その都市伝説を殺せ

瀬尾修二

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四章

三十六話

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 僅かな間、会話が途切れる。
 和義は、数時間前に起こった信じ難い出来事を、今し方与えられた情報を元に分析してみた。しかし、まだまだ分からない事の方が多い。それどころか、新たな疑問も湧いてきた。
「化け物は、どこから生まれてくるんだ?」
「俺達から」
「は?」
「俺もお前も、作家みたいなもんだよ」
 達也は、この問いに対して曖昧な返答しかせず、「その内分かる」と呟くだけだった。
 和義は釈然としない気持ちになったが、次の質問をする事にした。
「お前は、どんな霊能を持っているんだ?」
「俺か? 俺はコイツにとり憑かれててさ。獏って言うんだ。聞いたことあるだろ?」
 達也の掌の上に、コミカルな造形をした化け物が現れた。それは、何とも奇妙な姿形をしていた。鼻は象に似ており、足は肉食獣を思わせて、胴体や尾は何だか分からない。(色々な生き物を、適当にくっつけたみたいだ)というのが、和義が獏と呼ばれる化け物から受けた印象だった。
「こいつは夢を食うんだ。寝てるとき見る方な。そういや、お前も何かにとり憑かれたんだっけ?」
「……たぶん、よくない、幽霊っぽいの」
「悪霊か? うへ。さいあく」
 (本当に、最悪だよ)と内心で呟いた和義は、またしても暗澹とした気持ちになった。

「戦ってる時に、体が化け物みたいになったんだけど……。アレ、どういう状態なんだ?」
 眠気を催したのか、達也の瞼が僅かに下がっていた。
「霊力の高い生き物は、化ける事ができる。人から変化する鬼や、化け狐なんかが有名だな。この状態の特徴は、幽霊の特徴と大体同じだと思っていい。生き物が化けていた場合、霊力が尽きると生身にもどる。その状態で人が霊的な攻撃を加えられれば、即御臨終して人魂に。動物の場合は、鬼火になる。元が生き物ではない化け物も、霊力が尽きれば鬼火に。化け物は、殆ど無力な人魂や鬼火の状態にしてから、敵を食う事が多い」
 教師から朗読を命じられた生徒のように、達也は淡々と説明する。
 しかし次第に、目をつぶったまま数秒ほど動かなくなる回数が増えていったので、彼は眠気覚ましに携帯をいじりだした。
 和義は、そんな事には一切構わず、ここぞとばかりに質問を続けた。
 時間が経つにつれて、達也の口調が投げやりになってく。もう説明したくないと、言外に匂わしているのだ。
 無理もない。誰だって、この様な問答に付き合いたくは無いだろう。しかし、仕方がないのだ。説明を聞いておかないと、後で困るのだ。
「ついでに言っとくと、群をなす霊もいる。多数の霊が集まって、一つの存在のように振る舞うような奴。事故現場なんかで、寂しさのあまり生者を死に誘う亡霊群…みたいな話、あるじゃん? お前にとり憑いているのも、そういう類だと思う」
「……」
 面倒臭さそうな口調に終始くつろいだ態度で、達也は答え続けた。
 そうした友人の姿を眺めている内に、和義の──化け物に関する情報を、少しでも引き出そうという──気持ちが、段々と萎んでいった。会話が徐々に、只の雑談へと変わっていく。
 それでも、時折難しい顔をする和義に対して、達也がスマホの画面から目を離さずに言った。
「俺は超自然的な現象や存在について、あまり思い悩まないように気をつけてる。考え過ぎずに、ある程度は逃避というか、妥協するのも大事だと思うわ。こういうものだから、どうしようも無いって」
 煩わしそうな態度を取ってはいても、達也なりに心配していたのだろう。和義は礼を言おうかどうか迷ったが、少し時間が経つと、そんな雰囲気では無くなってしまった。
 それから十分ほどして、達也は帰っていった。(また気を使わせてしまったな)と、和義は思う。

 昼間の疲れが再び押し寄せてきたので、和義は床についた。
 友人からもらった助言に従って、余計な事を考えないように努める。
 しかし一馬の事だけは、どうしても頭から離れなかった。
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