上 下
45 / 60

第三十九話 一難去ってまた一難

しおりを挟む
 ずざーっと、直太が茂みに突っ込んだ瞬間、ギンっと身体が鈍色に光って『hide-and-seek』の効果が解けた。

 カラスはしばらく鳥居近くの低い空をぐるぐる飛び回っていたが、やがて諦めたのか「アア~、バッカァ~~~」と鳴きながら、どこかへ飛び去って行った。

「ま、マジで今度こそ死ぬかと思った~」
「桐山直太~、なんでそんなところで休んでいるのかミョウ? 早くこっちに来るんだミョウ」
 半吉は鳥居の奥の巨大な石段の上でホバリング中。

 もうマジで一歩も動けない。
 今度こそ、本当に動けなかった。
 事実、ヘッドスライディングした恰好のまま、直太は茂みに転がっている。
 全身がびたっと地面に接着剤でくっつけられたみたいに、手足が重力に張り付いている。

「桐山直太~、早く鳥居のこっち側に入らないとダメだミョウ~」
(んなこと言ったって)

 これはもう、限界を突破した限界も突破している。
 マンガの主人公とかだと、限界を突破した限界も突破して、更に立ち上がるんだろうけど……。
 オレは、この茂みの中で生きていきます。
 というか、茂みの一部になります。
 アディオス。と、直太は目をつぶった。

 ハッと、次に気が付いた時、少し涼しくなった風が直太の首筋をなでていた。
「ヤベ、寝てたげ?」
 いつの間にか空が紫っぽく変化している。
 遠くに輝く夕日が眩しい。

「もう日暮れかぁ。なんか変な夢見たなぁ。虫と戦う的な」
 んん~、と、直太は起き上がって伸びをした。
 遠くのほうで、直太を呼ぶ声がした。

「き、き、桐山直太~。は、早く起きるんだミョウ~」
「……頼む、夢落ちってことにしてくれ」
 もう一度目をつぶる。

「ぎゃあ~~~~、桐山直太~~~~~~~」
「ですよねー。やっぱ夢じゃないっすよねー」
 現実を受け入れて目を開いたら、目の前が真っ暗ならぬ、真っ草色。

「へ?」
 羽を広げてぶわんっと空から直太へ降ってきているのは、左脇に十字の傷があるグリーンモンスターだった。

「桐山直太がぷーすか寝てる間に、沼大地の脇の草むらを通って、グリーンモンスターが追いかけてきたんだミョウ。あいつはしつこいんだミョウ」
 半吉が説明している間にも、グリーンモンスターの風船みたいな腹とマッチョな足がみるみるのしかかってきて。
 これはさすがに逃げられない。
 くそっ! こうなりゃ最後の抵抗。
 グーパン攻撃!

「うお~~~~、来るな~~~~~」
 直太は拳を握り両腕をぐるぐる回した。
 自分でもわかる。こんな攻撃じゃ絶対倒せない。
 ああ、こんなことなら一回くらい女子とつきあっときゃよかった。
(あ、オレモテねーんだった)

 ぽかっ。
 発泡スチロールを殴ったみたいな軽い感触があった。
 どさっと、直太の隣に何かが落ちる。

「へ?」
 直太は目を瞬いた。
 グリーンモンスターがひっくり返って倒れている。
 口から茶色い泡を出して、ぴくぴくけいれんしていた。

「え? は? ええ?」
 グリーンモンスターからぴょんと距離を取りつつ、直太は自分の拳を見つめる。
 まさかこの拳で倒したのか?

