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第三十五話 トゲナナフッシーの危険性
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「ぬおおおお~~~~~~」
わき目もふらず、力の限り走り続ける直太の頭上で、半吉が何か叫んでいる。
「桐山直太~……だミョウ」
「ぬおおお~~~~~~」
「おーい、桐山直太~、話を聞くんだミョウ~」
「ぬおおおおお~~~~~~~~~」
直太の耳元まで降り立った半吉が、すうっと息を吸い込み叫んだ。
「桐山直太、止まれだミョウ~~~~」
「ぐわっ! 耳が~」
直太は両耳を押さえ、やっと立ち止まった。
「半吉、声デカい。もうちょい加減を」
「もうシダシダの道は抜けたんだミョウ」
「え」
改めて周りを見れば、いつの間にか森を抜け背の高い雑草が生える草原に出ていた。
びちょん、と、片足が泥のぬかるみに突っ込み掛けていて「うわっ」と直太は慌てて足を上げる。
「気を付けるミョウ。この狩場は昨日の雨で地面がぐちょぐちょなんだミョウ。ぬかるみに入ったら抜け出せなくなるんだミョウ」
言われてみれば、水分を多く含んだ泥がスニーカーの底にもちゃっと張り付いていて、靴の中まで湿ってきている。
泥は靴下とズボンにまで跳ね上がっていた。
「げっ、オレ泥まみれじゃん。母さんに殺される」
「母さんが直太を殺すのかミョウ? ニンゲンの世界は怖いミョウ」
半吉が大きな目をまん丸にして驚いた。
「いや、まあ比喩と言うか」
「ひゆ? そんなことよりあそこに大滝神社の鳥居が見えるミョウ」
「すげぇスルースキルだな」
「? ほら、あそこだミョウ」と半吉が左の方を指をさしている。
直太たちのいる湿地帯のような場所の左手は、雑草がまばらに生えるだけのまあまあ平らな大地が広がっていた。
ぽっかり開けた大地のそこここに、いくつもの沼がある。
そのずっと先、直太の体感で1キロメートル程先の、背の高い雑草群が生い茂る辺りに、緑色の大鳥居が周囲に紛れるように立っていた。
「あれ、あの鳥居……」
「この平らな大地をぴゅーんと一気に進めば大滝神社につくんだミョウ」
確かに、大地はところどころボコボコしていてパヤパヤ雑草が生えているとはいえ、平坦な場所が多い。障害物と言えば沼くらいか。これならずんずん進めそうだ。
見通しもとてもいい。いきなりムシムッシーが出てくる心配もなさそうなのがすごくいい。
「そういやトゲナナフッシーは?」
ハッと、周囲を警戒する直太に、「ほら、あそこだミョウ」と半吉が後ろを指さした。
「トゲナナフッシーが一匹、シダシダの道の終わりでゆらゆらしているのが見えるミョウ。トゲナナフッシーはシダシダの道からこっちへは来ないんだミョウ」
半吉の言う通り、かなり後ろの方、シダシダの道が途切れたところにトゲナナフッシーが一匹、ゆらりゆらゆら揺れながら物欲しげに直太を見つめているのが見えた。
ゆらゆらしているだけで追って来る様子はない。
「た、助かった~」
ホッとした瞬間、疲労がどっと押し寄せ、直太は太ももに両手をついて「疲れた~」と息を吐いた。
こんなに全力で走ったのはいつぶりだろう。
「トゲナナフッシーは、ゆらゆらするだけのムシムッシーなんだミョウ。別に襲ってこないのに、貴重な『tag』を全部使い切るなんて、桐山直太はアホなんだミョウ」
「へ? ゆらゆらするだけ? いやだって、シダシダの道はトゲナナフッシーがいて危険だから通るなってお師匠様も言ってたんだろ?」
「危険?」
半吉がはて?と、いう風に首を傾げた。
「お師匠様は危険とは言ってないミョウ。トゲナナフッシーがぶらんって、急に垂れ下がってくると、半吉はびっくらして慌てて上に飛ぼうとしちゃうから、いつもトゲナナフッシーの体とごっつんこしちゃうんだミョウ。それで、トゲナナフッシーのトゲトゲにぐさって刺さって、痛っ!って、びっくらして、前に飛ぼうとしちゃうんだミョウ。それでまた次のトゲナナフッシーとごっつんこして、トゲトゲにぐさって刺さって、痛っ!ってなって、焦って前に飛んで、次のトゲナナフッシーとごっつんこするミョウ。それで半吉はシゲシゲの道を抜ける頃には血みどろのでろでろ半吉になるんだミョウ。だからお師匠様が、半吉はシダシダの道を通ったらダメアルって言ったんだミョウ。けがの手当てが大変だから、次血みどろの半吉で帰ってきたら怒るアルって怒られたんだミョウ」
「ふぇ?」
「普通にトゲナナフッシーを避けて通れば無害なんだミョウ。トゲナナフッシーはつぶらな瞳のいい奴なんだミョウ」
「で、でも『tag』を使い切った時、半吉走れって言ったじゃん」
「あれは……」
「あれは?」
「ノリなんだミョウ」
てへっと、半吉が頭を叩く。
「……」
「でも、桐山直太は半吉がシゲシゲの道を通っちゃいけない理由を思い出した時、もうわかってるって言ってたのに、なんで『tag』使っちゃったんだミョウ?」
不思議そうに直太を見つめる半吉。
