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第四十四話 ヒトスジシマッカー その1

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 プイーン!!
 強力な羽音をさせて黒と白の縞々模様のムシムッシーが直太目掛けて突進してきた。
 水がめの上を飛んでいた奴らである。
 顔には太くて長い鋼鉄の針のようなものが、ぎらりと輝いている。
 その針で直太の体を貫こうとしているのだ。

「だあっ!」
 直太が咄嗟に身をよじって避けると、縞々のムシムッシーは、そのままの勢いで地面に激突し、ひくひくとけいれんした。
 死んではいないが、脳震盪を起こして動けないようだ。
 これまでの巨大ムシムッシーとは違い、大きさは今の直太の腰丈くらいと小さく、ゴリゴリの筋肉やトゲもない。地面にぶつかった程度でけいれんを起こすくらいに弱い。
 鋼鉄の針さえよければ案外怖くないかもと考えていた時。

 プイーン。 
 水がめの上から新たな縞々ムシムッシーが飛んできた。
 針の照準をやっぱり直太合わせている。

「てぃっ」
 今度も左に取んで避けると、ムシムッシーは地面に激突し、けいれんした。ちょろい。
 ちょろいが、次々と水がめから飛んでくるのが厄介だ。
 あっちへこっちへと走って避け回る。

「桐山直太、走り回ったらマズいミョウ!」
 半吉があせあせ叫ぶ。

「なにそれ、どーゆー意味?」
 走りながら聞いた時、ギランっと、水がめの上空を飛んでいた縞々ムシムッシーたちの鋭い鋼鉄の針が、一斉に直太の方を向いた。

「なっ!」
「ヒトスジシマッカーのメスは、産卵期になると栄養補給に獣の血を吸うんだミョウ。良く動く獣は狙われやすいミョウ」
「それって……」
 鋭く長い鋼鉄の針を持つムシムッシーたちが、プイーン、プイーンと一斉に直太の方へ飛んできた。
 この不快音と鋭く尖った針、縞々模様で獣の血を吸う虫って言ったら……。

「ヤブ蚊かよ~!!」
 叫んだ瞬間、気が付いた。

 ぼーふーらーとは、ボウフラのことだ!

 続々と、ヒトスジシマッカーたちがこちらへ飛んでくる。その総数は。

「いっぱいじゃあ~~~」
 走り回るなと言われても、走り回るしかない。

 あんな、ぶっとい針に刺されたら血を吸われてかゆいとかのレベルじゃなく干からびる。
 待っているのは死だ。
 全身の血を吸い尽くされてミイラになる~!
 必死で逃げまどう直太に、容赦なく無数のヒトスジシマッカーが襲いかかる。

「ああ、神よ。聖なる水よ。ぼーふーらーの楽園がわたくしを呼んでいます」
「桐山直太~、お師匠様がいよいよマズいミョウ~。なんとかしてくれだミョウ」
「んなこと言ったって」

 何とかして欲しいのは、直太も一緒だ。
 でも泣き言を言ってても仕方ない。

「ぬお~~~~~」
 直太はヒトスジシマッカーの突撃を左に右にすれすれでかわし、死に物狂いでお師匠様と半吉のところへ向かう。

「桐山直太、あと少しだミョウ!」
 半吉の顔に喜びの笑みが浮かんだ瞬間、直太はずるりと足を滑らせ派手に転んでしまった。
 ぷうん、と、汚い池の水みたいな匂いが鼻をつく。
 巨大カエルが飛び跳ねた時に降り注いだ、ヘドロ水を踏んだのだ。

「ってぇ」
 肘と膝に焼けるような痛みが走る。
 特に膝の方はかなり激しく擦りむいたらしく、ヒリヒリジンジン燃えるように痛い。
 地面に突っ伏したまま直太は顔を歪めた。
 全身も強打したらしい。
 立ち上がろうとすると鈍い痛みが走った。

 プイーン、プイン、プイン、ブーン。

 ヒトスジシマッカーの羽音がどんどん近づいてくる。

 もうだめだ。
 ダメだけど、せめて。

「半吉、受け取れっ!!」
 直太は歯を食いしばり、出し得る力を腕に集めて、解毒剤の小瓶を半吉の頭上へと弧を描くように高く放り投げた。
 これなら半吉がブーンと飛び上がってパシッとキャッチできるはず。
 そうすれば、お師匠様に解毒剤を飲ませられるはず、だった。

「ぬ?」
 半吉はお師匠様を引っ張ったまま動かない。そして何故か怒り始めた。

「桐山直太、今はゴミなんか投げてる場合じゃないミョウ!」
「なっ! ゴミじゃなくて解毒剤ー!」
 ぽかん、となった半吉が、「ハッ」と言った。

「そうだったミョウ~! 半吉はお師匠様に解毒剤をあげるんだったミョウ~」
 半吉がガガーンとしている間にも、ひゅるひゅるひゅる、と、解毒剤の小瓶は落下していき……。
 お師匠様の頭に直撃!

 ぱりん。

 容器が割れて、エメラルドグリーンの液体がお師匠様の額と鼻を通って、つう、と、唇に到達した。
 それを無意識に舐めたお師匠様の顔が、見る間に歪んでいく。


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