「オレ? え? どゆこと?」
 半吉がブーンっと泡を吹いたグリーンモンスターに近寄り、「ハッ」と言った。
 そして、ぽんっと、手を叩いた。

「桐山直太、コイツの太ももの内側を見るんだミョウ」
「太もも? あ!」
 グリーンモンスターの肉付きのよい太ももの内側には、エメラルド色をしたコガネムシ型の宝石が埋め込まれていた。その宝石に一本の亀裂が入っている。

「桐山直太のグーパンが、コイツのむし宝玉に当たったんだミョウ」
「え、これがむし宝玉?」

「そうなんだミョウ」
「てことは」
 直太は自分の右足につけた赤いアンクレットをかちゃりと取り外して、中の赤いスカラベを半吉に見せた。

「これもむし宝玉?」
「そうだミョウ。エツランシャの桐山直太は半吉のむし宝玉を身につけているんだミョウ。グリーンモンスターのむし宝玉は緑なんだミョウ。だから赤のむし宝玉を持つ桐山直太のグーパン攻撃は二倍の威力があったんだミョウ。赤のむし宝玉を持つモノは、緑のむし宝玉を持つモノに二倍のダメージを与えることができるってタマ様が言ってたミョウ。桐山直太も、むし宝玉を壊されないように注意するんだミョウ」

「なるほど」と頷いて、さっそく右足にカチャリと赤いアンクレットを装着しなおした。
 足首なら攻撃を受けにくいし、むし宝玉も小さいから壊されにくそうだ。
 ひとまず安心。

 あれ? てことは。

「……てことは、別に『hide-and-seek』使ってグリーンモンスターから逃げ回らなくても、普通に殴ったら倒せたってことなんじゃ」
「そういうことだミョウ。桐山直太は魔法の力をまーた無駄にしたんだミョウ。アホなんだミョウ」

「つか、それらの情報は先に教えてくれよ」
「すっかり忘れてたんだミョウ」
「……ですよねー」

 なんだろ。
 自分がお笑い芸人にでもなった気分だ。
 こうなりゃ半吉とコンビ組んでお笑いのてっぺん目指すか、と、開き直って半吉を見た直太は、「ぬぉ」っと、驚いた。

「は、半吉さん? すんげぇ勢いでよだれ出てますけど」
 口から尋常じゃない量のよだれを垂らして、半吉がグリーンモンスターを見つめている。

「こ、このグリーンモンスター、半吉食べちゃってもいいんだミョウ?」
「……え、これ食べちゃうの?」

 ぐぎゅるるぎゅるるる~。と、半吉がお腹で返事をした。

「すっごく美味しそうなんだミョウ」
 見た目可愛い半吉が、このグリーンモンスターを、食う?

「それはちょっと、絵面的にマズい気が」
「っただっきまーす、だミョウ」
「って、聞いてねーし」
 半吉が、八重歯のような牙をきらりと覗かせて、グリーンモンスターのお腹にかぶりつこうとした瞬間。

 ぱりん。

 グリーンモンスターの緑のむし宝玉が砕けた。

 さらさらさら。

 グリーンモンスターが細かな粒子になって消えていく。

「ああ~~~~、半吉のご飯がぁ~~」

 ムンクの叫びみたいな顔で「オーノーだミョウ」と青ざめる半吉。
 直太は(消えてくれてよかった~)と心底思ったのだった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

霊能者、はじめます!

島崎 紗都子
児童書・童話
小学六年生の神埜菜月(こうのなつき)は、ひょんなことから同じクラスで学校一のイケメン鴻巣翔流(こうのすかける)が、霊が視えて祓えて成仏させることができる霊能者だと知る。 最初は冷たい性格の翔流を嫌う菜月であったが、少しずつ翔流の優しさを知り次第に親しくなっていく。だが、翔流と親しくなった途端、菜月の周りで不可思議なことが起こるように。さらに翔流の能力の影響を受け菜月も視える体質に…!

