虫蟲アドベンチャー ~君の冒険物語~

箕面四季

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第九話 代理図書の先生

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「これ、お願いします!」
 よいしょと『虫蟲アドベンチャー ~君の冒険物語~』をカウンターに乗せて、何気なく図書の先生を見た直太は「ひょ?」と、またおかしな声を漏らしてしまった。

 目の前に座っているのは図書委員の児童でも、まるっとふくよかな図書司書の林先生でもない。

(レインコート、めっさ緑に光ってるんですけど!)
 そんなものを着た人が座っていた。
 図書室の中なのにフードまで被って顔も見えない。
 めっさ怪しい。というか怪しさしかない。

 体格からして大人のようだった。
 でも「レインコートは玄関を出てから着るように」と雨の日に口を酸っぱくして注意する先生たちが図書室でレインコートを着るのはおかしい。

(いや、これレインコートじゃないのかも。トレンド最先端のファッション的な?)

 いつだったか、パリのファッションショーの映像が朝のニュースでちらっと流れていたけど、全身LED電球まみれの電飾人間とか、得体のしれないつぶつぶがいっぱいの服とかを着て大真面目にモデルが歩いていて、直太はオシャレとダサさって紙一重だなーと妙に感心したことがある。

(にしたって、教師がこんなギラギラファッション着たらマズいっしょ)

 保護者にバレたら苦情の嵐だ。
 いくら多様性の時代とはいえ、アウトな気がする。
 あ、だから、フードを目深にかぶって身元がバレないようにしているのか。

(まてよ)
 ふと、先月の全校集会で生活指導の先生が「最近小中学校に変質者が入り込む事件が増えているので、特に放課後などに不審な人を見つけたら近づかないように」と言っていたことを思い出した。

(ま、まさか変質者じゃ)
「違います。失礼です」
「わっ、すいません!」
 反射的に謝った直太。
 すぐに(あれ?)と眉を寄せる。

(オレ、今、声に出してた?)
 ……と、とりま、声が女の人っぽかったし変質者じゃなさそうだ。と思う。
 変質者って普通男だもんな。
 たぶん。

 そもそも西校舎の四階の図書室まで、先生たちに気づかれずに変質者が入り込むのは難しい気がするし、やっぱ変質者の線は却下。

(わ、わかったぞ。代理図書の先生だ! 今日は林先生が風邪かなんかで休みなんだ)

 直太の小学校では図書司書の先生が急な休みの時、臨時で代理図書の先生が来て貸出業務を行うことがあった。
 代理図書の先生なら校内でレインコートを着るのが禁止だと知らないのもうなずける。

 つまり、図書室はもうすぐ閉館の時間で人もいないから、帰り支度をしてカウンターの奥の部屋にいたんだ。
 受付カウンターだと服が目立ち過ぎるから。
 そんで……今日は晴れているけれど、最近は天気予報が晴れでも夕立ちが降ったりするから、この先生は用心のためにレインコートを羽織っているってわけだ。たぶん。

(そ、そんでもって、この緑に光るレインコートは梅雨を楽しくするとかいう最新オシャレレイングッズなんだな)
 クラスの女子たちの間でも、オシャレなレインコートやレインシューズなどが流行している。

(な、なるほど、なるほど。うん。そうだ。それだ)
 直太がこじつけの理由で自分を納得させていると「むしむしアドベンチャーですね」と、代理図書の先生が全く感情のこもっていないロボットみたいな声で言った。

「へ、へえ~、この虫が三個ついてる漢字も虫って読むんすね」
「本当に、借りますか?」

「はい?」
「本当に、借りますか?」

 フードの奥の目がキラリと光っている。
 一方の瞳は燃えるように赤く、もう一方は鮮やかな緑色に輝いて見えた。
 たぶんキラキラのレインコートのせいとか、目の錯覚とかそんなはずだと思いながら、直太はさっとカウンターの虫蟲アドベンチャーに目をすべらせる。

「……借り、ますけど。あ、そっか。図書カードっすよね。実は図書カード失くしちゃって。再発行して貰ってもいいですか?」
「それには及びません」
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