虫蟲アドベンチャー ~君の冒険物語~

箕面四季

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第六話 桐山直太と鳥居公園 その1

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「ここ、ここ!」
 一緒に下校していた春斗が額の汗を拭いつつ鼻息荒く指し示したのは、通学路から逸れて細い路地を曲がったところにある鳥居公園だった。

 近づいた途端、ジーーーーーというセミの声が大きくなった。
 昨日の雨のせいもあって、蒸した濃い緑の匂いがする。

「んだよ。出るスポットって、ただの鳥居公園じゃん」
 和樹と祥太があからさまにがっかりする。
 直太もそれに便乗して「全然ヤバくないっしょ」とケラケラ笑いながら(鳥居公園で良かったー)と、内心ほっとしていた。

 別に妖怪もお化けも信じていないけど、そういう話って、夜、寝る前とか、夜中トイレに目覚めたときなんかに、ぱっと思い出すから厄介だ。
 昼間はそうでもない話が、そういう時間に思い出すとやたらと怖い。
 めちゃくちゃ怖い。
 トイレいけなくなる。

 五年生になって初めて同じクラスになった春斗はオカルトマニアで、それ系の話に詳しい。
 春斗の話は面白いけど怖い。
 怖いけど面白い。
 面白いけど……やっぱ怖い。

「出るは出るでも変質者の間違いだろ?」とガタイのいい和樹が笑う。
 そっちはそっちで怖いような。

 この鳥居公園は生えっぱなしの雑草や背の高い樹木が周囲に生い茂っていて、いつでも薄暗く、近くに防犯カメラもないことから、一人では近づかないようにと小学校で言われている。

 まあ、遊具もないし、広場も狭くてところどころ雑草が飛び出してボコボコしているのでボール遊びにも向かない。
 おまけに虫も多いしで、先生に近寄るなと言われなくても、学区内には、もっと広くて遊具やアスレチックもある大きな公園がいくつもあるからみんなそっちに行く。

「ところがどっこいしょ」と春斗がにたりと笑う。

 オカルトマニアの春斗は、オカルトマニアなだけあって喋り方が独特だ。
 いや、オカルトマニアは関係ないか。

「この公園は鬼門なんだよ。そんでそんでー、一見ただの小っちゃい公園に見えるんだけど、実は公園の隅に隠し鳥居があって、そこから道が続いてるらしいんだな、これがまた。で、鳥居を見つけてその先の道に迷い込んだ人間が、時々行方不明になるらしい。マニアの間では、神隠し公園って有名とか有名じゃないとか」

「いや、どっちだよ」と祥太がつっこむ。
「だからそれを今から検証するって話ですよ」

「でも鳥居なんて、どこにもねーぞ」と和樹が太い眉を寄せる。
「そういえば、鳥居がないのに鳥居公園って変な名前だよな」と直太は首を捻る。

「桐山直太氏! そこよそこ! そこがミソなんですよ」

 春斗がニヤニヤしながら和樹と祥太と直太にノートの切れ端を見せる。

「ジャジャーン。これが秘密の地図。兄ちゃんの友達の弟の知り合いのいとこが陰陽師の末裔の友達なんだ。鳥居公園のこともその筋から聞いた話だからもう信ぴょう性バッチグー」

「いや、果てしなく陰陽師と他人じゃね? 信ぴょう性ゼロなんすけど」
 祥太がツッコむ。

「あ、こっちだ」
 いつものように春斗がさっくりスルーして、ズンズン進んでいく。

 なんだかんだ言って、こういう冒険的なもんは面白い。
 放課後の暇つぶしにはもってこいだ。直太たちもブツブツ言いつつ、春斗に続く。
 鬱蒼とした雑草を踏みしめるたびに、ぴよんっと、あちらこちらでバッタが飛んだ。

「オレ、こーゆー草むらとかムリなんですけど。うわっ、バッタ飛んでんし」と虫が苦手な祥太がバッタみたいに飛び上がっている。

「バッタはいいとして、地面のぐちょぐちょ感がムリ」と和樹はスニーカーの裏についた泥を見て顔をしかめた。

 雑草の下は昨日の雨のせいでところどころぬかるんでいて、直太も、ぬちょっと大きなぬかるみに足を突っ込みかけて「確かに」と、同じように顔をしかめた。
 スニーカー泥まみれにすると母さんがうるさいんだよな。

 虫にもぬかるみにも全く動じず、先陣切って雑草の道をかき分けズンドコ進んでいた春斗が「お!」と嬉しそうに声を上げる。

「あった、あった! ありましたっとな」

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