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第四十五話 お師匠様の教え その1
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空を見上げたお師匠様につられて、空を見上げた直太は絶句した。
エメラルドグリーンの光で一旦引き下がったヒトスジシマッカーたちが黒い群をなして続々と直太の上空へ集まりつつあった。
その数たるや。
「いっぱいじゃ~」
それが雨雲のようにむくむく膨れ上がっていく。
「……」
もう体力もないし、魔法のグローブも使い切っている。
オレ、HPもMPも0なのに。
敵の総数、数知れず。ムリゲーっす。
「詰んだ、オレ。ジ・エンドっす」
直太は、全身が脱力していくのを感じた。
なんか、すんげー疲れた。
ぱたん、と仰向けになって目をつぶる。
プイーン。プイーン、ブウン。
無数の羽音がどんどん大きくなる。
この羽音の中の一匹が、鋼鉄の針でオレをぶっ刺すのか。
それとも、一斉に刺されて体中が穴だらけになるのか。
「どっちかっつーと、一匹でお願いしたいっす」
「エツランシャよ、あきらめるな! まだ命はある。命さえあれば、何とかなるアル!!」
すぐ近くでお師匠様の凛々しい声がした。
ジャキ、ジャキン!!
空中で何かを切り裂くような音が炸裂している。
瞼を開く。
鮮やかな緑色の中華風格闘服がくるくると、直太の周りで踊っていた。
お師匠様は幅広の袖や裾をひらりと翻し、「アチョー」とくるくるジャンプしながら、二本のカマタリ5で直太に迫りくるヒトスジシマッカーたちを切り刻んでいる。
「かっけぇ」
華麗で優雅で圧倒的な強さ。
直太に接近していたヒトスジシマッカーの雲が、ぶわん、と、遠のいて距離を取る。
お師匠様が直太に強い視線を投げる。
「私も、エツランシャも、半吉も、生きとし生けるモノは皆、他の命の犠牲の上に生きているアル。故に命あるモノは、一生、命を懸けて生きる義務があるアルヨ。ジ・エンドを言う前に、己のやれることを死ぬ気でやるネ」
「一生、命を懸けて生きる……一生懸命ってことか」
「お師匠様の言う通りだミョウ! 桐山直太、ジ・エンドとか、軽々しく言ったらダメだミョウ」
ぶーんと、飛んできた半吉も、直太の足元にはたりと降り立って、カマタリのない両手でお師匠様と同じ戦闘ポーズを取りながら、偉そうにダメだしする。
「つか、ジ・エンドは半吉の口癖だろ。オレのは、半吉のがうつったんだぞ」
「そうだったかミョウ? そんな昔のことは忘れたミョウ」
「都合のいい頭だな、おい」
言いながら、直太はよいしょ、とよろよろ起き上がった。
ズキンと腰に痛みが走ったがなんとか立ち上がることができた。
全身、擦り傷と打ち身でボロボロだけど、諦めないと決めたら、また立ち上がる気力がお腹の下あたりから湧いてきた。
最後の力は最後と決めなければ何度でも出せるんだと、自分の生命力にちょっと感動した。
(タマ様が言ってた、命があれば、何とかなるっつー、とっておきの攻略法はあながち間違いじゃないのかも)
とはいえ立ち上がるだけで精いっぱい。戦力外には変わりない。
「また来るアル! 気を抜くな」
お師匠様が神経を研ぎ澄ませている。
お師匠様の猛攻撃で、一旦散り散りに後退したヒトスジシマッカーたちは、ふたたび黒雲のごとく集結し直太の方へジリジリとにじり寄ろうとしていた。
ごくり、と、直太の隣で半吉がつばを飲み込む。
半吉はいつになく真剣な顔をしていた。
迷って、困って、泣きそうな顔だ。
何か、葛藤しているような顔。
