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第三十三話 トゲナナフッシー出現
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巨大雑草群の道を抜けると、高層ビルのような木々が聳え立つ森が広がった。
森の木々は樹齢何千年というくらい、果てしなく太く長い。
根元にぽっかりあいたうろは巨大な洞窟のように黒々と、どこまでも深く、中に魔物が潜んでいそうである。
直太はぶるっと身震いをした。
重なり合う木々の葉っぱで日光が遮られた道は妙な薄暗さがある。
生えている雑草もさっきまでのよく知った葉っぱとは違って、なんかちょっと不穏な感じが漂っている。
妙にギザギザした鳥の羽みたいな葉っぱとか、太い茎の先端にペロペロキャンディーのような渦巻き状の葉っぱがついているものとか、葉っぱの裏側に、まるい粒々した卵みたいなものがびっしりついている葉とか。
そんなものがにょきにょきっと伸びている。
恐竜時代にタイムスリップしたようなそれらの植物群は直太たちが歩く土の道に軽く首を垂れて、商店街のアーケードみたいに頭上を陰湿に覆っていた。
「なんかジメジメして、キモい道だな」
「ここが近道のシダシダの道なんだミョウ」
「あ、そっか。これシダか」
直太は頭上の葉を改めて見上げ納得する。
まるい粒々した卵みたいなものはシダ植物の胞子のうだ。
くるっと先端が丸まった植物はこごみとか、わらびとか、母さんが春になると道の駅で買ってくる山菜的なやつに似ている。
な、なんだ。そっかそっか。
「このシダシダの道を抜ければ狩場につくミョウ。狩場を過ぎたらお師匠様のいる大滝神社の鳥居があるミョウ。お師匠様までもうすぐだミョウ」
「マジ?」
良かったー。と内心ホッとする。
これなら魔法のグローブの出番もなさそうだ。
勇者とか冒険とかマンガやゲームの主人公っぽくて憧れるけど、実際、等身大の魔物とかモンスターが出てきたら……怖い。
超怖ぇ。
できれば出会いたくない。
いや、断固出会いたくない。
「桐山直太、めちゃんこホッとした顔してるミョウ」
じとーっと、半吉が直太を覗き込んでいた。
「桐山直太は怖がりなのかミョウ? エツランシャの癖に?」
「ち、ちげぇって……ご、ゴールが近けりゃお師匠様を早く救出できるなって思っただけだって。だってオレ、モンスター倒すとかめっさ得意だし」
(ゲームの中では)
「なーんだ。そうだったのかミョウ。お師匠様のことをそこまで思ってくれてたなんて、桐山直太はいいやつだミョウ」
「ま、まあね」
ハハハ、と、直太が乾いた笑いをした時だった。
がさり。
突然、頭上のシダの葉が不自然に揺れて、直太の前にしなだれかかってきた。
「うぉっ!」
直太は驚き飛びずさった。
そおっと見ると、垂れ下がったシダの葉っぱに、茶色く枯れた松の葉が束になって引っかかっている。
どうやら上の木から落ちてきた枯れた松の葉の束の重みで、シダの葉っぱが垂れ下がっただけみたいだ。
「な、な、なんだよ。驚かせんなって」
ホッと胸をなでおろす直太を半吉がじとーっと見ている。
「い、いやー。この世界じゃ松の葉も重いもんなんだなー。オレの世界じゃ爪楊枝並みにちっぽけなのになぁ。おまけに目までついてて。ん? 目?」
ぎょろり。
松の葉と目が合った。
あれ? 松の葉って、目、あったっけ?
