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第二十一話 虫⁉
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ぽとり。
「うわっ!!」
何かが、ぽとり、と、開いたページの上に落ちてくる。
反射的に本をぶん投げそうになった直太だが、落ちてきたのがただの葉っぱだとわかり、ふうっと、胸をさすった。
「なんだ。葉っぱかよ」
言いながら、平べったい葉っぱを持ち上げて。
「うおっ!!」
今度こそ、本ごとぶん投げそうになる。
葉っぱの下に、赤、青、緑にギラギラ光る、奇妙な虫が潜んでいたのだ。
「なんだ、こいつ」
綺麗っちゃ綺麗だけど、毒々しいっちゃ毒々しい虫。
確か、鮮やかな虫は「毒を持ってますよー」って周囲に教えてるとかなんとか、昆虫図鑑で見たような、見なかったような。
「毒、あるのかな」
直太は足元に落ちていた細い小枝を拾いあげた。
小枝で虫を本から弾き飛ばそうとして、ふと手が止まる。
「スゲー色」
オレンジを混ぜたみたいな明るい赤、キラキラ輝くエメラルドグリーン、紺碧の海のような深い青。
そこに白い点々模様がついている。
脚が妙に長いのがちょっと気持ち悪いけど、表面もクワガタみたいにつるっと硬そうでカッコイイような気がしてきた。
直太が観察している間、虫はピクリとも動かなかった。
「死んでんのかな」
枝の先で、ちょん、と、つついてみる。
ぴくっ。
六本の長い脚が、収縮するようにわずかに動く。
「お、生きてる」
うーん。と虫を観察しながら考える。
この奇妙な虫をどうしたもんか。
このままだと本の続きが読めない。
でも、この虫は弱ってるっぽいから、地面に落としたらアリの餌食になりそうだ。
「あれ、そういえばこの虫の柄って……」
本に出てきた、半吉の服と似てなくない?
半吉の服は、確か、赤と緑と青色に白い斑点模様のついたキラキラオシャレファッションって話で。
この虫も、赤と緑と青にキラキラ輝く体に、白い斑点の模様がついている。
―み、水。
「へ?」
直太はばっと顔を上げて、キョロキョロ辺りを見回した。
「い、今、なんか声が」
でもここは鳥居公園の中。
周りには直太以外誰もいない。
―水に、飛び込まない、と。
「うおっ!」
また声がして、直太はベンチから飛び上がりそうになった。
誰もいない公園で声がする。
ぞわぞわぞわ~っと、背筋に冷たいものが走る。
『この変てこな構造こそが、この神社があっちの世界とこっちの世界を行き来する鬼門である証拠なのだよ。ちなみに鬼門ってのは鬼だけじゃなく、人間にとって摩訶不思議に思えるクリチャー、あ、生き物の事な、が人間界に来るための門なんですわ』
この場所は、空間に歪みやねじれが生じていて、ヒトならざるモノの住処になっていたりもするとかなんとか、春斗、言ってなかったっけ?
「いや、ないないないない」と直太はブンブン首を振った。
―水。
「うわっ! ち、違う。これ空耳。風の音だって」
直接頭の中に響くような不思議な声がまた聞こえて、直太は「風の音、風の音」と、念仏のように唱える。
―水に、飛び込むんだミョウ。
「だ~か~ら~、風の音だって……え? ミョウ?」
―早く、聖なる水を探すんだ、ミョウ。
やっぱり、語尾にミョウがついている。
「ミョウってまさか……」
ハッとなって、直太は死にかけの虫を覗き込んだ。
「まさか、お前……半吉??」
―半吉を、知ってる、のか、ミョウ?
直太の質問に、声が反応する。
「ウソだろ。マジか。え、つまり……どゆこと?」
この本はフィクションじゃないってこと?