「つか、あの流れで言われたら……、ああ、もう、なんでもないっす」
もう言い訳するのも面倒くさい。
わき目もふらず、力の限り走り続ける直太の頭上で、半吉が何か叫んでいる。
「桐山直太~……だミョウ」
「ぬおおお~~~~~~」
「おーい、桐山直太~、話を聞くんだミョウ~」
「ぬおおおおお~~~~~~~~~」
直太の耳元まで降り立った半吉が、すうっと息を吸い込み叫んだ。
「桐山直太、止まれだミョウ~~~~」
「ぐわっ! 耳が~」
直太は両耳を押さえ、やっと立ち止まった。
「半吉、声デカい。もうちょい加減を」
「もうシダシダの道は抜けたんだミョウ」
「え」
改めて周りを見れば、いつの間にか森を抜け背の高い雑草が生える草原に出ていた。
びちょん、と、片足が泥のぬかるみに突っ込み掛けていて「うわっ」と直太は慌てて足を上げる。
「気を付けるミョウ。この狩場は昨日の雨で地面がぐちょぐちょなんだミョウ。ぬかるみに入ったら抜け出せなくなるんだミョウ」
言われてみれば、水分を多く含んだ泥がスニーカーの底にもちゃっと張り付いていて、靴の中まで湿ってきている。
泥は靴下とズボンにまで跳ね上がっていた。
「げっ、オレ泥まみれじゃん。母さんに殺される」
「母さんが直太を殺すのかミョウ? ニンゲンの世界は怖いミョウ」
半吉が大きな目をまん丸にして驚いた。
「いや、まあ比喩と言うか」
「ひゆ? そんなことよりあそこに大滝神社の鳥居が見えるミョウ」
「すげぇスルースキルだな」
「? ほら、あそこだミョウ」と半吉が左の方を指をさしている。
直太たちのいる湿地帯のような場所の左手は、雑草がまばらに生えるだけのまあまあ平らな大地が広がっていた。
ぽっかり開けた大地のそこここに、いくつもの沼がある。
そのずっと先、直太の体感で1キロメートル程先の、背の高い雑草群が生い茂る辺りに、緑色の大鳥居が周囲に紛れるように立っていた。
「あれ、あの鳥居……」
「この平らな大地をぴゅーんと一気に進めば大滝神社につくんだミョウ」
確かに、大地はところどころボコボコしていてパヤパヤ雑草が生えているとはいえ、平坦な場所が多い。障害物と言えば沼くらいか。これならずんずん進めそうだ。
見通しもとてもいい。いきなりムシムッシーが出てくる心配もなさそうなのがすごくいい。
「そういやトゲナナフッシーは?」
ハッと、周囲を警戒する直太に、「ほら、あそこだミョウ」と半吉が後ろを指さした。
「トゲナナフッシーが一匹、シダシダの道の終わりでゆらゆらしているのが見えるミョウ。トゲナナフッシーはシダシダの道からこっちへは来ないんだミョウ」
半吉の言う通り、かなり後ろの方、シダシダの道が途切れたところにトゲナナフッシーが一匹、ゆらりゆらゆら揺れながら物欲しげに直太を見つめているのが見えた。
ゆらゆらしているだけで追って来る様子はない。
「た、助かった~」
ホッとした瞬間、疲労がどっと押し寄せ、直太は太ももに両手をついて「疲れた~」と息を吐いた。
こんなに全力で走ったのはいつぶりだろう。
「トゲナナフッシーは、ゆらゆらするだけのムシムッシーなんだミョウ。別に襲ってこないのに、貴重な『tag』を全部使い切るなんて、桐山直太はアホなんだミョウ」
「へ? ゆらゆらするだけ? いやだって、シダシダの道はトゲナナフッシーがいて危険だから通るなってお師匠様も言ってたんだろ?」
「危険?」
半吉がはて?と、いう風に首を傾げた。
「お師匠様は危険とは言ってないミョウ。トゲナナフッシーがぶらんって、急に垂れ下がってくると、半吉はびっくらして慌てて上に飛ぼうとしちゃうから、いつもトゲナナフッシーの体とごっつんこしちゃうんだミョウ。それで、トゲナナフッシーのトゲトゲにぐさって刺さって、痛っ!って、びっくらして、前に飛ぼうとしちゃうんだミョウ。それでまた次のトゲナナフッシーとごっつんこして、トゲトゲにぐさって刺さって、痛っ!ってなって、焦って前に飛んで、次のトゲナナフッシーとごっつんこするミョウ。それで半吉はシゲシゲの道を抜ける頃には血みどろのでろでろ半吉になるんだミョウ。だからお師匠様が、半吉はシダシダの道を通ったらダメアルって言ったんだミョウ。けがの手当てが大変だから、次血みどろの半吉で帰ってきたら怒るアルって怒られたんだミョウ」
「ふぇ?」
「普通にトゲナナフッシーを避けて通れば無害なんだミョウ。トゲナナフッシーはつぶらな瞳のいい奴なんだミョウ」
「で、でも『tag』を使い切った時、半吉走れって言ったじゃん」
「あれは……」
「あれは?」
「ノリなんだミョウ」
てへっと、半吉が頭を叩く。
「……」
「でも、桐山直太は半吉がシゲシゲの道を通っちゃいけない理由を思い出した時、もうわかってるって言ってたのに、なんで『tag』使っちゃったんだミョウ?」
不思議そうに直太を見つめる半吉。
「つか、あの流れで言われたら……、ああ、もう、なんでもないっす」
もう言い訳するのも面倒くさい。
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