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三十三
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明るい日差しに照らされた野原に立った岐城君は懐かしさを感じた。だが、ここが何処かは分からなかった。
前方に人影が二つ見えた。彼は迷うことなく、そちらに向かって歩いて行った。
「お父さま」
小さい方の人影が呼びかけた。
岐城君は呼びかけた少女のもとに駆けつける。
「お久しぶりでございます」
少女の隣にいた女人が言った。
「朴尚宮!」
会いたかった人にまた会えたのだ、夢と分かっていても嬉しかった。
二人が見つめ合っている間に少女は繋いでいた手を離し、花畑の方に駆けて行った。
「私たちの娘かい」
少女を見送りながらと岐城君が問うと
「はい、私の幼い頃にそっくりです」
と朴尚宮は笑顔で答えた。
間も無く少女は花輪を持って戻って来た。
「お父さま、手を出して」
少女の言うままに手を差し出すと、彼女は手首に花輪をはめた。
「私にくれるのか、ありがとう」
岐城君が礼を言うと少女ははにかんだ笑みを浮かべた。そして、再び花畑の方に行った。
「元気なお嬢さまだね」
「ええ、ああして駆け回ったり、馬に乗ったり、笛を吹くのが大好きなんですよ」
「子供の頃の君のようにお転婆さんなんだね」
尚宮は微笑みながら「ええ」と応じた。
「ちちうえ、おはようございます」
隣に寝ていた若君が目を覚まして布団から抜け出すときちんと座って朝の挨拶をした。
既に身支度を終えた岐城君は子供の頭を撫でて「よく出来ました」と応じた。
その後、側に控えていた大尚宮と小尚宮が着替えさせた。それが済むと岐城君手ずから子供の髪を結う。かつて妻にしたのと同じように二つ結いにする。
「姫さまを思い出しますね」
手伝いをする大尚宮が言うと
「そうだね」
と子供の父親は応えた。
「今日はね、吉祥と遊ぶの」
若君が立ち上がって言うと
「そうか、その前に朝御飯を食べるんだよ」
と岐城君は子供の頭を撫でた。
「はーい」
大尚宮に手を引かれて部屋を出る若君が元気に返事をした。
部屋に残った小尚宮に岐城君は言った。
「もう一度私の子供を産んで欲しい」
「はい、分かりました」
主人の子供の母親であり、屋敷内では主人の配偶者扱いされている彼女だが、所詮、使用人の一人に過ぎない。それゆえ拒否は出来なかった。
だが、彼女には、そうした否定的な感情は全く無く、若君が大きくなって手があまり掛からなくなったので、もう一人子供が欲しくなったのだろうくらいに考えた。
その夜、小尚宮は久しぶりに主人の寝室にいった。
「こうして二人きりになるのは何年ぶりだろうね」
緊張気味の小尚宮に声を掛けながら岐城君が彼女の上着に手を触れた瞬間
“岐城さま”
何処からか声がした。同時に誰かが彼女に憑くのを感じた。
“どなたですか”
問い掛ける間もなく意識が遠のいていった。
「朴尚宮!」
「お会いしたかったです」
二人は抱き合い唇を合わせた。
前方に人影が二つ見えた。彼は迷うことなく、そちらに向かって歩いて行った。
「お父さま」
小さい方の人影が呼びかけた。
岐城君は呼びかけた少女のもとに駆けつける。
「お久しぶりでございます」
少女の隣にいた女人が言った。
「朴尚宮!」
会いたかった人にまた会えたのだ、夢と分かっていても嬉しかった。
二人が見つめ合っている間に少女は繋いでいた手を離し、花畑の方に駆けて行った。
「私たちの娘かい」
少女を見送りながらと岐城君が問うと
「はい、私の幼い頃にそっくりです」
と朴尚宮は笑顔で答えた。
間も無く少女は花輪を持って戻って来た。
「お父さま、手を出して」
少女の言うままに手を差し出すと、彼女は手首に花輪をはめた。
「私にくれるのか、ありがとう」
岐城君が礼を言うと少女ははにかんだ笑みを浮かべた。そして、再び花畑の方に行った。
「元気なお嬢さまだね」
「ええ、ああして駆け回ったり、馬に乗ったり、笛を吹くのが大好きなんですよ」
「子供の頃の君のようにお転婆さんなんだね」
尚宮は微笑みながら「ええ」と応じた。
「ちちうえ、おはようございます」
隣に寝ていた若君が目を覚まして布団から抜け出すときちんと座って朝の挨拶をした。
既に身支度を終えた岐城君は子供の頭を撫でて「よく出来ました」と応じた。
その後、側に控えていた大尚宮と小尚宮が着替えさせた。それが済むと岐城君手ずから子供の髪を結う。かつて妻にしたのと同じように二つ結いにする。
「姫さまを思い出しますね」
手伝いをする大尚宮が言うと
「そうだね」
と子供の父親は応えた。
「今日はね、吉祥と遊ぶの」
若君が立ち上がって言うと
「そうか、その前に朝御飯を食べるんだよ」
と岐城君は子供の頭を撫でた。
「はーい」
大尚宮に手を引かれて部屋を出る若君が元気に返事をした。
部屋に残った小尚宮に岐城君は言った。
「もう一度私の子供を産んで欲しい」
「はい、分かりました」
主人の子供の母親であり、屋敷内では主人の配偶者扱いされている彼女だが、所詮、使用人の一人に過ぎない。それゆえ拒否は出来なかった。
だが、彼女には、そうした否定的な感情は全く無く、若君が大きくなって手があまり掛からなくなったので、もう一人子供が欲しくなったのだろうくらいに考えた。
その夜、小尚宮は久しぶりに主人の寝室にいった。
「こうして二人きりになるのは何年ぶりだろうね」
緊張気味の小尚宮に声を掛けながら岐城君が彼女の上着に手を触れた瞬間
“岐城さま”
何処からか声がした。同時に誰かが彼女に憑くのを感じた。
“どなたですか”
問い掛ける間もなく意識が遠のいていった。
「朴尚宮!」
「お会いしたかったです」
二人は抱き合い唇を合わせた。
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