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第四十五話 お師匠様の教え その2

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 敵に目を離さずにお師匠様が半吉に言う。

「半吉、お前は私の自慢の一番弟子アル。たとえお前がチョウセンカマッキリでなくても、どんな種族であってもそれは絶対に変わらないアル。だから、お前も今を生き延びるため、エツランシャを守るために自分ができることを懸命にするアルよ。私の言いたいことはわかるアルな」

 最後の「わかるアルな」は、小さな子供に言い聞かせる様な優しい響きだった。
 半吉は大きな目を満月のように真ん丸にして、お師匠様の背中を見つめている。

「で、でも、半吉はお師匠様の弟子だから、カマタリ2を使って」

 プイーン。
 ヒトスジシマッカーの黒雲の中から、一匹が飛び出した。

 お師匠様がザクリと倒した瞬間、黒雲が爆発。
 ヒトスジシマッカーたちが様々な角度から直太目掛けて向かってくる。

 あっちはあっちで直太の血を命がけで奪いにかかっているのだ。
 健康な卵を産むために。

 プイーン。ブゥーン。
 チャキッ、ジャキーン。

 お師匠様が目にもとまらぬ速さでくるくる舞いながら、直太の頭上に飛んできたヒトスジシマッカーたちを切り刻む。

 直太はと言えば、立ち上がったはいいものの、全身打撲状態の体は軋んで言うことをきかない。
 かろうじてできることと言えば、空中で敵を切った後、一旦着地して、また飛び上がるお師匠様の邪魔にならないようにヨボヨボのおじいちゃんみたいな緩慢な動きで、あっちにこっちに、えっちらおっちら移動することくらいだった。

(オレ、凄まじくカッコ悪いんですけど)

 たぶん、今って見せ場じゃね?
 主人公がカッコよく敵をバッタバッタ倒す場面じゃね?
 理想と現実のギャップよ。

「自分のカッコ悪さに萎える」
 呟きながら、またよぼよぼ、しょぼしょぼとお邪魔にならないように移動する。

「エツランシャ、助かるアル」
 敵と戦いながら、お師匠様が直太に不敵な笑みを向けてきた。

「誰が何と言おうと、自分のできることを精一杯する奴はかっこいいアル。お前は今世紀最大にカッコいいぞ」
「お、お師匠様ぁ~。好きになってもいいっすか?」

 じぃん。と、お師匠様の言葉が心に沁みる。
 あの不敵な笑みもモナリザの微笑に見えてきた。

「私はお前の師匠ではないネ。それから好きになるのは構わんが、エツランシャは私の恋愛対象外アル」
「めっちゃドライな返答~」
「それより半吉!」
 お師匠様が半吉を怒鳴った。

「ここで戦わなければ、お前は破門アルヨ!」
「で、でも、半吉はカマタリ2を持ってないミョウ。カマタリ2がないと戦えないミョウ」

 頭を抱える半吉。
 本当の姿を見られれば、お師匠様に嫌われるかもしれない。
 好きな人に嫌われたくない気持ち。
 わかる。わかるぞー、その気持ち。
 オレは恋を知らないが、一年以上、立川冬美に片思いこじらせてる祥太という友達を見てきているからな。

 恋は、人を臆病にするんだよ。
 アイツ、冬美のことになるとめっさ臆病だかんな。
 この件に関してオレにできることはない。
 だから、せめて応援するぜ。

(頑張れ、頑張れ半吉~。フレーフレーは・ん・き・ち)

「エツランシャ! 危ないアル!!」
 悦に入って心で応援していたら、お師匠様が鋭く叫んだ。

「え? うわっ!」 
 一匹のヒトスジシマッカーが、黒光りする鋼鉄の針を直太のお腹にぶっ刺そうとしている。

「くっ! 私としたことが、きゃつらに誘導されて、いつの間にかエツランシャから引き剥がされていたアル」
 直太からわりと離れた上空で敵を蹴散らしていたお師匠様が、慌ててこちらに飛んでくる。
 でも、間に合わない。

 また世界がスローモーションのように映る。
 直太のお腹に向かって鋼鉄の針を突き刺しにかかるヒトスジシマッカー。

 あっと、のけぞる直太。

 鬼の形相で飛んでくるお師匠様。

 プイーン。という羽音だけがやけに耳に大きく響いて。

 お師匠様の到達よりも早く、直太が避けるよりも先に、鋼鉄の針が直太のお腹に触れる。
 直太が目をつぶりかけた時。

 チャキーン!

 鋼と鋼がかち合ったような甲高い音がした。
 スローモーションの世界が終わり、真っ二つに割れたヒトスジシマッカーがはらりと地面に落ちていった。
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