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第17話 仕事
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サキは王宮北側に来ると、警備のために城壁に立っている男がいた。あくびをしている男の背中に声をかける。
「ケネスという男はいるか?」
男が振り返り、サキを品定めするように見たあと、答えた。
「俺がケネスだが、何か用か?」
「ヘイルとの間にもめ事があるそうだな」
「それがお前とどう関係がある? お前が解決してくれるのか?」
「かもな。言って損するわけじゃないだろう」
ケネスは忌々しそうに言った。
「あいつが賭けの貸しを返さねえ。1年以上も積み上がっている」
「やはりそうなんだな。実はヘイルは金の都合がついたそうなんだ。明日の夜、返すつもりがあるそうだ」
「本当か?」
***
その夜、ヘイルが詰所で酒をやっていると、女がやってくる。女は武装している。それで分かった。近衛騎士団のあいだで噂になっている女だ。何でも先日の王太子と王女が襲撃された事件で手柄を立てたとかで、王女の護衛として雇われたという話は聞いた。そして本当か疑わしいが、立ち合いでエリクに勝ったとかいう話だ。
「あんたヘイルだな?」
「そうだが、王女の護衛が俺に何の用だ?」
「ケネスに使いを頼まれてな。あんたの借金の件でいい話だそうだ」
「なんでケネスが直接来ない?」
「わたしが知るか。本人に聞いてくれ。わたしは頼まれたことをやっているまでだ」
少し怪しく感じたが、女ひとりにびびっていると思われるのも癪だ。エリクを倒したというがまぐれか誇張だろう。
「案内しろ」
「ついてこい」
ヘイルはサキの尻を眺めながら後についていった。
(悪くない眺めだな。しかし何の話だ? 何でこの女を使いにしたんだ?)
***
ヘイルはサキについて待ち合わせ場所までやってきた。ケネスが壁にもたれ掛かって腕を組んでいたが、ヘイルがやってきたのを認めると腕を解いて近づいて来た。ヘイルが声をかける。
「話ってのはなんだ?」
「んあ?用事があるのはそっちだろ?」
「どういうことだ?」
サキを問いただそうと左を向いたがそこにサキの姿はなかった。次の瞬間、背中に激痛が走った。何が起こったかを理解する間もなく、腹にも痛みがきた。血に塗れた剣だ。自分の血に。背中から刺された剣が腹からつき出しているのだ。
薄れいく意識のなか彼が見たのは、あわてて剣を抜いたケネスが数回打ち合ったあと、女に剣を落とされる情景だった。女は後ずさりするケネスににじりより、ケネスにとどめを刺した。女が近づいて来て、剣をこちらに突きつける。
「あの夜、お前たち3人は女に乱暴したな? あとひとりの名前を言え!」
「し、知らねえ」
女が剣をヘイルの顔の前で素早く振る。頬に痛みが走る。
「次に時間を無駄にしたら、首を落とす」
女の剣が首にあてがわれた。
「ロ、ロッジ……ロッジだ」
「その男はいまどこにいる?」
「西門の詰所」
「あのとき、お前たちのほかに廷臣がいたはずだ。その廷臣の名は?」
「大物だ。お前が手を出せる相手じゃねえ」
「いいから誰だか言え!」
「クラレンス」
「大法官の?」
もう喋ることが不可能になり、ヘイルは必死でうなずいた。意識が遠のいていき、やがて視界が暗くなった。
***
聞きたいことは聞いた。誰かに見つかる前に終わらせなければ。サキは横たわるヘイルの右手の小指から指輪を剥ぎ取った。ヘイルの剣を抜き、血に浸して手に握らせた。ケネスの剣にも同じ工作をする。これで用が済んだ。サキがその場を去ろうと踵を返すと、目の前に大きな人影があった。サキは驚き剣を抜き構えるが、相手はジェンゴだった。
「関心しねえな」
「ジェンゴ」
ジェンゴは小指で耳をほじりながら言う。
「これは母親の復讐だな?個人的な復讐で任務を危険にさらすってのは関心しねえな」
「任務はしっかり果たす。これは任務には影響しない。ヴァンや他の者には黙っていてくれないか」
「安心しろ。関心はしないが、チクるのも好きじゃねえ。それよりこういうことをやるなら、コソコソしねえで俺に相談しろよ。水くせえな。ふたりでやったほうが確実だろうが。ヴァンはお前も知ってのとおり、“谷”の次期頭候補だ。よいこにしてないといけねえ。規律違反はご法度だ。つまり、こういうのは俺の役回りだな。手伝うぜ」
「ありがたい申し出だが、これは私の個人的な復讐だ。お前を巻き込みたくない」
サキがジェンゴの横を通り過ぎようとすると、ジェンゴが真顔になって尋ねる。
「西門を守っているロッジって男と、大法官のクラレンスも殺る気か?」
