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第四十三話 聖なる水

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 直太は目をこすった。

 見間違いじゃなければ、超巨大な緑色の水がめが見えている。
 デカすぎて水がめの内側は見えない。
 が、そこからドブのような匂いがぷんぷんとこっちまで漂ってきている。

 ぷいーん、ぷいーん。
 ブンブンブン。

 水がめ上空には、おびただしい数の羽の生えたムシムッシーたちが飛び回っている。

 ばちゃん。

 水がめの中から茶色いぬらぬらした巨大カエルが飛び出して、毒々しい真っ赤な舌で上空のムシムッシーをごっそり絡めとると、ドボンと、また水がめの中へ引っ込んでいった。
 カエルのジャンプで飛び散った水が、びしゃんっと、直太の近くの地面に降り注ぐ。

「汚ねっ!」
 間一髪、ジャンプで避けたところに落ちた水は黒っぽく、ワカメみたいなヘドロまで浮いていた。

「放してください。わたくしは聖なる水に入水しなければならないのです。ぼーふーらーの楽園に今すぐいかなければ」
「だから、ダメだって言ってるミョウ」

 水がめの奥の方から言い争う声がして、見れば若草色の修道服を着た女の人が背中の羽を羽ばたかせ、水がめの縁に飛び乗ろうとしているところだった。
 それを半吉が懸命に引き留めている。
 若草色の修道服の女の人は、いかにも神に仕える聖女という感じで儚げに見える。
 が、力は相当強いらしい。
 半吉が全体重を込めて引き留めているにもかかわらず、その女の人の身体は宙に浮きかけているのだ。

 あれが半吉のお師匠様か。
 てことは、あの水がめの中身が……聖なる水?

 聖なる水の正体は、ヘドロ水?
 そんなんアリ? アリなのか?
 いや、今は多様性の時代だから……

「……何事も、決めつけは良くないってことだな、うん」

「桐山直太~、ぼさっとしてないでお師匠様を引き留めるんだミョウ」
「あ、そうだった」
 思考の近代化についていけず、ぼさっとしていた。

「そうだ。解毒剤」
 直太は半吉のところへ走りながらズボンのポケットをまさぐる。
 タマ様、どっちのポケットに小瓶入れてたっけ。

 右ポケットからじゃらっと出てきたのは、直太の家の鍵になんやかや細々したものが引っかかった塊で、解毒剤の小瓶は入っていなかった。

「てことは左か」
 今度は左のポケットの中身を根こそぎ引っ張り出す。
 すると、図工の時間の残骸に絡まるようにして小瓶があった。
 そういえば、ヘッドスライディング的なこともしたけど、ヒビとか入ってないよなと、覗き込む。
 ポケットの中のゴミくずがうまい具合にクッションの役割を果たして、小瓶は無事のようだ。

 オレのカオスなポケットも案外役に立つじゃん。
 とはいえ、ごみと小瓶がものすごい勢いで絡まり合っている。

「我ながら、どうしたらこんなになるんだ?」 
 走りながら、フィルムや画用紙の切れ端、毛糸などを小瓶から引き剥がしていたら、なんと、失くした図書カードまで出てきた。

「ラッキー。こんなところにあったのか」
 思いがけず図書カードが出てきて喜ぶ直太に「桐山直太、危ないミョウ!!」と、半吉が鋭く叫んだ!

「ん?」
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