―半吉、もう、飛べないんだ、ミョウ。だから、半吉を、聖なる水、に、連れて行ってくれミョウ。半吉は水に、飛び込まなきゃ、ならないんだ、ミョウ。
「つか、水に入ったらダメだろ。半吉もお師匠様も水に飛び込んだら死ぬって、本に書いてあったぞ」
―お師匠様……そう、だったミョウ。岩山に……行かな、きゃ……
しーん。と、声が途切れた。
「おい、大丈夫か?」
―タマ、さま……。
「おい、しっかりしろよ」
―……。
「マジか」
直太は開いた本の上で動かないキラキラ鮮やかな虫を眺めてオロオロする。
「ど、ど、どーすんだ。どーしたらいんだ、これ」
早くなんとかしないと、このままじゃ半吉が死ぬ。
「そうだ病院! 病院に連れてかなきゃ……って、虫の治療ってどこ病院? 動物病院? 動物病院って虫も見てくれるのか?」
―タマ、さま……。
「それだ! タマ様だ」
物語で半吉は、お師匠様の異変を助けるためにタマ様のところへ行こうとしていたのだ。
つまり、タマ様はムシムッシーたちを治療する医者みたいなもんに違いない。
この本の内容が現実とリンクしているなら、半吉が言っていた岩山は直太の小学校のはず。
ということは、校舎てっぺんの、丸時計がかかっている部分にタマ様がいる、はず。
「とりま、タマ様のところにオレが連れてってやるから、もうちょい頑張れ」
直太は本の上に乗った死にかけの半吉を励まし、半吉に手を差し伸べかけてピタリと止めた。
「弱ってる人とか、変に動かすとマズいんだっけ」
学校の避難訓練で、救急隊員の人がそんなことを言ってたような。
動かさないで「大丈夫ですかー」と呼び続けるってあれ、虫にも当てはまるのか?
「うーん」
考えた末、半吉が乗った見開きのページを膝に乗せたまま、ベンチの横に置いていたランドセルを背負う。
それから手提げバッグを肩に掛けた直太は、両手で見開きの本をそうっと持ち上げ、小学校に向かってなるべく振動を立てないように小走りに進んだ。
「うわっ!!」
何かが、ぽとり、と、開いたページの上に落ちてくる。
反射的に本をぶん投げそうになった直太だが、落ちてきたのがただの葉っぱだとわかり、ふうっと、胸をさすった。
「なんだ。葉っぱかよ」
言いながら、平べったい葉っぱを持ち上げて。
「うおっ!!」
今度こそ、本ごとぶん投げそうになる。
葉っぱの下に、赤、青、緑にギラギラ光る、奇妙な虫が潜んでいたのだ。
「なんだ、こいつ」
綺麗っちゃ綺麗だけど、毒々しいっちゃ毒々しい虫。
確か、鮮やかな虫は「毒を持ってますよー」って周囲に教えてるとかなんとか、昆虫図鑑で見たような、見なかったような。
「毒、あるのかな」
直太は足元に落ちていた細い小枝を拾いあげた。
小枝で虫を本から弾き飛ばそうとして、ふと手が止まる。
「スゲー色」
オレンジを混ぜたみたいな明るい赤、キラキラ輝くエメラルドグリーン、紺碧の海のような深い青。
そこに白い点々模様がついている。
脚が妙に長いのがちょっと気持ち悪いけど、表面もクワガタみたいにつるっと硬そうでカッコイイような気がしてきた。
直太が観察している間、虫はピクリとも動かなかった。
「死んでんのかな」
枝の先で、ちょん、と、つついてみる。
ぴくっ。
六本の長い脚が、収縮するようにわずかに動く。
「お、生きてる」
うーん。と虫を観察しながら考える。
この奇妙な虫をどうしたもんか。
このままだと本の続きが読めない。
でも、この虫は弱ってるっぽいから、地面に落としたらアリの餌食になりそうだ。
「あれ、そういえばこの虫の柄って……」
本に出てきた、半吉の服と似てなくない?