「聞こえていたのか」
「こんなにうまくいかないぜ。俺を使え」
サキはそれには答えず、歩き去っていった。
「ケネスという男はいるか?」
男が振り返り、サキを品定めするように見たあと、答えた。
「俺がケネスだが、何か用か?」
「ヘイルとの間にもめ事があるそうだな」
「それがお前とどう関係がある? お前が解決してくれるのか?」
「かもな。言って損するわけじゃないだろう」
ケネスは忌々しそうに言った。
「あいつが賭けの貸しを返さねえ。1年以上も積み上がっている」
「やはりそうなんだな。実はヘイルは金の都合がついたそうなんだ。明日の夜、返すつもりがあるそうだ」
「本当か?」
***
その夜、ヘイルが詰所で酒をやっていると、女がやってくる。女は武装している。それで分かった。近衛騎士団のあいだで噂になっている女だ。何でも先日の王太子と王女が襲撃された事件で手柄を立てたとかで、王女の護衛として雇われたという話は聞いた。そして本当か疑わしいが、立ち合いでエリクに勝ったとかいう話だ。
「あんたヘイルだな?」
「そうだが、王女の護衛が俺に何の用だ?」
「ケネスに使いを頼まれてな。あんたの借金の件でいい話だそうだ」
「なんでケネスが直接来ない?」
「わたしが知るか。本人に聞いてくれ。わたしは頼まれたことをやっているまでだ」
少し怪しく感じたが、女ひとりにびびっていると思われるのも癪だ。エリクを倒したというがまぐれか誇張だろう。
「案内しろ」
「ついてこい」
ヘイルはサキの尻を眺めながら後についていった。
(悪くない眺めだな。しかし何の話だ? 何でこの女を使いにしたんだ?)
***
ヘイルはサキについて待ち合わせ場所までやってきた。ケネスが壁にもたれ掛かって腕を組んでいたが、ヘイルがやってきたのを認めると腕を解いて近づいて来た。ヘイルが声をかける。
「話ってのはなんだ?」
「んあ?用事があるのはそっちだろ?」
「どういうことだ?」
サキを問いただそうと左を向いたがそこにサキの姿はなかった。次の瞬間、背中に激痛が走った。何が起こったかを理解する間もなく、腹にも痛みがきた。血に塗れた剣だ。自分の血に。背中から刺された剣が腹からつき出しているのだ。
薄れいく意識のなか彼が見たのは、あわてて剣を抜いたケネスが数回打ち合ったあと、女に剣を落とされる情景だった。女は後ずさりするケネスににじりより、ケネスにとどめを刺した。女が近づいて来て、剣をこちらに突きつける。
「あの夜、お前たち3人は女に乱暴したな? あとひとりの名前を言え!」
「し、知らねえ」
女が剣をヘイルの顔の前で素早く振る。頬に痛みが走る。
「次に時間を無駄にしたら、首を落とす」
女の剣が首にあてがわれた。
「ロ、ロッジ……ロッジだ」
「その男はいまどこにいる?」
「西門の詰所」
「あのとき、お前たちのほかに廷臣がいたはずだ。その廷臣の名は?」
「大物だ。お前が手を出せる相手じゃねえ」
「いいから誰だか言え!」
「クラレンス」
「大法官の?」
もう喋ることが不可能になり、ヘイルは必死でうなずいた。意識が遠のいていき、やがて視界が暗くなった。
***
聞きたいことは聞いた。誰かに見つかる前に終わらせなければ。サキは横たわるヘイルの右手の小指から指輪を剥ぎ取った。ヘイルの剣を抜き、血に浸して手に握らせた。ケネスの剣にも同じ工作をする。これで用が済んだ。サキがその場を去ろうと踵を返すと、目の前に大きな人影があった。サキは驚き剣を抜き構えるが、相手はジェンゴだった。
「関心しねえな」
「ジェンゴ」
ジェンゴは小指で耳をほじりながら言う。
「これは母親の復讐だな?個人的な復讐で任務を危険にさらすってのは関心しねえな」
「任務はしっかり果たす。これは任務には影響しない。ヴァンや他の者には黙っていてくれないか」
「安心しろ。関心はしないが、チクるのも好きじゃねえ。それよりこういうことをやるなら、コソコソしねえで俺に相談しろよ。水くせえな。ふたりでやったほうが確実だろうが。ヴァンはお前も知ってのとおり、“谷”の次期頭候補だ。よいこにしてないといけねえ。規律違反はご法度だ。つまり、こういうのは俺の役回りだな。手伝うぜ」
「ありがたい申し出だが、これは私の個人的な復讐だ。お前を巻き込みたくない」
サキがジェンゴの横を通り過ぎようとすると、ジェンゴが真顔になって尋ねる。
「西門を守っているロッジって男と、大法官のクラレンスも殺る気か?」
「聞こえていたのか」
「こんなにうまくいかないぜ。俺を使え」
サキはそれには答えず、歩き去っていった。
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