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第三十六話 狩場

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 はあ。と、ため息を吐いた直太に「とにかく、あと五回の『hide-and-seek』は、大切に使うんだミョウ。この狩場から大滝神社はすぐなんだミョウ。わかったかミョウ?」と、頭上を飛ぶ半吉が見た目通りの上からアドバイスをする。
 半吉にアドバイスされると自尊心が傷つくな。
(ん? 狩場? 待て待て待て)

「な、なあ、半吉さん? ここってもしや半吉さんがグリーンモンスターを仕留め損ねた狩場だったり、しないよな」
「な、なんと! 桐山直太はどうして半吉がこの狩場で超特大グリーンモンスターを仕留め損ねたことを知ってるのかミョウ? 桐山直太はエスパーなのかミョウ?」

「やっぱりか! よし! グリーンモンスターが現れないうちにさっさとあっちの沼大地に行くぞ」
「そんなに警戒しなくても大丈夫だミョウ。半吉が狩り損ねた超特大グリーンモンスターは、特別に強い奴だっただけだミョウ。普通のグリーンモンスターは全然怖くないんだミョウ。特に小さなグリーンモンスターは狩り初心者でも簡単に捕まえられる奴らなんだミョウ。それでいてたっぷりお肉がついていて、とっても美味しい奴らなんだミョウ」

 ぐぎゅるるるるる。ドコドコドコン。

 珍しい民族楽器みたいな音で半吉のお腹が鳴った。

「そ、そういえば半吉、すっごくお腹が減ってるんだったミョウ。さっきまではお腹がもぞもぞムニュムニュしてて忘れていたけど、昨日から何にも食べてないんだったミョウ」
 じゅるりと、半吉が垂らしたよだれが、ポタ、ポタと直太の上に降りかかってきた。

「うわっ! 半吉、よだれ」
「もうダメだミョウ。お腹がペコペコなんだミョウ! 半吉ちょっくら狩りをするんだミョウ!」

「ちょっくらって、ちょっと半吉??」
 直太のことなどすっかり忘れてしまった半吉が、ブーンと、高い草の生い茂る湿地帯の奥へ進んでいく。

「マジか」
 このままでは半吉を見失ってしまう。
 仕方なく、直太はねちゃねちゃした湿地帯に足を踏み入れた。

「うへぇ、気持ち悪ぃ」
 ねちゃ、ぬちゃっと、地面の泥がまとわりついてくる。

 ずぼっ。

「うおっ」
 右足の膝の辺りまで一気に身体が沈んで、慌てて直太は近くの猫じゃらしを掴んだ。

「っぶねー」
 そういえば、本の中で半吉が狩りをしている描写に、泥の沼に足を踏み入れたらぬかるみに体ごと引きずり込まれるとかなんとか書いてなかったっけ?

「めっちゃ危険じゃん!」
 つべこべ言っていても仕方ない。
 とにかく半吉を追わなければ。

 半吉は、ぶーん、ぶーん、と、雑草と雑草の間を飛び移り、身を隠しながら獲物を探して移動している。
 直太は半吉を追って、巨大なイネ科雑草をかき分け進んだ。
 広くぬかるんでいる場所は、よじ登った草の茎から隣の茎へ乗り移る。

 だいぶ半吉との距離が近づいた時、ぴたり。と、半吉の動きが止まった。

 次いで、ずざざざっ!っと、葉っぱを擦るような、奇妙な音が辺りに響いた。

 直太から見て斜め前方。
 もさもさ生えていた猫じゃらしが不自然に揺れている。

 大きな生き物の気配に、直太はごくりと息を飲んだ。
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