さーっと、頭から血の気が引いていく。
松の葉と見つめ合っている自分。
こ、これは一体……
がさり。
フリーズした直太の背後で何かが動く音がした。
ぎょっとして、バッと後ろを振り返る。
ぎょろりん。
「……」
今しがた直太たちが通り過ぎたシダの葉が次々と垂れ下がり、目のついた茶色い松の葉がこちらを見ている。
がさり、がさり、がさり、がさり。
「な、な、な、な」
どんどんどんどん、後ろのシダがしなだれていく。
しな垂れたシダの葉には、もれなく目の付いた松の葉の束が引っかかっていて。
ぎょろり、ぎょろり、ぎょろり、ぎょろり。
直太を見ている。
「ハッ!」と、声に出して半吉がハッとした。
「思い出したミョウ! シダシダの道はトゲナナフッシーが大発生している道なんだミョウ」
「ト、トゲナナフッシー?」
よくよく見れば、枯れた松の葉に見えたのはそいつの脚だった。
右と左に三本ずつ枯れ枝みたいな脚がついていて、真ん中の太い胴体は、いくつもの節と鋭いトゲトゲがいっぱい生えていた。
すたん!
今度は前方で音がした。
「な、なんか、イヤな予感」
直太はそうっと前を振り返ってみる。
予感的中!
最初に現れたトゲナナフッシーが、シダから地面に降り立った音だった。
ぎょろり。
ヤシの実に似たつぶらな瞳が直太をじぃーっと見据えている。
「うわっ!!」
いきなりのことに、頭が真っ白。
すっかり硬直してしまった直太。
その間にも、がさり、すたん。と、背後で音が続いている。
見なくてもわかる。
やつらが地面に降り立つ音だ。
がさり、すたん。がさり、すたん。がさり、すたん。
そろりと首だけ回して後ろを伺うと、ドミノ倒しのように背後で続々とトゲナナフッシーが、地面に降り立っているところだった。
がさっ、がさ。
と、今度は顔の間近で落ち葉を踏みしめるような音がした。
どどーん。
トゲナナフッシーの顔のドアップ。
たまらず直太は「ひっ」と、飛び上がり叫んだ。
「ギャーー! 『tag』!!!!!」
びゅん!!
わけがわからないまま手をかざした瞬間、直太の体は強い力で前へぐいんと引っ張られた。
気が付けば目の前にいたはずのトゲナナフッシーが後ろにいる。
「は、はぁ~、助かったー」
危機を脱し、ほっと胸をなでおろした直太。
「あれ、何か忘れてる気が……」
すぐさま青ざめる。
「やべー! 半吉を置いてきちまった~」
森の木々は樹齢何千年というくらい、果てしなく太く長い。
根元にぽっかりあいたうろは巨大な洞窟のように黒々と、どこまでも深く、中に魔物が潜んでいそうである。
直太はぶるっと身震いをした。
重なり合う木々の葉っぱで日光が遮られた道は妙な薄暗さがある。
生えている雑草もさっきまでのよく知った葉っぱとは違って、なんかちょっと不穏な感じが漂っている。
妙にギザギザした鳥の羽みたいな葉っぱとか、太い茎の先端にペロペロキャンディーのような渦巻き状の葉っぱがついているものとか、葉っぱの裏側に、まるい粒々した卵みたいなものがびっしりついている葉とか。
そんなものがにょきにょきっと伸びている。
恐竜時代にタイムスリップしたようなそれらの植物群は直太たちが歩く土の道に軽く首を垂れて、商店街のアーケードみたいに頭上を陰湿に覆っていた。
「なんかジメジメして、キモい道だな」
「ここが近道のシダシダの道なんだミョウ」
「あ、そっか。これシダか」
直太は頭上の葉を改めて見上げ納得する。
まるい粒々した卵みたいなものはシダ植物の胞子のうだ。
くるっと先端が丸まった植物はこごみとか、わらびとか、母さんが春になると道の駅で買ってくる山菜的なやつに似ている。
な、なんだ。そっかそっか。
「このシダシダの道を抜ければ狩場につくミョウ。狩場を過ぎたらお師匠様のいる大滝神社の鳥居があるミョウ。お師匠様までもうすぐだミョウ」
「マジ?」
良かったー。と内心ホッとする。
これなら魔法のグローブの出番もなさそうだ。
