密会の森で

鶏林書笈

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二十五

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 屋敷に戻った岐城君は侍女に、正服を用意させ、着替え始めた。身なりを整え、屋敷を出る直前、彼は吉祥父に近付いて言った。
「私はもうここには戻らないかも知れない。その時は、屋敷の物を全て処分し、皆で分けてくれ」
「岐城さま…」
 主人の思い詰めた言葉に吉祥父は涙を流した。
「お前には世話になったな」
 こう言いながら肩に手を置いた後、岐城君は門を出ていった。。
「なんとか夜が開け切る前に王のもとへ行かねば」
 岐城君の歩みは速まった。
 間もなく王宮の前に辿り着いた。門番に「開けよ」と命じると、彼らは訝しがりながらも相手が王族ゆえ黙って扉を開けた。
 彼は王の居る大殿に向かった。幾人かの宮女や内侍が彼の姿を見たが、不審に感じながらも何も言わなかった。
 大殿に着いた。
「岐城君が参った。主上に謁見願う」
 大声で言うとすぐに国王付きの尚宮が現れた。
「何事でございましょう、このような時間に」
 言葉は丁寧だが、明らかに咎めていた。
「とにかく義兄上に会わせてくれ」
 こう言いながら岐城君は大殿に上がった。内侍や宮女たちが押し留めたがそれを打ち払って彼は奥へと進んだ。

「一体何事だ」
 部屋の外の騒々しさに床から起きあがった王は側仕えに訊ねた。
「はい、岐城さまが主上に会わせてくれと言って聞かないのです」
「分かった、支度をしてくれ」
 王は侍女に命じた。

 あのおとなしい義弟がこれほどの無茶をするとは、余程のことなのだろう。
 王は岐城君の身を案じるのだった。
 王は、側に仕える者たちを全て下がらせ、一人で執務室に入った。岐城君は、さっと王の前に平伏した。
「臣(わたくし)は万死に値する罪を犯しました」
 彼は悲痛の声で告げた。
 驚いた王は、まず義弟を起こし、椅子に座らせた。自身も机を挟んだ向かい側の自分の席に着いた。
「一体、何があったのだ?」
 穏やかな声で王は義弟に訊ねた。
 岐城君は、これまでのことを包み隠さず全て王に話した。
「そうか…」
 聞き終えた王は、予想外の内容に言葉を継ぐことが出来なかった。
 長いような短いような時間が流れた末、王はやっと口を開いた。
「取り敢えず、汝は屋敷に戻れ。追って沙汰する故」
 岐城君は一礼して御前を辞した。
 彼が部屋を出たのを確認すると王は、
「聞いての通りだ。あの様子だと万が一ということもあり得る。しかと見張ってくれ」
と言った。と同時に背後の屏風裏より壮健な男が現われた。
 王の正面に回り跪いた彼は
「かしこまりました」
と答え、部屋を出て行った。
 続いて外に向かって言った。
「これより別殿に行く」
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