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第二十九話 物語の構成
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「冒険の章?」
「エツランシャ桐山直太が半吉のお師匠様を助けに行く、の、巻き、だ」
「えっと、ちょっと言ってる意味が」
「これまでのあらすじはぁ~!!!」
突然、タマ様が叫んだ。
「うおっ! びっくりしたぁ」
「小学五年生の桐山直太は、図書室で『虫蟲アドベンチャー』という摩訶不思議な本を手にする。物語は、おっちょこちょいのナミハンッミョウの半吉が狩りを失敗するところから始まり、なんやかんやで、半吉の大好きなお師匠様の女カマソルジャーが、なよなよ修道女になってしまう。半吉は大好きなお師匠を助けるために、左目に翡翠、右目に瑠璃を宿し、この世界とヒトの棲む世界のハザマに水晶の部屋を作って、不思議な実験をしているパンクな髪型のタマ様を尋ねて旅に出た。旅の途中、なんやかんやの危機をなんやかんやですり抜けて、半吉は冒険のパートナーである『虫蟲アドベンチャー』の本を持ったエツランシャの桐山直太と出会い、なんやかんやで、一人と一匹は、パンクな髪型のタマ様の元へたどり着いたのであった」
「なんやかんやが多くて雑なあらすじだな……」
「なんやかんやが多いのは、本のページ数をむやみに増やさないためだ。そうでなくとも、今回の物語は構成が微妙だ。起承転結の起と承が長すぎる」
「起承転結?」
「本の構成の良し悪しはエツランシャの読書スキルによって左右される。お前の読書スキルは米粒の中にあるチョン並みだ」
「米粒の中のチョン……なんか、すげぇディスられてる気がするな」
「こんな会話をしている間にも」
いつの間にか、虫蟲アドベンチャーを手にしたタマ様が、パラパラと本のページをめくる。
「もうページ数がギリギリだ。最近のエツランシャは小学校の読書タイムのおかげで、読書スキルの高い者が多いのに、とんだハズレだな」
オレ、朝読サボってるし本嫌いだし、そりゃ読書スキルはゼロに近いだろうなぁ。と、直太は納得した。
それにしてもタマ様は、凄まじいポーカーフェイスだ。
「これまでのあらすじは~」と、大声を出した時でさえ表情が変わらなかった。
今も無表情決め込んでるし。
「無表情の描写が多くてくどい。この本のページ数は決まっているのだから物語の進行に必要ないことは考えるな。ともかく、このままではストーリー完結が危うい。なんやかんやすっ飛ばして、超特急で転と結に行くぞ」
言うが早いか、タマ様は理科室の壁に備え付けのガラスの戸棚にふいっと瞬間移動して、ぱっと手をかざした。
途端、棚の中のものがキラキラと輝きだす。
戸棚の中にはガラス瓶が、ずらりと並んでいて、一つの瓶にひとつずつ、カラフルなスーパーボールみたいな丸い玉が入っていた。
輝いているのは、その玉らしい。
玉の色はそれぞれ違う。
夕日のようなオレンジ色もあれば、すかっと晴れ渡った冬の空のように濃い青色もある。
複数の色が混ざり合っている玉もあった。
「これは半吉のむし玉だ」
「うわっ!」
にょきっと今度は直太の前にタマ様が瞬間移動。
赤と緑と青の色に白の斑点の模様がついた玉を直太の左手首に押し当てた。
玉はひんやりフニフニした感触で、ふにょんと直太の手首に吸い付くと、でろーんとスライムが侵食するように直太の手全体を覆っていく。
「うおっ! なにこれ。大丈夫なの?」
直太の手がすっかりスライムに覆い隠された瞬間、ぱあ~っと、手のひらが輝きだした。
「眩しっ!」
間近に光を受けて、直太の目が白く眩む。
「この物語のエツランシャ桐山直太のミッションは、半吉の師匠を解毒剤で救うことだ」
白い世界の中で、タマ様が言った。
「ちょ、なんか展開速すぎてついていけないんですけど」
「おっと、ボイスモードチェンジを忘れていた。ここは重要だからな」
「ボイスモードチェンジ?」
―あ、ああ~、テステス。
運動会のマイクテストみたいに、タマ様の声が直太の頭の中でエコーする。
―エツランシャ、桐山直太よ。いざ、出発せよ。小さきモノたちの棲む、壮大な冒険の世界へ――。
聞いたことのあるセリフが、天のお告げみたいに直太の脳内で響いた瞬間、直太の体はきゅーんと、ジェットコースターのてっぺんから落とされたような重力を受け「ぎゃ~~」と直太は悲鳴をあげたのだった。