勇者とか冒険とかマンガやゲームの主人公っぽくて憧れるけど、実際、等身大の魔物とかモンスターが出てきたら……怖い。
超怖ぇ。
できれば出会いたくない。
いや、断固出会いたくない。
「桐山直太、めちゃんこホッとした顔してるミョウ」
じとーっと、半吉が直太を覗き込んでいた。
「桐山直太は怖がりなのかミョウ? エツランシャの癖に?」
「ち、ちげぇって……ご、ゴールが近けりゃお師匠様を早く救出できるなって思っただけだって。だってオレ、モンスター倒すとかめっさ得意だし」
(ゲームの中では)
「なーんだ。そうだったのかミョウ。お師匠様のことをそこまで思ってくれてたなんて、桐山直太はいいやつだミョウ」
「ま、まあね」
ハハハ、と、直太が乾いた笑いをした時だった。
がさり。
突然、頭上のシダの葉が不自然に揺れて、直太の前にしなだれかかってきた。
「うぉっ!」
直太は驚き飛びずさった。
そおっと見ると、垂れ下がったシダの葉っぱに、茶色く枯れた松の葉が束になって引っかかっている。
どうやら上の木から落ちてきた枯れた松の葉の束の重みで、シダの葉っぱが垂れ下がっただけみたいだ。
「な、な、なんだよ。驚かせんなって」
ホッと胸をなでおろす直太を半吉がじとーっと見ている。
「い、いやー。この世界じゃ松の葉も重いもんなんだなー。オレの世界じゃ爪楊枝並みにちっぽけなのになぁ。おまけに目までついてて。ん? 目?」
ぎょろり。
松の葉と目が合った。
あれ? 松の葉って、目、あったっけ?
さーっと、頭から血の気が引いていく。
松の葉と見つめ合っている自分。
こ、これは一体……
がさり。
フリーズした直太の背後で何かが動く音がした。
ぎょっとして、バッと後ろを振り返る。
ぎょろりん。
「……」
今しがた直太たちが通り過ぎたシダの葉が次々と垂れ下がり、目のついた茶色い松の葉がこちらを見ている。
がさり、がさり、がさり、がさり。
「な、な、な、な」
どんどんどんどん、後ろのシダがしなだれていく。
しな垂れたシダの葉には、もれなく目の付いた松の葉の束が引っかかっていて。
ぎょろり、ぎょろり、ぎょろり、ぎょろり。
直太を見ている。
「ハッ!」と、声に出して半吉がハッとした。
「思い出したミョウ! シダシダの道はトゲナナフッシーが大発生している道なんだミョウ」
「ト、トゲナナフッシー?」
よくよく見れば、枯れた松の葉に見えたのはそいつの脚だった。
右と左に三本ずつ枯れ枝みたいな脚がついていて、真ん中の太い胴体は、いくつもの節と鋭いトゲトゲがいっぱい生えていた。
すたん!
今度は前方で音がした。
「な、なんか、イヤな予感」
直太はそうっと前を振り返ってみる。
予感的中!
最初に現れたトゲナナフッシーが、シダから地面に降り立った音だった。
ぎょろり。
ヤシの実に似たつぶらな瞳が直太をじぃーっと見据えている。
「うわっ!!」
いきなりのことに、頭が真っ白。
すっかり硬直してしまった直太。
その間にも、がさり、すたん。と、背後で音が続いている。
見なくてもわかる。
やつらが地面に降り立つ音だ。
がさり、すたん。がさり、すたん。がさり、すたん。
そろりと首だけ回して後ろを伺うと、ドミノ倒しのように背後で続々とトゲナナフッシーが、地面に降り立っているところだった。
がさっ、がさ。
と、今度は顔の間近で落ち葉を踏みしめるような音がした。
どどーん。
トゲナナフッシーの顔のドアップ。
たまらず直太は「ひっ」と、飛び上がり叫んだ。
「ギャーー! 『tag』!!!!!」
びゅん!!
わけがわからないまま手をかざした瞬間、直太の体は強い力で前へぐいんと引っ張られた。
気が付けば目の前にいたはずのトゲナナフッシーが後ろにいる。
「は、はぁ~、助かったー」
危機を脱し、ほっと胸をなでおろした直太。
「あれ、何か忘れてる気が……」
すぐさま青ざめる。
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