虫蟲アドベンチャー ~君の冒険物語~

箕面四季

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第五話 タマ様

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「皆の幸せのため聖なる水へ入水して、今すぐ祈りを捧げなければなりません」

 お師匠様のエメラルドグリーンの瞳がグルグル渦を巻いている。
 ふらふら~、とあっちへこっちへ千鳥足で石段を登り始めるお師匠様。

「皆のために入水しなければ。一刻も早く、入水せねば」
「何を言ってるんだミョウ。半吉もお師匠様も水はダメだミョウ。入ったらジ・エンド。お陀仏なんだミョウ」

 お師匠様の体にタックルして必死に引き留める半吉をもろともせず、お師匠様はよっちらおっちらとたどたどしく自分の二倍以上の高さの石段をロッククライミングするように登っていく。
 普段のお師匠様なら、ぶーんと背中の羽を使って石段を二、三段ずつ飛び上がっていくのだが、修道服の背中から羽が上手く引き出せないのか、はたまた飛び方を忘れているのか、飛ぶつもりはなさそうだ。

「一刻も早く。入水を」

 ブツブツ言いながら、憑りつかれたように石段をヨレヨレ登るお師匠様。
 弱々しいとはいえ、さすがは最強女カマソルジャー。
 しがみつく半吉ごと石段を登ってしまう強靭な脚力。
 これは半吉の手に負えることじゃない。
 半吉は石段を見上げた。
 幸い石段は長いしお師匠様のおぼつかない足取りならば、上まで登りきって水場に着くまで、まだしばらく時間がかかるはずだ。

「お師匠様、待っててくれだミョウ。半吉がタマ様に助けを求めるんだミョウ!」

 考えるより先に口から飛び出した自分の言葉で、半吉は思い出した。
 そうだ、タマ様だ。
 タマ様ならきっとお師匠様を助けてくれるはず。

 この世界のあらゆる種族は、その遺伝子にタマ様のことが刻まれている。
 いつもはすっかり忘れているのだけれど、タマ様の力でなければ解決できない不可解な現象が生じた時だけ、タマ様のことを思い出すようにできているのだ。
 半吉がタマ様を思い出したということは、お師匠様を助けるにはタマ様の力が必要ということ。

 左目に翡翠、右目に瑠璃を宿したタマ様は、この世界とエツランシャの棲む世界のはざまに水晶の部屋を作って不思議な実験をしている不思議なお方。
 エツランシャとは、ムシムッシーのピンチを救うべくタマ様が遣わす伝説の勇者のこと。
 タマ様によって不思議な力を与えられたエツランシャは、ムシムッシーのピンチを救ってくれるという。

「とにもかくにも、まずは水晶の部屋に行ってタマ様に助けを求めるんだミョウ。そのためには水晶の部屋までの道順を絶対に忘れてはいけないミョウ」

 グリーンモンスターにかけられた茶色いねばねばの液体は、すっかりぱりぱりに乾いていた。
 身体をブルブル震わせたら土くれのように簡単にぽろぽろ剥がれ落ちていく。
 半吉はぐっと背中に力を込めて、さっと羽を開くと一秒間に何百回という羽ばたきを繰り返して空中に浮かびあがった。

「いざ出発だミョウ!」
 気合いを入れた瞬間、「あり?」と半吉は首を傾げた。

「水晶の部屋はどこにあるんだったかミョウ?」
 さっきまで憶えていたのに。
 忘れてはいけないことを忘れるのが半吉の癖なのだ。

 北か、南か、それとも、東?
 やっぱり、西かもしれない。

 ピュンっと飛び進んでは「やっぱりあっちの方角かもしれないミョウ」と地面に着地し、方向転換して、また飛び立つ。

「むむむ。どっちに行けばいいのかミョウ」
「聖なる水に、入水を」
 迷っている間にも、よっちらおっちらと、お師匠様はふらふらしながら着実に石段を登っていた。

「決めた! あっちに行ってみるんだミョウ」
 一か八か、半吉はピンっときた方角に飛んでみることにした。

「タマ様~、どこにいるんだミョウ~」
 大声でタマ様の名を叫びながら、飛翔筋を擦り切れるくらいに動かして、ブーンと猛スピードで一直線に飛んでいったのだった。
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