「エツランシャ桐山直太が半吉のお師匠様を助けに行く、の、巻き、だ」
「えっと、ちょっと言ってる意味が」
「これまでのあらすじはぁ~!!!」
突然、タマ様が叫んだ。
「うおっ! びっくりしたぁ」
「小学五年生の桐山直太は、図書室で『虫蟲アドベンチャー』という摩訶不思議な本を手にする。物語は、おっちょこちょいのナミハンッミョウの半吉が狩りを失敗するところから始まり、なんやかんやで、半吉の大好きなお師匠様の女カマソルジャーが、なよなよ修道女になってしまう。半吉は大好きなお師匠を助けるために、左目に翡翠、右目に瑠璃を宿し、この世界とヒトの棲む世界のハザマに水晶の部屋を作って、不思議な実験をしているパンクな髪型のタマ様を尋ねて旅に出た。旅の途中、なんやかんやの危機をなんやかんやですり抜けて、半吉は冒険のパートナーである『虫蟲アドベンチャー』の本を持ったエツランシャの桐山直太と出会い、なんやかんやで、一人と一匹は、パンクな髪型のタマ様の元へたどり着いたのであった」
「なんやかんやが多くて雑なあらすじだな……」
「なんやかんやが多いのは、本のページ数をむやみに増やさないためだ。そうでなくとも、今回の物語は構成が微妙だ。起承転結の起と承が長すぎる」
「起承転結?」
「本の構成の良し悪しはエツランシャの読書スキルによって左右される。お前の読書スキルは米粒の中にあるチョン並みだ」
「米粒の中のチョン……なんか、すげぇディスられてる気がするな」
「こんな会話をしている間にも」
いつの間にか、虫蟲アドベンチャーを手にしたタマ様が、パラパラと本のページをめくる。
「もうページ数がギリギリだ。最近のエツランシャは小学校の読書タイムのおかげで、読書スキルの高い者が多いのに、とんだハズレだな」
オレ、朝読サボってるし本嫌いだし、そりゃ読書スキルはゼロに近いだろうなぁ。と、直太は納得した。
それにしてもタマ様は、凄まじいポーカーフェイスだ。
「これまでのあらすじは~」と、大声を出した時でさえ表情が変わらなかった。
今も無表情決め込んでるし。
「無表情の描写が多くてくどい。この本のページ数は決まっているのだから物語の進行に必要ないことは考えるな。ともかく、このままではストーリー完結が危うい。なんやかんやすっ飛ばして、超特急で転と結に行くぞ」
言うが早いか、タマ様は理科室の壁に備え付けのガラスの戸棚にふいっと瞬間移動して、ぱっと手をかざした。
途端、棚の中のものがキラキラと輝きだす。
戸棚の中にはガラス瓶が、ずらりと並んでいて、一つの瓶にひとつずつ、カラフルなスーパーボールみたいな丸い玉が入っていた。
輝いているのは、その玉らしい。
玉の色はそれぞれ違う。
夕日のようなオレンジ色もあれば、すかっと晴れ渡った冬の空のように濃い青色もある。
複数の色が混ざり合っている玉もあった。
「これは半吉のむし玉だ」
「うわっ!」
にょきっと今度は直太の前にタマ様が瞬間移動。
赤と緑と青の色に白の斑点の模様がついた玉を直太の左手首に押し当てた。
玉はひんやりフニフニした感触で、ふにょんと直太の手首に吸い付くと、でろーんとスライムが侵食するように直太の手全体を覆っていく。
「うおっ! なにこれ。大丈夫なの?」
直太の手がすっかりスライムに覆い隠された瞬間、ぱあ~っと、手のひらが輝きだした。
「眩しっ!」
間近に光を受けて、直太の目が白く眩む。
「この物語のエツランシャ桐山直太のミッションは、半吉の師匠を解毒剤で救うことだ」
白い世界の中で、タマ様が言った。
「ちょ、なんか展開速すぎてついていけないんですけど」
「おっと、ボイスモードチェンジを忘れていた。ここは重要だからな」
「ボイスモードチェンジ?」
―あ、ああ~、テステス。
運動会のマイクテストみたいに、タマ様の声が直太の頭の中でエコーする。
―エツランシャ、桐山直太よ。いざ、出発せよ。小さきモノたちの棲む、壮大な冒険の世界へ――。
聞いたことのあるセリフが、天のお告げみたいに直太の脳内で響いた瞬間、直太の体はきゅーんと、ジェットコースターのてっぺんから落とされたような重力を受け「ぎゃ~~」と直太は悲鳴をあげたのだった。
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