして、彼らは帝都からも排除されるようになり、自領で閉じこもりお山の大将として君臨するようになった。
 
 しかし、かの一族には領地を治めるという概念がなく広大である領地は荒れ果ていた。それを彼らは借金に借金を重ね踏み倒すを繰り返して何代もやり過ごした。しかし、商人の力が強くなった今の時代にそれができるほど甘くはなかった。まさに彼らは没落間際であった。そんなときに発令されたのが現皇帝が提案した婚姻政策であった。

 私は運悪くこの悪名高きエンツェンスベルガー侯爵家嫡男バルトロメウス様と婚姻する羽目になってしまったのだ。バルトロメウス様のエンツェンスベルガー家の人間に恥じない力至上主義者であり傲慢な人であった。私は何回このバルトロメウスのせいで辛酸をなめた。我がエンデルス家も多額のお金を使わされた。今回の元公国国主ゴーティエ家一家をお迎えするパーティでもほぼ全てを我が家が用意した。しかし今回に限っては、嬉々として多額のお金を使い最上級のおもてなしができる環境にした。

 私はお父様にエスコートされ、パーティーホールに向かった。周りはエンツェンスベルガー家由縁の貴族が集まっていた。ここにいる貴族はエンツェンスベルガー家と同じような状況にある貴族家ばかりであり、会場の雰囲気は私たちのような貴族家にとっては息苦しさを感じさせるものであった。少しすると、招待客が全員集まったのか音楽が鳴り響きパーティーの始まりを告げた。

 私もお父様も特に挨拶すべき相手も居らず、ただ自分たちが手配させた料理を堪能していた。すると

「カミラ!! 早く出て来い!!!」

 というよく知った声が聞こえた。そうバルトロメウスの声だ。貴族たちは会場のど真ん中に何かあるのか取り囲むようにいた。どうやらその真ん中にバルトロメウスがいるようだ。私はバルトロメウスのもとへ向かった。彼の周りにいる貴族は嫌らしい笑みを浮かべて私を見ていた。私が彼のもとにつくと、アレクサンドラは儚げな容姿をしており守ってあげたくなるような表情をしていた。まさにバルトロメウスの好みどストライクの美少女であった。私がそのように分析しているとバルトロメウスは大きな声を出した。

「カミラ!! お前との婚約は今日で破棄する! お前のような奴は俺様に相応しくない。代わりに俺様はこの公国家の姫であるアレクサンドラと婚姻することとなった。以上だ!! もうお前に用はない疾くと出ていけ」

 バルトロメウスの周りを囲んでいた貴族はこの宣言に拍手と歓声を上げた。さらに彼の腕に抱きついているアレクサンドラは私のほうを見て勝ち誇ったような表情をしてきた。それに対して私は悲しい表情をして

「では、陛下にそのように報告させていただきますがよろしいでしょうか?」

 と言った。するとバルトロメウスは

「あぁ、そのように陛下に伝えといてくれ。俺様は忙しい」

 と言って彼に群がる他の貴族と会話を始めた。辺りから、「これでエンツェンスベルガー家は安泰だ!!」や「エンツェンスベルガー家に相応しい姫君を迎え入れることが今代に達成できた。これからエンツェンスベルガー家は勢いづくぞ!」などの声が聞こえた。バルトロメウスに媚びを売りろうと貴族たちは醜く押し合いなどをしながらバルトロメウスに近づこうとしていた。その姿は常夜灯に群がる蚊や蛾のような気持ち悪さがあった。

 私は悲しい表情を維持しつつも、冷たい目でそんな彼らを見つめた。そして、私は体を翻してお父様と共に会場を後にした。
 
 馬車の中に入ると私たちは笑みを溢した。お父様のこんなに爽やかな笑みを見たのは久しぶりのことで嬉しかった。私も多分今までの人生でしてきた笑みの中でも最高の笑みを浮かべているだろう。そうやって、二人で今までの苦労をお互いに吐き出しながらエンツェンスベルガー家と縁が切れたことを喜びあった。山奥で妖しく光を灯す山城を見つめつつ、私たちは馬車で人の住む領域へ向けて歩みを進めて行った。
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