絆の輪舞曲〜ロンド〜

Ⅶ.a
児童書・童話
キャラクター構成 主人公:水谷 陽太(みずたに ようた) - 年齢:30歳 - 職業:小説家 - 性格:おっとりしていて感受性豊かだが、少々抜けているところもある。 - 背景:幼少期に両親を失い、叔母の家で育つ。小説家としては成功しているが、人付き合いが苦手。 ヒロイン:白石 瑠奈(しらいし るな) - 年齢:28歳 - 職業:刑事 - 性格:強気で頭の回転が速いが、情に厚く家族思い。 - 背景:警察一家に生まれ育ち、父親の影響で刑事の道を選ぶ。兄が失踪しており、その謎を追っている。 親友:鈴木 健太(すずき けんた) - 年齢:30歳 - 職業:弁護士 - 性格:冷静で理知的だが、友人思いの一面も持つ。 - 背景:大学時代から陽太の親友。過去に大きな挫折を経験し、そこから立ち直った経緯がある。 謎の人物:黒崎 直人(くろさき なおと) - 年齢:35歳 - 職業:実業家 - 性格:冷酷で謎めいているが、実は深い孤独を抱えている。 - 背景:成功した実業家だが、その裏には多くの謎と秘密が隠されている。瑠奈の兄の失踪にも関与している可能性がある。 水谷陽太は、小説家としての成功を手にしながらも、幼少期のトラウマと向き合う日々を送っていた。そんな彼の前に現れたのは、刑事の白石瑠奈。瑠奈は失踪した兄の行方を追う中で、陽太の小説に隠された手がかりに気付く。二人は次第に友情と信頼を深め、共に真相を探り始める。 一方で、陽太の親友で弁護士の鈴木健太もまた、過去の挫折から立ち直り、二人をサポートする。しかし、彼らの前には冷酷な実業家、黒崎直人が立ちはだかる。黒崎は自身の目的のために、様々な手段を駆使して二人を翻弄する。 サスペンスフルな展開の中で明かされる真実、そしてそれぞれの絆が試される瞬間。笑いあり、涙ありの壮大なサクセスストーリーが、読者を待っている。絆と運命に導かれた物語、「絆の輪舞曲(ロンド)」で、あなたも彼らの冒険に参加してみませんか?

おねしょゆうれい

ケンタシノリ
児童書・童話
べんじょの中にいるゆうれいは、ぼうやをこわがらせておねしょをさせるのが大すきです。今日も、夜中にやってきたのは……。 ※この作品で使用する漢字は、小学2年生までに習う漢字を使用しています。

見習い錬金術士ミミリの冒険の記録〜討伐も採集もお任せください!ご依頼達成の報酬は、情報でお願いできますか?〜

うさみち
児童書・童話
【見習い錬金術士とうさぎのぬいぐるみたちが描く、スパイス混じりのゆるふわ冒険!情報収集のために、お仕事のご依頼も承ります!】 「……襲われてる! 助けなきゃ!」  錬成アイテムの採集作業中に訪れた、モンスターに襲われている少年との突然の出会い。  人里離れた山陵の中で、慎ましやかに暮らしていた見習い錬金術士ミミリと彼女の家族、機械人形(オートマタ)とうさぎのぬいぐるみ。彼女たちの運命は、少年との出会いで大きく動き出す。 「俺は、ある人たちから頼まれて預かり物を渡すためにここに来たんだ」  少年から渡された物は、いくつかの錬成アイテムと一枚の手紙。 「……この手紙、私宛てなの?」  少年との出会いをキッカケに、ミミリはある人、あるアイテムを探すために冒険を始めることに。  ――冒険の舞台は、まだ見ぬ世界へ。  新たな地で、右も左もわからないミミリたちの人探し。その方法は……。 「討伐、採集何でもします!ご依頼達成の報酬は、情報でお願いできますか?」  見習い錬金術士ミミリの冒険の記録は、今、ここから綴られ始める。 《この小説の見どころ》 ①可愛いらしい登場人物 見習い錬金術士のゆるふわ少女×しっかり者だけど寂しがり屋の凄腕美少女剣士の機械人形(オートマタ)×ツンデレ魔法使いのうさぎのぬいぐるみ×コシヌカシの少年⁉︎ ②ほのぼのほんわか世界観 可愛いらしいに囲まれ、ゆったり流れる物語。読了後、「ほわっとした気持ち」になってもらいたいをコンセプトに。 ③時々スパイスきいてます! ゆるふわの中に時折現れるスパイシーな展開。そして時々ミステリー。 ④魅力ある錬成アイテム 錬金術士の醍醐味!それは錬成アイテムにあり。魅力あるアイテムを活用して冒険していきます。 ◾️第3章完結!現在第4章執筆中です。 ◾️この小説は小説家になろう、カクヨムでも連載しています。 ◾️作者以外による小説の無断転載を禁止しています。 ◾️挿絵はなんでも書いちゃうヨギリ酔客様からご寄贈いただいたものです。

ホスト科のお世話係になりました

西羽咲 花月
児童書・童話
中2の愛美は突如先生からお世話係を任命される 金魚かな? それともうさぎ? だけど連れてこられた先にいたのは4人の男子生徒たちだった……!? ホスト科のお世話係になりました!

