虫蟲アドベンチャー ~君の冒険物語~

箕面四季

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第八話 七色に輝く本 その2

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 そこは図鑑など、主に大型の本が並ぶコーナーだ。
 去年までの朝読は図鑑もオッケーだったから、直太はこの棚の本ばかり借りていた。
 図鑑は文字を読まなくていいし、立てておけばこっそり寝ることもできる神本なのだ。

 なのに高学年になった今年からは読解力強化のために、朝読の本が物語限定になってしまった。
 学年が上がれば上がるほど、自由が減る学校生活。
 勉強はどんどん難しくなるし、習い事はあるし、塾に行かなきゃならんやら、人間って辛いぜ。

 やっぱ虫がいいな。
 虫なら勉強しなくていいし。
 気ままに食べて寝て、鳴いて暮らす優雅な生活じゃん。
 考えれば考える程、虫の生活が魅力的な気がしてきた。
 ああ、虫になりてー。
 そんな風に考えていたら、諸々の怖さが和らぐ。

(っと、今はそれどころじゃなくって)
 図鑑並みに大きな物語の本を探すことに全集中。

 昆虫図鑑、恐竜図鑑、動物図鑑……

 直太は人差し指で本の背表紙をなぞっていく。

『ま、まさかっ!? 宇宙のしくみ図鑑』
『未知でみみっちい生物図鑑』
『むぎゅっとカワイイ植物大全集』

 ……意味不明な図鑑も意外と多い。
 が、物語の本はなさそうだ。

「やっぱ、デカい系の本って図鑑しかないのかなぁ」
 あきらめかけたその時、ぴたっと直太の指が止まった。

『虫蟲アドベンチャー ~君の冒険物語~』

「虫……なんとかアドベンチャー?」
 二つ目の、虫が三つ並んだ漢字は読めない。でも。

「物語ってことは、朝読で使えるじゃん。ラッキー」
 直太はさっそく、みっちり詰まった本と本の隙間から『虫蟲アドベンチャー ~君の冒険物語~』をずりずり引っぱり出していく。
 すると。

 ぱあ~っと、本の表紙が眩しく光りだした。

「うおっ」
 まるで、父さんから借りたスマホのゲームアプリでガチャを回して、激レアアイテムが出た時みたいな光り方で本が光っている。

「すげぇ。これが仕掛け本ってやつ? どういう仕組みなんだろ」
 大きな本には、表紙を開くと絵が飛び出すやつとか、音楽が流れるやつとかあるっていうけど、どうやらこの本もそういう類のモノらしい。

(ちょっとアガる)
 ワクワクしながらずしりと重たい冊子を引っ張り出していくと、光はだんだん収まっていった。

 そうして露になった本の表紙は、金属的な光沢を放つ赤や青や緑色の光でキラキラに輝いている。
 そのキラキラな表紙の真ん中には、ごつっとした銀色の金属の輪っかが立体的にはめ込まれていた。

「おお! 男心をわかってらっしゃる」

 いいじゃんか。
 生粋の本嫌いな直太でさえ、この凝った表紙のせいで、どんな内容なんだろうと中身が気になった。

 その時「まもなく閉館します」と、受付カウンターの方から事務的な声が呼び掛けた。

 そうだった。
 閉館ギリギリだったんだ。

(つか、さっきまで受付カウンターに人いなかったよな)
 カウンターの奥の小部屋で、なんか作業してたのかな。

(っと、そんなことより)

「すみません、借ります!」
 直太は重たい本を抱えて、大急ぎで受付カウンターへ向かったのだった。
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