その都市伝説を殺せ

瀬尾修二

文字の大きさ
上 下
16 / 39
二章

十六話

しおりを挟む
 和義は、自宅の程近くに着いてから、ようやく隣家にいた化け物の存在を思い出した。何故、早紀に相談しなかったのかと悔む。このまま道なりに進めば、例の場所を通ってしまう。
 彼は、反対側の道路まで遠回りしようかどうかを迷ったが、達也に山田さんがどうこうのと笑われた事を思い出した。
 結局、平然とした顔で歩いていって、ヤバそうなら走り去ろうと腹を決めた。
 今朝方、化け物を確認した家が目前に迫る。すると、幼い子供の声が聞こえてきた。何か言葉を、一生懸命呟いている。
 「まだいた」と小さく呟き、和義は何気ない表情を装って進んだ。
 最初の内は、子供のいる方向を見ないよう意識していた。だが、どうしても我慢できずに、チラリと一瞬盗み見てしまう。
 縁側の上で、小さな男の子が遊んでいた。通りに背を向けて、玩具の車を手動で走らせている。まだ三、四歳くらいの幼児に見えた。
 視線を戻した彼の心中に、違和感が芽生えていた。頭髪が全く無い上に、普通の子供とは微妙に頭身が違う気がするのだ。しきりに同じ言葉を繰り返しているのも、少し気味が悪い。
「ぼくのすーぱーかーだ!! ぼくのすーぱーかーだ!!」
 全く同じ間隔・語調で、幼児が喋り続ける。1の英数字をなぞるように、玩具を延々と上下させた。俯いた幼児が遊びに耽っていたので、和義は思わずその光景を凝視してしまう。
「ぼくのすーぱーかーだ!! ぼくのすーぱーかーだ!! ぼくはこうやって、せいしんのばらんすをとっているんだ!! ぼくのすーぱーかーだ!! ぼくの…」
「なんだあれ」
 和義が呟いた刹那、幼児は急に振り向いた。
「なんだぁ、かずよしかぁ」
 そう言うと事も無げに視線を戻して、元の作業に没頭しようとする。
「ぼくのすーぱーかーだ!! ぼく…」
 しかし、もう一度彼の方を向くと、呆けたような顔で和義を見つめた。それから数秒間、お互いに硬直する。
 和義も和義で、目があった瞬間に逃げだそうという気が吹き飛んでいた。相手の顔を見ている内に、心の底から安心感が沸き上がってきたのだ。
 幼児の表情が、ゆっくりと驚きの色に染まっていく。やがて、口をだらしなく開けたまま尋ねた。
「おっ、おっ、お、おっ、お前っ!! おれが見えるのか!?」
「み、見えますよ!!」
 返事を聞いた途端、わあぁっと声を上げながら和義に向かって走り出す。フォームはヨチヨチ歩きに近かったが、尋常ではない速さだった。
 気持ち悪いものと接触しそうになり、和義は怖気立つ。
「かずよしが!! かずよしがみえたぁ!!」
 古い記憶が、逃げる必要はないと主張する。
 幼児は相好を崩して、和義の周りをピョンピョンと飛び跳ねた。
 それから騒ぎを聞きつけた老夫婦に止められるまで、心底嬉しそうに騒ぎ回っていたのだった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話

矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」 「あら、いいのかしら」 夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……? 微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。 ※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。 ※小説家になろうでも同内容で投稿しています。 ※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。

十年目の離婚

杉本凪咲
恋愛
結婚十年目。 夫は離婚を切り出しました。 愛人と、その子供と、一緒に暮らしたいからと。

あなたなんて大嫌い

みおな
恋愛
 私の婚約者の侯爵子息は、義妹のことばかり優先して、私はいつも我慢ばかり強いられていました。  そんなある日、彼が幼馴染だと言い張る伯爵令嬢を抱きしめて愛を囁いているのを聞いてしまいます。  そうですか。 私の婚約者は、私以外の人ばかりが大切なのですね。  私はあなたのお財布ではありません。 あなたなんて大嫌い。

寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい

白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。 私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。 「あの人、私が

性転換マッサージ2

廣瀬純一
ファンタジー
性転換マッサージに通う夫婦の話

【R18】僕の筆おろし日記(高校生の僕は親友の家で彼の母親と倫ならぬ禁断の行為を…初体験の相手は美しい人妻だった)

幻田恋人
恋愛
 夏休みも終盤に入って、僕は親友の家で一緒に宿題をする事になった。  でも、その家には僕が以前から大人の女性として憧れていた親友の母親で、とても魅力的な人妻の小百合がいた。  親友のいない家の中で僕と小百合の二人だけの時間が始まる。  童貞の僕は小百合の美しさに圧倒され、次第に彼女との濃厚な大人の関係に陥っていく。  許されるはずのない、男子高校生の僕と親友の母親との倫を外れた禁断の愛欲の行為が親友の家で展開されていく…  僕はもう我慢の限界を超えてしまった… 早く小百合さんの中に…

冤罪だと誰も信じてくれず追い詰められた僕、濡れ衣が明るみになったけど今更仲直りなんてできない

一本橋
恋愛
女子の体操着を盗んだという身に覚えのない罪を着せられ、僕は皆の信頼を失った。 クラスメイトからは日常的に罵倒を浴びせられ、向けられるのは蔑みの目。 さらに、信じていた初恋だった女友達でさえ僕を見限った。 両親からは拒絶され、姉からもいないものと扱われる日々。 ……だが、転機は訪れる。冤罪だった事が明かになったのだ。 それを機に、今まで僕を蔑ろに扱った人達から次々と謝罪の声が。 皆は僕と関係を戻したいみたいだけど、今更仲直りなんてできない。 ※小説家になろう、カクヨムと同時に投稿しています。

クラスメイトに死ねコールをされたので飛び降りた

ああああ
恋愛
クラスメイトに死ねコールをされたので飛び降りた

処理中です...