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第四十話 お師匠様と半吉の関係 その1

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「果てしねぇ」
 緑色の大鳥居からせりあがる石段を登りきったところが大滝神社らしいのだが。

 大鳥居の先の石段はデカく、そして、空に続いているんじゃないかというくらい途方もなく伸びている。
 しかも一段が直太の背丈の二倍は優に超えていて、こんなのを登れるのはロッククライミング上級者くらいだ。
 そして、もちろん直太はロッククライミングビギナーである。

 そこで石段の脇の土の道を行くことにしたのだが、こっちはこっちで傾斜がキツイ。
 ゴロゴロと岩もそこここに転がっている。
 こんな道、登山上級者じゃないと登れない。
 そして、もちろん直太は登山ビギナーである。

「にもかかわらず、登っているオレ、偉い。すごい。カッコいい」
 今、やっと四分の一進んだくらいだろうか。
 ふうっと、一息。ちょっと休憩。

「休んでないで早く上るんだミョウ。もう日が暮れちゃうんだミョウ。半吉は早くお師匠様を助けて、お師匠様と夜ご飯を食べて寝たいんだミョウ」
「……すげぇ自己中だな」
「ジコチュウ? それはどんなムシムッシーなんだミョウ?」
「あー……、よし、登るとするか」

 直太が大股で急こう配の登山道をずんずん登り始めると「やればできるミョウ」と、精神的にも肉体的にも上から目線で半吉が頷いた。
 憎らしいのだが、その偉そうな顔が結構可愛かったりするのが悩ましい。

「つか、オレってこんなに女子の頼みとか聞くタイプだったけ? 案外直太君って優しい奴だったんだなぁ」
「お師匠様はもっと優しいミョウ」
「いや、お師匠様の話じゃなくて……なんでもないっす。そーいやさ、半吉ってなんでお師匠様と仲いいの?」
「ん?」
「つまり……お師匠様ってチョウセンカマッキリだろ? んで半吉はナミハンッミョウなわけで、別の種類のムシムッシーじゃん。人間界では、カマキリが他の虫とつるんでるとことか見たことないんだけど」

 昆虫にそんなに詳しいわけじゃないけど、確かカマキリは一匹狼的な生き物だ。
 繁殖期には同族のオスまで食っちゃうらしいし。
 つまり、ハチとかアリみたいに群れで行動しない。
 ましてや別の種類の虫とつるむとか、違和感ありまくりなんだけど。

「実は半吉を太らせて食べるつもりだったりして」
 すかっと、半吉の腕が直太の頭をすり抜けた。
 叩こうとしたらしい。

「お師匠様は桐山直太と違うからそんな野蛮なことはしないんだミョウ」
 スカスカスカ、と、何度も半吉の腕が頭をすり抜ける。
 全然痛くないけど、なんか、くすぐったい。

「ごめん、ごめん。冗談だって」
「ジョーダンでも言っちゃいけないこともあるんだミョウ」
「わーかったって。ごめんて」
 ぷんすか怒っている。わりと可愛い。本当に肉食なのか?

「お師匠様は半吉の命の恩人なんだミョウ」
「命の恩人?」
 ゼイゼイと肩で息をしながら、半吉が「そうだミョウ」と頷いた。
 叩けない直太を叩きまくって疲れたらしい。

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