極甘独占欲持ち王子様は、優しくて甘すぎて。

猫菜こん
児童書・童話
 私は人より目立たずに、ひっそりと生きていたい。  だから大きな伊達眼鏡で、毎日を静かに過ごしていたのに――……。 「それじゃあこの子は、俺がもらうよ。」  優しく引き寄せられ、“王子様”の腕の中に閉じ込められ。  ……これは一体どういう状況なんですか!?  静かな場所が好きで大人しめな地味子ちゃん  できるだけ目立たないように過ごしたい  湖宮結衣(こみやゆい)  ×  文武両道な学園の王子様  実は、好きな子を誰よりも独り占めしたがり……?  氷堂秦斗(ひょうどうかなと)  最初は【仮】のはずだった。 「結衣さん……って呼んでもいい?  だから、俺のことも名前で呼んでほしいな。」 「さっきので嫉妬したから、ちょっとだけ抱きしめられてて。」 「俺は前から結衣さんのことが好きだったし、  今もどうしようもないくらい好きなんだ。」  ……でもいつの間にか、どうしようもないくらい溺れていた。

GREATEST BOONS+

丹斗大巴
児童書・童話
 幼なじみの2人がグレイテストブーンズ(偉大なる恩恵)を生み出しつつ、異世界の7つの秘密を解き明かしながらほのぼの旅をする物語。  異世界に飛ばされて、小学生の年齢まで退行してしまった幼なじみの銀河と美怜。とつじょ不思議な力に目覚め、Greatest Boons(グレイテストブーンズ:偉大なる恩恵)をもたらす新しい生き物たちBoons(ブーンズ)を生みだし、規格外のインベントリ&ものづくりスキルを使いこなす! ユニークスキルのおかげでサバイバルもトラブルもなんのその! クリエイト系の2人が旅する、ほのぼの異世界珍道中。  便利な「しおり」機能、「お気に入り登録」して頂くと、最新更新のお知らせが届いて便利です!

おっとりドンの童歌

花田 一劫
児童書・童話
いつもおっとりしているドン(道明寺僚) が、通学途中で暴走車に引かれてしまった。 意識を失い気が付くと、この世では見たことのない奇妙な部屋の中。 「どこ。どこ。ここはどこ?」と自問していたら、こっちに雀が近づいて来た。 なんと、その雀は歌をうたい狂ったように踊って(跳ねて)いた。 「チュン。チュン。はあ~。らっせーら。らっせいら。らせらせ、らせーら。」と。 その雀が言うことには、ドンが死んだことを(津軽弁や古いギャグを交えて)伝えに来た者だという。 道明寺が下の世界を覗くと、テレビのドラマで観た昔話の風景のようだった。 その中には、自分と瓜二つのドン助や同級生の瓜二つのハナちゃん、ヤーミ、イート、ヨウカイ、カトッぺがいた。 みんながいる村では、ヌエという妖怪がいた。 ヌエとは、顔は鬼、身体は熊、虎の手や足をもち、何とシッポの先に大蛇の頭がついてあり、人を食べる恐ろしい妖怪のことだった。 ある時、ハナちゃんがヌエに攫われて、ドン助とヤーミがヌエを退治に行くことになるが、天界からドラマを観るように楽しんで鑑賞していた道明寺だったが、道明寺の体は消え、意識はドン助の体と同化していった。 ドン助とヤーミは、ハナちゃんを救出できたのか?恐ろしいヌエは退治できたのか?

処理中です...