半吉の服は、確か、赤と緑と青色に白い斑点模様のついたキラキラオシャレファッションって話で。
この虫も、赤と緑と青にキラキラ輝く体に、白い斑点の模様がついている。
―み、水。
「へ?」
直太はばっと顔を上げて、キョロキョロ辺りを見回した。
「い、今、なんか声が」
でもここは鳥居公園の中。
周りには直太以外誰もいない。
―水に、飛び込まない、と。
「うおっ!」
また声がして、直太はベンチから飛び上がりそうになった。
誰もいない公園で声がする。
ぞわぞわぞわ~っと、背筋に冷たいものが走る。
『この変てこな構造こそが、この神社があっちの世界とこっちの世界を行き来する鬼門である証拠なのだよ。ちなみに鬼門ってのは鬼だけじゃなく、人間にとって摩訶不思議に思えるクリチャー、あ、生き物の事な、が人間界に来るための門なんですわ』
この場所は、空間に歪みやねじれが生じていて、ヒトならざるモノの住処になっていたりもするとかなんとか、春斗、言ってなかったっけ?
「いや、ないないないない」と直太はブンブン首を振った。
―水。
「うわっ! ち、違う。これ空耳。風の音だって」
直接頭の中に響くような不思議な声がまた聞こえて、直太は「風の音、風の音」と、念仏のように唱える。
―水に、飛び込むんだミョウ。
「だ~か~ら~、風の音だって……え? ミョウ?」
―早く、聖なる水を探すんだ、ミョウ。
やっぱり、語尾にミョウがついている。
「ミョウってまさか……」
ハッとなって、直太は死にかけの虫を覗き込んだ。
「まさか、お前……半吉??」
―半吉を、知ってる、のか、ミョウ?
直太の質問に、声が反応する。
「ウソだろ。マジか。え、つまり……どゆこと?」
この本はフィクションじゃないってこと?
―半吉、もう、飛べないんだ、ミョウ。だから、半吉を、聖なる水、に、連れて行ってくれミョウ。半吉は水に、飛び込まなきゃ、ならないんだ、ミョウ。
「つか、水に入ったらダメだろ。半吉もお師匠様も水に飛び込んだら死ぬって、本に書いてあったぞ」
―お師匠様……そう、だったミョウ。岩山に……行かな、きゃ……
しーん。と、声が途切れた。
「おい、大丈夫か?」
―タマ、さま……。
「おい、しっかりしろよ」
―……。
「マジか」
直太は開いた本の上で動かないキラキラ鮮やかな虫を眺めてオロオロする。
「ど、ど、どーすんだ。どーしたらいんだ、これ」
早くなんとかしないと、このままじゃ半吉が死ぬ。
「そうだ病院! 病院に連れてかなきゃ……って、虫の治療ってどこ病院? 動物病院? 動物病院って虫も見てくれるのか?」
―タマ、さま……。
「それだ! タマ様だ」
物語で半吉は、お師匠様の異変を助けるためにタマ様のところへ行こうとしていたのだ。
つまり、タマ様はムシムッシーたちを治療する医者みたいなもんに違いない。
この本の内容が現実とリンクしているなら、半吉が言っていた岩山は直太の小学校のはず。
ということは、校舎てっぺんの、丸時計がかかっている部分にタマ様がいる、はず。
「とりま、タマ様のところにオレが連れてってやるから、もうちょい頑張れ」
直太は本の上に乗った死にかけの半吉を励まし、半吉に手を差し伸べかけてピタリと止めた。
「弱ってる人とか、変に動かすとマズいんだっけ」
学校の避難訓練で、救急隊員の人がそんなことを言ってたような。
動かさないで「大丈夫ですかー」と呼び続けるってあれ、虫にも当てはまるのか?
「うーん」
考えた末、半吉が乗った見開きのページを膝に乗せたまま、ベンチの横に置いていたランドセルを背負う。
それから手提げバッグを肩に掛けた直太は、両手で見開きの本をそうっと持ち上げ、小学校に向かってなるべく振動を立てないように小走りに進んだ。
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