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第十一話 閉館
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「あらあら、電気もつけないで何してるの?」
太い眉を寄せた林先生が、ぱちりと壁のスイッチを押す。
ぱあっと、図書室内が一気に明るくなった。
「え? 電気ついてたはずじゃ」
「今付けたんでしょ。下の花壇の手入れをしてたら、図書室の窓に人影が見えた気がして来てみたのよ。もしかして本を借りに来たの? 残念だけど受付カウンターのパソコンはとっくにシャットダウンしちゃったのよ。今日は職員会議の関係で、放課後図書室解放は四時半までって担任の先生から連絡があったでしょ? 今はほら、もうとっくに五時過ぎてるから」
林先生がカウンターの上のデジタル時計を指さす。
デジタルの数字が05:12と光っていた。
「つか、こんなところにデジタル時計なんか」
ハッとして、カウンターの奥の壁を見上げた直太は、またまた混乱した。
壁には丸時計がなかった。
「それにしても変だわね。さっき鍵はちゃんと閉めたはずなのに」
むっちりした首を捻る林先生が、ふと受付カウンターの方に目をむけたので直太は急いで手提げバッグに『虫蟲アドベンチャー ~君の冒険物語~』を滑り込ませた。
なんだかわかんないけど、この本だけはどうしても借りたかった。
どういうわけか知らないが、直太は今無性に『虫蟲アドベンチャー ~君の冒険物語~』の内容が気になって仕方がなかった。
本が、読みたい。
こんな気持ち、初めてだ。
(早く読みてぇ)
直太は「先生、さよならー」と廊下に飛び出した。
「廊下は走らないのよ~」
のほほんとした林先生のお小言を背中で聞きながら、階段を一気に駆け下りる。
(オレ、どうしちゃったんだろう。本が読みたくてウズウズするんだけど。ありえねーんだけど)
まるで、新しいゲームソフトを買ってもらった時みたいな気分だ。
家に帰るまで待ちきれない!!
来た道を舞い戻り、直太は通学路を逸れ細い路地を曲がり、誰もいない鳥居公園へ向かった。
さっきのオカルト探検の時に鬱蒼と生える木の下に古いベンチがあったのを見ていたのだ。
鳥居公園の入り口に一歩入った瞬間、べちゃっと水たまりを踏んで「うわっ」っと足を引っ込める。
そうだった、ここ、水はけ悪いんだった。
特にもさもさと公園の周囲を取り囲む整備されていない草木の近くの地面は、昨日の雨の影響が残り、まあまあぬかるんでいる。
直太はつま先歩きで、ぬかるんでなさそうな場所をひょいひょい通って、古いベンチまで移動した。
ベンチの上の落ち葉を払ってすとんと腰掛け、ランドセルを隣にぽいと置く。
「ではでは」
さっそく『虫蟲アドベンチャー ~君の冒険物語~』を、手提げバッグから引っ張り出した。
ひらり。と、本と一緒に手提げバッグの中から、何かが落ちた。
「なんだ?」
それは、赤、緑、青のキラキラ光る薄い金属のようなものでできていて、ゲームで宝箱を開ける時に使うような、ドーナツ型の丸い取っ手が付いた鍵の形をしていた。
「しおり、かな?」
本に挟んであったみたいだし、前に借りた人が挟んだまま返却しちゃったのかもしれない。
直太はそれをズボンのポケットにぽいと放り込んで、分厚い本の表紙を眺めた。
「やっぱかっけぇな」
真ん中のぼこっと突き出た銀色の輪っかを指でなぞって、わくわくと表紙を開く。
太い眉を寄せた林先生が、ぱちりと壁のスイッチを押す。
ぱあっと、図書室内が一気に明るくなった。
「え? 電気ついてたはずじゃ」
「今付けたんでしょ。下の花壇の手入れをしてたら、図書室の窓に人影が見えた気がして来てみたのよ。もしかして本を借りに来たの? 残念だけど受付カウンターのパソコンはとっくにシャットダウンしちゃったのよ。今日は職員会議の関係で、放課後図書室解放は四時半までって担任の先生から連絡があったでしょ? 今はほら、もうとっくに五時過ぎてるから」
林先生がカウンターの上のデジタル時計を指さす。
デジタルの数字が05:12と光っていた。
「つか、こんなところにデジタル時計なんか」
ハッとして、カウンターの奥の壁を見上げた直太は、またまた混乱した。
壁には丸時計がなかった。
「それにしても変だわね。さっき鍵はちゃんと閉めたはずなのに」
むっちりした首を捻る林先生が、ふと受付カウンターの方に目をむけたので直太は急いで手提げバッグに『虫蟲アドベンチャー ~君の冒険物語~』を滑り込ませた。
なんだかわかんないけど、この本だけはどうしても借りたかった。
どういうわけか知らないが、直太は今無性に『虫蟲アドベンチャー ~君の冒険物語~』の内容が気になって仕方がなかった。
本が、読みたい。
こんな気持ち、初めてだ。
(早く読みてぇ)
直太は「先生、さよならー」と廊下に飛び出した。
「廊下は走らないのよ~」
のほほんとした林先生のお小言を背中で聞きながら、階段を一気に駆け下りる。
(オレ、どうしちゃったんだろう。本が読みたくてウズウズするんだけど。ありえねーんだけど)
まるで、新しいゲームソフトを買ってもらった時みたいな気分だ。
家に帰るまで待ちきれない!!
来た道を舞い戻り、直太は通学路を逸れ細い路地を曲がり、誰もいない鳥居公園へ向かった。
さっきのオカルト探検の時に鬱蒼と生える木の下に古いベンチがあったのを見ていたのだ。
鳥居公園の入り口に一歩入った瞬間、べちゃっと水たまりを踏んで「うわっ」っと足を引っ込める。
そうだった、ここ、水はけ悪いんだった。
特にもさもさと公園の周囲を取り囲む整備されていない草木の近くの地面は、昨日の雨の影響が残り、まあまあぬかるんでいる。
直太はつま先歩きで、ぬかるんでなさそうな場所をひょいひょい通って、古いベンチまで移動した。
ベンチの上の落ち葉を払ってすとんと腰掛け、ランドセルを隣にぽいと置く。
「ではでは」
さっそく『虫蟲アドベンチャー ~君の冒険物語~』を、手提げバッグから引っ張り出した。
ひらり。と、本と一緒に手提げバッグの中から、何かが落ちた。
「なんだ?」
それは、赤、緑、青のキラキラ光る薄い金属のようなものでできていて、ゲームで宝箱を開ける時に使うような、ドーナツ型の丸い取っ手が付いた鍵の形をしていた。
「しおり、かな?」
本に挟んであったみたいだし、前に借りた人が挟んだまま返却しちゃったのかもしれない。
直太はそれをズボンのポケットにぽいと放り込んで、分厚い本の表紙を眺めた。
「やっぱかっけぇな」
真ん中のぼこっと突き出た銀色の輪っかを指でなぞって、わくわくと表紙を開く。
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