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第二十話 妖しい声

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「あと、少し。あと少しだミョウ」
 半吉が自分を鼓舞しながら、残った全ての力を振り絞って光る岩山を目指していると、突然、お腹の辺りがむずがゆくなってきた。

 ぐにょん、ごにょんと、何かが内側で動いている感じがする。

「な、なんか、お腹が変だミョウ」
 突然、半吉の頭の中で声がした。

―水、ちょうだい。水、ちょうだい。

 さっきの神々しい声とは違うガラガラしただみ声が、小さな子供みたいに訴えてくる。

―水、ちょうだい。早く、水、ちょうだい。
―水、ちょうだい。水、ちょうだい。

「うう~、頭がへんになるミョウ。誰の声だミョウ」
 ぐわんぐわんと、だみ声が重なって、水ちょうだいが半吉の頭の中を満たしていく。

―水、ちょうだい。水、ちょうだい。
―水、ちょうだい。早く、水、ちょうだい。
―水、ちょうだい。水、ちょうだい。
―水、ちょうだい。早く、水、ちょうだい。

 半吉の頭の中はぐるぐる混乱して、目もぐるぐる回り始めた。

「み、水が必要だミョウ」
 よれよれ~、と、飛びながら、ぐるぐる回る瞳で、半吉は周囲を見回した。

 光る岩山からそんなに遠くないところに、細い灰色の川が伸びていて、鬱蒼と木々が生い茂る森が見えた。
 そこから水の匂いがする。
 水の匂いなんか、いつもの半吉には絶対にわからないのに。

「あの森に水があるミョウ。水の中に飛び込まないといけないミョウ」

―水、ちょうだい。水、ちょうだい。
―水、ちょうだい。早く、水、ちょうだい。
―水、ちょうだい。水、ちょうだい。
―水、ちょうだい。早く、水、ちょうだい。

 頭の中の声は、真夏のセミの大合唱のように、割れんばかりに水を要求している。
 半吉の頭も割れそうだ。
 早く頭の中のこの声を何とかしたい。
 半吉は、疲労で感覚の鈍った飛翔筋をなんとか動かして、よれよれと方向転換した。

「水、水に飛び込むんだミョウ」
 ぐるぐる目を回し、ぶつぶつ言いながら、半吉は森の方へと飛んで行く。

 ぶわん。ぶーん。ぶ、ぶわわん。ぶーん。

 一刻も早く水に飛び込みたいのに、羽が言うことをきかない。
 いよいよ飛翔筋が限界のようだ。
 羽ばたきがなんども止まりかけて地面に落っこちそうになるのを、なんとか持ちこたえながら、半吉は水を求めて必死に飛んだ。

 鬱蒼とした森の中を彷徨う。
 森の地面はぐちょぐちょとぬかるんでいた。
 ぬかるみは水だ。

―大きな水じゃなきゃだめ。
―この水場は小さすぎる。
―枯れない水場じゃなきゃダメ。
―この水場も枯れる。
―ここは泥が多すぎる。

「け、結構、わがままなんだミョウ」

 半吉がせっかく水に近づいても、あれはダメ、これもダメと、頭の中の声が拒絶してくる。
 半吉は、限界ギリギリの体を引きずるように飛びながら、頭の中の声が納得する水場を探し続けた。

―深い深い、緑の水場。
―ぼーふーらーが泳ぐ水。
―ぼーふーらーの楽園へ。
―空には妖精たちが羽ばたいて。
―羽音がいっぱいの聖なる水。
―聖なる水。
―聖なる水。

「聖なる水……」
 半吉は聖なる水を求めて、尚もあっちへこっちへと彷徨い飛び続けた。
 と、その時、ザザーっと、強い風が吹いた。

「ぶっ!!」
 森から飛んできた平たい青葉が、ばちんっと半吉の体に張り付いて覆う。
 踏ん張る力の残っていない半吉は、忍者が凧で空を飛ぶように、葉っぱの凧で風にぴゅーんと流されていく。

「あ~れ~、だミョウ~」
 と、言ってる間に、風が凪いだ。
 ぴたっと、身体が空中で静止する。

 次の瞬間。

「きゃ~~~、だミョウ~~」

 身体に張り付いた葉っぱと一緒に、半吉はくるくる回りながら落下していった。
 そして……。

 ぽとり。

 何かすべすべしたものの上に、半吉は葉っぱごと着地したのだった。
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