こりゃ、変に声をかけない方がいいな。
(あとは若いお二人で、的な)
つまり、半吉に声をかけていいのは。
エメラルドグリーンの光で一旦引き下がったヒトスジシマッカーたちが黒い群をなして続々と直太の上空へ集まりつつあった。
その数たるや。
「いっぱいじゃ~」
それが雨雲のようにむくむく膨れ上がっていく。
「……」
もう体力もないし、魔法のグローブも使い切っている。
オレ、HPもMPも0なのに。
敵の総数、数知れず。ムリゲーっす。
「詰んだ、オレ。ジ・エンドっす」
直太は、全身が脱力していくのを感じた。
なんか、すんげー疲れた。
ぱたん、と仰向けになって目をつぶる。
プイーン。プイーン、ブウン。
無数の羽音がどんどん大きくなる。
この羽音の中の一匹が、鋼鉄の針でオレをぶっ刺すのか。
それとも、一斉に刺されて体中が穴だらけになるのか。
「どっちかっつーと、一匹でお願いしたいっす」
「エツランシャよ、あきらめるな! まだ命はある。命さえあれば、何とかなるアル!!」
すぐ近くでお師匠様の凛々しい声がした。
ジャキ、ジャキン!!
空中で何かを切り裂くような音が炸裂している。
瞼を開く。
鮮やかな緑色の中華風格闘服がくるくると、直太の周りで踊っていた。
お師匠様は幅広の袖や裾をひらりと翻し、「アチョー」とくるくるジャンプしながら、二本のカマタリ5で直太に迫りくるヒトスジシマッカーたちを切り刻んでいる。
「かっけぇ」
華麗で優雅で圧倒的な強さ。
直太に接近していたヒトスジシマッカーの雲が、ぶわん、と、遠のいて距離を取る。
お師匠様が直太に強い視線を投げる。
「私も、エツランシャも、半吉も、生きとし生けるモノは皆、他の命の犠牲の上に生きているアル。故に命あるモノは、一生、命を懸けて生きる義務があるアルヨ。ジ・エンドを言う前に、己のやれることを死ぬ気でやるネ」
「一生、命を懸けて生きる……一生懸命ってことか」
「お師匠様の言う通りだミョウ! 桐山直太、ジ・エンドとか、軽々しく言ったらダメだミョウ」
ぶーんと、飛んできた半吉も、直太の足元にはたりと降り立って、カマタリのない両手でお師匠様と同じ戦闘ポーズを取りながら、偉そうにダメだしする。
「つか、ジ・エンドは半吉の口癖だろ。オレのは、半吉のがうつったんだぞ」
「そうだったかミョウ? そんな昔のことは忘れたミョウ」
「都合のいい頭だな、おい」
言いながら、直太はよいしょ、とよろよろ起き上がった。
ズキンと腰に痛みが走ったがなんとか立ち上がることができた。
全身、擦り傷と打ち身でボロボロだけど、諦めないと決めたら、また立ち上がる気力がお腹の下あたりから湧いてきた。
最後の力は最後と決めなければ何度でも出せるんだと、自分の生命力にちょっと感動した。
(タマ様が言ってた、命があれば、何とかなるっつー、とっておきの攻略法はあながち間違いじゃないのかも)
とはいえ立ち上がるだけで精いっぱい。戦力外には変わりない。
「また来るアル! 気を抜くな」
お師匠様が神経を研ぎ澄ませている。
お師匠様の猛攻撃で、一旦散り散りに後退したヒトスジシマッカーたちは、ふたたび黒雲のごとく集結し直太の方へジリジリとにじり寄ろうとしていた。
ごくり、と、直太の隣で半吉がつばを飲み込む。
半吉はいつになく真剣な顔をしていた。
迷って、困って、泣きそうな顔だ。
何か、葛藤しているような顔。
こりゃ、変に声をかけない方がいいな。
(あとは若いお二人で、的な)
つまり、半吉に声をかけていいのは。
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