虫蟲アドベンチャー ~君の冒険物語~

箕面四季

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第二十二話 水晶の部屋への行き方

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 校門は五時半を過ぎると閉まるので裏門からすり抜ける。
 裏門は仕事を終えた先生たちが随時帰る時に使うから、結構夜遅くまで開いているのだ。
 これは春斗から教えてもらった情報だ。
 オカルトマニアの春斗は、この門を使って放課後時々校舎に忍び込んでいるらしい。
 周りに誰もいないことを確認すると、急いで半吉に小声で呼びかける。

「大丈夫ですかー。生きてますかー」

―タマ、様。

「よし、生きてるな。つか、校舎の真ん中のあの突き出た場所って、どうやっていくんだ? 西校舎と東校舎の階段は移動教室がある四階までしかないし、うちの小学校、他に階段はないはずなんだけど」

―ひ、東にひとつ、西にひとつで、また東。だ、ミョウ

「え? 何それ。どゆこと? あ、大丈夫ですかー」

―それは、もう、いいミョウ。大丈夫、だ、ミョウ。

「あ、そう? んで、さっきの東にひとつとかって、何?」

―さっきの、大丈夫ですかーで、忘れたんだミョウ。

「え、マジ?」
 そういや、半吉って忘れちゃいけないことを忘れる癖があったんだっけ。
 てことは、東にひとつってやつは忘れちゃいけない大切な事なんじゃ。

―水、、水に飛び込まない、と。

―聖なる、水が、必要だ、ミョウ

―ぼーふーらーの楽園へ。

「ちょ、待った。待て待て待て。えっと、東にひとつで、西にひとつで、また東、だったよな? 東にひとつ、西にひとつ……」
 直太は半吉の言葉を反芻する。

「わかったぞ! これ、東階段と西階段の上り方だ! 東階段で二階に上がって、西階段で三階に行く。で、また東階段を上がって四階まで行くと、たぶんにょきっと突き出たとこに繋がる隠し階段かなんかが現れるんだ。ゲームでありがちな展開」
 正しい道順でいかないと、目当ての場所に辿り着かない的なやつだ。

 さっそく直太は考えた通りの道順で、四階まで小走りに駆け上がった。
 東階段から四階の廊下に出ると、すぐ突き当りに音楽室がある。
 そこから、長い廊下に沿って、図工室、視聴覚室、理科室、家庭科室などの特別教室が並んでいる。廊下の奥の西階段を過ぎたところは、さっき本を借りた図書室だ。

「……なんか、静かだな」
 呟いた自分の声が廊下や壁に吸収されていく感じ。
 それくらい、どの教室もひっそりと静まり返って佇んでいた。

 しーーーーーん。

『移動教室は、どの学校でも怪が出やすい場所とされているんだ。もちろんうちの小学校も例外じゃないんだな、これが。まず音楽室は……』
 勝手に頭の中で春斗がしゃしゃり出てきて、直太はぶるぶると頭を振った。

 周りを警戒しながら、できるだけ足音をさせないように、ついでに息も殺しながら廊下の真ん中まで、そうっと歩いて行く。

「たぶん、この上らへんだよなー」と、目に入った教室に、ゲッとなる。
 校舎のちょうど真ん中にあるのは、理科室。

「よりによって理科室かよ」
 理科室って、内臓が飛び出た人体模型とか、骸骨の標本とか、ホルマリン漬けのカエルとかトカゲとかがあったような、なかったような……

 ぶるりと身震いをしながら「ないないないない」と、理科室から目を背け、特別教室と反対側のただの白い壁に目をむけ、青ざめた。

 直太の目の前の壁だけ、白いはずの壁が、どす黒い紫色に見えるのだ。
 見えるというか、ドライアイスみたいに、どす黒い紫色の煙のようなものが壁からふよふよ漂っている。

 ちょうど縦長のドアのような形に。

 しかも、一カ所煙が濃く丸く凝縮されているところがあって、それがなんか、ドアノブに見える。

―た、タマ様のいる水晶の部屋に続くドアだ、ミョウ。

「……この、どす黒い紫色の壁が?」
 水晶の部屋って、名前の響きから言って清らかなイメージじゃね?

 この壁、邪悪オーラが駄々洩れなんですけど。
 禍々しいモノが潜んでいるドアにしか見えないんですけど。

―は、はやく、開けるんだミョウ。
「い、いやでも」

 この煙って、触ったら毒でHPが減ったりする的なやつじゃね?
 つか、タマ様って勝手に聖女みたいなイメージだったけど、実は魔女的なアレなのか?

 直太が躊躇していると、また半吉がうわごとを呟き始めた。

―水、、水に飛び込まない、と。

―聖なる、水が、必要だ、ミョウ

―ぼーふーらーの楽園へ。

「ああ、もう! わかったよ!」
 覚悟を決めて、えい! と、ドアノブらしきところを掴んで回す。

 ガチャ。
 見た目に反してひんやり硬い感触。

 だが。

 ガチャ、ガチャ。

 ドアノブは回るが、ドアは開かない。

「ダメだ。鍵がかかってるみたいで開かない」

―か、鍵。忘れて、た、ミョウ。クリスタルキーを、使うミョウ。
「クリスタルキー?」

―クリスタルキーを鍵穴に入れて回せば、扉は、開かれる、だミョウ。

 息絶え絶えに、半吉が説明する。
 言われてみれば、ドアノブの真ん中に鍵穴らしきものが見える。

「ここにクリスタルキーを差し込んで回すのか。んで、クリスタルキーはどこにあんの?」

―クリスタルキーは……どこだったか、ミョウ。
「……」

―……
「……」

―……
「げっ、もしかして、大事なことを忘れるのが半吉の癖ってやつ?」

―なんで、半吉の、癖、を、知ってる、ミョウ。

「いやだってこの本に書いて……あ、そうだ! 本読めばいいんじゃん!!」

 直太は閃いた。
 この本の続きを読めば、クリスタルキーのありかが書いてあるんじゃね?
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