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第三十七話 グリーンモンスター出現 その2

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 ギン、と一瞬、自分の身体が鈍色に輝いた。
 マジでギリギリな感じで、ねこじゃらしの先端のモフモフ部分をキャッチした直太。
 ねこじゃらしはゴワゴワに毛羽だったタオルのような感触だった。
 柔らかくはないものの、ツンツンして掴めないという程でもなくて、直太はそのままがっしり身体ごとモフモフにしがみつき、息を止める。
 直太の重みでふわんふわんとねこじゃらしが揺れていた。

 ずざっ。

 グリーンモンスターはさっきまで直太がいた草に飛び移り、尖った目の中にある、点のような黒い瞳をキョロキョロぐるぐる動かしている。
 その瞳が直太のしがみついているねこじゃらしを捉えた。
 風もなく揺れるねこじゃらしを訝しんでいるのかもしれない。

(気づくな、気づくな、気づくな)

 ざわわっ。

 冷や汗を垂らし息を止め続ける直太の身体を、一陣の風が吹き抜けていく。
 あちこちで軽い雑草が風になびいて揺れる。
 直太から少し離れた場所の葉っぱが大きく揺れて、グリーンモンスターがずさっと方向転換。

 ずさっ! どしん。
 風が揺らした葉っぱの方へジャンプしてくれた。

(た、助かった~)
 直太の安堵を代弁するように「ふう」と上空からため息が降ってきた。

「危機一髪だったミョウ」
 直太の真上でホバリングしながら、半吉が額を拭っている。

「バカ! 早く隠れろ!」
 小声で叫ぶ直太に「心配ないミョウ」と半吉は悠然と飛んだまま。

「桐山直太が『hide-and-seek』を使えば、半吉も『hide-and-seek』なんだミョウ」
「あ、なーる」
(って、ほんわか納得している場合じゃなかった)

 さっそく次に飛び移れそうな草を探しにかかる。
『hide-and-seek』の効果は五十秒。
 使える回数はあと四回。
 なるべく最小限の回数で、さっきの広々とした沼大地まで到達して、一気に鳥居まで突っ走るのが直太の考えた作戦。
 トゲナナフッシーの時のことを考えると、グリーンモンスターはこの湿地帯から先へは追いかけてこない可能性が高い。
 たとえ沼大地まで追ってきたとしても、ここより断然逃げやすい。

(あとはどれだけ『hide-and-seek』を節約できるかだな)

 幸いにも、直太が今いるところから、沼大地まではそんなに遠くない。
 好都合なことに、グリーンモンスターは今、直太から少し離れた場所で直太にお尻を向けた格好で直太を探していた。
 さっき使った『hide-and-seek』の効果もまだあと少し残っているはず。

(よし、今のうちに飛び移って)
 直太が、次の草に飛び移ろうとした時だった。

「それにしてもアイツはマヌケだミョウ。全然違うところ探してて面白いミョウ。やーいやーい、こっちだミョウ~。おしりぺんぺんだミョウ~」
 姿が見えないことをいいことに、空の上の半吉がグリーンモンスターに向かってお尻を突き出し、小声で挑発を始めた。

「おしりぺんぺーん。やーいやーい」
「ちょ、半吉。もうすぐ効果が切れるから」

 ギン。
 言った途端、直太の身体が鈍色の光に包まれる。

「おしーり、ぺんぺーん……あり? だミョウ」

 ぎろりん。
 グリーンモンスターが空中の半吉の姿を捉え、その下の直太に注目。

「カア~」
 おっさんがつばを吐く時みたいな音が聞こえた。
 口を大きく開いたグリーンモンスター。
 ギザギザの歯が丸見えだ。

「な、なんか、めっさイヤな予感」
 グリーンモンスターが体を思いっきり反らせた。
 露になった左脇に十字の傷がついている。

「つ、つまりコイツって」

 ペッ!!!!
 どばっと、ネバネバした茶色い液体が勢いよく直太に飛んできた。

「ぬお~」
 間一髪、ねこじゃらしから飛び降りて交わす。
 が、着地した場所が悪かった。
 ねちゃっと、ぬかるんだ地面に片足が突っ込む。
 ずずずと足が地面に沈んでいく。

「どわ~」
 慌てて近くの雑草を掴んでよじ登る。
 その間に、再び「カア~」っと、グリーンモンスターが直太に向かって大口を開ける。
 「ハッ」と、半吉が言った。

「思い出したミョウ! アイツは、半吉とお師匠様が狩り損ねた超特大グリーンモンスターなんだミョウ。あのねばねば玉に掴まったらジ・エンドだミョウ。桐山直太、気を付けるんだミョウ」
「ですよねー。十字の傷あるっすもんねー」
 とか、悠長に言ってる場合じゃない~。

 グリーンモンスターは、再び体を思いっきり反らせている。
 ちょっと離れたところに、たんぽぽの葉っぱをもっとギザギザしたような巨大雑草の葉が伸びていた。
 上に紫色の丸い花がぽこんと咲いている。
 確か、アザミとか言う名前の雑草だ。
 あそこまでいけば。

「hide-and-seek!!」
 手をかざし叫んだ直太が決死の覚悟で大ジャンプするのと、ペッ!っと、グリーンモンスターがねばねば玉を吐き出すのはほぼ同時。

 ねばねば玉の飛沫が少し腕にかかったものの、今回も危機一髪でなんとか避けた。
 再び直太を見失ったグリーンモンスター。
 きょろきょろと尖った目の中の黒い瞳を前後左右に動かして、直太を執拗に探している。
 さっきよりも目がギンギンに怒っている。
 絶対半吉の挑発のせいだ。
 額から流れた汗が頬と首を伝ってきて、直太は無意識にTシャツの袖で汗を拭った。

 もわわわ~ん。

「くっさ!!!」
 今までに嗅いだことのない凄まじい匂い!

 鼻がひん曲がる青臭さと、給食の残飯のような嫌な甘ったるさと、蒸れたスニーカーの匂いと目に染みるつんとした刺激臭をまぜこぜにしたような、ものすっごく不快な匂いに「うげぇ」と直太はたまらず身もだえる。

 ぎろりん。

「やべ!」
 慌てて口を塞いだが、もう遅い。
 直太のしがみついている葉っぱに狙いを定めたグリーンモンスターが「カア~」とまたねばねば玉を吐き出そうとしている。

「自分から場所を教えるなんて、桐山直太はアホなんだミョウ~」
「半吉にだけは言われたくねー」
 叫びながら、直太は次の草にびよんっと飛び移ったのだった。
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