密会の森で

鶏林書笈

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二十二

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 小鳥の囀りと共に目覚め、窓を開けて日差しを浴びる。或いは雨音に目を覚まし少し憂鬱な気分になる。
 こうした日々の繰り返しの中でも侍中の毎日は楽しかった。何かにつけ森に出掛けては岐城君に逢った。それは短く細やかなことであったが、侍中の日常を支えてくれる大切な宝物だった。
「私が君を守るよ」
 こう言ってくれた岐城君は夢の中でも彼女を守ってくれる。
 彼女は今でも時々、あの忌まわしいことを夢に見る。
「‥‥耳朶に穴が空いている、お前は夷狄の女か」
 男は侍中をさんざん貶める言葉を吐きながら、猥らな笑みを浮かべながらしっかりと侍中の身体を捕らえて自身の欲望を果たそうとした。そこへ岐城君が現われて彼女を救い出してくれる。彼女はほっとし、心身が安らぐのだった。
 床から起き上がると侍中は身支度を済ませ、王妃の元へ行く。今日も王宮へ行く用事がある。侍中の胸は弾んだ。
「近頃、あの子は前にも増して綺麗になったなぁ」
 侍中が部屋を出ると王妃が呟く。
「本当に。気持ちも穏やかになられて」
 脇に控える侍中の同僚が応えた。一時期、侍中と同僚侍女たちの間がぎこちなくなったが、今はそれも解けた。
「師傅や正妃が、良く遇してくれるのだろう」
「さようにございますね」

 身支度をして出勤する主人を見送った吉祥が父親に言った。
「この間、森の中で岐城さまが宮女さまと一緒にいたところを見たんだ」
「何だって!」
 吉祥の父親は声を抑えて叫んだ。たとえ、王族だといっても宮女との色恋沙汰は御法度だった。“王の女性”とされている宮女と親しくなるのは不義密通になるのであった。
 取り敢えず、現場を確認しなくては―
 こう考えた吉祥の父親は、その日の午後、吉祥を伴って森へ向かった。
 息子に先導されて父親は森の奥へと進んでいく。しばらくすると和やかな男女の話し声が聞こえた。
 泉のほとりの大きな木の下に岐城君と宮女が並んで座り、親しげに語り合っていた。
 茂みの中から吉祥父子は、その様子を見つめていたが、
何も言わず、そのまま立ち去った。
「あの宮女さま、姫さまに似ているよね」
 歩きながら吉祥が言うと
「そういえば、そうだな」
と父親も同意した。そして、
「いいか、このことは絶対誰にも言うんじゃないよ、また岐城さまにお聞きになっても駄目だ、分かったな」
と強い口調で注意した。
 主人の恋が実ることはありえないだろう、いやその結末は悲劇以外にない。それでも、この恋が成就することを願わずにはいられない吉祥の父親だった。
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